チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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ネットが復活イヤッフウウウウウウウウ!!!


一難去ってまた一難

「いきなり出てきて、物騒な話ね。何のつもり?」

 

誰もが硬直する中、真っ先に口を開いたのはマリア。

剣型マイクの切っ先を向けながら、怪訝な顔でリブラを睨みつける。

 

「つもりもどもりもないわよ。言ったまま、そのままの意味」

「ッだからとて、この場でやることか!?オーディエンスまで巻き込んで・・・・!」

 

『罪人』だと敵対宣言を受け、元から頭に来ていたのだろう。

辛抱たまらんと踏み出した翼が、片手を広げてオーディエンスを指しながら抗議をすると。

 

「――――あんたがそれを言う?」

 

ぎらりと、鋭利になる瞳。

一瞬で表情が削ぎ落ちた顔に、じんわり狂気的な笑みが浮かぶ。

 

「二年前、一万人と相棒一人をおっ死なせた、あんたがそれを言う?」

「――――」

 

二年前。

心当たりなんて一つしかない。

目を大きく見開いた翼の脳裏に、トラウマとも言うべき記憶がなだれ込む。

何度斬っても届かなかった、何度屠っても至らなかった。

それは偏に、剣たるこの身が――――

 

「それはこの子も同じでしょう?」

 

肩を叩かれる。

マリアだ。

すれ違い様優しげに見下ろした彼女は、凛と前を見据える。

 

「『ツヴァイウィングライブ事件』、この日本の誰も彼もが痛みを覚えた出来事だと聞いているわ。当事者である彼女だって、例外と言いがたいんじゃないかしら?」

「あっはは!あんたもよく言うわ」

 

毅然とした反論すら、リブラは嘲笑して切り捨てる。

 

「今まさにこの場を利用してるくせにさ」

「・・・・何の話を?」

「大事なトレーラーはだいじょーぶかなー?」

 

マリアが問いかけようとしたその時。

遠くで、爆発音。

振り向くと、真っ黒な煙が上がり始めたのが見えた。

何事かと身構える翼の隣で、今度はマリアの顔が蒼白になる。

 

「どれだけ大儀を掲げようと、誰かに犠牲を強いた時点であんたも同罪。我々が手を下すべき罪人よ」

 

リブラは喉を鳴らして嗤うと、また棍を振るった。

それを合図に、上空を覆いつくすノイズの群れ。

 

「さあ、茶番も何もかもここまで!」

 

どこか狂気的な笑みで、リブラはまるで踊るように一回転する。

 

「まずはこの会場の犠牲を以ってして、裁きの前哨といたしましょうッ!!」

 

満ち満ちる悲鳴の数々。

その叫喚に感化されてか、次々突撃体勢を取る飛行型。

 

「――――ッ!!!」

『ダメです!翼さん!翼さんッ!!』

 

もう辛抱溜まらんと、翼は胸元のギアを引っつかんで。

聖詠を、唱えようとして、

 

「Granzizel bilfen gungnir zizzl」

 

遮るように聞こえる、歌。

そのメロディーと音程に覚えがあったからこそ、翼は弾かれたように隣を見て。

 

「ッはあああああ!」

「おおおおおおッ!」

 

上空の群れは次の瞬間、レーザーの濁流に蹂躙された。

同時に地上のノイズも、橙の旋風が駆逐していく。

完全に不意を撃たれ、抵抗叶わず炭になるノイズ達。

その残骸はオーディエンスに降り注いだが、誰一人として死ぬことはなかった。

 

「――――っは」

 

いつの間にか止めていた息を吐き出して、翼は前を見る。

翻るマントの隣に、ちょうど見慣れたマフラーが着地したところだった。

 

「・・・・だいじょーぶなんです?全世界生中継ですけど」

「人命は躊躇わない主義なの」

「さいですかー」

 

『黒いガングニール』を携えたマリアへ、響は何故か気楽な様子で話しかけていた。

対するマリアも、まるで知己に話すような口調。

一瞬引っ掛かりを覚えた翼だったが、同時にこれが好機だと判断する。

 

