チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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10/16日の日刊ランキングで、28位を頂いていました。
日頃のご愛顧、誠にありがとうございます。

大変お待たせしました(ひれ伏し)
プリキュアに浮気してました・・・・(切腹)


弱くても

「やっほー!遊びにきたぜーい!」

「お邪魔します!」

 

響の家。

玄関を開けて、元気よく入って来たのは。

弓美とエルフナインの二人だった。

 

「いらっしゃーい!」

「二人とも、いらっしゃい」

 

もちろん出迎えるのは、未来と香子だ。

歩いてきた未来を見て、弓美は『おっ』と声を上げた。

 

「未来、今日は調子良さそうだね」

「うん、今朝からずっと平熱が続いてて、記録が更新できそうなの」

「うーん、外野が喜んでいいのか分からない記録ー!」

「よろこんでくれると嬉しいなー」

「じゃあ喜ぶー!」

 

高校生二人が、そんなやり取りをしている横で。

香子はエルフナインの手を引いて、室内に導いていた。

 

「家から桃〇とスマ〇ラ持ってきてるの!やろう!」

「〇鉄とス〇ブラ・・・・どちらも人気タイトルですね、やります!」

 

ちびっこ二人がテレビの前に座るのを見守りながら、未来と弓美もテーブルにつく。

 

「・・・・響が難癖付けられたって聞いた時は、びっくりしたよ」

「うん、わたしも」

 

ゲームの中で大乱闘を始めた香子とエルフナイン。

香子はピンクの悪魔、エルフナインはペンギンの大王を選んで。

試合を始めた。

 

「なんで、今更になって言ってきたんだろうね」

「さあ、偉い人の考えることは分からないわ」

「そりゃあ、そうだけどさ」

 

交わされる拳、絶え間ない駆け引き。

香子はハンマーを、エルフナインはハリセンを手にして互いに襲い掛かる。

 

「真面目に更生してる人の罪を蒸し返すのって、卑怯じゃん」

「ありがとう弓美ちゃん・・・・でも、文句を言ったら不利になるのはこっちだもん」

「何それ、変だよ」

「うん、おかしいね」

 

どかんっ!と吹き飛ぶ音とともに、『ゲームセット!』の音声。

勝ったエルフナインは、両手を上げてガッツポーズをした。

 

「あーん!エルフナインちゃんもう強くなってる!次々!」

「受けて立ちます!次ゼ〇ダ使いますね!」

「それリ〇ク!まあいいや、わたしメタ〇イトにしよ」

 

心配げな弓美の前で、未来はどこか諦念を以て笑う。

 

「でも、わたしと響にとっては、これが当たり前だったから・・・・・誰も耳なんて傾けてくれないものよ?」

「未来・・・・」

「結局人間って、自分さえよければ他はどうでもいいの。誰がどこでどんな目に合おうが、自分に類が及ばなければそれでいいのよ」

「それは・・・・!」

 

椅子を倒して立ち上がる弓美。

物音に気付いた香子とエルフナインも、揃って視線を向けてくる。

 

「・・・・分かっている、そうじゃない人達がいるのも、分かっている」

 

未来は静かに目を伏せて、自らの両手を握りしめる。

 

「そうじゃない人間でいてくれて、ありがとう。弓美ちゃん」

 

――――その、疲れ切った瞳に。

諦めきった笑顔に。

弓美は何も言えないまま、それでも何かを言わんと口を開閉させて。

言葉を必死に探していた。

その時だった。

 

「・・・・ッ!?」

 

部屋に、マンションに、地域全体に。

 

「ッサイレン!」

「ノイズが出たんだ!」

 

緊張が走る室内に加わる、無機質な呼び出し音。

こわばった顔で、香子は通信機に手をかけた。

 

「・・・・はい」

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

やっぱりノイズが出たか・・・・。

変ないちゃもんでS.O.N.G.が動いていない今、仕掛けない手はないよな。

そして、敵の狙いは。

 

(――――多分わたし)

 

正確には、『神の器』がほしいってところだろう。

AXZ事変で、あれだけの強さを見せつけたもんなぁ。

そりゃあ、みんな喉から手が出るほど欲しくなる。

・・・・だから。

他所に取られる前に確保しておこうって魂胆なんだろうなぁ。

あんのクソジジイ・・・・。

 

