チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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続かないはずなのに、ネタが出てくる。
何故だ・・・・!?

※弓美ちゃんの名前を盛大に間違えててorz
報告ありがとうございます。


板場弓美と

――――『アニメ的なミステリアス』。

それが『板場弓美』の持つ『小日向未来』へのイメージだった。

邂逅は、学校が始まって間もない頃。

家庭の事情で入学が遅れたとか何とかで、編入生として紹介された時だった。

背中に届くほどの黒い髪、日本人にしては焼けた肌。

そして全身から醸し出す、一種の色気のようなオーラ。

他のクラスメイト達も、何となく近寄りがたい雰囲気を感じていたのだろう。

始めこそ未来の周囲に出来ていた人だかりは、日を追うごとに目に見えて減った。

別に彼女が嫌われているというわけではない。

ただ、なんというか。

下手に手を出せば、一瞬で崩れ落ちてしまうような。

そんな儚さを持ち合わせていた。

なお、オーラの正体については、帰宅した弓美がいつも通りアニメを嗜んでいたとき。

未来と似た雰囲気のキャラクターを見かけたことで察した。

『あ、アレ未亡人だ』と。

 

さて。

そんな『高嶺の花』とお近づきになってしまったのは、やはりあの時だ。

 

学校に慣れてきて、『アニソン同好会』を設立するという野望を抱き始めた頃。

外国人に道端で声をかけられたのだ。

中国系の出身らしいその人は、なれない英語を四苦八苦しながら発音して、どうにか何かを伝えようとしていた。

弓美も弓美で、相手が困っているのが目に見えていたため、意図を読み取ろうと必死に耳を傾けていたのだが。

いかんせん英語が聞き取りにくい。

二人そろって、困ったなとおろおろし始めたとき、

 

遇到什么困难了吗?(何かお困りですか?)

 

助け舟を出してくれたのが、通りかかった未来だったのだ。

流暢な母国語に安堵を覚えたらしい相手は、ものすごいスピードで何が知りたいのかをまくしたてた。

あんまりにも早いので、大丈夫だろうかと心配する弓美を他所に。

未来は的確に相槌を打ち、時折ジョークを交えながら、見事対応しきって見せたのだ。

 

「あの人、映画館への道を聞きたかったみたい」

 

去っていく外国人を見送りながら、何事もなかったかのように日本語を話す未来。

 

「・・・・アニメみたい」

「えっ?」

 

ワケありげな帰国子女。

溢れる未亡人オーラ。

そして今見せたバイリンガル。

まるでブラウン管の向こうからやってきたような彼女に対し、弓美は思わずそう言ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(――――思えばあれがきっかけだったのよねぇ)

 

ここ半月を思い出しながら弓美がくつろぐのは、未来が下宿しているアパート。

物が少なく、女子高生の部屋にしては聊か殺風景だが。

何だか未来に似合っているようで、不思議と悪いとは思わなかった。

 

「お待たせ弓美ちゃん」

「おかまいなくー」

 

用意を済ませた未来が、紅茶の入ったマグカップを運んでくる。

弓美が配膳を手伝うと、嬉しそうにはにかんだ。

――――あの日以来、ちょくちょく話をするようになった二人は、気付くと友人のような関係になっていた。

お昼然り、移動教室然り、休み時間然り。

何か余裕が出来ると、自然と二人がそろっていた。

割と遠慮なくものをいう弓美に、聞き上手の未来という組み合わせは、中々に相性が良かったのだ。

 

「そういえばさ」

「うん?」

 

今日もそんな『なんとなく』で始まった勉強会。

シャープペンを止めた弓美が、未来を見る。

 

「未来って海外行ってたって話だけど、どこに行ってたの?」

 

ちょっとした興味から湧いた、取りとめも無い質問。

 

「・・・・んー、何て言ったらいいのか」

「あー、もしかしてあんまり言えない感じ?」

「そうじゃなくて」

 

珍しく歯切れの悪い様子に身を乗り出せば、苦笑が返ってきた。

未来はすっかり温くなった紅茶を口にして、視線を落とす。

どこを見ているというわけではない、何かを思い出している様子だった。

 

「色んなところに行ったから、一概にここって言えないの」

「家族とあっちこっちしてたってこと?」

「ううん」

 

