チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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この場を借りて、改めてお礼をば。


朝の一幕

――――歩いていた。

真っ暗で、重みのある闇の中を。

導もない、光も見えない。

だけど、歩みを止められない。

 

(ここは、どこなんだろう?)

 

許された自由など、疑問をぼんやりと抱くことだけだった。

 

(・・・・?)

 

長い長い行軍の末、足元に何かがぶつかった。

何事だろうかと言う、のんびりとした考えは。

 

(――――!?)

 

転がった無数の屍で一気に吹き飛んだ。

驚いて退けば、後ろの遺体を踏んだ。

それを避けようとすれば、まだ別の死体を蹴飛ばした。

気が付けば、真っ暗だった空間は。

おびただしい数の死体に埋め尽くされていて。

 

 

 

 

 

 

 

 

その全てが、こちらを睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――は、は、は」

 

速く、短く、呼吸する。

ほどよく冷房が効いた部屋で、ハナは平行世界一日目の朝を迎えた。

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

目を開けて、一瞬家じゃないことに困惑しそうになったけど。

そういえば本部に泊ってたんだと想いだした。

むにゃむにゃしながら目を足元に向けると、同じくスヤスヤしてる香子の姿が。

頭を撫でてやると、幸せそうにすり寄ってきた。

かわいい(確信)

なんてやっていたからか、香子が起きてしまった。

ぼんやりとこっちを見上げていた香子は、やがてふにゃっと笑って。

 

「おはよー、おねえちゃん」

「んー、おはよう」

 

今度は胸元に寄りながら甘えてきた頭を、もう一度なでなで。

うーん、かわいい(二回目)

 

「具合はどう?痛いところとか、熱とかない?」

「えっと・・・・うん、平気だと思う」

「そっか、一応、また検査してもらうことになるから」

「分かったぁ」

 

ふわ、とあくびをして起き上がった香子。

改めて見る限り、症状の悪化みたいなのはない様に思う。

着替えとか、歩行も特に問題はなさそうだ。

一応頭の包帯は整えておいたけど、怪我もほとんど塞がっているっぽい。

何はともあれ、『今死ぬ』みたいな状態じゃなくてよかった・・・・。

 

「それじゃあ、とりあえずご飯行こうか?」

「うん!」

 

香子の検査はご飯の後だし、特にこれといった呼び出しはなかったはず。

あとわたしもお腹がペコペコだったので、食堂へ向かうことに。

 

「あっ、おはよー!」

 

手を繋いで廊下を歩いていると、平行世界のわたし(ハナちゃん)クリス(ユキ)ちゃんが歩いてきてるとこだった。

と、二人を見た香子は困惑した様子で、わたしとそっくりさん達を何度も見て。

最終的に隠れてしまった。

 

「あらら」

「まあ、普通はビビるわな・・・・」

「なはは、ごめんねー」

 

二人に謝りつつ、後ろに隠れている香子へ目を向ける。

 

「だいじょーぶだよ、びっくりするくらい似てるけど、別に危ない人達じゃないから」

「そうなの?」

「うん、ついでに、昨日助けてくれたのはこの人達」

 

『お礼言うとポイント高いよ』と、付け加えると。

しばらく尻込みしていた香子は、おずおずと顔を出して。

控えめに『ありがとう』と伝えた。

 

「いいんだよー!無事でよかった!」

「わわ・・・・!」

「バッカ、やめろ!その子、まだ怪我してんだぞ!」

 

そんな可愛い様を見てしまっては、テンション上がるのも分かるというもの。

にぱーっ!と笑ったハナちゃんは、香子を抱きしめてしまった。

さすがに頭を撫でる様子はなかったけど。

包帯さえなければめいいっぱい撫でまわしていたことだろう。

ユキちゃんが直ちに引っぺがしたので、すぐに解放されたけども。

 

「あはは、ごめんね。すっごく可愛かったから」

「えっと、大丈夫です」

 

ハナちゃんと会話している横で、乱れちゃった髪を整えてやる。

うん、相変わらずのふわふわヘアーだ。

 

「ひとまず朝ごはんかな?」

「だね、怪我を早く治すためにも、たっぷり栄養取らないとねー♪」

「お前は食いすぎな方だろ・・・・」

「わんっ!」

 

さて、では改めて食堂に。

というところで、違和感を抱いた。

・・・・わん?

