タイトルはさらっと思いつくときもあれば、割と悩むときもあります。
前回のは元から決めていたのでさらっと、逆に今回は少し悩みました。
「ギャラルホルン・・・・なるほど、さすが平行世界」
そっくりさん達の事情を聞き終えてから、真っ先に発言したのは了子さんだった。
ここはS.O.N.G.本部。
保護したそっくりさん達の事情聴取をしていた次第である。
平行世界を渡れる完全聖遺物『ギャラルホルン』。
その影響で、そっくりさん達の世界では先んじてさっきの
原因を調べるとともに、根っこを叩いて解決するべく。
こうやってわたし達がいる世界にやってきたということだった。
・・・・始めの内こそ、ちょっと警戒気味というか。
ピリピリした態度を取ってしまっていたのだけど。
ノイズの討伐や、人命救助に勤しんでいる翼さんのそっくりさんがファーストコンタクトだったのが幸いして。
ある程度の蟠りは解消されている。
でもドッペルゲンガーが実現してる様な状況は、やっぱりムズムズするよね。
「こっちの了子さんも研究してたんですか?」
「二次大戦中のドイツでね、ただ、『アドルフ君』に渡すと碌なことにならないって結論を出したから・・・・」
『自爆ついでに破壊した』と言うことだった。
まあ完全聖遺物と言えど、破壊不可みたいな伝説はなかったはずだからね。
ついでに、『アドルフ君と愉快な仲間達』が碌なことに使わないだろうことも。
なんて納得している横で、そっくりさん達が顔を引きつらせていた。
どしたの?
「お前らなんでそんな物騒な話を平然と聞けるんだよ・・・・」
あ、そういうこと・・・・。
そっクリスちゃんの言葉に、他のそっくりさん達もうんうんと頷いている。
「なんでって言われても・・・・」
「慣れ?」
「それくらいしか思いつかないよなぁ・・・・?」
「・・・・なるほど、こちらの私達は相当な修羅場をくぐっている様だな」
こっちのクリスちゃんと見合って、首を傾げ合えば。
翼さんのそっくりさんが感心した様子で顎を触っていた。
「だからとて、そちらが弱いというわけではあるまい。救助活動もさることながら、ノイズに振るっていた太刀筋・・・・決して生中な鍛錬では身につかぬ物だ」
こっちの翼さんの誉め言葉に、そっくりさん達が照れくさそうにしてるのを横目に。
口を開いたのは司令さん。
「それで、君たちが求めている燃えるノイズ・・・・『フレイムノイズ』や、『ハウリング』と仮称されている超大型犬についての情報だが」
横にそれた話題を修正しつつ、どこか申し訳なさそうにして。
「すまない、あれらに関しては我々も今回が初遭遇でな。現在も調査中だ」
「あ、頭を上げてください師匠!」
「そうだって、こっちはそれくらい想定済みだっての」
頭を下げた司令さんに、慌ててフォローを入れるそっくりさん二人。
対する司令さんは、まだ申し訳なさそうにしながらも、『ありがとう』と言いながら顔を上げていた。
「・・・・・ただ一つ言うなら」
そんな中口を開いたのは、了子さんだった。
一瞬、何故かこっちを気にしてから、意を決したように口元を引き締めて。
「今回出現したフレイムノイズとハウリング・・・・どちらの目的も、香子ちゃんか、あるいは連れていたワンちゃんである可能性が高いということね」
「ッ、それってどういうことですか?」
思わず前のめりな上、ほんのり威圧する形になっちゃったけど。
謝る余裕はない。
ちょっと聞き捨てならないぞー!?
「キョウコって、そっちのバカの妹だよな?」
「なんでそんなことになっちゃってるんですか!?」
「まあまあ、落ち着いて。当てずっぽうでこんなこと言うわけないじゃない・・・・これを見て」
同じくびっくりするそっくりさん達をどうどうと宥めながら、モニターを操作。
あるデータを映し出した。
「これは?」
「フレイムノイズとハウリング、その行動パターンを再現したものよ」
そうしてもう一回操作すると、フレイムノイズやハウリングを示す点が動き始める。
しばらくバラバラに動き回っていた点々だけど。
あるタイミングを境に、同じ方向へ一斉に動き始めた。
「響ちゃんのお父さんからの聴取で、香子ちゃんがワンちゃんと一緒に追い回され始めたタイミングが、この『動き』があった瞬間と合致することが分かったわ」
「なるほど、それで立花妹が標的だと」
こっちの翼さんから、頷くついでに肩を叩かれたことで、わたしもなんとか落ち着くことが出来た。
「――――そのことですが、ご報告があります」
「何か判明したのか?」
「はい」
と、ここで現れたのはエルフナインちゃん。
連れているレイアさんに、そっくりさん達がこれまたびっくりしているのを横目に。
報告とやらを話し始める。
「香子さんが連れていた子犬、ならびに、翼さんが討伐したハウリングについてですが・・・・」
「あの子犬は、ハウリングの幼体である可能性が、派手に高いことが判明した」
「そうなの!?」
「は、はい」
更に言うと、あの子犬との間に契約のような『繋がり』が出来ているかも知れない、とも。
