チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

37 / 199
今回のストックはここまでです。

ところで『翳り裂く閃光』におけるグレビッキーのパーカー姿が、拙作ルナアタック編ラストのビッキーイメージまんまでしてね?←


ダイナミックお邪魔します

「心当たりはあるか?了子くん」

「疑われてもしょうがないのは自覚しているけど、無いわね」

 

二課、仮設本部。

負傷したウェル博士を、在日米軍の医療班に任せた響達が。

帰還用のヘリに乗り込み、飛び立ったのを見送りながら。

弦十郎は了子へ、岩国基地襲撃の下手人と思しき青年について問う。

対する了子は、右手を上げながら首を横に振った。

その上で、『でも』と続ける。

 

「前に米国から送られてきた情報によると、F.I.S.以外にもノイズについて調べていた秘密結社がいたらしいの」

「本当か?」

「ええ、かなりマッドな技術者集団だったって話だけど」

 

了子は一旦区切り、少し声をすごめて。

 

「そこで行われていた実験の一つに、『人とノイズの融合』があったそうよ」

「むぅ・・・・」

 

現れた青年が、ノイズの反応を色濃く発していたこともあり、弦十郎は低く唸る。

藤尭を始めとしたオペレーター達も、息を呑んでいるのが分かった。

 

「正確には、人間を弄くってノイズの特性を持たせようとしたものらしいけど。どちらにせよ正気の沙汰じゃない」

「彼がその成功例である可能性も高い、ということか」

「考え無しに否定するのは危険ね」

 

肩をすくめた了子を横目に、弦十郎は考える。

先ほど了子が挙げたF.I.S.は、彼女自身が関わっていたこともあって、三ヶ月前の交渉対象に入っていた。

『F.I.S.』。

フィーネとして目覚めた了子が、自らの『器』となる条件である、『フィーネの遺伝子を継ぐ子ども達』を集める為に。

米国と手を組んで設立した組織。

了子が没し、新たな『器』が現れるまでの間、シンフォギアやLiNKERを中心とした異端技術を。

子ども達をモルモットとして実験を繰り返していた。

現在は『ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ』を中心としたメンバーにより、収監されていた子ども達の養子先を探しているはずだ。

既にシンフォギアというノイズへの対抗手段を持っていた彼らとしては、貴重な資源であり、『器』である彼らを蔑ろには出来なかったであろうことを考えると。

存在そのものが変質するほど弄くるというのは、考えにくかった。

それは、設立から十年近く経っているはずの組織において、子供の死亡例が極端に少ないことが裏付けている。

実際に子どもを実験動物扱いしていた事実を見れば、十分な根拠だ。

 

(F.I.S.と言えば・・・・)

 

ヒートアップしそうな頭を切り替え、表の仕事でここにいない姪っ子を思い出す。

確か今日コラボする相手が、関係者だったはずだ。

名前は、そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「―――――はい、はい」

 

『QUEEN of MUSIC』。

日本や米国を始めとした複数の国が、共同で開催する音楽の祭典。

メインイベントである、『日米の歌姫、夢のコラボ』を控えた翼の隣で。

緒川は二課からの通信を受け取っている。

 

「では、翼さんにも・・・・」

『いや、今はやめておけ。状況を知れば、今日のライブを放り出しかねん』

 

ソロモンの杖移送作戦の顛末。

外れて欲しかった予想通り、ただで終わらなかったこの事実を伝えてしまえば。

防人としての誇りを持つ翼は、彼女の歌を心待ちにしている人々を放り出しかねない。

もちろん歌姫の役目を蔑ろにしているわけではなく、単純に優先度が高いのだ。

今日はそんな姪っ子の晴れ舞台。

弦十郎は彼女のファン達の為にも、緒川に待ったをかけたのだった。

 

「分かりました、では」

「――――司令からは、何と?」

 

通信が終わったのを見計らい、翼が話しかけてくる。

 

「いえ、今夜のライブを全うするようにと」

 

緒川は何食わぬ顔でメガネを外しつつ、さらりと誤魔化したが。

対する翼はため息を零すと、立ち上がって指を突きつけた。

 

「メガネを外したということは、マネージャーモードの緒川さんではないと言うことです」

 

普段はどこか抜けている彼女のなかなか鋭い発言に、緒川は思わず身を引く。

 

「自分の癖をきちんと把握していないと、ここぞという時に足元を――――」

 

信頼からの心配故に、ちょっとしたお小言を続けようとしたときだった。

 

「翼さん!お時間です!」

「っ、はーい!」

 

タイミング良く(悪く?)運営スタッフから声がかかってしまい、強制終了となってしまった。

 

「傷ついた人々の心を癒すのもまた、風鳴翼のお仕事ですよ」

 

まだ不満げな翼の視線を、緒川はにこやかに受け流すのみ。

やがて観念した翼は、もう一度ため息をついた。

 

「不承不承ながら、了承しましょう」

「はい、頑張ってくださいね」

 

会話が終われば、『日本の歌姫』に切り替わる。

そんな彼女の背中を、緒川が笑顔で見守った。

 

「お待たせしてしまったらしいな」

「――――いいえ、気にするほどじゃないわ」

 