(おそらく、この戦闘に乗じて確保。あとは家族を盾に言うこと聞かせようってところだろうな・・・・)

 

牢屋の中で、考え込みながら。

出撃を待っているんだけど・・・・。

 

「・・・・・なかなか来ないな」

 

さっきから警報が鳴りっぱなしなのに、政府職員の誰も呼びに来ない。

独房についているメガホンも、うんともすんとも言わない。

・・・・・いやな想像が、頭を過ぎる。

 

(・・・・まさか、まだ足りないなんて抜かすつもりじゃないだろうな)

 

わたしを追い詰めるための算段は、まだまだ終わっていないと言うつもりじゃないだろうな・・・・!?

考えろ、考えろ。

そうだった場合、狙われるのは・・・・!

 

「未来、香子・・・・!!」

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「――――ぅわ」

 

大きくなったクロに跨り、香子が現場についた時には。

すでに、翼が応戦しているところだった。

緊張と殺意が満遍なくいきわたった、緊迫感のある戦場の空気に気圧されながら。

それでも香子は口元を結んだ。

 

「ッひとまず、練習通りにやるよ!」

「ワンッ!」

 

クロの力強い返事を聞きながら、現場を指をさして。

 

「――――『かげぶんしん』!!」

「ウオオォォーン!!」

 

遠吠えが一つ、響き渡れば。

足元の影が広がって、他の個体が唸り声を上げながら現れる。

 

「とにかくノイズを片付けよう!『でんじは』で邪魔しながら、各自の判断で攻撃!ただ、翼さんが近い場合は『10まんボルト』とかは使わないように注意して!!」

「ワンワンワン!!」

「ガルルルルッ!!」

 

某大人気タイトルにあやかったコマンドを混ぜて、手早く指示を出せば。

各々がやる気十分とばかりに吠えたてた。

 

「それじゃあ、作戦開始!」

 

もう一度、指を前に向ければ。

雷鳴を置き去りにして散開していく。

 

(ここ、お姉ちゃんのマンションに近い。早く片付けないと・・・・!)

 

暴れ出したクロにしがみついて、香子も戦場に身を投じていく。

向けられる、無機質な。

殺意、殺意、殺意!

ノイズに目が付いていないはずなのに、はっきりと『見られている』感覚がする。

 

「ひ・・・・」

 

当たればアウト。

それが分かっているだけに、香子はとにかく振り落とされないよう努めるのに必死だった。

 

「はあああああああッッ!!!」

 

翼の、聞いた事もない様な怒声が聞こえる。

訓練の時とも違うそれもまた、更に恐怖を駆り立てた。

 

「は、は、は・・・・ぁ、す・・・・!」

 

怖い、怖い、怖い。

恐怖のあまり、助けを求めてしまいそうになって。

 

「・・・・んっぐ!!」

 

舌まで乗っていた『助けて』を、喉を鳴らして無理やり飲み下す。

何故なら、分かり切っているからだ。

助けを求めたところで、駆けつけてくれる姉は来ないのだと。

心配してくれる大人達は、いないのだと。

 

(今、わたしの周りはみんな敵だ)

 

弱味など見せようものなら。

『彼ら』の毒牙は、大切な人達諸共に喰らいつくしていく・・・・!!

 

(なんでもないって顔で、怖くないって態度で)

 

クロに号令をかける。

雷光を纏った爪が、ノイズを切り裂く。

口からレールガンを吐き出させたりもする。

 

(あいつらがやってることに、意味は無いって思わせなきゃ・・・・!)

