ご感想も目を通しております。
びっくりするくらい筆が進んだ小ネタ達です。
前回のあとがきに、ノアさんの設定をこっそり追加しました。
『甚大な被害』
「へえ、こっちの翼さんも海外デビューしてるんですね!」
「ああ、そちらと違って公になっているが、だからこそ、私やマリアが目立つことで、他の装者を庇い立てすることに役立っている」
並行世界同士、差異を調べるための情報交換の中。
翼の海外デビューについての話になっていた。
フウの方もイギリスで世界に羽ばたき始めたそうで、ハナは自分の事の様に活き活きと話している。
「執行者事変の際に、潰えていてもおかしくなかったのだが・・・・後押ししてくれた現地のファンには感謝する他ない」
「へぇー」
翼が感慨深く息をつき、物思いにふけた時だった。
「イギリスと言えばねー?」
ここぞとばかりに、響がにゅっと現れた。
「その昔、おやつの定番と言えばちょうちょだったんだよー?」
「えっ?」
「・・・・立花、それはさすがに」
そして飛び出たとんでもない言葉に、ハナの目が点になる。
一方の翼は『またか』と額を押さえて、響を嗜めようとして。
「あら、よく知っているわね」
「えっ?」
了子のまさかの援護に、今度は翼がきょとんとなる番だった。
「素揚げにしてたんですよね?」
「ええ、胴はカリカリ、羽はパリパリで、意外とおいしかったのよー?」
「人気だった味付けは?」
「もちろん、バター!」
翼の珍しい表情に、ハナが呆気に取られている間。
とんとん拍子に進んでいく会話。
了子が長生きらしく物知りであることも災い(?)して、聞き耳を立てていた面々も『まさか』と信じ始めている。
「そういうわけで、『バターで食べるフライ』、『バターでフライ』、『バタフライ』ってなって、そこから、ちょうちょの英名である『バタフライ』が出来たんだよ」
「ちなみにそれまでは、花と花を飛び交う様から『スプリング』と呼ばれていたの。元々春の象徴でもあったから、『バタフライ』の単語が出てからは自然と春を意味する言葉に変わったわね」
そんなある種の緊張が漂う中で、二人は話を絞めたのだった。
束の間、沈黙が下りる。
話を聞いていた一人、クリスが。
真偽を確かめようと口を開きかけて、
「へぇーっ、そうなんだ!」
「知らなかったデス!」
「うんうん」
「まだまだボクの知らないことが、たっくさんあるんですね!」
それを遮るように、ハナ、切歌、調、そしてエルフナインが目を輝かせた。
口々に賞賛を告げ、無邪気にはしゃぐ面々。
彼女達を前にした響と了子は、ニコニコと笑顔を保っていたものの。
やがて、どこか哀愁を漂わせて、
「みんな、そのままでいてね・・・・」
どこか切実な声で、響がハナの肩を叩けば。
了子は神妙な顔をして、うんうんと頷いている。
「っふっざけんな!!やっぱり嘘じゃねーか!あと了子は組むの禁止ィ!!被害が拡大してんぞ!!!!」
滅多に見られなかった
クリスは果敢に突っ込みを入れたのだった。
『どーっちだ?』
「未来未来ー!」
「うん?」
S.O.N.G.本部。
廊下に響いた元気な声に、未来が振り返ると。
二人の響がニコニコしながら駆け寄ってきて。
「「どーっちだ!?」」
と、楽しそうに手を広げた。
「ああ、ふふふっ」
響達を微笑ましく見た未来は、二人をじぃっと観察する。
一見、右が並行世界で、左がこちらの響に見えるが。
「んー、こっちがわたしの響で、こっちがハナちゃん」
未来は、逆を指さして自信満々に答えた。
すると左にいた響、もといハナの顔が、一瞬でぎょっとする。
「すごい、なんでわかったの!?」
「ふふふ、ずっと一緒だったもの」
「うーん、さっすが未来だぁ」
『ね?』と目を合わせてくる未来に、響は少し照れくさそうに頬をかいた。
「そんな感じの服もなんだか新鮮」
「あはは、やっぱり似合ってないかな」
「まさか、すごくかわいいよ」
「そりゃあ、わたしだからね!」
不意打ちの誉め言葉に、虚を突かれた響の肩を。
ハナが満面の笑みで抱き寄せる。
普段は見られない響の表情に、未来はまた笑みをこぼしたのだった。
「・・・・すっげーナチュラルに、『わたしの』っつったぞ」
「ああ、言ったな・・・・うん?」
遠い目をするユキとフウ。
ふと、視線を感じて振り向くと。
クリスに切歌、それから調が、コーヒー片手に手招きしていた。
