活きのいいご新規さんを見つけた時なんか、笑みが止められなくて・・・・←
『一度は気になる』
「どっちの響が強いの?」
それは、何でもなかったはずのひと時の、何でもなかったはずの一言だった。
並行世界に出張調査している響達。
髪が短く、装者でもない未来に出会えて、コーヒー片手に談笑している最中。
未来がぽつりとそんなことを零したのだ。
「さあ?どっちだろうね?」
「気にしたことなかったなぁ」
「あ、でも頼もしいのは間違いない」
「そっちこそ!影狼事件だったよね?すごかったよ!」
割と
未来も話題を間違えたかと内心身構えていたので、何とか穏便に終わりそうだとほっとしていたが。
「・・・・敵の意表を突くトリッキーさなら、うちの響さん」
「デスね、よっぽどのことがなけりゃ、基本思い切りもいいデスから」
ぼそりと、調と切歌が呟いてしまった。
当然、むっとなるのは現地のきりしらコンビである。
「お、思い切りの良さならうちの響さんだって!」
「誰とでも分かり合おうとする姿勢、とってもいいと思うデス!」
勢いよく立ち上がって、食い気味に身を乗り出す現地の調と切歌。
仲間自慢なら負けないと言ったところか。
「でもでも、大抵の錬金術士は話を聞いてくれないデス!みんな大なり小なり動機と信念があって事件を起こしてるわけデスから!」
「向こうも譲ってくれないなら、こっちだって実力行使するべき」
「だからって、力ずくばかりじゃ解決しないでしょ!」
「拳出すんじゃなくて、手を伸ばさなきゃ。聞いてもらえる話も聞いてもらえないデスよ!」
段々ヒートアップしていく四人。
おろおろする
『まあまあ』とたしなめようとしたところで。
「「こうなったらッ!!!」」
「「響さんッ!!!」」
ごう、と。
熱気が向けられた。
『装者組手』
「どうしてこうなっちゃったんだろう・・・・」
「まー、あの子ら大分ヒートアップしてたみたいだし、これくらいやらないと落ち着いてくれないでしょ」
訓練室。
響と
二人ともギアを纏っており、準備は万端だ。
「響さん!頑張ってください!」
「思い切り市中引き回しデスよ!」
それぞれの世界の調と切歌にエールを送られながら、すっかりお熱になっている彼女達に苦笑い。
「とはいえ、これもまた修行!お相手お願いします!!」
「あはは・・・・お手柔らかに」
それぞれ拳を握って構える。
対する響は、つま先を立てた『猫足立ち』だ。
両者ともに口を閉じて沈黙、呼吸を整える。
同じタイミングで目を閉じて、同じタイミングで切り替えて。
そして、同じタイミングで見開いて、飛び出した。
すれ違いざまに一合。
流れるように連打を放ち合い、防ぎ合う。
ジャブ、腹狙い、足払い。
相手の力量を図るような、軽快な打撃音。
響の手刀が
だが
動きは大きく、ダイナミックになっていく。
正拳突きを文字通り飛び越えた
逆さになった空中で、響と目を合わせながら。
追ってきた足払いを避けて、蹴りを繰り出す。
「ぐあッ!」
が、響はうまく避けると、その捻りを利用して裏拳のカウンター。
地面に倒れ、転がり終わったところへ追撃の踏みつけ。
飛び上がり、蹴りを繰り出す。
防がれた個所を起点にまた飛び、反撃から逃れる。
距離を取ったところで、
それを見た響も刺突刃を出す。
撃ち込まれる迫撃をかわす合間に、刃を繰り出す。
迫る刃を避ける合間に、バンカーを引いて撃ち込む。
攻防の中で、片方の刺突刃が外れて宙を舞う。
すぐに新しい刃が出てきたので、そちらを気にしてしまう。
続けて響の踵落としに注目していれば、突然、視界にぎらつくもの。
「――――ッ!?」
咄嗟に顔をそらせば、先ほど外れた刺突刃が
痛みに怯むことなく、殴打一発。
響が吹っ飛んで行った。
切れた頬の血を拭う
両者は再び距離を詰め、拳をぶつけあう。
飛び上がり、転がり、時には相手を台にして。
攻守が目まぐるしく入れ変わる。
刃がぶつかる甲高い音と、迫撃の力強い音が鳴りやまない。
交わされる拳、交わされる蹴り。
段々互いを認めていく二人の顔には、自然と笑みが浮かび始めた。
「捕まえたッ!」
攻防の最中、
もう片方もうまく圧し折り、ついでに軽く関節を決める。
「ぐぅ、そ!!」
やられてなるものかと、響が繰り出した拳も受け止め。
互いにプロレスの様に手を握り、押し合う形になった。
指の間からわずかに聞こえる、ギリギリという音。
「捕まえた」
瞬間、激しく回転し始める籠手。
だが、響を止められない。
――――我流・神砂嵐ッ!!!
