日頃のご愛顧、誠にありがとうございます。
大変お待たせしました(ひれ伏し)
プリキュアに浮気してました・・・・(切腹)
「やっほー!遊びにきたぜーい!」
「お邪魔します!」
響の家。
玄関を開けて、元気よく入って来たのは。
弓美とエルフナインの二人だった。
「いらっしゃーい!」
「二人とも、いらっしゃい」
もちろん出迎えるのは、未来と香子だ。
歩いてきた未来を見て、弓美は『おっ』と声を上げた。
「未来、今日は調子良さそうだね」
「うん、今朝からずっと平熱が続いてて、記録が更新できそうなの」
「うーん、外野が喜んでいいのか分からない記録ー!」
「よろこんでくれると嬉しいなー」
「じゃあ喜ぶー!」
高校生二人が、そんなやり取りをしている横で。
香子はエルフナインの手を引いて、室内に導いていた。
「家から桃〇とスマ〇ラ持ってきてるの!やろう!」
「〇鉄とス〇ブラ・・・・どちらも人気タイトルですね、やります!」
ちびっこ二人がテレビの前に座るのを見守りながら、未来と弓美もテーブルにつく。
「・・・・響が難癖付けられたって聞いた時は、びっくりしたよ」
「うん、わたしも」
ゲームの中で大乱闘を始めた香子とエルフナイン。
香子はピンクの悪魔、エルフナインはペンギンの大王を選んで。
試合を始めた。
「なんで、今更になって言ってきたんだろうね」
「さあ、偉い人の考えることは分からないわ」
「そりゃあ、そうだけどさ」
交わされる拳、絶え間ない駆け引き。
香子はハンマーを、エルフナインはハリセンを手にして互いに襲い掛かる。
「真面目に更生してる人の罪を蒸し返すのって、卑怯じゃん」
「ありがとう弓美ちゃん・・・・でも、文句を言ったら不利になるのはこっちだもん」
「何それ、変だよ」
「うん、おかしいね」
どかんっ!と吹き飛ぶ音とともに、『ゲームセット!』の音声。
勝ったエルフナインは、両手を上げてガッツポーズをした。
「あーん!エルフナインちゃんもう強くなってる!次々!」
「受けて立ちます!次ゼ〇ダ使いますね!」
「それリ〇ク!まあいいや、わたしメタ〇イトにしよ」
心配げな弓美の前で、未来はどこか諦念を以て笑う。
「でも、わたしと響にとっては、これが当たり前だったから・・・・・誰も耳なんて傾けてくれないものよ?」
「未来・・・・」
「結局人間って、自分さえよければ他はどうでもいいの。誰がどこでどんな目に合おうが、自分に類が及ばなければそれでいいのよ」
「それは・・・・!」
椅子を倒して立ち上がる弓美。
物音に気付いた香子とエルフナインも、揃って視線を向けてくる。
「・・・・分かっている、そうじゃない人達がいるのも、分かっている」
未来は静かに目を伏せて、自らの両手を握りしめる。
「そうじゃない人間でいてくれて、ありがとう。弓美ちゃん」
――――その、疲れ切った瞳に。
諦めきった笑顔に。
弓美は何も言えないまま、それでも何かを言わんと口を開閉させて。
言葉を必死に探していた。
その時だった。
「・・・・ッ!?」
部屋に、マンションに、地域全体に。
「ッサイレン!」
「ノイズが出たんだ!」
緊張が走る室内に加わる、無機質な呼び出し音。
こわばった顔で、香子は通信機に手をかけた。
「・・・・はい」
◆ ◆ ◆
やっぱりノイズが出たか・・・・。
変ないちゃもんでS.O.N.G.が動いていない今、仕掛けない手はないよな。
そして、敵の狙いは。
(――――多分わたし)
正確には、『神の器』がほしいってところだろう。
AXZ事変で、あれだけの強さを見せつけたもんなぁ。
そりゃあ、みんな喉から手が出るほど欲しくなる。
・・・・だから。
他所に取られる前に確保しておこうって魂胆なんだろうなぁ。
あんのクソジジイ・・・・。
(おそらく、この戦闘に乗じて確保。あとは家族を盾に言うこと聞かせようってところだろうな・・・・)
牢屋の中で、考え込みながら。
出撃を待っているんだけど・・・・。
「・・・・・なかなか来ないな」
さっきから警報が鳴りっぱなしなのに、政府職員の誰も呼びに来ない。
独房についているメガホンも、うんともすんとも言わない。
・・・・・いやな想像が、頭を過ぎる。
(・・・・まさか、まだ足りないなんて抜かすつもりじゃないだろうな)
わたしを追い詰めるための算段は、まだまだ終わっていないと言うつもりじゃないだろうな・・・・!?