「みんな!今のうちにッ!慌てず!焦らず!会場の外へ!」

 

会場に向け声を張り上げれば、降りかかった炭に悪戦苦闘していた観客達ははっと我に帰る。

すぐさま運営スタッフや出演者達が協力しあい、駆け足になりがちな観客達を避難させる。

 

「――――あたしらも行こう、響ならきっと大丈夫」

「・・・・うん」

 

それは、未来達がいるVIPルームも例外ではない。

弓美に促され、未来は重い腰を上げる。

部屋を出る直前、もう一度振り返った。

 

「・・・・響」

 

ステージ上、闘志を滲ませて立つ響を見つめてから。

後ろ髪を引かれるように踵を返した。

 

「ッちょっとアヴェンジャー!?オーディエンスが逃げるわよ!?」

《イヤ今手が、ってわっちゃぁ!?尻に火ィッ!!》

 

リブラにとっては芳しくない状況のようで、どこかへ怒鳴るように話しかける。

だが直後の表情から、相手方の状況は何となく読み取れた。

そんな中、響はふと、思い出したように相槌を打つ。

 

「そうそう、お仲間はみんな無事ですよ。今味方が確認しました」

「・・・・そう、ありがと」

「いーえー」

 

響の報告を聞いた途端、マリアの雰囲気から剣呑さが失せた。

先ほどリブラが臭わせた『仲間』とやらは、よっぽど大切な人々らしい。

と、ここで会話が一区切りしたのか、響は半歩下がって翼に耳打ちしてくる。

 

「申し訳ないですけど、中継切れるまでは大人しくしててくださいな。アレはわたしらでどーにかするんで」

「ああ・・・・後で聞かせてもらうからな、色々と」

 

響の進言に、翼は一度頷きはしたものの。

すぐに目を細めて、マリアを見やりながら告げる。

対する響は肩をすくめ、『おお、怖い怖い』とおどけて見せてから。

改めて目の前のリブラを見据えた。

 

「・・・・あなたは、そちらにつくのね」

「つくも何も、これがお仕事だからね」

 

どこか達観した様子で投げられた言葉に、響はきょとんと答える。

まるで味方になってくれると期待していたような物言いに、引っ掛かりを覚えたようだ。

 

「君こそやんちゃはほどほどにしないと、痛い目見るよ?」

「それこそ冗談、ここで止まるわけには行かないのよ・・・・!」

 

棍を取り回して、構える。

刃の無い武器に関わらず、ひりつく殺意を感じた。

目の前で、圧がぶわりと膨れ上がる。

強く踏み込んで肉薄してきたリブラ。

飛び出して応戦する響とは対照的に、マリアは大きく飛びのいて翼の傍へ。

棍と拳がぶつかった衝撃から、マントを靡かせて自身と翼を守る。

 

「よりにもよってそっちに着くと言うなら、いくら貴女でも容赦しないッ!!」

「『加減して』ってお願いしてもいないんだけどそれは」

 

突きを弾き飛ばし、払いを飛びのく。

マフラーをなびかせ、軽業師のように動き回る響。

あと一歩が足りないものの、リブラはその動きに確実について来ている。

 

「こんなパフォーマンスして、何が目的なのさ?」

「決まっているでしょう!復讐よッ!!」」

 

渾身の突き、手甲で受け止める。

ギリギリと迫り合わせながら響が問えば、歯を剥いたリブラは怒鳴りつけた。

 

「貴女も知らないとは言わせないッ!どうして連中をのさばらせるのッ!?」

「・・・・ッ」

 

どこか悲痛な想いを伴った声に、響が顔をしかめたときだった。

 

「中継が・・・・!?」

 

翼のそんな声が聞こえる。

響が横目で確認してみれば、次々暗転するモニター達。

 

「遮断されている!?そんな・・・・ッ!」

 

