チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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またたくさんのご反応ありがとうございます。
みなさんの考察は、にやにやしながら拝見しておりますww


おっはなーししーましょっ

―――――話は、日米のルナアタック関連の交渉が終わった直後に遡る。

お上のやらかし云々を抜きにしても、月が欠けるなんて一大事を楽観できるはずもなく。

国際宇宙開発機構の面々は、欠けた時点からの観測を既に始めていた。

そして案の定、月の軌道データに異常な数値を発見。

最新機器や偉い学者さん達が計算して、『年内に地球に落下する』という結論を導き出し。

大統領を始めとした政府上層部へ報告もされた。

 

問題はここからである。

 

ルナアタックにより信頼失墜の危機に陥っているアメちゃんは、原作のように隠蔽なんてことはせず。

各国の有識者に知恵と助力を求めようと連絡を飛ばした。

ところがだ。

どういうわけか、『月の落下』や『月の軌道』に関する内容のメールを送ろうとすると、エラーが表示されるようになった。

あるいは送ることが出来ても相手側に正しく表示されず、『なんかバグったの?』と聞かれる始末。

何度試みても失敗するのを見て、流石のアメちゃんも誰かの作為があることを察した。

ともなれば、電話なんかも盗聴の危険があるため使えない。

ならばいっそアナログでと、自国のエージェントに文書を持たせて派遣し。

世界に危機が訪れていることを、何とか知らせようとした。

結果は、失敗。

送り出した全てのエージェントが、死亡ないし行方不明となってしまった。

いよいよもって他国に頼れなくなったアメちゃんは、最終手段として自力で解決することを決断する。

そして白羽の矢が立ったのが、異端技術の権威であり、当時F.I.S.のレセプターチルドレンの養子先を探して回っていた『ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ』教授と。

体が不自由な彼女を補助するために残っていたマリアさん、それから調ちゃんと切歌ちゃんだった。

ついでに、聖遺物の研究を続けてたウェル博士。

事情を聞いた皆さんは、レセプターチルドレンの養子先選出と保護を条件に。

政府からの依頼を受けたのである。

 

 

 

 

 

と、言うのが。

保護されたマリアさん一派が話してくれた事情だ。

 

 

 

 

 

 

「――――敵が何者かつかめていない以上、下手に他者を頼るわけには行きませんでした」

 

二課本部のミーティングスペース。

語りを区切ったナスターシャ教授は、目を伏せて重々しく呟く。

傍に控えているマリアさんは、それを気遣わしげに見ていた。

ちなみに調ちゃんと切歌ちゃんは、拘束されるわけでもなく普通に座っている。

わたしが口利きしたって言うのもあるけど、ギアを持たない(念のためにマリアさんの含めて没収中)小娘二人くらい、OTONA達の敵じゃないので。

二人もそれを分かっているのか、今は大人しい。

・・・・代わりにすんごく睨まれているけど。

 

「では、移送作戦でノイズを操っていたのも・・・・?」

「ソロモンの杖の使用を許可していたからです。必要とあらばノイズを戦力として利用することも」

 

弦十郎さんの問いにも、毅然と答えているナスターシャ教授。

こういう女性(ひと)は、ちょっと憧れる。

 

「その割に、人員の死亡者が少ないのは?」

「杖を使用していたドクターの方針です。本人は『制限(しばり)がある方がやりがいがある』と、中々乗り気でした」

 

そうそう。

この世界のウェル博士は、原作と比べるとちょっといい人っぽい。

話を聞く限り、英雄志望なのに変わりはないみたいだけど。

『飽くなき理想を抱きッ!不可能を実現してこその英雄だッ!』とかなんとかのたまっていたそうで。

進んで犠牲を出すようなやり方は、あまり好まないらしい。

実際移送作戦における人員の死亡数も、両手で足りるくらいの数。

むしろ機関部を始めとした、車両のダメージの方が大きかった。

・・・・いや、後者はわたしとクリスちゃんがやらかしたのもあるんだけど。

で、今は医療施設にいる博士曰く『岩国でも上手い具合に施設だけ破壊しようとしたってのに!あのヤロウ!』ということで。

序盤はともかく、途中からはあのヤンキーさんがやっていたことなんだそうな。

 

「あの『リブラ』という少女が口にしていた、『パニッシャーズ』という組織名。そして、『アヴェンジャー』と『ジャッジマン』・・・・」

「月の落下を隠蔽しようとする動きと無関係とは思えない。そういうことね?」

「そのとおりです」

 

『パニッシャー』。

確か英語で『執行者』っていう意味の言葉なんだっけ。

それから、メンバー名らしき『アヴェンジャー』と『ジャッジマン』という言葉。

少なくとも後一人、仲間がいるということだろう。

んーむむむ、これはもしかしなくても原作乖離。

っていうか、ほぼオリジナルストーリーってくらいとんでもな事態になっている。

 