「ックロ!!『かみなり』!!」

「オオオオオオオオオ――――ンッ!!!」

 

大きな一撃を叩き込んでから、深く呼吸。

後ろに誰かが立ったことに気付いて、振り向くと翼がいた。

彼女もまたこちらに背中を預けて、目の前の敵を注視している。

 

「・・・・ッ」

 

数少ない、信頼できる人物を視界に入れたことで。

余裕が出来た香子は。

ふと、閃きの様に気が付いた。

 

「あ、あのッ!!」

『――――どうしましたか?Ex-666』

「未来ちゃん、こ、小日向未来さんと、エルフナインさんは、ちゃんと避難出来たんですか!?」

 

通信機から聞こえる、ひたすら事務的な態度に怯みながらも。

聞きたいことを、きっちり聞いた。

 

『何故そんなことを聞くのですか』

「だって、アルカノイズって基本的に囮なんですよね!?今この場所に出してる人もいない!!っていうことは、他に狙いがあるはずです!!」

 

通信の間、無防備になった主と本体を他の個体がしっかり護衛する。

 

『戦闘に関係のない事項です、集中してください』

「なんでですか!?未来ちゃんもエルフナインちゃんも、さらわれたら困るんじゃないんですか!?」

『民間協力者でしかないあなたに、それを知る権利はありません』

「身内の無事を確認してるだけでしょ!!何がいけないんですか!!」

 

言い合いに夢中になっていると、隣に降り立つ人影。

翼だ。

 

「翼さん・・・・!」

 

彼女なら、自分に賛同してくれるのでは。

そんな期待を抱いて、目を向けたが。

 

「立花妹、今は目の前に集中しろ。左様な些事は銃後に任せていればいい」

 

――――その、冷徹な言葉に。

希望が打ち砕かれた。

 

「・・・・・分かりました」

 

手元が、強く握りしめられる。

主人を意を組んだクロは踵を返し、分身体は本体の下へ集まってくる。

 

『何をしているんです、Ex-666。直ちに行動を中止しなさい』

「立花妹?何を――――」

「――――ごめんなさい」

 

口うるさい大人たちの言葉をさえぎって、香子ははっきりと告げる。

 

「立花香子、命令を無視して勝手な行動を取ります!」

 

言うや否や、クロが韋駄天の如く飛び出した。

 

「ッ待て!!」

 

そのまま一目散に未来の下へ駆けつけようとするが。

やはり翼が追いかけてくる。

稲妻の様な速さのクロに、あっという間に追いついた翼。

 

「止まれッ!!」

 

峰打ちが迫る。

翼の()()()に射貫かれて、香子は身を強張らせた。

その時、

 

「ッダア!!」

 

跳び蹴りが割り込む。

剣が叩き折られ、翼は後ろに交代する。

・・・・何かが罅割れるような音がしたが、今の香子に気にする余裕はなかった。

 

「お、お姉ちゃん・・・・!」

 

こちらを庇って仁王立ちする姉は。

振り向きこそしないものの、無事を喜んでくれているのが分かって。

香子は一度、ほっと息を吐く。

 

「――――味方に、しかも子供に。何やってんですか」

 

すぐに、少なくとも香子は聞いた事がない。

底冷えするような声に気圧されたが。

 

「・・・・ッ」

 

対する翼は、顔を押さえて狼狽している。

先ほどまでの苛烈な様子が、まるで嘘みたいだと香子は感じた。

三者三様に、束の間動けない時間が流れて。

 

『――――聞こえますか!?』

 

それを破ったのは、友里の声だった。

 

「と、友里さん!戻って来たんですか!?」

『ええ、大人のやり方には、大人のやり方で対応よ。遅くなって、ごめんなさい!』

「いえっ!あの、それよりも!未来ちゃんとエルフナインちゃんが危ないかもしれなくて!!」

 

信頼できる人間が戻って来た、安心感もあるのだろう。

通信機へ、香子が必死にまくしたてると。

ちゃんと耳を傾けてくれた大人達は、何某かざわついて。

 

『――――では香子君、そのまま未来君達の安否確認だ!済まないが、頼んだ!』

「はいっ!!」

 

弦十郎からのゴーサインに、力強く頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題(いそげいそげ!)