首を横に振られて、弓美はきょとんとなる。

未成年で海外と言われて、真っ先に思い浮かぶのは『親の海外転勤』だ。

だからてっきり、家族一緒だと思っていたのだが。

 

「じゃあ、誰と?」

 

疑問をぶつけると、未来は少し考え込む。

程なく、『弓美ちゃんならいいかな』と呟くのが聞こえた。

 

「友達と、実は家出してたの」

「えっ?・・・・・えぇッ!?」

 

ぎょっと、今度は身を引く。

いや、だって。

そんなアグレッシブな理由で海を渡るなんて、思っても見なかったからだ。

 

「正確には、あの子にわたしが付いてったんだけどね。中国にネパール、スペインにメキシコ・・・・」

 

指折り数えていくのは、国の数だけではないのだろう。

思い出が蘇ったのか、いつになく楽しそうだ。

 

「っていうか、パスポートとかは」

「持ってたと思う?」

 

つまり、不法入国。

開いた口が塞がらないとはこのことだろう。

ここまで聞いたところで、中々デンジャラスな話であることに気付いたのだが。

いつも以上に顔をほころばせている未来を見ると、何となく遮るのは憚られた。

それに、滅多に自分のことを話さない彼女の、貴重な思い出話。

今の弓美は、好奇心の方が強かった。

 

「すっごく大変だったの、わたしが熱出したり、響が、友達が大怪我したり」

 

だけど。

 

「親切にしてくれる人に出会えたり、綺麗な景色を見つけたり・・・・楽しかった・・・・そう、楽しかったの」

 

そう結論付ける顔は晴れやかで、道中にあったであろう苦労を偲ばせないものだった。

だからこそ、弓美は浮かんだ疑問を口にする。

 

「それあたしに話してよかったの?」

「え?」

「いや、だって・・・・」

 

意外にもきょとんとした未来に、何となく怖気づいてしまうが。

吐いた唾は飲み込めないので、続ける。

 

「友達、と思ってるけど、知り合ってまだ一月もないじゃん?そんな大事なこと、簡単に言ってよかったのかなって」

 

言っている途中で段々バツが悪くなってきて、視線が泳いでしまう。

胸の中で気まずさが渦巻いて、もやもやして、嫌な気分。

そんな心情に気付かない未来は、口元に手を当てて呑気に考える。

自分を取り巻く微妙な空気にいたたまれなくなった弓美が、無かったことにしようかと思い立った頃に納得したように頷く。

 

「多分、知って欲しかったんだと思う。友達の、響のことを、一人でも多くの人に」

 

そう言って、また頷く。

 

「無かったことにしたくないの。あの子がいたことを、全部否定させたくないの」

 

――――この話、中々『深そう』だぞ。

微妙な顔になった弓美は、胸中でそんな結論を出す。

 

「で、その友達は?ヒビキ、だっけ?どうしてんのかな」

 

あんまり突っ込んで地雷を踏み抜くのはごめんだったので、在り来たりな質問でもして終わらせようと思った。

部屋を見る限り、住んでいるのは未来一人。

一緒に海外を回るほど仲が良い友人が、訪ねてきている様子も見えなかった。

 

「・・・・さて、ね。今頃どうしているのか」

 

質問をぶつけられた未来は、途端に笑みを浮かべた。

自分自身を軽蔑するような、嘲るような表情。

いっそ綺麗なくらいの笑顔に、弓美は体を強張らせる。

 

「昔からそうなの、気付くとふらっといなくなって、みんなに散々心配かけさせて・・・・けど、最後にはちゃんと帰ってきてくれるの」

 

窓の外に、視線を滑らせる。

日没の近い街並みが、茜に染まっている。

 

「・・・・・うん、そうだよ・・・・きっと帰ってくるよ」

 

それっきり、未来は黙りこくってしまった。

目の前の友達から知れた、思っても見なかった事実の数々。

そのどれもが強烈過ぎて、弓美はもうおなかいっぱいだった。

お昼以外では紅茶しかいれていないはずのおなかをさすりながら、ふと思う。

 

(こんな可愛い子に、こんだけ心配させるなんて・・・・ヒビキって子は果報者ね)

 

何となく、紅茶を一口。

すっかり冷めたそれは、熱った頭によく効いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――へっちゅん!」

 

「あれ?寒くないハズなんだけどなぁ・・・・?」




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