デッデーデッデーデッデーデッデー・・・・
「――――聖遺物との融合、確かにすばらしい力だ」
何度目か分からない剣戟。
相手は何度も再生するし、こっちはいくらでも怯まない。
んー、でもスタミナはこっちが不利かも。
いくらでも再生するあっちと違って、無くした血は戻らないからなぁ。
現にちょっち体が重たくなってきている。
決定打を受けてないとは言え、刻んだ傷は確かにわたしを追い詰めてるってわけだ。
「お前のお陰だよ。フィーネの資料にお前と言う成功例があったから、実行に踏み切れた」
「自分から人間やめに行くなんて、斬新だね」
何度目か分からない突撃をかます。
足のジャッキを伸ばし、引っ込めた衝撃で突進。
奴の腹に強烈な一撃を叩き込む。
鎧なんて意味が無い威力のはずだけど。
予想通り痛がったおじさんは、次の瞬間にやぁっと嗤ってわたしの腕を引っつかんだ。
振り上げられ、叩き落される前に反撃。
肩を外して自由になり、脳天に踵落としをくらわせてやる。
目論見どおり怯んだのを確認して、首根っこにもう一撃入れてから離れる。
外した肩は着地の時わざとぶつかって無理やりはめた。
っていうか、本当にやばいよ。
忘れそうになってたけど、カ=ディンギルも止めなきゃいけないじゃん。
横目で見てみれば、さっきよりも輝いている砲塔が。
あぁーもー、翼さんとクリスちゃん置いてきたのは失策だったなぁ。
大怪我するの分かってるからやったこととはいえ、入り口を物理で塞ぐのはやりすぎた、うん。
・・・・・でも、まあ。
味方がいないなんて、ちょっと前までの『いつも通り』だし。
それが戻ってきたと思えば、多少はね?
「ギブアップか?今ならまだ受け付けるぞ?」
「寝言は寝て言え、ファ●●ンヤロー」
中指突き立てて丁重にお断り。
刺突刃を展開して接近、鞭を刀身に絡め取って引っ張る。
おじさんは引っ張られるかと思いきや、身を翻して重く着地。
振り上げた右腕に、本来は鞭の先から放つエネルギーを溜めて、叩きつけ。
亀裂が足元まで走ってきて、衝撃がわたしを吹き飛ばす。
いや、吹き飛ぼうとして、絡まったままの鞭がわたしを引っ張る。
おじさんはお返しといわんばかりに、鞭を掴んでいた。
思いっきり引き寄せられる体。
急接近するおじさんの手には、あのエネルギーが篭っていて。
あ、やばい。
「――――ごぼッ」
――――一瞬あらゆる感覚が途切れた。
視界が暗転して、音が聞こえなくなって。
意識が戻ったのは、瓦礫の中で血を吐き出している時だった。
痛みは感じない、感じないけど、全身が重い。
二課に保護されたときみたいな、指を動かすことすら億劫なほどの疲労。
・・・・・あー、つらい。
きつい、眠い、寝たい。
(―――――だけど)
だけど、と。
前を見る。
未だに健在の脅威達が立ちはだかっている。
(ここで倒れるのだけは、ダメだ)
・・・・さっきの感覚を思い出す。
視覚と聴覚を残して、
立ち上がれば、また込み上げた血が顎をつたった。
溜まった血を飲み下して、口を引き締める。
不利?劣勢?逆境?
上等だ。
――――わたしを噛み潰せると思うなッッ!!!
「おおおおおおおおおお―――――ッッッ!!!!!」
夜空に向かって、大きく咆える。
気のせいかもしれないけど、疲れが無くなった気がした。
もうなりふり構っていられない。
始めっからカ=ディンギル狙いで行かせてもらう。
血と汗を撒き散らしながら駆け抜ける。
おじさんもこちらの狙いに気付いているから、当然邪魔してくる。
エネルギー弾を避ける、牽制の鞭を避ける、飛び散る瓦礫は無視する。
わたしの中の、ありとあらゆる活力を。
全て、一点に!!!
「ハァッ!!!」
「オラァッ!!!」
背後から。
援護するように飛んでくる、斬撃と鉛玉。
振り向かなくても分かる。
「詰め放題にも程があるだろッッ!!どんだけあたしらに来て欲しくなかったんだッッ!!」
「決めろ立花ッッ!!我々を阻むほどの覚悟、見せてみろッッ!!!!」
カ=ディンギル発射は目前。
強く、強く、踏み込む。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!!!!」
喉が潰れるのもお構い無しに、ありったけの雄叫びを上げて。
拳を、振りかざして。
根元を思いっきり殴り飛ばす。
瓦礫を撒き散らし、大きく傾くカ=ディンギル。
破壊は叶わず、発射を許してしまったけれど。
「――――」
轟く轟音、塗り潰す閃光。
奪われた視界を取り戻して、空を見上げれば。
一拍沈黙の後、表面が削れる。
一部が剥がれたけれども、月は健在だった。
「――――っはぁ!!」
いけないと分かっていても、緊張が途切れて倒れこんでしまう。
・・・・・砲身自体をひん曲げたんだ。
これならいくら撃とうとも月は破壊できない。
・・・・翼さんやクリスちゃんが、自爆紛いの特攻をする必要も、ない。
「はぁ・・・は・・・・!・・・・はご、ほ・・・・げほげほ・・・・!」
「お、おい、無理すんな」
クリスちゃんに向け、大丈夫という意味で首を横に振りながら、立つ。
おじさんはまだいるけど、翼さんとクリスちゃんがいる今。
油断はしてないつもりだけど、それでも負ける気はしなかった。
一方のおじさんは、空とカ=ディンギルを交互に見ながら、ぼんやりしている。
・・・・ように見えて、その目はまだぎらついていた。
まーだ諦めてないんかい。
「・・・・砲台の破壊とは、よくやる。だが」
ふと、おじさんが徐に取り出したものがあった。
ソロモンの杖だ。
あれまで奪ってたのか・・・・。
「砲台が使えないのなら、自らの力でやればよいだけのこと」
「この期に及んで何を・・・・!?」
三人分の睨みを受けながら、おじさんはにんまり笑って。
杖を、体に突き刺した。
「っふ、ふひ・・・・・きひひひひひひひひひッ」
すぐにネフシュタンが、おじさんの体ごと取り付く。
一緒に杖を起動させたのか、次々現れるノイズ。
その全てが、おじさんに飛び込んでいってた。
「ノイズに取り込まれている?」
「逆だ、あいつがノイズを取り込もうとしてやがる!?」
すっかり赤いドロドロに覆われるおじさん。
未だに笑い声は聞こえるけど・・・・。
「ヒャハ、ヒヒャハハハハハハハハアアアアアッッッ!」
アカン。
アカン(確信)。
これ取り込もうとして逆に取り潰されてるパターン。
なんて一人で戦慄している間に、再び閃光。
思わず顔を覆った手を、退けてみれば。
―――――グルルルルルル
がぱりとあいた口から、呼吸と一緒によだれが落ちる。
いかにも狂暴な牙がずらりと並んでいて、わたしみたいな小娘は簡単に食われそうだった。
体に視線を落とせば、鋭い爪を供えた強靭な四肢。
顔に目を戻すと、ぶっとい尻尾が揺れているのが頭越しに見えた。
―――――ガアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!!
気だるさを殺して立ち上がれば、大気が咆哮で揺れるのが分かる。
・・・・・・こういう展開?
テーテーテーン!
テテテテテテテーン!!
おめでとう ! ▼
おじさん は ラスボス に しんか した !! ▼