誠にありがとうございます。
この連休中に終わりそうにないギャラルホルン編を、よろしくお願いします。
そんなこんなの翌日には、ユキがあちらのマリアを伴って戻ってきていた。
ブラックドッグの危険性や、フウの負傷を顧みて。
一人だけと言わず、二人も派遣してくれた。
なお、ユキが懸念していた向こうの守りは、また別の並行世界の装者が引き受けてくれたとか。
その世界の事情も少し絡んでいるそうだが、何にせよ、嬉しい誤算だ。
現在は『
ついでにマリアの『替え玉』的な役割を務め、被災者へのプロパガンダに一役買っているらしい。
そして、嬉しいニュースはもう一つ。
「目が覚めてよかったです、翼さん!マリアさん!」
「ああ、心配をかけてしまったな。立花」
負傷していたフウとマリアの意識が回復したのだ。
まだまだ警戒を継続しなければならない装者を代表して、いの一番に見舞いにやってきたハナは。
溌剌と二人に話しかけて、快復を喜ぶものの。
やはり、なんだか引っかかりがあるようで。
笑顔に無理があるのは、見え見えだった。
「何か、あったのかしら?」
案の定、気付いたマリアに指摘され。
図星を突かれて、ぴよっと体を跳ね上げたハナ。
フウにも見守られる前で、最初の愛想笑いから段々と落ち込んだ顔に変わってしまう。
「・・・・立花?」
やがて、膝の上で手を握りしめた彼女は。
意を決して、顔を上げる。
「夢を、見たんです。こっちに来た、最初の夜に」
「夢?」
「はい」
オウム返しするマリアに、ハナはこっくり頷く。
「暗い中を歩いてて、気が付いたら・・・・死体、が、足元にいっぱいいて・・・・その全部が睨んできたんです」
「それは、また・・・・」
マリアとフウ、二人の沈黙はそれぞれだ。
フウは夢の意味を考えふける顔。
一方のマリアは、どこか確信めいた顔だ。
「マリアさん」
だからだろう。
ハナは、マリアを見据えながら問いかける。
「マリアさんは、何か知っていますか?わたしが見た夢、こっちのわたしが『ファフニール』と呼ばれたことと、何か関係があるんでしょうか?」
束の間、沈黙を保ったマリア。
少し俯いて思案しているようだったが。
やがて、一つ頷いた。
「私の主観な上に、さわりしか語れないのだけど・・・・それでよければ」
口火を切って、語りだす。
「その前に、少し踏み込んだ質問をするのだけど」
「な、何ですか?」
――――前に、マリアがそんなことを言うもんだから。
つんのめりながらも、ハナが耳を傾けると。
「あなた、二年・・・・いえ、三年前だったかしら。ツヴァイウィングのライブには行ったかしら?」
「はい、行きました。人生初のライブで、すごく楽しかったのを覚えています!」
「立花・・・・」
明るい声で言い切るハナに、心配する一方で感動している様子のフウ。
マリアはそんな二人を微笑まし気に見ながら、質問を重ねる。
「それじゃあ、その後のアレコレも?」
「・・・・そう、ですね」
『少し踏み込む』と断られたとはいえ、やはり『痛む』ものは『痛む』ようだ。
口元を結んで、耐えるような表情をしたハナへ。
マリアは一言謝罪したが、話を止める気はない。
ハナとフウも聞きたいことを聞けていないので、止めることはしなかった。
「あなたの場合、それからどうなったのかしら?」
「その・・・・確かに色々ありましたけど、でもっ、未来が居てくれたから、何とか乗り越えられて・・・・それで、翼さんに会いたくてリディアンに!」
「なるほど・・・・ありがとう」
聞きたいことを聞けたのか、マリアはまた一つ頷いて。
知り得た情報を飲み込んだ。
「あなた達風に言うなら、あの子は『迫害を耐えられなかった立花響』と言うべきかしら」
「耐えられなかった、立花?」
「ええ」
食い入るように身を乗り出すハナとフウ。
「あなたと違って、妹がいるのも関係しているかもしれないわね。大切な家族が、自分が原因の理不尽に巻き込まれて・・・・だから、あの子は逃げ出したの」
「逃げたって、どこに?」
「あてはなかったと聞くわ、とにかく距離を取りたがっていたと・・・・」
そう言われて、ハナは衝撃を受けていた。
だって、その選択は。
まさにその時、自分が考えていたものだったから。
未来に支えてもらえていたのもあって、結局選ばなかったからこそ。
選んだ場合の話を聞いて、驚いている。
「一つ、誤算があったとするなら・・・・その旅路に、未来がついてきてしまったことかしら」
「未来が・・・・」