考えろ、考えろ。
そうだった場合、狙われるのは・・・・!
「未来、香子・・・・!!」
◆ ◆ ◆
「――――ぅわ」
大きくなったクロに跨り、香子が現場についた時には。
すでに、翼が応戦しているところだった。
緊張と殺意が満遍なくいきわたった、緊迫感のある戦場の空気に気圧されながら。
それでも香子は口元を結んだ。
「ッひとまず、練習通りにやるよ!」
「ワンッ!」
クロの力強い返事を聞きながら、現場を指をさして。
「――――『かげぶんしん』!!」
「ウオオォォーン!!」
遠吠えが一つ、響き渡れば。
足元の影が広がって、他の個体が唸り声を上げながら現れる。
「とにかくノイズを片付けよう!『でんじは』で邪魔しながら、各自の判断で攻撃!ただ、翼さんが近い場合は『10まんボルト』とかは使わないように注意して!!」
「ワンワンワン!!」
「ガルルルルッ!!」
某大人気タイトルにあやかったコマンドを混ぜて、手早く指示を出せば。
各々がやる気十分とばかりに吠えたてた。
「それじゃあ、作戦開始!」
もう一度、指を前に向ければ。
雷鳴を置き去りにして散開していく。
(ここ、お姉ちゃんのマンションに近い。早く片付けないと・・・・!)
暴れ出したクロにしがみついて、香子も戦場に身を投じていく。
向けられる、無機質な。
殺意、殺意、殺意!
ノイズに目が付いていないはずなのに、はっきりと『見られている』感覚がする。
「ひ・・・・」
当たればアウト。
それが分かっているだけに、香子はとにかく振り落とされないよう努めるのに必死だった。
「はあああああああッッ!!!」
翼の、聞いた事もない様な怒声が聞こえる。
訓練の時とも違うそれもまた、更に恐怖を駆り立てた。
「は、は、は・・・・ぁ、す・・・・!」
怖い、怖い、怖い。
恐怖のあまり、助けを求めてしまいそうになって。
「・・・・んっぐ!!」
舌まで乗っていた『助けて』を、喉を鳴らして無理やり飲み下す。
何故なら、分かり切っているからだ。
助けを求めたところで、駆けつけてくれる姉は来ないのだと。
心配してくれる大人達は、いないのだと。
(今、わたしの周りはみんな敵だ)
弱味など見せようものなら。
『彼ら』の毒牙は、大切な人達諸共に喰らいつくしていく・・・・!!
(なんでもないって顔で、怖くないって態度で)
クロに号令をかける。
雷光を纏った爪が、ノイズを切り裂く。
口からレールガンを吐き出させたりもする。
(あいつらがやってることに、意味は無いって思わせなきゃ・・・・!)