咆哮を上げて迫りくる暴風。
避けても無意味と判断した
弦十郎直伝の震脚で壁を作り、何とかしのごうとする。
攻撃がぶち当たり、容易く削られていく。
やがて止んだ暴風に、ほっと一息ついてしまうのは仕方のないことだろう。
「・・・・!」
響は、その隙を狙った。
駆け寄ってくる音に、神経を尖らせる
右の横合いから、飛び出してきたものへ、思わず目を向けてしまう。
それが投擲されたらしい刃だと分かったところで、弾かれたように振り向いて。
「がッ・・・・!」
頭に強烈な一撃、目の前で星が飛ぶ。
蹴りで文字通り叩きつけた響は、明らかに朦朧と仕掛けている
「なッ!?」
食いしばりと、踏み込み一つ。
振り上げた手を掴み取られた。
一瞬動揺した顎に、さっきのお返しとばかりに拳が飛んできて。
「ごッ・・・・!」
今度は響の視界が明滅する。
定まらない中で、回し蹴りを放とうとする
「ぐはぁッ!!」
刹那のうちに、吹っ飛ばされた。
床をゴロゴロ転がってもなお、立ち上がれない響。
今の一撃は相当効いたらしい。
それでも何とか起き上がったところへ、警戒気味に悠然と歩み寄った
拳を突き付けて。
「・・・・参りました」
「参らせました、お疲れ様」
「そちらこそ」
握った拳を開きあい、しっかり握手を交わしたのだった。
『決着』
「やー、ごめんね。調ちゃん、切歌ちゃん」
「そんな!すごかったです!」
「接戦ってああいうことを言うんデスね!」
「いやぁ、ほんとほんと!負けちゃうかもって、結構焦っちゃった!」
試合が終わって、響が自分の所の二人に謝れば。
調も切歌もそろって首を横に振り、労ってくれる。
そんな二人に便乗したのは、
スポーツドリンク片手に、弾けるような笑顔で称賛を送られて。
響が照れくさそうに頭をかいていると、現地の調と切歌がおずおずと近寄ってきた。
「あの、さっきはごめんなさい」
「・・・・ん?わたし何かされたっけ?」
「その、荒っぽいって貶すようなことを・・・・」
告げられたことに、ああ、と納得を返して。
「気にしてるなら受け取るけど、別に貶されたなんて思ってないよ。気になるよね、どっちが強いか」
「その通りデスよ!」
「それに、こっちこそごめんなさい。そっちの響さんもすごかった」
響の側の調と切歌も謝り返せば、ヒートアップした空気はすっかり霧散していた。
「わたしは心配だったかな、大分遠慮なく殴り合ってるのに、すっごく楽しそうなんだもの」
「うっ、ごめんってば。でもわたしってば本当に強かったんだよ?」
「見てれば分かるわよ、世界が違っても響なんだもの」
「さっすが!」
若干拗ねた様子の未来と、姦しい会話を交わす
そんな彼女達を見て、ほんのり自分の未来が恋しくなった響だった。