誠にありがとうございます。
ツイッターの方でも、支援絵を度々頂いております。
この場を借りて、改めてお礼をば。
――――歩いていた。
真っ暗で、重みのある闇の中を。
導もない、光も見えない。
だけど、歩みを止められない。
(ここは、どこなんだろう?)
許された自由など、疑問をぼんやりと抱くことだけだった。
(・・・・?)
長い長い行軍の末、足元に何かがぶつかった。
何事だろうかと言う、のんびりとした考えは。
(――――!?)
転がった無数の屍で一気に吹き飛んだ。
驚いて退けば、後ろの遺体を踏んだ。
それを避けようとすれば、まだ別の死体を蹴飛ばした。
気が付けば、真っ暗だった空間は。
おびただしい数の死体に埋め尽くされていて。
その全てが、こちらを睨みつけた。
「――――は、は、は」
速く、短く、呼吸する。
ほどよく冷房が効いた部屋で、ハナは平行世界一日目の朝を迎えた。
◆ ◆ ◆
目を開けて、一瞬家じゃないことに困惑しそうになったけど。
そういえば本部に泊ってたんだと想いだした。
むにゃむにゃしながら目を足元に向けると、同じくスヤスヤしてる香子の姿が。
頭を撫でてやると、幸せそうにすり寄ってきた。
かわいい(確信)
なんてやっていたからか、香子が起きてしまった。
ぼんやりとこっちを見上げていた香子は、やがてふにゃっと笑って。
「おはよー、おねえちゃん」
「んー、おはよう」
今度は胸元に寄りながら甘えてきた頭を、もう一度なでなで。
うーん、かわいい(二回目)
「具合はどう?痛いところとか、熱とかない?」
「えっと・・・・うん、平気だと思う」
「そっか、一応、また検査してもらうことになるから」
「分かったぁ」
ふわ、とあくびをして起き上がった香子。
改めて見る限り、症状の悪化みたいなのはない様に思う。
着替えとか、歩行も特に問題はなさそうだ。
一応頭の包帯は整えておいたけど、怪我もほとんど塞がっているっぽい。
何はともあれ、『今死ぬ』みたいな状態じゃなくてよかった・・・・。
「それじゃあ、とりあえずご飯行こうか?」
「うん!」
香子の検査はご飯の後だし、特にこれといった呼び出しはなかったはず。
あとわたしもお腹がペコペコだったので、食堂へ向かうことに。
「あっ、おはよー!」
手を繋いで廊下を歩いていると、
と、二人を見た香子は困惑した様子で、わたしとそっくりさん達を何度も見て。
最終的に隠れてしまった。
「あらら」
「まあ、普通はビビるわな・・・・」
「なはは、ごめんねー」
二人に謝りつつ、後ろに隠れている香子へ目を向ける。
「だいじょーぶだよ、びっくりするくらい似てるけど、別に危ない人達じゃないから」
「そうなの?」
「うん、ついでに、昨日助けてくれたのはこの人達」
『お礼言うとポイント高いよ』と、付け加えると。
しばらく尻込みしていた香子は、おずおずと顔を出して。
控えめに『ありがとう』と伝えた。
「いいんだよー!無事でよかった!」
「わわ・・・・!」
「バッカ、やめろ!その子、まだ怪我してんだぞ!」
そんな可愛い様を見てしまっては、テンション上がるのも分かるというもの。
にぱーっ!と笑ったハナちゃんは、香子を抱きしめてしまった。
さすがに頭を撫でる様子はなかったけど。
包帯さえなければめいいっぱい撫でまわしていたことだろう。
ユキちゃんが直ちに引っぺがしたので、すぐに解放されたけども。
「あはは、ごめんね。すっごく可愛かったから」
「えっと、大丈夫です」
ハナちゃんと会話している横で、乱れちゃった髪を整えてやる。
うん、相変わらずのふわふわヘアーだ。
「ひとまず朝ごはんかな?」
「だね、怪我を早く治すためにも、たっぷり栄養取らないとねー♪」
「お前は食いすぎな方だろ・・・・」
「わんっ!」
さて、では改めて食堂に。
というところで、違和感を抱いた。
・・・・わん?