「『虎の子』たる『ネフィリム』を奪われずに済んだのは、もっけの幸いでしたが・・・・」

「だからとて、ソロモンの杖を野放しにしていいわけではない」

 

そう、情けなさそうに俯くナスターシャ教授とマリアさん。

二人の言うとおり、芳しくない状況なのは確かだ。

調ちゃんと切歌ちゃんも、この時ばかりは一緒にしょんぼりしてた。

ちょっと可愛いかも。

 

「これからはどうするつもりで?」

 

弦十郎さんが問いかけると、教授は少し考え込む。

黙っている中、マリアさんと、調ちゃん、切歌ちゃんを見やる。

それからまた目を伏せて、もう少し考えてから。

 

「・・・・・こうやってそちらに明かされた以上、このまま別行動というわけにはいかないでしょう」

「ま、事実だけみたら移送作戦と岩国基地襲撃の関係者だものね」

 

『逃がすわけにはいかない』と了子さんが改めて言うと、関係者だからか。

マリアさんはバツが悪そうに唇を噛んでいた。

いや、あんたがやったワケじゃないでしょうに。

 

「では、これからはご協力いただけるのですね?」

「この子達の手を、汚さずに済むのなら」

 

弦十郎さんの確認に、強く頷くナスターシャ教授。

・・・・F.I.S.お仲間ルートか。

これはこれでいいんじゃないかなー。

 

「お前達もいいか?」

 

オラ、わくわくすっぞ!なんて考えていると、話がわたし達装者に振られた。

いいも何も・・・・。

 

「トップが決めたことなら異存はありませんよ」

「私も同じく、共闘に異存はありません」

「ま、変に動き回られるよりはマシか」

 

良く考えても、特にデメリットは無いように思えるので頷いておく。

翼さんやクリスちゃんも、似たような意見だった。

 

「けど」

 

けれどもここで、クリスちゃんが視線を滑らせる。

その先には、さっきドンパチしたばかりのきりしらちゃんがいた。

 

「そいつらはどうにかしとくべきなんじゃねぇか?フレンドリファイアは洒落になんねぇぞ?」

「・・・・ッ」

 

クリスちゃんに親指で指された二人は、思い出したようにまたこっちを睨み始める。

おお、怖い怖い。

でもクリスちゃんの言うことも一理ある。

・・・・・ぶっちゃけちゃうなら。

わたしはマリアさんに限らず、これまでたくさんの人を殺したり傷つけたりしてきたわけだから。

別に二人に殺されてもそれはそれでしょうがないって思うし、怨もうとも思わない。

けど、今はダメだ。

新たな脅威が出てきて、未来含めた大好きな人達が脅かされている今は、まだダメ。

とはいえ、それを伝えたところで、果たして二人が我慢できるだろうか。

いや、無理っしょ。

要は、二人がわたしに向けている憎悪やらなんやらを、別の形で発散させられればいい話だ。

そうしてこの事態を解決するまでの間、少しでもわたし自身を延命させる。

と、なると・・・・。

・・・・・うん、今のわたし。

すっごく悪い顔してる。

 

「――――まず先に言っておきたいのは、別に復讐をやめろって言いたいわけじゃないことだ」

 

考えを纏めて、二人に話しかける。

物理効果があるなら貫通していそうな視線を受け流しながら、続ける。

 

「マリアさんに手を上げたのは事実だし、わたしも別に逃げも隠れもしない。けど、今はダメ」

「ッどうして!?」

「前ならともかく、今はお役所勤務だよ?福利厚生しっかり保障された上でお給料もらってるんだから、仕事はきっちりこなさないとね」

 

そこでだ、と。

話を区切るために、人差し指を立てる。

 

「うちに戦闘シミュレーターがあってね?そこの最高難易度で、『装者死すべし(Diva Must Die)』ってのがあるんだけど 」

「・・・・それが?」

 

殺意も敵意も変わらないけど、耳は傾けてくれてるみたい。

 

「調ちゃんと切歌ちゃん、二人ともそこまで行けたのなら、事件が解決していなかろうと挑戦を受ける。もちろん仕留めたって構わない」

「「――――ッ!」」

 

お、食いついた。

使用するギアの関係か、はたまた昔なじみだからか。

立ち上がったタイミングはほぼ同じだ。

 

「ちなみにこの難易度、まだ誰もクリアしていないんだよねぇ。もちろんわたしも。だから二人がクリア出来れば、あるいは」

 

思わせぶりににやついてあげれば、二人の表情が引き締まる。

んっふふ、じゃあ、仕上げと行きましょうか。

 

「あー、でもさすがに高望みかなぁー?心臓ぶち抜いた相手が死ななかっただけで、ビビっちゃうような子達だもんなー?」

 

効果は、抜群だった。

狙い通り反応した二人。

調ちゃんが、力任せに机を叩く。

 

「ッやればいいんでしょう!?バーチャルごとき手早く攻略して!貴女を殺せば済む話ッ!」

「やってやるッ!やってやるデスッ!」

「――――その意気だ(Good)

