チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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この連休中に終わりそうにないギャラルホルン編を、よろしくお願いします。


彼女の古傷

そんなこんなの翌日には、ユキがあちらのマリアを伴って戻ってきていた。

ブラックドッグの危険性や、フウの負傷を顧みて。

一人だけと言わず、二人も派遣してくれた。

なお、ユキが懸念していた向こうの守りは、また別の並行世界の装者が引き受けてくれたとか。

その世界の事情も少し絡んでいるそうだが、何にせよ、嬉しい誤算だ。

現在は『マリア(聖母)』に関連して付けられた『マルタ(聖女)』を名乗り、早速戦力に組み込まれているとのこと。

ついでにマリアの『替え玉』的な役割を務め、被災者へのプロパガンダに一役買っているらしい。

そして、嬉しいニュースはもう一つ。

 

「目が覚めてよかったです、翼さん!マリアさん!」

「ああ、心配をかけてしまったな。立花」

 

負傷していたフウとマリアの意識が回復したのだ。

まだまだ警戒を継続しなければならない装者を代表して、いの一番に見舞いにやってきたハナは。

溌剌と二人に話しかけて、快復を喜ぶものの。

やはり、なんだか引っかかりがあるようで。

笑顔に無理があるのは、見え見えだった。

 

「何か、あったのかしら?」

 

案の定、気付いたマリアに指摘され。

図星を突かれて、ぴよっと体を跳ね上げたハナ。

フウにも見守られる前で、最初の愛想笑いから段々と落ち込んだ顔に変わってしまう。

 

「・・・・立花?」

 

やがて、膝の上で手を握りしめた彼女は。

意を決して、顔を上げる。

 

「夢を、見たんです。こっちに来た、最初の夜に」

「夢?」

「はい」

 

オウム返しするマリアに、ハナはこっくり頷く。

 

「暗い中を歩いてて、気が付いたら・・・・死体、が、足元にいっぱいいて・・・・その全部が睨んできたんです」

「それは、また・・・・」

 

マリアとフウ、二人の沈黙はそれぞれだ。

フウは夢の意味を考えふける顔。

一方のマリアは、どこか確信めいた顔だ。

 

「マリアさん」

 

だからだろう。

ハナは、マリアを見据えながら問いかける。

 

「マリアさんは、何か知っていますか?わたしが見た夢、こっちのわたしが『ファフニール』と呼ばれたことと、何か関係があるんでしょうか?」

 

束の間、沈黙を保ったマリア。

少し俯いて思案しているようだったが。

やがて、一つ頷いた。

 

「私の主観な上に、さわりしか語れないのだけど・・・・それでよければ」

 

口火を切って、語りだす。

 

「その前に、少し踏み込んだ質問をするのだけど」

「な、何ですか?」

 

――――前に、マリアがそんなことを言うもんだから。

つんのめりながらも、ハナが耳を傾けると。

 

「あなた、二年・・・・いえ、三年前だったかしら。ツヴァイウィングのライブには行ったかしら?」

「はい、行きました。人生初のライブで、すごく楽しかったのを覚えています!」

「立花・・・・」

 

明るい声で言い切るハナに、心配する一方で感動している様子のフウ。

マリアはそんな二人を微笑まし気に見ながら、質問を重ねる。

 

「それじゃあ、その後のアレコレも?」

「・・・・そう、ですね」

 

『少し踏み込む』と断られたとはいえ、やはり『痛む』ものは『痛む』ようだ。

口元を結んで、耐えるような表情をしたハナへ。

マリアは一言謝罪したが、話を止める気はない。

ハナとフウも聞きたいことを聞けていないので、止めることはしなかった。

 

「あなたの場合、それからどうなったのかしら?」

「その・・・・確かに色々ありましたけど、でもっ、未来が居てくれたから、何とか乗り越えられて・・・・それで、翼さんに会いたくてリディアンに!」

「なるほど・・・・ありがとう」

 

聞きたいことを聞けたのか、マリアはまた一つ頷いて。

知り得た情報を飲み込んだ。

 

「あなた達風に言うなら、あの子は『迫害を耐えられなかった立花響』と言うべきかしら」

「耐えられなかった、立花?」

「ええ」

 

食い入るように身を乗り出すハナとフウ。

 

「あなたと違って、妹がいるのも関係しているかもしれないわね。大切な家族が、自分が原因の理不尽に巻き込まれて・・・・だから、あの子は逃げ出したの」

「逃げたって、どこに?」

「あてはなかったと聞くわ、とにかく距離を取りたがっていたと・・・・」

 

そう言われて、ハナは衝撃を受けていた。

だって、その選択は。

まさにその時、自分が考えていたものだったから。

未来に支えてもらえていたのもあって、結局選ばなかったからこそ。

選んだ場合の話を聞いて、驚いている。

 

