チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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感想お返事できなくてすみません。
いつも励みにさせてもらっており、大変ありがたいです。

それでは、本編をどうぞ。


ピンチに来るのはいつだって

「こ、これだよね」

 

リディアン音楽院高等科。

幸いにも連中より早く到着した弓美だったが、二課への入り口が分からず少々彷徨ってしまった。

ひとまず、どうにかそれらしき場所を見つけはしたものの。

開ける方法が分からず、結局立ち往生してしまっていた。

ドアの縁に指をかけてみたり、カードキーか何かの読み取り機を叩いたり揺らしたりしてみるが。

当然ながら反応は無し。

 

「どうしよう、未来が危ないのに・・・・!」

 

頭をかきむしって唸ったところで、情況が好転するわけでもない。

ここまで来て手詰まりかと、苦い顔をしたときだった。

 

「――――問題ない、お嬢さん」

 

低い声。

肩を跳ね上げ振り向けば、先ほど見かけた集団。

そのうちの一人が、未だ気絶している未来を抱えている。

 

「案内ご苦労だった」

「――――ッ!!」

 

絶句すると同時に、己の失態を恥じる。

いつからかは分からないが、つけられていた・・・・!

ざり、と靴底を引きずって後ずさる。

もちろんその程度で逃れられるはずも無い。

気付けば連中の一人が背後に回っており、羽交い絞めにされた。

 

「な、何を・・・・!?」

「寝てもらうだけだ、安心しろ」

 

すわ何をされるかと身構えた弓美の脳天に、ライフルが叩きつけられる。

哀れ、避けられなかった弓美はもろに打撃を受け、一瞬で意識を失った。

荒っぽく放られると、額から流れた血が床にこぼれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

――――意識が浮かんでくる。

何か騒がしい。

破裂する音、誰かの大声。

バタバタ駆け回る足音。

何やら揺さぶられている体。

 

「・・・・?」

 

目蓋を開けてみる。

段々明るくなる視界。

蛍光灯の光で目を刺激され、痛みに怯む。

何とか耐え切って、もう一度目を開ける。

 

「未来ちゃんッッ!!!」

 

悲鳴のような声に驚いて、意識が一気に引き上げられる。

目の前には、ロッカーや事務机を積み上げて作られたバリケード。

その間から友里や藤尭と言ったなじみの面々が顔を出し、自分の名前を呼んでいる。

声を聞いた未来の意識は、完全に覚醒した。

動こうと力を入れれば、思うように動かない。

何事かと視線をめぐらせると、周囲を囲む西洋系の屈強な男達。

その誰もがアサルトライフルやらサブマシンガンやら、物騒な物を携えていた。

 

「・・・・ぁ」

 

ようやく思い出す。

避難しようとした矢先、彼らに殴られたことを。

となれば、もはや考えるまでも無く理解する。

こいつらは卑怯にも自分を人質にして、二課の面々を追い詰めている・・・・!!

現に、あっという間に制圧せしめる実力を持っている弦十郎が、攻めあぐねているのがその証拠。

バリケードの隙間からも、負傷した職員達がちらほら見える。

悔しいことに、効果は覿面だった。

 

「は・・・・」

 

久方ぶりに見る凄惨な光景。

 

「離してッ!!」

 

未来は思わず体をよじって暴れ、拘束から逃れようとする。

自分を抱えていた男が『暴れるな』という旨の英語を口走っていたが、言うことを聞いてやる道理は無い。

 

「――――ガッ!」

「ぅ、わ・・・・!」

 

暴れているうちに、膝の一撃が綺麗に決まった。

地面に重々しく落ちてしまったが、背中を押さえ怯む腕から逃げることに成功する。

 

「未来さん!こちらへ!」

 

飛び出してきた緒川に保護されて、バリケードの向こう側へ。

 

「お怪我は?」

「えっと、なんとか。大丈夫です」

「よかった・・・・」

 

どうにか壁の向こうに行けば、二課の職員達が口々に無事を喜んでくれた。

 

「あの人達、どうやってここに・・・・?」

 

自分を人質にしたのは分かる。

だが、『鍵』が無ければ入れないこの場所に、一体どうやって入り込んだのか。

未来にはそれが分からなかった。

 

「未来ちゃんの通信機を使われたんだ、こっちも完全に油断してた・・・・!」

「そ・・・・ん、な・・・・」

 

藤尭が苦い顔で告げた事実に、血の気が引く。

冷たさからどうにか逃れるために、未来は改めて周囲を見渡した。

目覚めるまでの間、連中は相当好き勝手してくれたらしい。

そこかしこに残る血痕に、今まさに運ばれていく者。

心なしか、未来に睨むような目を向ける者もいる。

 

「・・・・ッ」

 

その目は未来の心を大きく揺さぶると同時に、罪悪感を抱かせた。

だって、この光景を作った原因は、間違いなく。

 

「・・・・ぁ」

 

