チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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お待たせしました。


立ちはだかる

S.O.N.G.のデータベースにて。

あちらのマリアことマルタは、過去の事変の記録を閲覧していた。

響の様子はもちろん、生存している了子も目の当たりにして。

自分の世界との差異を、改めて確認するべきだと判断したのだ。

通常の異変なら先遣隊(この場合、ハナ、フウ、ユキである)がそれとなく聞き出しているところだが。

今回はそんな余裕はなかったようなので、許可を得て行動を起こした次第である。

 

「ルナアタックでのデュランダル奪取、フロンティア事変ではなく執行者事変・・・・やはり、大分違う歴史をたどっているのね」

 

資料から目を離して、ひと段落。

紙と言えど疲れを覚えたので、目頭を押さえた。

紙媒体と聞くと、どうしても前時代的なイメージを抱いてしまうが。

そもそもハッキングをされない、最高のハッキング対策なのである。

 

「はい」

「ん?ああ、ありがとう」

 

伸びもしているところへ、調がコーヒーを差し入れてくれた。

 

「事件の資料・・・・ですか?」

「ええ、こちらとの差異を知っておきたくて。あと、話しにくいなら、敬語をつけなくてもいいわよ」

「う、うん」

 

こっくり頷いた調は、ふと、マルタの手元をのぞき込んで。

きゅっと顔をしかめた。

何かあったのかとマルタは首を傾げながら、たった今読み終わった執行者事変の項目に目を落とした。

 

「・・・・どうしたの?」

「・・・・その、『執行者』の時は、最初のころ迷惑をかけちゃったから」

「そうなの?って、そういえば攻撃を仕掛けたって・・・・」

 

そう言われて、調は今度こそ喉を詰まらせた

報告書では、先んじて発生していた蟠りの所為でひと悶着した、と書かれていたが。

 

「・・・・その、ルナアタックよりも前に、響さんとマリアが戦ったことがあって・・・・それで、マリアが大怪我させられたから」

「突っかかってしまったのね」

「うう・・・・」

 

当時を思い出してしまったのか、調は恥ずかしそうに顔を覆ってしまった。

 

「でも、仲直りは出来たのでしょう?」

「仲直りというか・・・・戦意を削ぎ取られたというか・・・・」

 

再び遠い目をする調。

自分の知っている彼女とは違う様子に、マルタはなんだか微笑ましさを覚えてしまう。

だが、それも束の間だった。

 

「・・・・響さん、ずっと笑ってるの。傷ついても、傷つけられても、ずっとにこにこしてるの」

 

『マリアに重傷を負わせた』と、調と切歌に責められても。

味方を庇って生死の境を彷徨っても。

ただ『大丈夫』と微笑んで、心配すらさせない。

させてくれない

それが、こちらの世界の『立花響』なのだと言う。

 

「・・・・随分厄介な気質みたいね」

「その、否定はしない・・・・正直めんどくさいときもあるし」

 

ぶっちゃけてしまえるほど鍛えられた調の精神に、マルタは一周回って頼もしさすら感じてしまう。

 

「でも、うちの響さんには、それを踏まえてもありあまる頼りがいがある、から」

「ふふ、そう」

 

まるで自分の事の様に締めくくった姿を見て、また微笑みを零したマルタだった。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

わたしを庇った所為で、フウさんが怪我をしてしまったけど。

落ち込んでいる場合じゃない。

まだ香子も助けられてないのに、折れてる余裕もないんだし。

だからアイアム大丈夫。

大丈夫ったら、大丈夫なの!!

それに、こう強がらなきゃいけない状況でもあるんだから!

 

「仕掛けてきたか・・・・」

 

顔を上げる。

モニターには、懲りずに襲撃をかけてきたノアの姿。

前と違うところは、武器らしい短剣(多分儀式用のアゾット剣)を携えていること。

そして、背後に聳え立つ棺桶のような装置。

中身を見ることは出来ないけれど、ちょうど、小学生くらいが入りそうなサイズだ。

 

「ブラックドッグ、ならびにアルカノイズの反応多数!市街地へ侵攻を開始しています!」

「アルカノイズ?フレイムじゃなくてか?」

「ええ、間違いないわ」

 

思っていた疑問を、同じく抱いていたらしいユキちゃんの問いに。

あおいさんが答えてる。

いや、ロクなこと考えてないのは明白なんだけど。

一体何をしようと・・・・?

 

「どちらにせよ、首謀者の確保と252の救出は速い方が良い!行くわよ!」

 

考えようとしたところで、マルタさんがそう檄を飛ばしたものだから。

わたしもみんなに続いて指令室を後にする。

 

『奴に動き有り!』

『一体何を・・・・!?』

 

出撃用のミサイルに飛び乗ってからも、オペレーターさんのわちゃわちゃは聞こえていて。

なんかノアが行動を起こしているみたいね。

 

『フレイムノイズの出現ゲートも確認!?アルカノイズもいるのにどうして・・・・!?』

 

なんだなんだ?

もうミサイルに乗り込んでしまった今、音声でしか外の様子をうかがえない。

 

『開いたゲートに、アルカノイズを干渉させている・・・・!?』

『まさかあいつ、バビロニアを物理的、かつ永久的に開くつもり!?』

 

それやばいヤツゥ!?

 

「早く止めないと!」

「ああ、ノイズがあふれ出せば、日本のみならず、世界すらも滅びかねん!」

 

一緒に乗っていた翼さん、ハナちゃん達と騒いでいる間に。

ミサイルが現場に到着したらしい。

がしゃんと開いたのに気づいて、一気に空へ身を躍らせる。

ちらっと周りを伺えば、ほかの面々も問題なく到着してるらしいのが見えた。

 

「拙速を尊ぶぞ!敵の防衛ラインを突破したものから、順次本陣へ斬り込めッ!!」

 

翼さんがサーフィンしてる剣にお邪魔しながら、飛ばされた指示に頷いた。

そのまま剣から、ブラックドッグとノイズの群れにダーイブ!