みんなでばっと振り返ると。
さも当然と言わんばかりにしっぽを振る、あの黒いわんこが。
「く、クロ!?なんでここに!?」
「お、おい。こいつまだ検査終わってないんじゃあ・・・・!」
なんて、狼狽えているところへ。
艦内に響き渡る警報。
『メ、メーデー!メーデー!被検体が逃げ出しましたーッ!』
あーもう。
無茶苦茶だよ・・・・。
閑話休題。
「予想の範疇ではあるけど・・・・やっぱりこの子、人や物の影を通じて移動できるみたいね」
大わらわで呼び出された了子さんは、みんなに見守られる中。
香子に抱っこされたわんこ『クロ』をまじまじと見つめていた。
「せめて『雷切』を作るまでとは思っていたけど・・・・これは、製作を急ぐ必要があるわね」
・・・・何回か、注射やらをされたからだろうか。
了子さんを見る目は、どこか怯えている。
っていうか、
「らいきり?」
こてん、と首を傾げた香子を微笑まし気に見ながら。
了子さんは指を立てて説明を始めた。
「雷の妖怪である雷獣、あるいは雷そのものを叩き斬ったと伝わる刀よ。今回は錬金術で再現したものをさらに加工して、クロ君の拘束具にするの」
「拘束って、首輪みたいな?」
「そう」
さらに重ねた質問にも、嫌な顔一つせず答えてくれる。
確か、クロ君が雷を扱うからって理由だったっけ。
「そもそも飼い犬の首輪は、『飼い犬ですよ』ってアピールもそうだけど、犬がむやみやたらと噛まないようにするための、安全策の一つでもあるの。特にクロ君は普通の犬じゃないから・・・・」
「なおさら、特別なもので縛らなきゃいけないってことですか?」
「せーかい♪」
そして、香子の返事に機嫌よく返事をしてから。
わたしに目を向けて、
「まあ、クロ君が香子ちゃんを襲う、なんてのはありえないと考えていいけども、万が一もありえるから」
「その時は相応の対応を取らせてもらいます」
「お、お姉ちゃん・・・・?」
そう言ってきた了子さんにはっきり返事すると、不安げに見上げてくる香子。
「悪いことしたら『めっ』ってするくらいだよ、こんなにかわいい子を怪我させるなんてヤだしね」
なので、安心させるために頭を撫でてやった。
ちなみに、頭の怪我はもう大丈夫と診断されたので、包帯は取れている。
「さぁさ、話もひと段落したところで、ご飯にしましょ。みんなまだ食べてないでしょ?」
「そういえば・・・・」
ハナちゃんがお腹を触ったところで、ぐぅ、と盛大な音が。
そういえば、わたしもすっかり腹ペコだぁ・・・・。
「食べるついでに、香子ちゃんへハナちゃん達の説明でもしておきなさいな」
「あれ、大丈夫なんですか?」
「むしろ内緒に出来ると思う?これからは無関係じゃいられないんだから、話すべきよ」
「まあ、そういうことなら・・・・」
そんなこんなで、『内緒』のワードに目を輝かせている香子の頭を。
落ち着かせるように撫でまわした。
と、言うことで。
「――――へぇ、じゃあ、お姉ちゃんだけどお姉ちゃんじゃない人なんだ」
「お、おう・・・・」
騒動が鎮まった後の、S.O.N.G.食堂。
意外にも、香子の飲み込みは速かった。
「すっごい、わたしなんてややこしくて頭こんがらがっちゃうのに」
「えへへ、友達が大好きなゲームに、似たような設定があるから」
「なるほどな・・・・」
みんなに感心した目を向けられる中、だんだん照れくさくなってきたらしい香子は。
照れ隠しの様にオムライスを頬張った。
「とはいえ、急を要する事態でなくてなによりだ」
「はい、キョウちゃんの怪我も、何もなくてよかった」
「ご心配おかけしましたー」
そう言うのは、
この二人は、早朝からシミュレーターで訓練していたらしい。
そういえば昨日、雷切の話が出た時に。
『雷を斬れるか』という質問に即答した翼さんに、びっくりしていたんだっけ。
後で燃えるような目つきになったから、こう『負けてられん!』とやる気になったんだろう・・・・。
でも、未来で相手出来たのかな?
いや、侮ってるわけじゃないんだけど。
やっぱり年季が違うしね?
「未来ちゃん達も、朝からトレーニングしてたんでしょ?お疲れ様です!」
「あはは、うん、フウさんもすごく強いから、勉強になりました」
「何、こちらの小日向もまた頼もしい。肩を並べる身として、改めてよろしく頼む」
「はい」
未来とフウさんの仲が、改めて良くなったところで。
ユキちゃんが気になっていたらしいことを口にする。
「それにしても、雷を斬れるようになるなんて。そっちのお前らはどんな訓練してるんだ?」
「確かに気になるかも、何か、特別な特訓とかしてるの?」
ハナちゃんも同じく気になっていたようで、身を乗り出してくる。
口元にはご飯粒がついている。
「特訓と言われても・・・・」
「色々あるけど、思いつくのと言えばやっぱり・・・・」
ご飯粒を取ってあげながら、未来と顔を合わせる。
未来はちょっと困った顔。
わたしは多分、いたずらを思いついた顔。
――――三名様、ごあんなーい!
XDUでもありそうな、ほのぼの回でした。
次から本格始動する、はずです。