不意に、何かが投げ込まれる。

それが手榴弾と気付いたときには、もう遅く。

間髪いれずに、破裂音。

投げ込まれたのはどうやら閃光弾の類だったらしいが、動きを封じるには十分すぎた。

未来にとっては二度目となる目の痛み。

続けてバリケードが崩れる音が聞こえて。

 

「ッ全員逃げろオォ!!」

「司令ッ!」

 

床を隆起させて弾丸を防いだ弦十郎が、雄叫びを上げて突っ込む。

そのまま一気に三人なぎ倒し、次の相手を目で射抜いた。

・・・・人が倒れている。

怒号が飛び交っている。

換気がやや悪い地下ゆえに、硝煙と血のにおいでむせ返りそうだ。

 

(・・・・おんなじだ)

 

響と一緒に歩いた軌跡と。

びっくりするほど、同じだった。

隣に居る大好きな響ばかりが傷ついて、苦しんで。

なのに、自分だけが無傷でいる。

いつだって命を賭けるのは響、危険に晒されるのも響。

対する自分は守られてばかりで、頼ってばかりで。

あの子が手を汚す様を、ただ見ているしか出来ない。

そんな一種の地獄が、そこにはあった。

 

「――――Don't despise.(舐めるな)ッ!」

「ぐ・・・・!」

 

一発、銃声。

応戦していた一人がハンドガンを撃ち、銃弾が弦十郎の腕を貫く。

傷つき血を流す様が、響とかぶった。

 

「・・・・~~~ッ」

 

いてもたってもいられなくなった未来は、近くに落ちていたハンドガンを手に取る。

セーフティーは外れたままのようで、あとは引き金を引くだけだった。

 

「未来ちゃん!?」

「未来ちゃん!ダメ、っぐ・・・・!」

 

引き止める声なんて聞こえない。

 

「動かないで!!!」

 

今まで出したこと無いような怒鳴り声を上げながら、銃口を向けて。

途端に、手元が震えだした。

どうして、何で。

もう守られてるだけじゃダメだから、だからこうやって行動に移しているのに。

どうしてこんなに震えているの。

 

「ここから、出て行って・・・・!」

 

誤魔化すためにもう一度怒鳴るけど、尻すぼみになってしまった。

多分連中には、未来が怖がっているのがバレバレなんだろう。

案の定、うちの一人がこちらへ銃口を向け返してくる。

小さく真っ暗なそこから飛び出してくるものが何か、容易に想像はついて。

背筋が凍った。

 

「未来く、ッどけェ!!!」

 

止められるだろう弦十郎も、奴等の相手で手一杯。

助けなんて期待しないほうがいい。

元より、これ以上甘えるなんて言語道断だ。

 

「・・・・ッ」

 

意を決する、腹を決める。

いくらか収まったものの、手元の震えがわずらわしい。

だけど、もう後には戻れない。

この状況を作ったのは誰か、二課の人達が傷ついているのは何故か。

どう考えたって、自分のせいじゃないか・・・・!!

緊張で奥歯を噛み締めてしまっている。

ギリギリと嫌な音がはっきり聞こえて、うるさい。

指先が真っ白になるほどに力を込める、グリップを握り締める。

引き金に指をかける。

どこに当たるかは分からなかったが、外れはしなさそうだった。

相手もまた、引き金を引こうとしている。

 

「・・・・ッ!」

 

力むためと言い訳して、怖いことから逃げたい臆病さが勝ってしまって。

目を伏せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぱぁん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

硝煙の臭い。

痛みは無い。

だが、手元のありえない温もりに我に返って、目を開ける。

 

「――――ひびき」

 

いつも見てきた、小さくて頼れる背中。

ギアを纏ったまま、未来を守るようにしゃがんでいる。

と、視線を降ろせば。

その左手が、銃を握り締める手元を押さえ込んでいた。

 

「ひ、ひび・・・・!」

「未来」

 

温かくて優しい手が、そっと包み込んでくれる。

 

「未来、大丈夫・・・・大丈夫」

 

指先で撫でながら、銃を手放された。

震える手をしっかり握って、何度も、何度も。

この場に合わぬ穏やかな声が、なだめてくれる。

 

「もう、大丈夫だから」

 

最後に、強く握られたことで。

ざわついていた心が、凪いで行った。

 

「・・・・ひび、き」

「うん」

 

名前を呼べば、振り向いて微笑んでくれた。

すぐさま立ち上がった彼女は、大きく踏み込んで。

未来へ銃口を向けた男へ、肉薄。

 

「――――ッ!!!」

「お、ご・・・・!?」

 

黙したまま、鼻っ柱を殴り飛ばす。

哀れ直撃を受けた相手は、きりもみしながら吹き飛んでいく。

そのまま逆さに壁に激突して、動かなくなった。

 

「――――なーに驚いてんのさ、お前等も散々同じことやってただろうに」

 

仲間の惨状に驚く連中を、嘲笑う。

ついさっき未来をなだめた者と同一と思えない、危機感を抱く笑み。

 

「今度はそっちの番だ、覚悟決める暇はいらんよね?」

 

左肩から、一発銃弾を零しながら。

口元がぱっくり弧を描いた。


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