チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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とってこい

朝ごはんが終わって、香子は検査にいくことになった。

頭の傷が塞がって包帯が取れただけで、後遺症がないと判断されたわけじゃないからね。

クロだなんて不思議なワンコと契約しちゃってるのもあるし、調べないわけにはいかないってもんよ。

なお、お迎えにはレイアさんが来たんだけども。

香子は一度、レイアさんに襲撃されたことがある。

そのことで怯えてしまうかも・・・・と思ったけど。

結論からして、わたし達の心配は不要なものだった。

『これはわたしの分、これは未来ちゃんの分』と、頭をペチペチ叩くだけで許してしまった。

『長引く恨みの厄介さは、嫌というほど分かってるから』と笑う顔に成長を感じたのは、さすがに身内びいきだろうか。

 

「――――ッおい!」

 

――――なんて現実逃避は、ユキちゃんの声で打ち切られる。

咄嗟に体を捻ると、鼻先を拳が掠めた。

 

「せぇいッ!」

 

すかさずハナちゃんが反撃を放つも、容易に防がれてしまう。

そうしてもたついている隙に、無数のクナイが飛んできて・・・・。

 

「ッ・・・・!」

 

涼しい顔が印象の翼さん、もといフウさんも、今回ばかりは苦い顔。

飛んでくる錬金術を華麗に避けながら、ユキちゃんの弾幕を背負って飛び出した。

そんなわたし達が対峙しているのはというと。

一番手、ネフシュタン装備の司令さん。

二番手、オサレな杖を構えたフィーネさん。

ダークホースの三番手、本格的な忍者装束の緒川さん。

要するに、『装者死すべし(DivaMustDie)』のメンバーである。

ただ、さっきから引っかかっていることが一つあって・・・・。

 

「フィーネさんが、ノイズの弾幕を使ってこない・・・・?」

「というか、そもそもソロモンの杖じゃないよね?」

 

わずかな隙を縫って、一緒にチャレンジしていた未来と話し合いながら。

疑問を確認する。

そうなんだよ。

ソロモンの杖で、巫女や魔女も真っ青になりそうな弾幕を放ってくるはずのフィーネさんが。

なんでか錬金術ばっかり使ってくる。

いつの間に仕様変更がされたのかな?

 

「な、なんだ!?」

 

なんて、のんびり考えていたときだった。

ユキちゃんの困惑している声が聞こえて、意識を引き戻す。

相手を見てみると、黒い霧に包まれていた。

今は攻撃も効かないようで、ユキちゃんの弾幕が次々弾かれていた。

・・・・えっ。

 

「何アレェッ!?」

「ええっ!?知らないの!?」

「お、おい!これ選んだのお前だろ!?」

「わたしだけども!!少なくとも初遭遇だよ!!」

 

動揺している間に、霧が爆ぜるように霧散する。

そうして現れたのは、禍々しいオーラを放つエネミー三人。

衣装の八割が黒くなっているのもそうだけど、爛々と光る赤い目が尾を引いていて。

・・・・こ、これ、まさか。

 

「イグナイ――――」

 

――――最後に見たのは何だったのか。

考える余裕もなく、意識が途切れて。

 

「――――面白いくらいの吹っ飛び方だったわ」

「見てたんなら止めて下さいよ・・・・」

 

目が覚めると、マリアさんと翼さんに介抱されていた。

こっちの気も知らないで、くすくす笑うマリアさん。

思わずジト目で見てしまうのは、しょうがないことだと思う。

 

「だが、此度はお前の抜かりもあるだろう。『ナイトメア』の実装は、つい先日知らされただろうに」

「ぬっぐ・・・・いえ、そうですけども」

 

いつぞや、了子さんが寝不足のノリで作ってボツになった『ナイトメア』。

最近わたし達が、『DMD』で好成績を残す様になったのを受けて。

内容を一新して作られたらしい。

で、その変更っていうのが。

 

「一定時間でのランダムイグナイト・・・・しかも最悪なパターンを引き当てるなんて・・・・」

 