 

 

 

 

 

 

 

「あーもう!こんな時に!」

 

 

――――果たして。

香子が案じた通り、未来達は追われていた。

弓美とエルフナインは、未来を庇いながら街中を逃げまどう。

追手は、シュバルツ。

 

「ハハハッ!どぉーこに逃げよってのかナァッ!?」

 

奴は煽る様に笑いながら、当たりそうで当たらない攻撃を繰り出してきている。

まるでいたぶるのを愉しむ様に、悪趣味さを感じながら。

それでも止められない足を動かして。

逃げて、逃げて、逃げて。

 

「ああ、しまった・・・・!」

「行き止まり・・・・!」

 

追い込まれたのは、袋小路だ。

両側は建物、前方はフェンスに小高い道路と。

人間の足では到底進めない場所だ。

 

「ヒヒヒヒッ!なぁんだぁ!?鬼ごっこは終いカァーッ!?」

 

分かっているだろうに。

鋭い爪を見せびらかして、ニヤニヤ笑いながら迫るシュバルツ。

せめてもの抵抗に、弓美が前に出て両手を広げる。

 

「弓美ちゃん・・・・!」

「大丈夫!二人には手出しさせないんだから!!」

「ハーッハッハッハッ!!口だけはいっちょ前だナァッ!?雑魚がよ!!!」

 

シュバルツの嗤い声が響く中、エルフナインはふと。

建物の陰から誰かが出てくるのに気付いた。

 

「ふん、余計なのがいるな」

「ああっ、あなたは!?」

 

S.O.N.G.にやって来た、高慢ちきな日本政府の役人だ。

 

「なあ、こいつらどうする?」

「様があるのは後ろの二人だ、前のはいらん、殺せ」

「あいヨォ・・・・!」

 

ねっとりとした問いかけに、シンプルに答えた役人。

シュバルツは待ってましたとばかりに牙を見せて獰猛に嗤い。

一歩、一歩。

近付いていく。

 

「弓美ちゃん!!」

「ぃ、いやだ!!逃げないからね!!」

「でも!!」

 

未来は弓美に逃げるよう促すも、応じてもらえない。

・・・・本当は足がすくんで動けないのだが。

エルフナインという年下もいる今、精いっぱいに強がっているのだった。

それすらも察しているシュバルツは、嘲笑いながらゆっくり歩み続けていた。

弓美が恐怖している様が、面白くてたまらないのだ。

 

「――――なあ、本当に逃げなくていいのか?」

 

巨体が、とうとう眼前に迫った。

文字通り高い位置から見下ろされながら、弓美は静かに震える。

 

「今ならまだ許してやる。そいつら見捨てるなら、命は見逃してやるよ」

 

『サア、サア』と。

赤ずきんの童話にある様に、大きな口をガパリと開けて。

わざとよだれを垂らしながら、煽ってくるシュバルツ。

対する弓美は、思惑通り恐怖に飲まれそうになっていた。

顔はすっかり下を向いて、心が参っている様をありありと物語っている。

――――だが。

強く閉じた目を、見開いた時。

その瞳には、強い輝きが宿っていて。

 

「――――ッ」

 

ぱすん、と。

毛深いものを叩いた音。

弓美が、シュバルツの横っ面を張ったのだ。

 

「し、しつけのなってないワンコの分際で!!エラソーにすんな!!!」

 

そして、ありったけの声で叫んだ。

・・・・それが、彼女に出来るだけの。

精いっぱいの、抵抗だったのだ。

 

「そおかい、死ね」

 

シュバルツの反応は、実にシンプルだった。

生意気に抵抗してきた雑魚に思い知らせるべく。

人間なんか簡単に八つ裂きに出来る腕を振り上げて、

 

「――――『ほえる』ゥッッ!!!」

 

刹那。

轟音が轟いた。

 

「ギャアッ!!!」

「きゃああああッ!!」

 

敵も味方も、耳を塞いで怯む中。

唯一動けた影が。

轟音を発した張本人が、飛び込んで。

 

「『つじぎり』ッ!!」

「ガアウッ!!!」

「ぐあああああああッ!?」

 

シュバルツの巨体を、容易く吹っ飛ばしたのだった。

 

「未来ちゃん!みんな!!無事!?無事だよね!?間に合ったよね!?」

「――――キョウちゃん!!」

 

未来が、飛び込んできた希望の名前を呼ぶと。

香子は、はぁーっと安堵の息を吐いたのだった。

 

「テメェッ!!チビがよ!!」

「チビだからって甘く見ないことだね!!『きゅうそねこを噛む』んだよ!!」

 

向けられる怒気と殺意に、一瞬怯みながらも。

香子は果敢に言い返して、一歩前に出た。


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