チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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毎度のご感想、ありがとうございます。



タイトルはさらっと思いつくときもあれば、割と悩むときもあります。
前回のは元から決めていたのでさらっと、逆に今回は少し悩みました。


ギャルのホルンがどうしたって?

「ギャラルホルン・・・・なるほど、さすが平行世界」

 

そっくりさん達の事情を聞き終えてから、真っ先に発言したのは了子さんだった。

ここはS.O.N.G.本部。

保護したそっくりさん達の事情聴取をしていた次第である。

平行世界を渡れる完全聖遺物『ギャラルホルン』。

その影響で、そっくりさん達の世界では先んじてさっきの『犬』(わんころ)と『燃えるノイズ』による被害が出てしまっているらしい。

原因を調べるとともに、根っこを叩いて解決するべく。

こうやってわたし達がいる世界にやってきたということだった。

・・・・始めの内こそ、ちょっと警戒気味というか。

ピリピリした態度を取ってしまっていたのだけど。

ノイズの討伐や、人命救助に勤しんでいる翼さんのそっくりさんがファーストコンタクトだったのが幸いして。

ある程度の蟠りは解消されている。

でもドッペルゲンガーが実現してる様な状況は、やっぱりムズムズするよね。

 

「こっちの了子さんも研究してたんですか?」

「二次大戦中のドイツでね、ただ、『アドルフ君』に渡すと碌なことにならないって結論を出したから・・・・」

 

『自爆ついでに破壊した』と言うことだった。

まあ完全聖遺物と言えど、破壊不可みたいな伝説はなかったはずだからね。

ついでに、『アドルフ君と愉快な仲間達』が碌なことに使わないだろうことも。

なんて納得している横で、そっくりさん達が顔を引きつらせていた。

どしたの?

 

「お前らなんでそんな物騒な話を平然と聞けるんだよ・・・・」

 

あ、そういうこと・・・・。

そっクリスちゃんの言葉に、他のそっくりさん達もうんうんと頷いている。

 

「なんでって言われても・・・・」

「慣れ?」

「それくらいしか思いつかないよなぁ・・・・?」

「・・・・なるほど、こちらの私達は相当な修羅場をくぐっている様だな」

 

こっちのクリスちゃんと見合って、首を傾げ合えば。

翼さんのそっくりさんが感心した様子で顎を触っていた。

 

「だからとて、そちらが弱いというわけではあるまい。救助活動もさることながら、ノイズに振るっていた太刀筋・・・・決して生中な鍛錬では身につかぬ物だ」

 

こっちの翼さんの誉め言葉に、そっくりさん達が照れくさそうにしてるのを横目に。

口を開いたのは司令さん。

 

「それで、君たちが求めている燃えるノイズ・・・・『フレイムノイズ』や、『ハウリング』と仮称されている超大型犬についての情報だが」

 

横にそれた話題を修正しつつ、どこか申し訳なさそうにして。

 

「すまない、あれらに関しては我々も今回が初遭遇でな。現在も調査中だ」

「あ、頭を上げてください師匠!」

「そうだって、こっちはそれくらい想定済みだっての」

 

頭を下げた司令さんに、慌ててフォローを入れるそっくりさん二人。

対する司令さんは、まだ申し訳なさそうにしながらも、『ありがとう』と言いながら顔を上げていた。

 

「・・・・・ただ一つ言うなら」

 

そんな中口を開いたのは、了子さんだった。

一瞬、何故かこっちを気にしてから、意を決したように口元を引き締めて。

 

「今回出現したフレイムノイズとハウリング・・・・どちらの目的も、香子ちゃんか、あるいは連れていたワンちゃんである可能性が高いということね」

「ッ、それってどういうことですか?」

 

思わず前のめりな上、ほんのり威圧する形になっちゃったけど。

謝る余裕はない。

ちょっと聞き捨てならないぞー!?

 

「キョウコって、そっちのバカの妹だよな?」

「なんでそんなことになっちゃってるんですか!?」

「まあまあ、落ち着いて。当てずっぽうでこんなこと言うわけないじゃない・・・・これを見て」

 

同じくびっくりするそっくりさん達をどうどうと宥めながら、モニターを操作。

あるデータを映し出した。

 

「これは?」

「フレイムノイズとハウリング、その行動パターンを再現したものよ」

 

そうしてもう一回操作すると、フレイムノイズやハウリングを示す点が動き始める。

しばらくバラバラに動き回っていた点々だけど。

あるタイミングを境に、同じ方向へ一斉に動き始めた。

 

「響ちゃんのお父さんからの聴取で、香子ちゃんがワンちゃんと一緒に追い回され始めたタイミングが、この『動き』があった瞬間と合致することが分かったわ」

「なるほど、それで立花妹が標的だと」

 

こっちの翼さんから、頷くついでに肩を叩かれたことで、わたしもなんとか落ち着くことが出来た。

 

「――――そのことですが、ご報告があります」

「何か判明したのか?」

「はい」

 

と、ここで現れたのはエルフナインちゃん。

連れているレイアさんに、そっくりさん達がこれまたびっくりしているのを横目に。

報告とやらを話し始める。

 

「香子さんが連れていた子犬、ならびに、翼さんが討伐したハウリングについてですが・・・・」

「あの子犬は、ハウリングの幼体である可能性が、派手に高いことが判明した」

「そうなの!?」

「は、はい」

 

