チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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避難の基本は『お・か・し』です

過去に類を見ない、大量のノイズの出現に伴い。

リディアン音楽院を中心とした地域の一般人に、避難勧告がなされた。

それは未来も例外ではなく、自宅にて避難の準備を進めていた。

といっても、今までの旅のお陰で逃げる準備をする習慣が出来ていたので。

やることと言えば戸締りくらいだったのだが。

 

「――――よし」

 

鍵はもちろんのこと、ガスの元栓も確かめた未来は、これで終わりだと頷いた。

未来が一人暮らしなのを気遣った弓美の申し出により、板場家と一緒にシェルターへ向かう約束をしている。

早いとこ待ち合わせ場所に向かわねば。

家を出て、扉の鍵を閉めたところで。

バタバタと忙しない足音。

顔を向ければ、白人男性が銃を振り上げて――――

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「弓美の友達、遅いな」

「・・・・うん」

 

シェルターへ急ぐ人々で、街のそこかしこが普段とは違う騒がしさに包まれている。

そんな中、弓美を含めた板場家の面々は人通りを避けて道端に立ち。

一緒に行こうと約束した未来の合流を待っていた。

しかし未来は中々現れず、ただ時間だけが過ぎていく。

正直、待ち人が来ないじれったさはある。

だが未来を、親がいない一人暮らしの学生を置いていくには・・・・という良心が働き。

ギリギリまで待っている次第だった。

されど今は非常事態、板場家の安全確保も重要なこと。

いつまでも待っていられない。

 

「・・・・あたし、未来の家に行って来る」

「弓美?」

「ちょっと!?」

 

大人ではないが、もう子供と言うわけではない。

非常事態なりの難しい事情を理解していた弓美は、それでも友人の無事を取った。

 

「大丈夫!こっから近いし、見るだけだから!ママ達は先に行ってて!」

「弓美!?危ないわ!待ちなさい!!」

 

母親の制止を振り切り、弓美は人ごみの中へ飛び込んだ。

途中焦って走る人にぶつかり、罵声を浴びながらも。

どうにか無事に未来の自宅付近へたどり着く弓美。

 

「未来、どうしちゃったのよ・・・・」

 

友達の安否を気遣いながら、曲がり角に差し掛かった弓美の足は。

 

「――――Hurry!! Make it early!!」

「――――!?」

 

突然聞こえた異国の言葉に止められた。

バタバタと聞こえてくる足音に、何ともいえない危機感を覚えた弓美は。

咄嗟に近くのゴミ収拾スペースに身を隠した。

近づく喧騒。

危ないと分かっていながらも、好奇心を抑えられなかった弓美がそっと顔を出すと。

掘りが深かったり、肌が黒かったり白かったり。

とにかくどう見ても日本人じゃない連中が、騒がしく走り去っていく。

――――未来を、荷物か何かのように、無骨に担いで。

 

「・・・・・ぁッ!」

 

抑えたものの、かすかに声があがった。

間違いない、今連中は未来を攫っていた・・・・!

 

「大変だ・・・・!」

 

一応背後を確認してから、弓美は物陰から立ち上がる。

連中の狙いが何かはっきり見当はつかないが、未来をよからぬことに利用しようとする魂胆は容易に想像できた。

どこかに通報をと考える。

警察はダメだ、二課の事情を話すわけにはいかない。

自衛隊も同様な上に、連絡先を知らない。

一番動いてくれそうな響も、同じくどう連絡すれば言いか分からない。

と、来れば、残っているのは。

 

「・・・・ッ」

 

体が震える、足が笑う。

怖い、怖い、怖い。

だけど。

仲がいい友達がいなくなるのだって、すごく怖い。

だから・・・・!

 

「・・・・行かなきゃ」

 

唇を噛んで、恐怖を押し殺して。

弓美は踵を返して走り出す。

二課本部がある、リディアン音楽院へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「泥まで喰らえッ!!」

 

振り上げた左手を地面に叩きつければ、周囲のノイズが塵になる。

そのままアスファルトを巻き込みつつ振り回せば、暴風で生き残った連中が吹き飛んだ。

 

「それッ!」

 

『手』で引っつかんで手繰り寄せ、思いっきり叩きつける。

周囲が開けたところで、体をちぢ込める。

刺突刃を意識しながら、フォニックゲインを流し込む。

溜めて、溜めて、溜めて・・・・。

――――今ッ!!!

 

「うぉるあぁッ!」

 

交差した斬撃を飛ばせば、前方のノイズが細切れになりながらまた吹き飛んでいった。

んんん~~!一方的ですぞー!

 

「つっかまーえたッ!」

 

人型をまた手繰り寄せて、腰をホールド。

仰け反ってジャーマンスープレックス、一回転してもう一撃。

もう一回転してさらにおかわり。

最後に宙に飛び上がって、脳天を地面に叩きつけてやった。

逆立ちから立ち上がれば、周囲は閑散としていた。

んー、これでこの辺は終わりかな?

 

「そちらも終わったようだな」

「随分派手に暴れたじゃねぇか」

 

翼さんとクリスちゃん、どっちに合流しようか考えていたら向こうからやってきた。

どうやら二人のほうも終わったらしい。

 

「では本部に戻るぞ、先ほどから通信が通じない」

 

翼さんは淡々としているように見えて、その実凄みがあった。

わたしとしても、二課のみなさんにはお世話になっている。

助けになれるのなら、喜んで力になろう。

・・・・・ファフニールの『宝』に手を出したこと。

骨の髄まで後悔させてやろうじゃないか。




今回の文字数、ちょうど2017だったんですよ(

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