そう。

フィーネさんがソロモンの杖を使わなくなった代わりに、搭載された新機能がそれだ。

開始から一定時間経過すると、三人のうちの誰かがランダムでイグナイト化というか。

攻撃を始めとしたステータスがかっ飛んで強化されるようになった。

その様は、まさに『悪夢(ナイトメア)』と言えるだろう。

 

「ふひぃー・・・・すっごいねぇ、こっちのわたし達はあんなのと戦ってるんだ」

「ああ、これなら雷を斬れるというのも納得がいく」

「っていうか、クリアさせる気無ぇだろこれ・・・・」

 

なんて、平行世界のみんなは感心してくれてるけど。

わたし達も割と苦行めいたものを感じているんだよなぁ・・・・。

 

「まあ、正直、櫻井教授の悪ノリが大半のような気もしなくないけど・・・・」

「それに立花もな」

「えっ、とばっちり」

「発端はあなただって聞いてるわよ?」

「発注して出来たもんがこうなるなんて誰も想像できませんって!!!!」

 

あの時のぼやきがこんなんなるとか思ってなかったもん!

 

「ちなみに、前段階のDMDクリアは、月読と暁が先駆けだ」

「ッマジか!?」

「へぇー!すごいなぁ、調ちゃんと切歌ちゃん!」

 

翼さんの捕足に、キラキラした目を向けるハナちゃん。

一方のユキちゃんは、心底信じられないと言いたげな声を上げていた。

・・・・まあ、原作のクリスちゃんからして、あの二人にはいいとこ見せたい部分があるみたいだし。

平行世界と言えど、追い越されて悔しいとこもあるのかな?

 

「そうなれば、負けてられんとやる気を出すしかないな」

「ああ、当然『後に続け』と勇んだ結果、好成績を残せるようになった」

 

その結果がナイトメアなんだけどな!?

考えてる横で、翼さんが腕を組んだフウさんにも頷いて。

話が締めくくられた。

そのちょうどいいタイミングで響いたのは、けたたましいアラート。

 

「・・・・ッ」

 

一瞬でみんなの顔が引き締まって、空気が張り詰める。

次いで、通信機から司令さんの声がした。

 

『聞こえるか!?またハウリングとフレイムノイズの反応だ!』

「今度はどこです!?」

『市街地から少し離れた場所、過去のノイズ被害で廃棄された地域です!』

 

そこから友里さんの説明によれば。

昨日の騒ぎの原因を調査していたチームが、追いかけられているとのこと。

 

「大変早く助けに行かないと!」

 

ハナちゃんが言うまでもなく、みんな同じ気持ちだ。

戦えなくとも、わたしたち以上に散りやすい命でも。

見捨てる動議なんてないんだから。

 

『ああ、だが今朝の脱走騒ぎもある』

 

そんな風に浮足立ったわたし達の気持ちを、司令さんは今朝のことを持ち出して諫めに来る。

 

『そこで、早速この状況を活用させてもらうことにする!』

 

 

 

 

 

 

――――そして決まった人員は。

 

 

 

 

 

 

「見えてきた!」

「あれだな」

「まだ市街地には遠いけど・・・・時間の問題ね」

 

爆速で飛ばすヘリの中。

開いたハッチから一緒に覗くのは、マリアさんにフウさん。

本部にいた装者はそのまま、その他は現場の近辺でそれぞれ待機。

翼さんは雷切の作成要員も兼ねている。

 

「とにもかくにも、まずは人命を優先しましょう!」

「承知した!」

「合点です!」

 

まー、何にせよ。

人助けをサボるわけにゃあ、行きませんよな!