だけど、複数のブラックドッグが放電したことで、出鼻を挫かれた。

空中で姿勢を崩してしまったところに、噛みつきが襲い掛かってくる。

ただでさえでっかい口と牙で噛みつかれちゃ、こっちもたまったもんじゃない。

何とか体を捻って回避。

すれすれのところでがちんと閉じた顎に、冷や汗を流しながら。

飛んできた雷をマフラーで何とかいなして、再び迫ってきたブラックドッグを蹴り飛ばす。

叩きつけをバックステップで避けて、足払い。

こけたのを踏みつけて、一気に跳躍。

体を捻りながら雷を避けつつ、ブラックドッグを足場にして前身。

・・・・香子、香子。

香子!!!!

あの子は、あんな目にあっていい子じゃない。

こんな、血生臭い場所に巻き込まれていい子じゃない!

十分辛い目にあったから、恐ろしい目にあったから。

だから、だから、だから・・・・!

絶対に、助け出すッッッ!!!

 

「ッデヤアアアアアアアアア!!!!」

「ギャッ!」

 

目の前に現れたブラックドッグに、鉄拳一発。

衝撃波が後ろにいた連中も吹っ飛ばす。

よし、これで一気に・・・・!

 

「ッ・・・・!」

 

出来た一本道を駆け抜ける。

地面が皹入るくらいに踏みしめて、足元の爆発をそのまま加速に変える。

走って、走って、走って。

だけど、犬どもも立ちん坊というわけじゃない。

四方、八方、六方。

殺意が、気配が、蠢いてる。

だけど、構うもんか、気にするもんか。

一秒でも、一瞬でも早くしないと。

今度こそ、香子が手遅れになるのかもしれないのだから・・・・!

例え、その爪に穿たれようとも、その牙が体に食い込もうとも。

この駆け足を、止めるわけには・・・・!

 

「っせぇい!!」

 

あと少しで食いちぎられるというところで、殺意が遠ざかるのが分かった。

隣を見ると、ハナちゃんが満面の笑みを向けてくる。

 

「行こう!」

「ッうん」

 

たった一言、それだけを告げられて。

わたしは、また前を見た。

 

「っだぁ!!」

「そいやァッ!」

 

入れ替わり立ち代わり。

飛び掛かってくるブラックドッグを迎撃する。

ハナちゃんの拳が、ちょっと迷いがちかな?

まあ、連中の成り立ちを知ってしまっているわけだし。

多少はしょうがないのかも?

今は別に差しさわりはないから、気にしないことにする。

わたし?

可哀そうと言えば可哀そうだけど、向かってくるなら叩くだけだよ。

なんて考えてる間に、開けた場所。

三階建てくらいの、こじんまりとしたビルの屋上から。

ノアが見下ろしてきていた。

よっぽど夢中になって進撃していたらしい。

 

「・・・・投降する気はないんですか?」

「当たり前だろう?ここに来て『やーめた』っていう方が困らないか?」

 

拳を握り直して、ひとまず聞いてみれば。

すぐに返って来る『NO』。

分かっていたこととはいえ、やっぱり力ずくじゃなきゃ止められない事実に口元を噛み締める。

主に、一筋縄じゃいかないのを予想して。

 

「この短時間でここまで駆けつけるなんて、これもまた姉妹愛というやつかな?大変麗しいじゃないか」

「そのノリで降参してくれるとなお嬉しい」

「さすがにお断りだね」

「で、でも!世界中がノイズで溢れちゃったら、あなただって無事じゃすまないですよね!?」

「別にそれでもかまわないさ、むしろそうなってくれた方がありがたいね」

「そんな・・・・!」

 

にべもなく突き放されたハナちゃんを横目に、改めて上を見上げる。

 

「じゃあ、殴られても文句はないですよね?」

「出来るものならね」

「ほざけ」

 

これ以上付き合う義理もない。

まだ諦めきれないらしいハナちゃんが、引き留める前に。

踏み込んで、飛び出して。

 

「――――ふふっ」

 

突き出した拳が、何かに阻まれた。

 

「わたしッ!?」

 

ハナちゃんの心配してくれる声を聴きながら着地。

ぐう、右手がビリビリして・・・・。

 

「・・・・やる気は結構だが、こちらもそうはいかないんだ」

 

今になって見えるようになった、バリアのようなもの。

その向こう側で、ノアは何かを取り出している。

 

「私を裁けるのは神ただ一人・・・・只人には触れてほしくないなぁ」

「ッ触れるような距離にいて何を抜かしてんだか・・・・!」

「そうだね、この距離でないとブラックドッグも各種ノイズも制御できないし、そこは私の実力不足さ・・・・でも効果的だろう?」

 

言いながらノアは、さっき取り出した何かを。

犬笛のようなものを、口にした。

瞬間、空が暗くなる。

太陽が隠れたんじゃなくて。

 

「こいつも加えれば、盤石というものだ」

 

ずしん、と降り立ったのは。

散々見てきたブラックドッグ。

はっきり言って、どれもこれも同じ顔にしか見えなかったんだけど。

だけど『この子』だけは、何故か見分けがついた。

確かな根拠はなく、直観としか言いようがないけども。

確信を以って、問いかける。

 

「・・・・何やってんのさ、クロ!」

 

轟いたのは、雷鳴か、咆哮か。




あと3・4話で終わらせて、AXZ行きたいです。

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