『許可証』
事件から一週間と少しが経った本部にて。
わたしと香子は、了子さんに呼び出されていた。
「と、いうわけで。二人、んー、三人でもいいわね」
事件のてんやわんやで遅れていた、了子さんお手製の拘束具が。
今日になってやっと完成したのだ。
わたし達の右手首には、同じデザインのブレスレットが揺れている。
クロには首輪だ。
使われている素材が素材だけに、どこか煩わしそうに首元をかいていた。
気持ちは分からんでもないけど、やめといた方が良いと思うなぁ・・・。
「これからはそれを付けてもらうことになります」
「これで、クロと一緒にいられるんですよね?」
「そうなるわね」
説明に曰く。
何だか強化されて帰ってきたクロだったけど、『雷切』で抑え込める分の雷属性を帯びていたとか何とかで。
当初の予定通り、翼さん協力の元で作ったんだそうな。
ちょっとちちんぷいと念じれば、『おしおき』が可能だって。
なるほど、犬〇叉における『おすわり』みたいなもんか・・・・。
「もちろん、飼い主である香子ちゃんが責任を以って叱ってくれるのなら、それがいいんだけど。あなたはまだまだ子どもだから」
「そのくらいは、ちゃんと分かってます。わたしも、お姉ちゃんが一緒の方が安心するから」
そういって、こっちをはにかみながら見上げてくる香子。
かわいいやつめと頭を撫でまわせば、きゃーっと歓声を上げていた。
クロもつられてハイテンションになってる。
尻尾大丈夫?千切れない?
「まあ、クロ君が危ない子にならないように、躾は今後もしっかりしておくように」
「えへへ、でもクロはいい子だもんねー」
「わん!」
香子の腕に抱えられたクロが、自信満々に返事した。
うーん、かわいい(確信)
『もっふもふやぞ』
「・・・・なんだこれ」
ある日のS.O.N.G.、休憩スペース。
響とクリスが飲み物を求めて来てみれば、妙な光景が広がっていた。
まず目についたのは、大きな毛玉。
よくよく見ると、クロの戦闘形態だったが。
別に勇んでいる様子は見られない。
むしろ、何だか困っているように見える。
その原因は、考えなくても分かった。
マリアだ。
わざわざ靴を脱いで床の上に正座するという、行儀がいいんだか悪いんだか分からない状態で。
クロのやわらかい毛並みに、顔から倒れ込むようにして埋もれていた。
「すぅー・・・・はぁー・・・・」
・・・・『猫吸い』の、犬バージョンだろうか。
離れていても呼吸音がはっきり聞こえている辺り、相当夢中になっているようだった。
「あ、お姉ちゃん、クリスちゃんもこんにちは」
「おう、元気そうだな」
「えへへ」
ぽかんとしているところへ、飼い主である香子が話しかけてきた。
「それで、何?これ?」
他に聞き方が分からなかったので、ストレートに聞いてみれば。
なんでも、偶然マリアと鉢合わせた香子が、世間話に花を咲かせていると。
クロの毛並みについての話題になったそうな。
毎日のブラッシングを以って、如何にもふもふを保つかを熱弁した結果。
こうなってしまった、と。
「さっきまでいた了子先生から、ちゃんと許可もらってるよ」
「うーん、そこまでしてるならいいかな」
「やっぱり、びっくりさせちゃった?」
やはり、クロを戦闘形態で置いておくことを気にしていたのか。
おずおずと見上げてくる香子。
響は、一つ唸って。
「そうだねぇ、急に弓が張り詰めてるサイズが現れた訳だし」
「いや、どんなサイズだよ。初めて聞いた表現だぞ」
「もののーけーふふんふふーん♪」
「あー・・・・」
響とクリスの、テンポの良い会話がひと段落したところで。
マリアがやっとこちらに気付いた。
「あら、あなた達いたの?」
「随分お楽しみのようですね」
「そうなのよー、癖になりそう・・・・」
普段の引き締まった表情が欠片も見当たらない、いっそだらしない顔で。
クロの横腹の毛をもふもふしていた。
「・・・・ちょっとだけ、お邪魔しようかな」
「あたしも」
あまりに幸せそうな様に感化された二人は、そろそろ近づいて毛並みに触れて。
――――七名いるシンフォギア装者の、半数近くが脱落した瞬間だった。
「アニマルセラピーって、こんな感じなんだな」
「これは無理、反則」
「はあぁ、もふもふもふもふもふもふ・・・・」
了子さんと組んででたらめを言うシーンが、一番書きたかったところです。テッテレテッテレテテテテテ