「さすがは小日向、と言うべきだろうか」
「その様子だと、そちらも愛の度合いは似たようなものみたいね」
くすり、と笑みをこぼして小休止。
しかしすぐに表情を引き締めた。
「けれど、こちらの響にとっては、それが最大の救いであり、同時に呪いでもあった」
「未来が呪いって・・・・一体どういうことなんですか?」
『呪い』だなんて信じられないワードに、また身を乗り出すハナ。
だって、自身にとっての未来は。
傍で支えてくれて、日常の象徴で。
絶対に帰ってこようと思う、あったかいひだまりなのだから。
「だって最初の計画では、本当に独りっきりになろうとしていたのよ?そこに、置いていく予定だった未来がついてきてしまった・・・・しかも気付いたのは、お隣の半島に渡ってから」
「・・・・追い返そうにも、帰せない、か」
「そういうこと」
「そんな・・・・」
目に見えて落ち込むハナへ、フウが『気を落とすな』を気遣う横で。
ひと段落していたマリアは、なお続けた。
「さらに、経験した理不尽の所為で、上手い判断が出来ない未成年よ?『大人を頼る』なんて選択肢が取れるかしら?」
「・・・・出来ない、だろうな」
「それじゃあ、こっちのわたしは・・・・」
「ええ、ショックでしょうけど・・・・未来を日本に戻すために、手段を選べなかった・・・・選ぶわけにはいかなかったの」
息を、吞む音。
「私があの子と初めて出会ったのは、二年前・・・・そうね、ルナアタックの半年前だったかしら。その頃にはもう、『ファフニール』の通り名で恐れられていたわ」
「『ファフニール』・・・・確か北欧神話の邪竜だったか、己の宝物に指一本でも触れた者は、皆殺しにしたという」
「そう・・・・その場合の『宝物』が何かというのは、もう説明しなくても分かるんじゃないかしら?」
「未来・・・・」
ぽつん、と呟いたハナを、マリアは首を振って肯定した。
「文字通り身を削って、あの子は未来を守り抜いていた・・・・『新たなガングニール』を確保に来た私を、半殺しにするくらいだから。その覚悟は相当だったでしょう」
「・・・・それでは、こちらの立花は」
「ええ、人を殺した経験がある」
それも、一人や二人では収まらない。
ハナは思い出す。
あの夢で、足元に転がっていたおびただしい死体達を。
「それで開き直っていれば、まだ生きやすかったかもしれないわね」
「だが、そこまでの外道ではなかったのだろう」
「その通り、自分のやらかしたことを自覚しているあの子ったら、死にに行くような戦い方ばかりで・・・・」
『最近になってやっと落ち着いたのよ』、と。
マリアは深々とため息をついた。
それから横目で見てみれば、目を見開いて、驚きを隠せていない二人の姿が。
特に
大分思い悩んでいる様子だった。
「だから、もしよかったら、あなた達も気にかけてやって頂戴。特に身内が絡んだ今回の事件は、あの子が自分を傷つけてしまうでしょうから」
マリアは物憂げに話を締めくくり、困ったように微笑んだ。
「――――あ、おかえり」
本部に戻ったハナを出迎えたのは、響だった。
「翼さん達、どうだった?」
「あ、うん。元気そうだったけど・・・・その、あなたは大丈夫?」
「ご心配をおかけしたね、わたしは何ともないよ。へーきへっちゃら」
香子やフウのことでえらく塞ぎ込み、部屋にこもっていたはずの彼女が。
けろっと働いていることに驚いたハナは、思わず問いかけると。
響は笑って答える。
「・・・・ッ」
「おっと・・・・?」
そのへらりとした笑みから、どうしようもない痛みを感じ取ってしまったハナ。
たまらず、響の手を取った。
対する響は、急に泣きそうな顔で手を握られたもんだから。
崩さない笑顔に、困惑を隠しきれない。
「・・・・あのね!」
「う、うん?」
どうしたんだろうと見守られる前で、ハナはどこか決意を込めて。
まっすぐ響の目を見つめて。
「あなたは、独りぼっちじゃないから!わたしが、させないから!」
「お、おう」
急な宣言に仰け反る響に、気にせず詰め寄る。
「わたしに出来ることなんて、こうやって手を繋ぐことくらいだから・・・・絶対に、放さないからね!!」
「――――」
鼻息の荒い、やり切った表情。
仔細は分からないが、本気だと悟った響は。
「うん、ありがとう」
くしゃっとはにかんで、握り返したのだった。
原作世界の守りは、片翼世界の奏さんが担当してくれてます。
最近出来た元気いっぱいの後輩に、経験を積ませるいい機会だと判断したようです。