 

「一番槍、お先しマース!」

 

軽く敬礼してから、ハッチに駆け出して。

 

「Balwisyall Nescell Gungnir tron!!」

 

聖詠を唱えつつ飛び降りる。

もう慣れ切った風圧の中、遠慮なしに加速して。

 

「ハーイルヒューラアァーッ!!!」

 

掛け声は、昨日ちょろっと出てきたドイツの話題から。

振り上げた拳で、今まさにエージェントさんに食らいつこうとしてたハウリングを。

遠慮なく殴り飛ばした。

フウさんやマリアさんも続いてきたのを感じながら、取り巻きのフレイムノイズも一蹴していく。

 

「ヘイヘイ、キスなら順番待ちだよ?」

 

ぞろぞろ現れる敵に、にやっと笑ってやりながら。

さらにちぎっては投げして片づけていく。

 

「グワォウッ!!」

「うおっ、と!」

 

その横合いから噛みついてきたハウリング。

びょんっと飛んで避けて、せっかくだから背中に張り付く。

毛をむしり取るつもりでしがみつきながら、刺突刃でグサグサ。

時折振り落とされそうになるのを耐えつつ、刺しまくる。

 

「うおおおおおおおおおおッ!」

 

仕上げに暴風を叩き込めば、ダウンを取ることが出来た。

 

「ッラァ!!」

 

とどめに踏みつけて首を折れば、ハウリングは動かなくなる。

そこへ突っ込んできたフレイムノイズを蹴り返して、続く二匹目をはたいた。

熱気にちょっと怯んでしまいながらも、向かってくる連中へ駆け出す。

走りながら考えるのは、ノイズの行動について。

何というか、バラけている?

そう、奥から次々沸いてきてるような、そんな感じが・・・・。

って、まさか。

 

「響!フウ!奥に向かうわよッ!おそらくそこに『出現点』があるッ!!」

「ああ、分かった!」

「りょーかいです!」

 

マリアさん達も同じ見解だったようだ。

これは、荒ぶらざるを得ませんな!!

ってなわけで、イグナイトモジュール!!抜ッ剣ッ!!!

 

「活路を開きます!」

 

ウル〇ァリンみたいにグレードアップした刃を出して、突っ込んでいく。

取りこぼしはマリアさん達に任せて、眼前の敵を次々千切りに。

最後の一押しに薙ぎ払えば、前が開けて。

見えたのは、

 

「・・・・壁?」

 

わざわざ加工したようなあとはあるけども、本当に壁としか言いようがない。

お陰でモノリスっぽいビジュアルだ。

そこに開いた、サイケな色合いの裂け目から。

フレイムノイズが今まさに出てきてた。

脇に、消火栓の親戚みたいな装置が見えるんで。

多分あれがスイッチ的なやつだと当たりをつける。

 

「ノイズは引き受ける!やってしまいなさい!」

「アラホラサッサー!!」

 

両手に刃を挟んで、放つ。

ノイズを貫きつつハート型にぶっ刺す。

 

「合わせる!」

「分かった!」

 

ノイズの方はというと。

マリアさんが放った無数の短剣を、フウさんの逆羅刹が拡散して。

周囲のノイズが面白い位に殲滅されていく。

二人のコンビネーションを横目に、わたしはワンテンポ遅れさせた最後の一本を投げて。

手拍子二回。

ハートにくり抜かれたところでキスを投げると、真っ二つに割れた。

うむ、我ながら芸術的!

 

「せいやぁ!!」

 

最後の仕上げとばかりに、駆け抜けたフウさんが装置を一刀両断。

爆発する間もないほど綺麗な切り口は、この後の調査に支障がないだろうことが確信できた。

入り口を壊したことで、これ以上ノイズが沸くこともないだろう。

いや、ほかにもあるのは否定できないんだけどね?

 

「ひとまずクリアでいいんですかね?」

「そのはずよ、念のため本部にも確認を――――」

 

マリアさんが言いかけた。

その時だった。

 

『全員、至急戻れ!香子くんが攫われた!』

『ごめんなさい、してやられたわ・・・・!』

 

 

 

 

 

 

 

えっ?

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

『選んで来い』と、言われた。

だから選んだ、温もりをくれたあの子を。

温かい食べ物と、ほわほわする安心をくれた子を。

どういう意味で『選べ』と言ったのか、分からないけど。

一緒にいるなら、この子がよかった。


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