チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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ヒロインはある種のブースター

響が、画面からいなくなった。

巨大な尻尾に対応出来なくて、叩きつけられて、建造物の中に消えた。

大丈夫だろうか、怪我はどれくらいだろうか。

・・・・・死んでは、いないだろうか。

 

「・・・・ッ」

 

不安が湧き出す。

僅かだったそれは、あっという間に胸を支配する。

――――どうしよう、どうしよう。

本当に死んじゃったら、どうしよう。

だって、あの子は。

何にも悪くないあの子は。

信じられる人達に出会えて、殺さなくてもいい人達に出会えて。

やっと、やっと。

何も心配せずに、ゆっくり休めるはずだったのに。

なのに、また。

戦いが、危険が、あの子を。

響を、痛めつけて、苦しめて。

なん、で。

何で、こんな。

どうしてみんな、響をいじめようとするのだろう。

だって、おかしい。

そうだ、おかしいじゃないか。

悲しいのも分かる、辛いのも分かる。

だけどそれを全部響の所為にするのは間違っている。

悲しみをぶつけようが無い当事者ならまだ我慢できるが、赤の他人となれば話は別。

そんな有害無害を判別できないくらいなら、黙って傍観される方がまだマシだった。

 

「・・・・・ひびき」

 

ああ、こんなこと考えている場合じゃない。

早く、早く、あの子の元へ。

 

「未来くん!?待て!どこに――――」

 

『痛い』と、『怖い』と。

声無く泣いているだろう。

愛しく優しい、あの子の元へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ます。

どのくらい寝てたんだろう。

動こうとして、動けなかった。

はっきりした目で、体を見てみる。

・・・・・何だか、とっても。

大変なことになってるううぅ~・・・・。

破片やら瓦礫やらが突き刺さってて、お茶の間どころか深夜放送でも流せない惨状だべ。

もう例の如く痛くないのが幸いだけど、関節やら何やらを邪魔して動きにくい。

 

「・・・・んっ・・・・と・・・・・」

 

まず脇腹の欠片に触って、抜き取る。

ああー、流れる血がもったいなーい。

痛みは感じなくとも、疲労やら貧血やらのダメージはちゃんと負うんだからねー!

ちくしょーめ!

なんて考えててもしょうがないので、次々抜いていく。

体感からして、一分に満たないくらい。

もしかしたら三十秒かも。

まあ、そんなに手間もかからず、目ぼしい欠片は取り除けた。

立ち上がってみる。

血が抜けまくった所為で、さっきよりも体が重い。

そのうえ取りきれなかった細々したやつが、動くたびにごわごわ違和感主張して・・・・。

ちゃんと取れるんだろうなぁ、これ?

 

「・・・・・ふう」

 

ため息一つ。

切り換えて見回してみる。

傍に目立つものがあって、滑らせた視線はすぐに止まった。

台座に掲げられている、黄金の剣。

どう見てもデュランダルです、本当に(ry

なんてボケとる場合やないですネ、ハイ。

・・・・そっか、今おじさんが使っているのはネフシュタンとソロモンの杖だけなのか。

原作だとここにあるデュランダルも加わるわけだけど。

そう考えると意外とイージーモード・・・・ってわけでもないか。

今のは忘れよう、うん。

でもどっちにしろ完全聖遺物を複数相手取るのに変わりはないよね。

もちろんシンフォギア(欠片ごとき)なんて、出力からまず差があるわけだし。

どうあがいても高難易度だ。

・・・・だけど。

ここにあるデュランダルを使えば、どうだろうか。

『無限』の特性を持っているだけあって、フォニックゲインは使い放題。

わたしを含めた三人分の限定解除なんてわけないだろう。

一つ問題があるとすれば、わたし自身の暴走だろうか。

いや、『かもしれない』可能性に過ぎないけど。

原作での立花響(わたし)は、このデュランダルを握るたび破壊衝動に晒された。

立花響(あの子)以上に侵食している、心の弱い立花響(わたし)が触れたらどうなるか。

・・・・・あんまり想像したくない。

だけど四の五の言ってられないのも事実でして・・・・。

被害を少なく抑えられるであろう現時点で、戦えるのはわたし達だけ。

・・・・ここで、負けたら。

きっと多くの人が傷つくだろう、最悪死ぬかもしれない。

もちろんその中には、未来だっているわけで。

だから本当は。

『やめる』だとか、『逃げる』だとかの選択肢は論外なわけで。

でも、怖い。

怖いんだ。

わたしがわたしでなくなることが、大事なものとそうでないものの区別がつかなくなることが。

何より、結果がどうなるのかが。

怖くて、怖くて、たまらない。

 

(だけど・・・・!)

 

何にも悪くない人達が、優しい人達が傷つくことこそ、何より間違っていることで、許せなくて。

・・・・・ああ、大好きなんだ。

日向に連れ出してくれた『みんな』が、大好きなんだ。

その為に、わたしがわたしでなくなって、味方に討たれることになっても。

『みんな』を、明日へ。

つなげることが出来たなら・・・・!!

 

「・・・・ッ」

 

恐怖を押し込めて、無理やり心を固めて。

その黄金の柄へ、手を伸ばす。

 

「――――響!」

 

伸ばそうとして、引き止められた。

振り向く。

未来がいる。

よっぽど一生懸命だったのか、肩で息をして、あちこち汚したり擦り剥いたりして。

・・・・どうやって来たんだろうって突っ込みは、多分野暮。

何より重要なのは。

せっかくの決心が、未来の登場で揺らいでしまったこと。

 

「・・・・みく」

 

もちろんヘタれている場合じゃない。

気付かれないように息を整えて、まっすぐ見つめる。

 

「もし、わたしがわたしじゃなくなったら、どうする?」

「響?」

「即答はナシだ。あの時とは違う、加減なんて出来ないかもしれない。今度こそ君は、わたしに殺されるかもしれない」

 

本当は、こんな困らせること言いたくないけど。

何か言わないと、何か言ってもらえないと。

今度こそ、逃げ出してしまいそうで。

 

「未来、どうする?」

 

対する未来は、初めは困惑していて。

それから少し俯いて考え始める。

すると、何を思ったのか。

いつかみたいな笑顔を浮かべて、歩み寄ってきて。

同じように、抱きしめてくれた。

 

「――――信じるよ」

 

耳元、囁かれる。

 

「頑張る響を、信じるよ」

 

腕の力が強くなる。

自分が汚れるのなんて、お構いなしに。

優しい声が、断言してくれた。

・・・・・嬉しい。

屍を踏みつける外道を、流れる血を傍観するだけの人でなしを。

何の躊躇いも無く、信じてくれることが。

嬉しくて、たまらない。

だから。

 

「・・・・・そっか」

 

お返しに抱き返してから、これが最後になるかもしれないと考えて。

ふと、思い出す。

少し前、未来にされたこと。

・・・・人の想いを受け止める度胸も、器量もない。

この間の『アレ』だって、なあなあで済ませられたらなんて思うような、ちょっと酷い人間だ。

でも、これで最期になるのなら。

せめて、想いを伝えてくれた君へ。

 

「ひび――――?」

 

これ以上何か言われて揺らいだら溜まったもんじゃないので、先手を打つ。

言いかけた唇を、遠慮なく塞ぐ。

 

「未来」

 

ぽかんと呆けた、ちょっと面白い顔へ。

多分、人生で一番の笑顔を向けながら。

 

「今まで、ありがとう」

 

今度こそ。

デュランダルを掴み、抜き放つ。


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