チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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閑話:小ネタ2

『とある一日』

 

「――――ん」

 

AM6:00

早番がない日は、だいたいこれくらいに起きる。

カーテンから漏れる朝日に目を細めて、ふと視線を下に落とすと。

先に起きていたらしい未来と、目が合う。

 

「おはよう、響」

「・・・・おはよー」

 

温もりを分けてもらうように抱き合って、挨拶を交わす。

 

 

 

「おいしい?」

「うん」

 

AM7:00

身支度含め、朝食の準備が出来ている。

最近料理を学び始めた、未来お手製の朝ごはん。

味覚は失っているものの、いつも幸せそうに食べてくれるので。

未来もやりがいを感じている。

 

 

 

「今日は夕方頃には帰れるから、そっちはいつも通り?」

「うん、委員会もなかったはずだから」

 

AM7:45

響は学校に通っていないので、必然とこの時点で未来と別行動になる。

互いの帰る時間帯を確認しながら、窓や玄関をしっかり施錠。

 

「それじゃあ」

「「いってきまーす」」

 

ちょっと子供っぽくハイタッチを交わして、それぞれの職場や学び舎へ。

 

 

 

「おはよーございまーす」

「おはよう」

「響ちゃんおはよー」

 

AM7:57

バスに揺られて十分前後の港に停泊している、二課の仮設本部へ出勤。

すれ違う職員と挨拶を交わしつつ、ロッカーで制服に着替える。

そして了子からメディカルチェックを受けた後。

朝礼で連絡事項を聞いて、業務へ。

 

 

 

「――――響ちゃん、向田君のところに行ってくれる?頼んでいた資料が出来上がっているはずだから」

「はーい」

「戻ったら、このデータを日付が新しい順に並べておいて」

「分かりました」

 

AM9:00

響の仕事は、主に了子の助手。

データ整理を始めとした雑用がメインだが、最近は簡単な文書作成も任されるようになっている。

当然ノイズが出現すれば、そちらが優先だ。

 

 

 

「コーヒー飲む人ー」

「くださいなー」

 

AM10:45

ここでちょっと一息。

自販機横の休憩スペースで、了子や友里を始めとした女性職員とおしゃべり。

 

「いつも思うんですけど、了子さんの髪さらっさらですよね」

「あ、同感です。わたしなんて、ちょっとでも湿気ってるとすぐもっさりしちゃって」

「ふふ、秘訣は日頃のお手入れよん」

 

何気ない話を、時間の許す限り展開させていく。

そしてほどよいタイミングでそれぞれの持ち場に戻り、業務を再開するのだ。

 

 

 

「――――いただきます」

 

PM00:00

食堂にて昼食を取る。

今日のランチは、再び登場『未来お手製』のサンドイッチ。

たまごが焦げていたり、形が不ぞろいなのがまた何とも愛らしい。

食べ終われば、一休みしたり、一眠りしたり。

時間まで自由に過ごす。

 

 

 

「そぉいッ!!」

『――――エネミーオールクリア、お疲れ様』

 

PM2:00

この日は、艦内に備えてある戦闘シミュレーターのテスト。

最後のノイズを討ち取れば、了子のアナウンスと共にバーチャル映像が消える。

 

『で、何か不具合とかは無かったかしら?』

「やってみた感じでは、目立つようなのはありませんでした。感触も現実に近いですし、すっごくよくなっています」

『ふむふむ・・・・他は?』

「そうですね、もうちょっと上の難易度が欲しいです。ハード以上の・・・・『装者死すべし』、みたいなノリのやつ」

『物騒すぎる名前ね・・・・けど、検討はしておきましょう』

 

殺風景な中、通信越しに了子とやり取りを繰り返す。

なお後日、『装者死すべし(Diva Must Die)』こと『DMD』は採用されたそうな。

 

 

 

「お疲れ様でしたー」

「はーい、また明日」

「おつかれー」

 

PM6:00

早番や遅番で無い限り、この時間には勤務が終わる。

二課の場合、ここへ更にノイズの出現も加わるが。

幸いなことに、今日の出動は無し。

何事もなく定時で上がることができた。

同じく帰宅する職員や、遅番の人々に挨拶しながら。

ロッカーで通勤服に着替え、帰路へ。

 

 

 

「たっだいまー」

「おかえりなさい」

 

PM6:15

帰宅すれば、笑顔の未来が出迎えてくれた。

ドアを閉めつつ、ハグを受け入れる。

 

「今日のごはんは?」

「カレーだよ」

「わぁお、やったね」

 

心から喜びを口にして、部屋の中へ。

ごはんを食べたり、未来と駄弁ったりして。

明日への英気を養う。

 

 

 

PM9:00

この頃にはそろって布団に入っている。

響の腕の中、未来は甘えるように身を寄せていた。

 

「それじゃあ」

「うん」

 

唇を浅く重ね、互いを抱きしめて。

 

「「――――おやすみなさい」」

 

――――これが、立花響の現在の一日。

日向へ戻って来た日陰者の。

眩しくてあったかい、愛しい日常。

 