更に言うと、あの子犬との間に契約のような『繋がり』が出来ているかも知れない、とも。

・・・・なんだか、すごいことになってきてしまった。

いや、もしかしたらわたしの怠慢なのかもしれない。

『本来の流れ』にいないからって、だから大丈夫って思ってしまっていたんだ。

そうだよ、わたしの身内なんだから、狙いやすい子供なんだから。

何にもされないわけが――――。

 

「響!」

「ッ!?」

 

肩を叩かれて、我に返った。

目の前の未来越しに、みんなが心配してくれてるのが見えた。

 

「大丈夫?」

「無理はすんなよ、ひでぇ顔してんぞ」

「・・・・うん、ありがと」

 

そっくりさん達にも気を使わせてしまった・・・・申し訳ない。

 

「とにかく、敵の目的がは未だ判明していないが、狙いが香子君であることは明白だ。ギャラルホルンとやらで、平行世界の装者が来たことも無関係とは思えない」

 

空気を切り替えるように、司令さんが手を叩く。

わたし含めて、みんなが注目を集めた。

 

「まずは香子君の保護を最優先事項とし、その上で敵の出方を伺うことにする」

「平行世界の装者もいることだし、こちらが打てる手が多いのが幸いね」

 

『それでも油断は禁物だけど』と言う、了子さんの締めくくりで。

その場は解散となった。

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

平行世界からやってきた装者達は、こちらの同一人物と区別するために。

それぞれ名前から一字ずつとって、『フウ』()『ハナ』()『ユキ』(クリス)と呼び名をつけられ。

ひとまずはS.O.N.G.に部屋を与えられ、体をゆっくり休めることになった。

 

「これからよろしくね!」

「うん、よろしく」

 

親睦を深めるべく集まった、休憩スペース。

ハナが差し出した手を、どこか照れくさそうに握り返す響。

次に、ニコニコと見守っていた未来にも、輝く目を見せて。

 

「こっちの未来は髪を伸ばしてるんだね、かわいい!」

「ふふ、ありがとう」

 

『触っていい?』と一言告げ、首のあたりで一括りにされている髪をまじまじと見つめている。

そんなハナに、響は特に嫉妬を抱かず。

むしろ妹を見るような目を向けていた。

 

「そっちのバカは、テンション高めだな」

「ああ、立花の可能性見たり、といったところか」

「そうだとも、最速で最短で、まっすぐで一直線。とても頼れる仲間だ」

「ま、助けられてんのは事実だしな」

 

はたから響達のやり取りを見ていた、それぞれの翼とクリス達。

思い思いの反応ではあるものの、共通して感心していた。

 

「響ちゃ、おっと・・・・」

 

そこへやってきたのは、S.O.N.G.のスタッフ。

そっくりさんが三人もいる状況に一瞬怯んだものの、すぐに持ち直して要件を口にした。

 

「響ちゃん、妹さんが目覚めたよ。今は医務室で、お父さんと話してる」

「ッそうですか、よかった・・・・」

「行ってきたら?妹さん、喜ぶよ」

「うん、そうする」

 

ハナを始めとした仲間達に促されたこともあり。

響は未来に付き添われ、遠慮なく妹の見舞いに行くことにした。

 

「――――あ、お姉ちゃん!未来ちゃんも!」

 

医務室に入ってみれば、気付いた香子が明るい声を上げた。

頭に包帯を巻いているものの、父と談笑をしていた所を見るに、急を要する容体ではないらしい。

 

「元気そうだね、香子」

「えへへ、ご心配かけましたー」

 

頭の包帯がずれそうだと思ったので、頬に手をやると。

まるで懐ききった猫の様に、上機嫌に寄せてくる。

響が妹の愛らしい仕草に胸を弾ませている横で、未来は洸に話しかけていた。

 

「おじさんも、無事でよかったです」

「はは、本当は香子と一緒に逃げられるのがベストだったんだが、どうにも・・・・」

「あの大きな犬は、わたしも見ましたから」

 

『しょうがないです』という未来のフォローに、洸は改めて礼を述べていた。

 

「それで、今後については?」

「香子と一緒に聞いたよ。この後送ってもらうついでに、香子の着替えを用意して、持って行ってもらうことになってる」

「そっか」

 

響がベッドに腰掛けつつ聞けば、少し不安げに答える洸。

未来が香子に目をやると、どこか強張った顔をしているのが見えた。

 

「お姉ちゃん、クロはどうしてるの?」

 

やはり不安を拭いきれなかったのか、我慢ならんと言った様子で問いかけてくる香子。

 

「今はまだ検査中。本当に危なくないか、しっかりデータを取る必要があるから」

「大丈夫だよ。そりゃあ、注射くらいはするだろうけど、それ以上の痛いことはしないはずだから」

「・・・・うん」

 

響が未来と一緒にフォローを入れながら、まだまだ暗い香子の頬をこねくり回せば。

くすぐったい、と笑い声が上がった。

 

「まあ、今夜はわたしと未来が詰めることになるから、たいていの『万が一』は鎧袖一触に出来る。大丈夫、任せて」

「・・・・すまない、頼んだ」

 

頭を下げる洸に、響は一つ笑って返事をした。

 

 

 

 

(そうだ。嘆いている暇も、落ち込んでいる暇もない)

 

(二年前も、この前も、至らなくて、情けないだけだったから)

 

(守るんだ、絶対に)

 

(今度こそ)




香子「お姉ちゃん、今日は一緒に寝ていい?」

響「司令さん達とか、了子さんが『いいよ』って言ったらね」

香子「やったぁ!(≧▽≦)」

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