チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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お待たせしました。
少し短めですが、下手に長くしても微妙になりそうだったので。


『余震』の後で

神は理不尽だ。

神は無慈悲だ。

神は残酷だ。

かつて、『たすけて』を無視した出来事に遭遇した。

救うべき人間を見捨てて、殺すべき人間を見逃した。

そんな神の理不尽に対峙した。

だが、神へ唾を吐く一方で、未だ信じている部分もあった。

そもそもこうやって怒りを抱く理由は、『神様が悪を裁いてくれる』と信じていたからだ。

神は、常に人を試しているという。

ならば、人も神を試しても良いではないか。

一体どれほどの悪行なら動いてくださるのか、どの程度なら悪と断じてくださるのか。

外道を以って試す、外道を以って問いかける。

直接の対話が不可能な以上、これしか確実な手段はないから。

 

「さあ、神よッ!聞こえているかッ!?見えているかッ!?」

 

だから、天へ咆える。

 

()はここだぞッ!!早く罰を下せ、裁きを下せッ!」

 

幼い友の『たすけて』を無視し、外道極まる悪童を放置した神へ。

 

「さもなくば、お前の怠惰を呪う者が、また増えることになるだろうッ!!」

 

まだ、信じさせてほしいと。

声を張り上げた。

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

市街地の被害は軽微で済んだ。

先の騒ぎで発令された避難指示が、継続していたことも一つであるが。

何より、度重なる特異災害によって、住民たちの危機意識が高かったことも大きな要因だろう。

人的被害の多くも、装者到着までの時間を稼いでいた自衛隊員が占めていた。

だが、決して快勝というわけでもなかった。

まず、本拠地と目された廃墟にて、響を庇ったフウが負傷。

また、市街地に駆けつけた装者も、マリアが絶対安静を言い渡されるほどの大怪我を負った。

フレイムノイズの出現点を攻撃する際、マリア、調、切歌の三人で、アガートラームのベクトル操作を応用した『疑似S2CA』を発動。

その際の負荷は、マリアが全て一人で引き受けた。

お陰で調と切歌は無事だったものの、倒れたマリアが心配でたまらないといった様子である。

 

「元の世界に戻るのか?」

「ああ、報告がてらな」

 

並行世界のクリスこと、ユキの提案に、弦十郎は腕を組んで首を傾げた。

一つ頷いたユキは、説明を始める。

並行世界の翼こと、フウが手傷を負わされ、マリアも戦線から退かざるを得ないダメージを受けた。

別にユキは、こちら側の装者や銃後を侮っているわけでもない。

しかし、大幅に強化されたブラックドッグを目の当たりにした今は、なるべく不安要素をなくしておきたいとのことだった。

考えているプランとしては、並行世界のマリアと交代しようとしているようだ。

あちらの世界の残存戦力や、S2CAの発動要員というのもあるが、

 

「こっちサイドで、ここぞって時の判断を下せる人員が欲しい・・・・あたしとバカじゃあ、正しいかどうかで迷って、足踏みしちまいそうだからな」

 

そう、ユキは自嘲気味に肩をすくめた。

 

「なるほどな・・・・」

「無理だったとしても、あたしを含めて最低一人が来れるように頼んでみる。だからこっちのおっさんには、うちの装者が来れた場合、そいつが滞在する許可を出してほしい」

「・・・・わかった」

 

頼む、と頭を下げるユキ。

対する弦十郎は、束の間思案した後、力強く頷いた。

 

「理由も十分納得できるものだし、戦力の補填も純粋にありがたい。こちらこそ、頼んだぞ」

「ありがとう、任せてくれ」

 

首肯したユキは、善は急げと言わんばかりに踵を返す。

まず向かったのは、同じ世界出身の、ハナの下だ。

 

「――――っていうわけで、あたしはいったんあっちに戻るから」

「わかった、その間こっちは任せて!」

「悪いな、頼んだぞ」

 

元気も力こぶいっぱいに返事をしたハナだったが、そのすぐ後。

なんだか喉につっかえがあるような、困ったような顔をした。

 

「・・・・こっちのバカのことか?」

「うん、大丈夫かなって」

 

ハナの言葉に、ユキは思い出す。

撤退してから本部に着くまでの間。

ずっとフウの傷口に布を当て、塞ぎ続けていた響の姿と。

今にも死にそうな真っ青な顔を。

 

(思い切りがいい分、ヘタレやすいみたいだな)

 

ユキは、ため息と共に内心で判断した。

 

「でも、きっとなんとかなるよ!こっちにはみんなだけじゃなくて、了子さんもいるんだもん!」

「・・・・そうだな、まあ、知ってるフィーネより丸くなってんのは驚いたけど。あれなら何とかしてくれそうだし」

 

・・・・過去のこともあり、複雑にならざるを得ない感情を抱いていたユキ(クリス)

だが、ここできびきび働く姿を見ては、警戒も多少は薄れるというものだ。

 

「っと、そろそろいかねーと」

「そっか、ごめんね引き留めちゃって」

「気にすんな」

 

片手をひらりと振り、ユキは今度こそ踵を返す。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

――――いたい。

それが、最初の記憶だった。

何度も何度も怒鳴られて、機嫌次第で振られる拳。

やり返すなんて考えはそもそもなくて、ただただ叩かれるだけだった。

そんなある日、多分捨てられたんだと思う。

初めて出た外で空を見上げて、あれが星空なんだと思ったのを覚えている。

痛くて、寒くて、お腹が減って。

だけど、それから解放されるんだとも思っていた。

救われるんだと、思っていた。

 

 

でも、世界は優しくなかった。

 

 

気付けば子犬の姿で、歩いていた。

頭痛の様に響く、『選べ』という言葉が苦しくて。

結局、どこまで行っても救われないんだと、諦めてしまって。

――――つめたかった。

長い間雨に晒されて、何とかもぐりこんだ場所でも風が吹きつけた。

つめたくて、つめたくて、たまらなかった。

お腹も空いて、一歩も動けなくて。

 

「大丈夫?生きてる?」

 

そんなところへ、声をかけてくれたのが。

あったかい君だった。

 

「怪我もしてる・・・・ッ神主さーん!」

 

毛並みを濡らす雫を拭って、優しく扱ってくれた。

お医者さんに連れて行ってくれただけじゃなくて、帰る場所になってくれた。

おいしいご飯も、名前も、めいいっぱいの優しさも。

人間だった頃には考えられないほどのものを、抱えられないくらいに、返せないくらいに。

たくさん、たくさん、たくさん。

――――まだまだ響く、『選べ』という声。

何のことなのか、よく分からないままだったけど。

一緒にいるなら、君がよかった。

願うなら、犬として死ぬ瞬間まで。

君の傍にいたかった。

ただ、それだけだったんだ。








梅雨の再来みたいな雨の日。
よく寄り道する神社で見つけたのが、あの子との出会いだったんだ。

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