「一つ、誤算があったとするなら・・・・その旅路に、未来がついてきてしまったことかしら」

「未来が・・・・」

「さすがは小日向、と言うべきだろうか」

「その様子だと、そちらも愛の度合いは似たようなものみたいね」

 

くすり、と笑みをこぼして小休止。

しかしすぐに表情を引き締めた。

 

「けれど、こちらの響にとっては、それが最大の救いであり、同時に呪いでもあった」

「未来が呪いって・・・・一体どういうことなんですか?」

 

『呪い』だなんて信じられないワードに、また身を乗り出すハナ。

だって、自身にとっての未来は。

傍で支えてくれて、日常の象徴で。

絶対に帰ってこようと思う、あったかいひだまりなのだから。

 

「だって最初の計画では、本当に独りっきりになろうとしていたのよ?そこに、置いていく予定だった未来がついてきてしまった・・・・しかも気付いたのは、お隣の半島に渡ってから」

「・・・・追い返そうにも、帰せない、か」

「そういうこと」

「そんな・・・・」

 

目に見えて落ち込むハナへ、フウが『気を落とすな』を気遣う横で。

ひと段落していたマリアは、なお続けた。

 

「さらに、経験した理不尽の所為で、上手い判断が出来ない未成年よ?『大人を頼る』なんて選択肢が取れるかしら?」

「・・・・出来ない、だろうな」

「それじゃあ、こっちのわたしは・・・・」

「ええ、ショックでしょうけど・・・・未来を日本に戻すために、手段を選べなかった・・・・選ぶわけにはいかなかったの」

 

息を、吞む音。

 

「私があの子と初めて出会ったのは、二年前・・・・そうね、ルナアタックの半年前だったかしら。その頃にはもう、『ファフニール』の通り名で恐れられていたわ」

「『ファフニール』・・・・確か北欧神話の邪竜だったか、己の宝物に指一本でも触れた者は、皆殺しにしたという」

「そう・・・・その場合の『宝物』が何かというのは、もう説明しなくても分かるんじゃないかしら?」

「未来・・・・」

 

ぽつん、と呟いたハナを、マリアは首を振って肯定した。

 

「文字通り身を削って、あの子は未来を守り抜いていた・・・・『新たなガングニール』を確保に来た私を、半殺しにするくらいだから。その覚悟は相当だったでしょう」

「・・・・それでは、こちらの立花は」

「ええ、人を殺した経験がある」

 

それも、一人や二人では収まらない。

ハナは思い出す。

あの夢で、足元に転がっていたおびただしい死体達を。

 

「それで開き直っていれば、まだ生きやすかったかもしれないわね」

「だが、そこまでの外道ではなかったのだろう」

「その通り、自分のやらかしたことを自覚しているあの子ったら、死にに行くような戦い方ばかりで・・・・」

 

『最近になってやっと落ち着いたのよ』、と。

マリアは深々とため息をついた。

それから横目で見てみれば、目を見開いて、驚きを隠せていない二人の姿が。

特に(フウ)は、(ハナ)がそうなっていたのかもしれないと。

大分思い悩んでいる様子だった。

 

「だから、もしよかったら、あなた達も気にかけてやって頂戴。特に身内が絡んだ今回の事件は、あの子が自分を傷つけてしまうでしょうから」

 

マリアは物憂げに話を締めくくり、困ったように微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――あ、おかえり」

 

本部に戻ったハナを出迎えたのは、響だった。

 

「翼さん達、どうだった?」

「あ、うん。元気そうだったけど・・・・その、あなたは大丈夫?」

「ご心配をおかけしたね、わたしは何ともないよ。へーきへっちゃら」

 

香子やフウのことでえらく塞ぎ込み、部屋にこもっていたはずの彼女が。

けろっと働いていることに驚いたハナは、思わず問いかけると。

響は笑って答える。

 

「・・・・ッ」

「おっと・・・・?」

 

そのへらりとした笑みから、どうしようもない痛みを感じ取ってしまったハナ。

たまらず、響の手を取った。

対する響は、急に泣きそうな顔で手を握られたもんだから。

崩さない笑顔に、困惑を隠しきれない。

 

「・・・・あのね!」

「う、うん?」

 

どうしたんだろうと見守られる前で、ハナはどこか決意を込めて。

まっすぐ響の目を見つめて。

 

「あなたは、独りぼっちじゃないから!わたしが、させないから!」

「お、おう」

 

急な宣言に仰け反る響に、気にせず詰め寄る。

 

「わたしに出来ることなんて、こうやって手を繋ぐことくらいだから・・・・絶対に、放さないからね!!」

「――――」

 

鼻息の荒い、やり切った表情。

仔細は分からないが、本気だと悟った響は。

 

「うん、ありがとう」

 

くしゃっとはにかんで、握り返したのだった。




原作世界の守りは、片翼世界の奏さんが担当してくれてます。
最近出来た元気いっぱいの後輩に、経験を積ませるいい機会だと判断したようです。

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