事態に気付いたリブラも、迫り合いを切り上げて見渡す。

すると、

 

「ジャッジマン・・・・!?」

 

すっかり真っ黒になったモニターに愕然とする彼女へ、誰かが話しかけてきたようだ。

突然明後日を見たリブラは、人名らしきものを口にする。

 

「そんな、仇が目の前にいるのにッ・・・・!」

 

奥歯を食いしばったリブラは、翼を射殺さんばかりに睨みつける。

だが、

 

《人目が無くなったと言うことは、彼女達も遠慮しなくなるということだ。悪いことは言わん、退け》

「・・・・~~~ッ」

 

何か決め手となることを言われたらしい。

響達には、やり取りは全く分からなかったが。

リブラの顔にあふれ出る、悔しさだけは読み取ることが出来た。

 

「・・・・次は仕留める、精々首を洗っておくことね」

 

やがて実に忌々しそうに吐き捨てると、言い終えると同時に背後が歪む。

岩国基地を襲った青年も飛び込んだ、サイケなカラーリングの異空間。

リブラは終始翼を睨みつけながら、同じように身を躍らせた。

 

「――――いなくなりましたね」

「ええ」

 

束の間感覚を尖らせていた響は、息を吐き出しながら構えを解く。

マリアもまた同じように警戒を半分解きながら、姿勢を楽にした。

と、

 

「それにしても翼さんファインプレーです!ドンパチにオーディエンス巻き込まずに済みましたッ!」

「言うな、今は自分が不甲斐なくて仕方が無い」

 

軽くなった空気の中、響は嘘のように笑顔を弾けさせて。

親指を両方立てながらおどけてみせる。

対する翼は暗い顔のまま、首を横に振るだけだった。

 

「まぁーたまたぁ!適材適所!防人はノイズを倒すだけじゃないはずですよぅ!」

「そうね、命を明日に繋げる事もまた、守護者の務めのはずよ」

 

そんな先輩を元気付けるように、響は井戸端会議さながらのテンションで手を上下させる。

マリアもまた、響の言葉に頷きながら翼へ笑いかけた。

 

「・・・・そう、だな。今はそれで耐えなければ」

 

二人掛かりでフォローされたとあっては、これ以上の謙遜は無礼と判断したようだ。

翼は観念したように、乾いた笑みを浮かべた。

 

「だが、不甲斐なさと同じくらいに気がかりもある」

「うぇっ?」

 

しかしすぐに消し去ると、今度は響へ怪訝な目を向ける。

 

「お前、知っていたのか?」

「え、えーっと、そのですね・・・・・ふ、ふひゅー・・・・」

 

マリアへ一瞥向けてから、改めて響を凝視する翼。

響は口ごもって、ばつの悪そうに口笛を吹いて。

誤魔化そうとした、その時。

響の背後、降り立つ影二つ。

薄紅と翡翠の刃は、唸りを上げて襲い掛かり。

 

「ッ立花!!」

 

翼の警告と、響が振り返るのはほぼ同時。

直後、交差した手甲に刃がぶち当たる。

火花が照らし出す顔は、意外とあどけない二人の少女。

 

「調!?切歌!?」

「こ、のぉッ!」

 

驚愕したマリアが、二人の名前らしきものを呼べば。

響は渾身の力で彼女等を弾き飛ばした。

大きく飛びのいた二人は、血気迫る形相で響を睨みつける。

 

「おい!大丈夫か!?」

 

二人を挟んだ向こう側に、クリスが駆けつけたのが見えた。

 

「止めないで、マリア!」

「ウチら、この日をずっと待っていたんデスッ!だからッ!」

 

大鎌が握り締められる、丸鋸が唸りを上げて回転する。

 

「お前だけは、絶対に仕留めてやるデス・・・・!」

「あの日の、仇・・・・!」

 

響以外視界に映っていないらしい二人は、わなわな震えだして。

 

「――――マリアの!仇ッッッ!!!!!」

 

轟、と咆えると同時に。

感情のまま飛び掛る。


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