「ックロ!!『かみなり』!!」
「オオオオオオオオオ――――ンッ!!!」
大きな一撃を叩き込んでから、深く呼吸。
後ろに誰かが立ったことに気付いて、振り向くと翼がいた。
彼女もまたこちらに背中を預けて、目の前の敵を注視している。
「・・・・ッ」
数少ない、信頼できる人物を視界に入れたことで。
余裕が出来た香子は。
ふと、閃きの様に気が付いた。
「あ、あのッ!!」
『――――どうしましたか?Ex-666』
「未来ちゃん、こ、小日向未来さんと、エルフナインさんは、ちゃんと避難出来たんですか!?」
通信機から聞こえる、ひたすら事務的な態度に怯みながらも。
聞きたいことを、きっちり聞いた。
『何故そんなことを聞くのですか』
「だって、アルカノイズって基本的に囮なんですよね!?今この場所に出してる人もいない!!っていうことは、他に狙いがあるはずです!!」
通信の間、無防備になった主と本体を他の個体がしっかり護衛する。
『戦闘に関係のない事項です、集中してください』
「なんでですか!?未来ちゃんもエルフナインちゃんも、さらわれたら困るんじゃないんですか!?」
『民間協力者でしかないあなたに、それを知る権利はありません』
「身内の無事を確認してるだけでしょ!!何がいけないんですか!!」
言い合いに夢中になっていると、隣に降り立つ人影。
翼だ。
「翼さん・・・・!」
彼女なら、自分に賛同してくれるのでは。
そんな期待を抱いて、目を向けたが。
「立花妹、今は目の前に集中しろ。左様な些事は銃後に任せていればいい」
――――その、冷徹な言葉に。
希望が打ち砕かれた。
「・・・・・分かりました」
手元が、強く握りしめられる。
主人を意を組んだクロは踵を返し、分身体は本体の下へ集まってくる。
『何をしているんです、Ex-666。直ちに行動を中止しなさい』
「立花妹?何を――――」
「――――ごめんなさい」
口うるさい大人たちの言葉をさえぎって、香子ははっきりと告げる。
「立花香子、命令を無視して勝手な行動を取ります!」
言うや否や、クロが韋駄天の如く飛び出した。
「ッ待て!!」
そのまま一目散に未来の下へ駆けつけようとするが。
やはり翼が追いかけてくる。
稲妻の様な速さのクロに、あっという間に追いついた翼。
「止まれッ!!」
峰打ちが迫る。
翼の
その時、
「ッダア!!」
跳び蹴りが割り込む。
剣が叩き折られ、翼は後ろに交代する。
・・・・何かが罅割れるような音がしたが、今の香子に気にする余裕はなかった。
「お、お姉ちゃん・・・・!」
こちらを庇って仁王立ちする姉は。
振り向きこそしないものの、無事を喜んでくれているのが分かって。
香子は一度、ほっと息を吐く。
「――――味方に、しかも子供に。何やってんですか」
すぐに、少なくとも香子は聞いた事がない。
底冷えするような声に気圧されたが。
「・・・・ッ」
対する翼は、顔を押さえて狼狽している。
先ほどまでの苛烈な様子が、まるで嘘みたいだと香子は感じた。
三者三様に、束の間動けない時間が流れて。
『――――聞こえますか!?』
それを破ったのは、友里の声だった。
「と、友里さん!戻って来たんですか!?」
『ええ、大人のやり方には、大人のやり方で対応よ。遅くなって、ごめんなさい!』
「いえっ!あの、それよりも!未来ちゃんとエルフナインちゃんが危ないかもしれなくて!!」
信頼できる人間が戻って来た、安心感もあるのだろう。
通信機へ、香子が必死にまくしたてると。
ちゃんと耳を傾けてくれた大人達は、何某かざわついて。
『――――では香子君、そのまま未来君達の安否確認だ!済まないが、頼んだ!』
「はいっ!!」
弦十郎からのゴーサインに、力強く頷いたのだった。
「あーもう!こんな時に!」
――――果たして。
香子が案じた通り、未来達は追われていた。