みんなでばっと振り返ると。

さも当然と言わんばかりにしっぽを振る、あの黒いわんこが。

 

「く、クロ!?なんでここに!?」

「お、おい。こいつまだ検査終わってないんじゃあ・・・・!」

 

なんて、狼狽えているところへ。

艦内に響き渡る警報。

 

『メ、メーデー!メーデー!被検体が逃げ出しましたーッ!』

 

あーもう。

無茶苦茶だよ・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

 

 

 

 

「予想の範疇ではあるけど・・・・やっぱりこの子、人や物の影を通じて移動できるみたいね」

 

大わらわで呼び出された了子さんは、みんなに見守られる中。

香子に抱っこされたわんこ『クロ』をまじまじと見つめていた。

 

「せめて『雷切』を作るまでとは思っていたけど・・・・これは、製作を急ぐ必要があるわね」

 

・・・・何回か、注射やらをされたからだろうか。

了子さんを見る目は、どこか怯えている。

っていうか、

 

「らいきり?」

 

こてん、と首を傾げた香子を微笑まし気に見ながら。

了子さんは指を立てて説明を始めた。

 

「雷の妖怪である雷獣、あるいは雷そのものを叩き斬ったと伝わる刀よ。今回は錬金術で再現したものをさらに加工して、クロ君の拘束具にするの」

「拘束って、首輪みたいな?」

「そう」

 

さらに重ねた質問にも、嫌な顔一つせず答えてくれる。

確か、クロ君が雷を扱うからって理由だったっけ。

 

「そもそも飼い犬の首輪は、『飼い犬ですよ』ってアピールもそうだけど、犬がむやみやたらと噛まないようにするための、安全策の一つでもあるの。特にクロ君は普通の犬じゃないから・・・・」

「なおさら、特別なもので縛らなきゃいけないってことですか?」

「せーかい♪」

 

そして、香子の返事に機嫌よく返事をしてから。

わたしに目を向けて、

 

「まあ、クロ君が香子ちゃんを襲う、なんてのはありえないと考えていいけども、万が一もありえるから」

「その時は相応の対応を取らせてもらいます」

「お、お姉ちゃん・・・・?」

 

そう言ってきた了子さんにはっきり返事すると、不安げに見上げてくる香子。

 

「悪いことしたら『めっ』ってするくらいだよ、こんなにかわいい子を怪我させるなんてヤだしね」

 

なので、安心させるために頭を撫でてやった。

ちなみに、頭の怪我はもう大丈夫と診断されたので、包帯は取れている。

 

「さぁさ、話もひと段落したところで、ご飯にしましょ。みんなまだ食べてないでしょ?」

「そういえば・・・・」

 

ハナちゃんがお腹を触ったところで、ぐぅ、と盛大な音が。

そういえば、わたしもすっかり腹ペコだぁ・・・・。

 

「食べるついでに、香子ちゃんへハナちゃん達の説明でもしておきなさいな」

「あれ、大丈夫なんですか?」

「むしろ内緒に出来ると思う?これからは無関係じゃいられないんだから、話すべきよ」

「まあ、そういうことなら・・・・」

 

そんなこんなで、『内緒』のワードに目を輝かせている香子の頭を。

落ち着かせるように撫でまわした。

 

 

 

 

 

 

と、言うことで。

 

 

 

 

 

 

「――――へぇ、じゃあ、お姉ちゃんだけどお姉ちゃんじゃない人なんだ」

「お、おう・・・・」

 

騒動が鎮まった後の、S.O.N.G.食堂。

意外にも、香子の飲み込みは速かった。

 

「すっごい、わたしなんてややこしくて頭こんがらがっちゃうのに」

「えへへ、友達が大好きなゲームに、似たような設定があるから」

「なるほどな・・・・」

 

みんなに感心した目を向けられる中、だんだん照れくさくなってきたらしい香子は。

照れ隠しの様にオムライスを頬張った。

 

「とはいえ、急を要する事態でなくてなによりだ」

「はい、キョウちゃんの怪我も、何もなくてよかった」

「ご心配おかけしましたー」

 

そう言うのは、あっちの翼(フウ)さんと未来。

この二人は、早朝からシミュレーターで訓練していたらしい。

そういえば昨日、雷切の話が出た時に。

『雷を斬れるか』という質問に即答した翼さんに、びっくりしていたんだっけ。

後で燃えるような目つきになったから、こう『負けてられん!』とやる気になったんだろう・・・・。

でも、未来で相手出来たのかな?

いや、侮ってるわけじゃないんだけど。

やっぱり年季が違うしね?

 

「未来ちゃん達も、朝からトレーニングしてたんでしょ?お疲れ様です!」

「あはは、うん、フウさんもすごく強いから、勉強になりました」

「何、こちらの小日向もまた頼もしい。肩を並べる身として、改めてよろしく頼む」

「はい」

 

未来とフウさんの仲が、改めて良くなったところで。

ユキちゃんが気になっていたらしいことを口にする。

 

「それにしても、雷を斬れるようになるなんて。そっちのお前らはどんな訓練してるんだ?」

「確かに気になるかも、何か、特別な特訓とかしてるの?」

 

ハナちゃんも同じく気になっていたようで、身を乗り出してくる。

口元にはご飯粒がついている。

 

「特訓と言われても・・・・」

「色々あるけど、思いつくのと言えばやっぱり・・・・」

 

ご飯粒を取ってあげながら、未来と顔を合わせる。

未来はちょっと困った顔。

わたしは多分、いたずらを思いついた顔。

――――三名様、ごあんなーい!




XDUでもありそうな、ほのぼの回でした。
次から本格始動する、はずです。

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