・・・・なんだか、すごいことになってきてしまった。
いや、もしかしたらわたしの怠慢なのかもしれない。
『本来の流れ』にいないからって、だから大丈夫って思ってしまっていたんだ。
そうだよ、わたしの身内なんだから、狙いやすい子供なんだから。
何にもされないわけが――――。
「響!」
「ッ!?」
肩を叩かれて、我に返った。
目の前の未来越しに、みんなが心配してくれてるのが見えた。
「大丈夫?」
「無理はすんなよ、ひでぇ顔してんぞ」
「・・・・うん、ありがと」
そっくりさん達にも気を使わせてしまった・・・・申し訳ない。
「とにかく、敵の目的がは未だ判明していないが、狙いが香子君であることは明白だ。ギャラルホルンとやらで、平行世界の装者が来たことも無関係とは思えない」
空気を切り替えるように、司令さんが手を叩く。
わたし含めて、みんなが注目を集めた。
「まずは香子君の保護を最優先事項とし、その上で敵の出方を伺うことにする」
「平行世界の装者もいることだし、こちらが打てる手が多いのが幸いね」
『それでも油断は禁物だけど』と言う、了子さんの締めくくりで。
その場は解散となった。
◆ ◆ ◆
平行世界からやってきた装者達は、こちらの同一人物と区別するために。
それぞれ名前から一字ずつとって、
ひとまずはS.O.N.G.に部屋を与えられ、体をゆっくり休めることになった。
「これからよろしくね!」
「うん、よろしく」
親睦を深めるべく集まった、休憩スペース。
ハナが差し出した手を、どこか照れくさそうに握り返す響。
次に、ニコニコと見守っていた未来にも、輝く目を見せて。
「こっちの未来は髪を伸ばしてるんだね、かわいい!」
「ふふ、ありがとう」
『触っていい?』と一言告げ、首のあたりで一括りにされている髪をまじまじと見つめている。
そんなハナに、響は特に嫉妬を抱かず。
むしろ妹を見るような目を向けていた。
「そっちのバカは、テンション高めだな」
「ああ、立花の可能性見たり、といったところか」
「そうだとも、最速で最短で、まっすぐで一直線。とても頼れる仲間だ」
「ま、助けられてんのは事実だしな」
はたから響達のやり取りを見ていた、それぞれの翼とクリス達。
思い思いの反応ではあるものの、共通して感心していた。
「響ちゃ、おっと・・・・」
そこへやってきたのは、S.O.N.G.のスタッフ。
そっくりさんが三人もいる状況に一瞬怯んだものの、すぐに持ち直して要件を口にした。
「響ちゃん、妹さんが目覚めたよ。今は医務室で、お父さんと話してる」
「ッそうですか、よかった・・・・」
「行ってきたら?妹さん、喜ぶよ」
「うん、そうする」
ハナを始めとした仲間達に促されたこともあり。
響は未来に付き添われ、遠慮なく妹の見舞いに行くことにした。
「――――あ、お姉ちゃん!未来ちゃんも!」
医務室に入ってみれば、気付いた香子が明るい声を上げた。
頭に包帯を巻いているものの、父と談笑をしていた所を見るに、急を要する容体ではないらしい。
「元気そうだね、香子」
「えへへ、ご心配かけましたー」
頭の包帯がずれそうだと思ったので、頬に手をやると。
まるで懐ききった猫の様に、上機嫌に寄せてくる。
響が妹の愛らしい仕草に胸を弾ませている横で、未来は洸に話しかけていた。
「おじさんも、無事でよかったです」
「はは、本当は香子と一緒に逃げられるのがベストだったんだが、どうにも・・・・」
「あの大きな犬は、わたしも見ましたから」
『しょうがないです』という未来のフォローに、洸は改めて礼を述べていた。
「それで、今後については?」
「香子と一緒に聞いたよ。この後送ってもらうついでに、香子の着替えを用意して、持って行ってもらうことになってる」
「そっか」
響がベッドに腰掛けつつ聞けば、少し不安げに答える洸。
未来が香子に目をやると、どこか強張った顔をしているのが見えた。
「お姉ちゃん、クロはどうしてるの?」
やはり不安を拭いきれなかったのか、我慢ならんと言った様子で問いかけてくる香子。
「今はまだ検査中。本当に危なくないか、しっかりデータを取る必要があるから」
「大丈夫だよ。そりゃあ、注射くらいはするだろうけど、それ以上の痛いことはしないはずだから」
「・・・・うん」
響が未来と一緒にフォローを入れながら、まだまだ暗い香子の頬をこねくり回せば。
くすぐったい、と笑い声が上がった。
「まあ、今夜はわたしと未来が詰めることになるから、たいていの『万が一』は鎧袖一触に出来る。大丈夫、任せて」
「・・・・すまない、頼んだ」
頭を下げる洸に、響は一つ笑って返事をした。
(そうだ。嘆いている暇も、落ち込んでいる暇もない)
(二年前も、この前も、至らなくて、情けないだけだったから)
(守るんだ、絶対に)
(今度こそ)
香子「お姉ちゃん、今日は一緒に寝ていい?」
響「司令さん達とか、了子さんが『いいよ』って言ったらね」
香子「やったぁ!(≧▽≦)」