舞台袖。

待機スペースには既に先客がいた。

今回翼がコラボする、米国の歌姫『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』。

『黒』と『和』が目立つ翼とは対照的に、『白』と『洋』が印象的な衣装を着ていた。

 

「けれど、のんびりしている時でもない」

「ああ、存分にやらせてもらうとしましょう」

 

スタッフの案内に従い、四つの支柱に囲まれた一角へ乗る。

緊張の中、スタッフの一人がスイッチを押す。

かかる音楽、せり上がる奈落。

薄暗い舞台裏から、煌びやかなステージへ。

 

「見せてもらうわよッ!戦場(いくさば)に冴える、抜き身の貴女をッ!!」

 

万雷の歓声に迎えられながら、マリアは力強く声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「あっはは、呑気なもんねぇ」

 

眼下には、ライブ会場。

ヒートアップしきった観客達が、それぞれの『推し』へありったけの声援を送っている。

振り回されるサイリウムの光は、煌びやかな会場に幻想的なアクセントを加えていた。

 

「やったことをたったの二年で忘れた、薄情極まりないクソの分際でさぁ?」

 

ぎらついた目は、そんな煌びやか極まりない光景を睨みつけている。

 

「いい加減自覚させないと。自分たちがどれほど醜悪で、愚かな存在かを」

 

立ち上がる。

そろそろ頃合だ。

 

「それじゃあ、『裁定』を始めましょう」

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「――――みんな!ありがとう!」

 

歌いきった高揚そのまま、翼は声を張り上げる。

 

「私はいつも、みんなから勇気をもらっている!だから今度は!私の歌で、みんなに少しでも勇気を分けられたらと思う!」

 

少し前に、海外デビューを公言したからだろう。

記者会見で、ちょっといじらしい顔で告げられた『我が侭』を知るファン達は、負けないくらいに声を張り上げてサイリウムを振った。

特に『ツヴァイウィング時代』から見守ってきた人々は、ちょっと心配になるくらいのテンションだ。

 

「私の歌を、世界中にくれてあげるッ!」

 

歓声が落ち着く頃合を見計らい、今度はマリアがマイクを握る。

 

「振り向かない!全力疾走だ!ついてこれる奴だけ、ついてこいッ!!」

 

不敵な笑顔に、大胆な台詞。

全世界に向け、臆することなく語りかける。

そんな姿に被虐心をくすぐられたのか、マリアファンのテンションもまた、翼ファンに負けず劣らずだった。

 

「そして今日と言う日に、日本のすばらしいトップアーティストに出会えたことに、感謝を」

「こちらこそ」

 

それから少し穏やかに振り向いたマリアは、翼へ手を差し出した。

翼もまた躊躇い無く握り返したことで、会場のボルテージは最大限に高まる。

 

「私達で、伝えていきましょう。歌の力の素晴らしさを」

「もちろん、歌で世界を繋げよう」

 

にこやかに言葉を交わす二人。

マイクは音を拾わなかったようだったが、彼女達の表情から何となく察したファン達は。

また声を張り上げ、サイリウムを振り回して歓声を上げたのだった。

上げた、ところで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バァーッカみたい。音の羅列と薄っぺらい言葉で、人間が変わるもんですか」

 

 

 

 

 

 

 

「――――ッ!?」

 

水を注す声が、響いたと思ったら。

会場中で翻る、翡翠の閃光。

それが何か分かっていたから、翼も()()()()目を見開いて。

瞬間、湧き上がるように悲鳴を上げたオーディエンスの合間にいる、ノイズ達を凝視した。

 

「あはは、楽しく盛り上がってた気分が、恐怖で急降下ってとこ?」

 

呆然としている二人から、少し離れた場所。

同じステージ上に、誰かが降り立った。

 

「いい気味」

「ッ誰だ!?」

 

翼は思わず剣型のマイクを突きつけて、睨みを利かせる。

対する乱入者は、阿鼻叫喚の会場を楽しそうに見渡してから目を向けた。

 

「あたし?リブラ」

「リブラ・・・・天秤?」

 

単語を鸚鵡返しに確認する翼へ、面白そうにいやらしく笑う。

そして徐に手を振った。

手元に光が煌いたと思うと、宙を滑る指の動きに合わせて変化。

次の瞬間には、シンプルなデザインの棍が現れる。

 

「――――全世界へ告発するッ!!」

 

手にした棍を威厳たっぷりにつきたて、開いた片手を広げるリブラ。

 

「この日本には、未だ裁かれぬ罪人が、一億余りも存在することをッ!!」

「――――な」

 

翼も、悲鳴を上げていたオーディエンスも絶句する。

一億余り、即ち、日本そのものが『罪人』であると言い切ったも同然なのだから。

 

「我ら、『執行者団』(パニッシャーズ)ッ!!その全てに裁きを下すことを、ここに宣言するッ!!!!」

 

それが当然であるかのように、真実だと告げるように。

手にした得物を、まるで旗の様に掲げたリブラは。

モニターを通じて、文字通り世界中へ。

声高々に断言したのだった。




「フロンティア事変」と見せかけたオリジナルストーリー。
始まります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。