 

 

 

 

 

 

 

『海の向こうへ』

 

「海外オファー来てたんですか?」

「ああ、春先にはすでに」

 

ある日の休憩スペース。

本部へ足を運んでいた翼からオファーの話を聞き、響は目を見開く。

 

「ちなみにお返事は?」

「断りはしたのだが、相手方も中々熱心でな・・・・」

 

加えてこのごろは、響やクリスといった新戦力が加わったこともあり。

味方に余裕が出来たこともあって。

つい先日、ころっと折れてしまったらしい。

 

「すまない、特にお前は体のこともあると言うに」

「わたしは別にいいんですよ。それよりもスクープですね!『風鳴翼、海外デビュー!』」

 

申し訳なさそうな翼を元気付けるように、響は人差し指を突き上げて笑った。

 

「それに翼さんって、お仕事抜きに歌うの大好きみたいですし、別に悪くないと思います」

「・・・・は?」

「へ?」

 

思っても見なかった言葉に、翼は間抜けな声。

響も響で気付いていないのが意外だったのか、同じく気の抜けた顔をする。

 

「あれ?違うんですか?営業スマイルって表情でもないし、てっきり・・・・」

「ああ、いや。違うんだ、ただ・・・・」

 

束の間黙りこくる翼。

やがて神妙な面持ちで近寄る。

 

「・・・・そんなに楽しそうなのか?」

「そりゃあ、もう」

「そう、か・・・・」

 

別に否定するようなことでもないので、響が素直に頷けば。

翼は何か考え込んで、また黙ってしまった。

 

「・・・・なんと言うか、個人的な意見ですけど」

 

そんな彼女へ、響はぽつぽつ語りだす。

 

「あのライブで入院してたとき、楽しみは翼さんの曲だったんです。奏さんを失っても、歌を届けているのがかっこいいなって思って」

 

翼の視線を受けながら、続ける。

 

「だから当時の目標は、リハビリ頑張って日常に戻って、また翼さんの歌を聞くことでした」

 

退院後どうなったかは、あえて語らなかったし。

翼も何も追及しなかった。

 

「えっと、だから。翼さんの歌は、ただ敵を倒すだけじゃなくて、誰かを元気にする力も持っているってことです」

「・・・・ッ」

 

その言葉に、今度は面食らった顔。

何か天啓を受けたような、澄み渡った表情をした。

 

「だから、そんな翼さんが海外に羽ばたいたら、きっとすっごいことになるんだろうなって思うんですよ」

 

そんな先輩の変化を知ってか知らずか。

響は人懐こく笑いながら、そう締めくくったのだった。

一方の翼は、また少し考え込んでから。

 

「・・・・立花は、私が海外にいくのに賛成か?」

「一ファンとしては、実にめでたいことだと思います!」

 

問いかけに対し、響はニコニコ笑って答えた。

 

「・・・・そうか」

「そうですとも」

 

その返事を聞いた翼は、どこか吹っ切れた顔で微笑んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『プレゼント』

 

「響くん!誕生日おめでとう!」

 

夕方、二課本部。

帰路についていた響へ、弦十郎は笑顔と共にビニール袋を差し出す。

 

「中は桃だ、傷がつかないよう注意してくれ」

「おお、ありがとうございます」

 

桃と聞いて、心做し慎重に受け取った響は。

嬉しそうにはにかんだ。

 

「響さん、僕と翼さんからも」

 

隣に控えていた緒川も、『温州みかん』とシールが貼られた段ボールをくれた。

 

「わぁ、しばらくおやつに困りませんなぁ。ありがとーございます!」

 

ビニールを乗せた段ボールを抱え、得した気分になる響。

 

「あ、響ちゃん。おめでとー」

「これ、俺と友里さんからね」

「うっわ、ふわっふわ!どーもー!」

 

それから廊下を歩いていると、今度は友里・藤尭のオペレーターコンビが。

鶴のキーホルダーと、亀のぬいぐるみを。

手荷物の整理を手伝いながら手渡してくれた。

 

「ああ、よかった。まだいたわね」

 

そこへ了子もやってきて、響の手に袋をかける。

 

「誕生日おめでとう、千歳飴よ。クリスからは桃味ののど飴ね」

「おぉー!了子さんの千歳飴ってご利益ありそう!クリスちゃんにもよろしく言っといてください!」

 

本人が数千年も生きているので、なお更である。

のど飴も、歌って喉を使用する身としては大変ありがたい。

誕生日とは言え、今日はもらい物が多いなと考えたところで。

はたと気付いたことがあった。

桃。

みかん。

鶴。

亀。

千歳飴。

ここまでそろえば、嫌でも気付く。

 

「・・・・・そんなにころっと逝きそうなんですかね、わたし」

 

呟くように問いかけると、了子達はさっと目を逸らし。

その気付きが的中していることを、雄弁に語ったのだった。




これで今回分のストックはおしまいです。
また次の書き溜めをお待ちくださいませ。

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