弓美とエルフナインは、未来を庇いながら街中を逃げまどう。
追手は、シュバルツ。
「ハハハッ!どぉーこに逃げよってのかナァッ!?」
奴は煽る様に笑いながら、当たりそうで当たらない攻撃を繰り出してきている。
まるでいたぶるのを愉しむ様に、悪趣味さを感じながら。
それでも止められない足を動かして。
逃げて、逃げて、逃げて。
「ああ、しまった・・・・!」
「行き止まり・・・・!」
追い込まれたのは、袋小路だ。
両側は建物、前方はフェンスに小高い道路と。
人間の足では到底進めない場所だ。
「ヒヒヒヒッ!なぁんだぁ!?鬼ごっこは終いカァーッ!?」
分かっているだろうに。
鋭い爪を見せびらかして、ニヤニヤ笑いながら迫るシュバルツ。
せめてもの抵抗に、弓美が前に出て両手を広げる。
「弓美ちゃん・・・・!」
「大丈夫!二人には手出しさせないんだから!!」
「ハーッハッハッハッ!!口だけはいっちょ前だナァッ!?雑魚がよ!!!」
シュバルツの嗤い声が響く中、エルフナインはふと。
建物の陰から誰かが出てくるのに気付いた。
「ふん、余計なのがいるな」
「ああっ、あなたは!?」
S.O.N.G.にやって来た、高慢ちきな日本政府の役人だ。
「なあ、こいつらどうする?」
「様があるのは後ろの二人だ、前のはいらん、殺せ」
「あいヨォ・・・・!」
ねっとりとした問いかけに、シンプルに答えた役人。
シュバルツは待ってましたとばかりに牙を見せて獰猛に嗤い。
一歩、一歩。
近付いていく。
「弓美ちゃん!!」
「ぃ、いやだ!!逃げないからね!!」
「でも!!」
未来は弓美に逃げるよう促すも、応じてもらえない。
・・・・本当は足がすくんで動けないのだが。
エルフナインという年下もいる今、精いっぱいに強がっているのだった。
それすらも察しているシュバルツは、嘲笑いながらゆっくり歩み続けていた。
弓美が恐怖している様が、面白くてたまらないのだ。
「――――なあ、本当に逃げなくていいのか?」
巨体が、とうとう眼前に迫った。
文字通り高い位置から見下ろされながら、弓美は静かに震える。
「今ならまだ許してやる。そいつら見捨てるなら、命は見逃してやるよ」
『サア、サア』と。
赤ずきんの童話にある様に、大きな口をガパリと開けて。
わざとよだれを垂らしながら、煽ってくるシュバルツ。
対する弓美は、思惑通り恐怖に飲まれそうになっていた。
顔はすっかり下を向いて、心が参っている様をありありと物語っている。
――――だが。
強く閉じた目を、見開いた時。
その瞳には、強い輝きが宿っていて。
「――――ッ」
ぱすん、と。
毛深いものを叩いた音。
弓美が、シュバルツの横っ面を張ったのだ。
「し、しつけのなってないワンコの分際で!!エラソーにすんな!!!」
そして、ありったけの声で叫んだ。
・・・・それが、彼女に出来るだけの。
精いっぱいの、抵抗だったのだ。
「そおかい、死ね」
シュバルツの反応は、実にシンプルだった。
生意気に抵抗してきた雑魚に思い知らせるべく。
人間なんか簡単に八つ裂きに出来る腕を振り上げて、
「――――『ほえる』ゥッッ!!!」
刹那。
轟音が轟いた。
「ギャアッ!!!」
「きゃああああッ!!」
敵も味方も、耳を塞いで怯む中。
唯一動けた影が。
轟音を発した張本人が、飛び込んで。
「『つじぎり』ッ!!」
「ガアウッ!!!」
「ぐあああああああッ!?」
シュバルツの巨体を、容易く吹っ飛ばしたのだった。
「未来ちゃん!みんな!!無事!?無事だよね!?間に合ったよね!?」
「――――キョウちゃん!!」
未来が、飛び込んできた希望の名前を呼ぶと。
香子は、はぁーっと安堵の息を吐いたのだった。
「テメェッ!!チビがよ!!」
「チビだからって甘く見ないことだね!!『きゅうそねこを噛む』んだよ!!」
向けられる怒気と殺意に、一瞬怯みながらも。
香子は果敢に言い返して、一歩前に出た。