 

口元を吊り上げる。

わたしの笑みを見た二人は、怒りで顔を真っ赤にして。

椅子を蹴散らしながら、やや乱暴にミーティングルームを出て行った。

 

「シミュレーターは右の突き当りを左だよー」

 

出て行く二人の背中に言ったのを最後に、部屋の中に沈黙が降りて。

それをすぐに破ったのは、クリスちゃんだった。

 

「アレに突っ込ませるとか、鬼だろお前。ありゃクリアするまでやめねーぞ?」

「しかもクリアが挑戦する条件だとも明言していないし・・・・意外と策士ね?響ちゃん?」

「二人の発散も出来て、こちら側の戦力増強にもなる。一石二鳥でしょ?」

 

了子さんにまで突っ込まれたけど、わたしだってちゃーんと考えているんですからね。

指を一本ずつ立てて作ったピースサインを振って、笑っておく。

正直、DMDが一日二日で攻略出来ると思えないし。

その間に憎悪やらなんやらが薄れてしまえば儲けもの。

・・・・・うん、割と悪い考えなのは自覚してる。

 

「だが、これではただの先延ばしだ。もし憎しみが燻っている内に目標を遂げてしまえば・・・・」

「その時はその時、八丁駆使してまた逃げますよ」

 

気遣ってくれる翼さんに、笑いかけて誤魔化しておく。

こんな状況だけれど、心配してくれるのが嬉しい。

その気遣いが、優しさが。

ここにいていいんだと実感させてくれる。

 

「というか、貴女はどうなのかしら?当事者の割には、あの二人ほど思っている様子でもないけれど」

「そういえば・・・・ライブ会場でのやり取りを見る限り、むしろ親しい印象を受けた」

 

と、ここで。

友里さんが疑問を口にして、翼さんが頷く。

了子さんも気にしていたのか、ちらりと視線を向けた。

・・・・実は、わたしも気になっていたことだ。

去年の暮れ、サンフランシスコにいたわたしを襲撃してきたのはマリアさん。

シンフォギアをシンフォギアとして使い始めたのもその頃からだったから、恐らく了子(フィーネ)さんの指示を受けてのことだったんだろう。

当然捕まる気は毛頭無かったんで、全力で抵抗させてもらったけど。

その結果、手傷は負ったけど何とか追い返すことに成功して・・・・。

あ、思い出した。

確かそん時、重傷を負ったマリアさんを回収してったのが、ザババコンビだった。

なるほど、だからあんなに怨まれているのか。

 

「・・・・惨敗したことよりも」

 

みんなの視線を一辺に受けて、少したじろいだマリアさんは。

やがてとつとつ語り出す。

 

「あの子達を泣かせてしまったことのショックが強くて・・・・だから、その子を怨んでいるかと言えば、正直微妙ね」

 

・・・・『たやマ』なんてからかわれているけど。

そのとおり、マリアさんの本質は優しさなんだろう。

だから、赤の他人に害されたことよりも。

『家族』が涙して、復讐に燃えてしまったことの方がショックだったんだ。

 

「それに、一度本気で殺しあったからこそ、ある程度の信を置ける部分もある」

「いや、物騒すぎんだろ」

 

最後、マリアさんはちょっと得意げにはにかんだ。

あらやだ、かわゆい笑顔。

ご馳走様です。

それから、信頼してるって言ってくれたのもありがたい。

 

「あ、でもリベンジはしたいかしら。私も『Diva Must Die』とやらをやるべき?」

「いーえー!マリアさんならいつでもウェルカム!後ろから撃たれないだけで儲けもんですよー!」

 

湿っぽくなった空気を払拭すべく、両手の親指を立てて思いっきりスマイル。

効果はあったようで、それぞれ苦笑いしたり、呆れたりしていた。

 

「まあ、勝手に取り決めた響くんには、後で説教するとして」

「なんてこったい」

 

さらっと死刑宣告しながら、弦十郎さんが咳払い。

わざわざ立ち上がって、ナスターシャ教授の対面に移動する。

 

「新たな装者が仲間になると来れば、とても心強い!どうかよろしくお願いするッ!」

「こちらこそ。今はここにいないドクター共々、お世話になります」

 

弦十郎さんの力強い手と、ナスターシャ教授のか細い手がしっかり握られて。

何はともあれ、ここに二課とF.I.S.の同盟は締結された。

不安要素は拭えていないけど、なんか、こう。

ええよな!仲間が増えるって!

 

 

 

 

 

 

なお、この後。

ハードまで順調にクリアしたきりしらちゃんは、案の定DMDで盛大に躓き。

『ばたんきゅー』しているところを二課スタッフに発見されるんだけど。

それはまた、別のお話。




本編内の『殺しあったから~』の台詞。
知り合いがぼやいて、盛大に吹いた思い出があるので。
使ってみたかったものだったりします。
・・・・CCさくらのお兄ちゃんと先生のシーンで言うのは本当に反則(

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