チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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緊張し続けてると疲れる

結局。

あれから一週間が経過しても、連中は動きを見せなかった。

その間こっちは『フロンティア計画』にかかりきりになれたからよかったものの。

そろそろ何らかのアクションがあってもいいと思う。

 

「では、この一週間で判明したことを報告します」

 

さて。

ミーティングスペースに集められた、装者を始めとした主要メンバーズ。

 

「まず、ライブ会場および岩国基地を襲撃したパニッシャーズについてですが」

 

緒川さんに頼まれた友里さんが、モニターに新聞記事を表示した。

――――これは。

 

「日付は二年前・・・・立花達が、行方をくらました時の?」

「はい」

 

『中学生の少女二人、行方不明』『原因は周囲の迫害か』。

そんな見出しと共に、やれ現代の魔女狩りだのなんだのと、まるで自分こそが正義であると言いたげな文章がちらっと見えた。

 

「二年前、お二人の失踪を切欠に、全国で行方をくらませる青少年が続出しました」

 

理由は言うまでも無く、ツヴァイウィングのライブ。

その迫害に嫌気が差していた人々が、わたし達に肖って次々家出したらしい。

この『家出ブーム』が社会現象を引き起こしたことと、日本政府がそれまで伏せていたノイズ出現の現場を公表したことで。

迫害が終息してったんだっけか。

 

「そのほとんどは警察により発見・保護され、家族の下へ帰ることが出来ました。最終的に見つからなかったのは、五人」

 

その五人というのが、と。

続けて表示される顔写真。

当時手がかりとして警察に提出されたものらしい。

そのうち二人は、わたしと未来。

あー、何か。

若い。

たった二年前なのに、やけに子どもっぽく感じる。

この頃の未来、ほっぺがまだふくふくしてたんだよなぁ。

おっと、脱線してた。

気を取り直して、改めて画像を見る。

残りの三人は、ライブ会場や岩国で見かけた顔と。

 

「武永・・・・?」

 

知っている顔に、思わず名前を口走っていた。

緒川さんもそれを分かっていたのか、皆が少なからず驚く中でしっかり頷いていた。

 

「知ってんのか?」

「知ってるも何も、同級生だよ」

 

最も、クラスは違った上に友達ってわけでもないヤツだったけど。

小学校が一緒だったので、顔だけは何となく覚えていたのだ。

多分、誰もがそういう奴の一人や二人いると思う。

 

「ああ、そういえばあいつも会場にいたんだっけ」

 

あの頃は、誰があの現場にいたのかがよく分かった。

皆から迫害されて、良く目立ったもんだから。

・・・・それにしても、行方不明か。

よろしくない連中にとって、『実験動物』を補充するには絶好のチャンスってことか。

 

「二名を除いた三人は、米国の情報にあった組織に誘拐された可能性があるということね」

「そう考えるのが妥当かと」

 

マリアさん含めた何人かも似たような考えだったらしい。

っていうか、実際に顔合わせた奴がいるわけだし。

ほぼ確定したと見ていいだろう。

調査でも、顔の形やらを照合した結果本人と断定されたらしいし。

・・・・にしても。

あいつらの目的は一体なんなんだろうか。

復讐にしたって、どういう手段でそれを成すのか。

相変わらず予想がつかなくて困るし、怖くもある。

 

(けど・・・・)

 

それでも、わたしがやることは。

壊せる危難のこと如くを、砕いて壊して、葬るのみ。

 

「今回の調査により、彼らの潜伏場所らしき建物を発見しました」

 

おっと、いかん。

考えてる間に話は進んだみたい。

いつの間にか俯いてた目を上げれば、山奥らしい場所に佇む廃墟が。

 

「とある反社会的な組織の流通ルートを調べましたところ、架空の企業から備品や食料品の発注が確認されました。その最初の日付は、二ヶ月前」

「なるほど、準備を始めとした行動をするには、十分な期間・・・・そういうことね?」

「はい」

 

早速明日にでも作戦が行われることになって、装者は出撃まで待機を言い渡された。

 

「響ちゃんも、今日はもう帰っちゃいなさい。作戦開始は夜、体力を温存しとくに越したことはないわ」

「そいうことなら、遠慮なくー」

 

了子さんにも言われてしまったので、遠慮なく帰ることにする。

 

 

 

 

 

 

と、言うわけで。

 

 

 

 

 

「たっだいまー」

「おかえりなさい」

 

ちょっと早めに帰宅ですよー。

ぱたぱた出迎えてくれたのは、エプロン姿の未来。

ここんとこ帰りが遅かったから、ひっさびさに見た。

かわゆい(確信)

 

「今日は早いね」

「んー、代わりに明日の夜はいないけど」

「・・・・それって」

「まー、お察しのとーりとだけ」

 

暗に出撃があると言うと、目に見えて心配そうになった。

・・・・ああ、相変わらず。

優しいなあ。

 

「それより、今日のご飯何ー?何かいい匂いするねー?」

「あ、と。響、鮭好きでしょ?ホイル焼きにしてるの」

「大好き!やったね!」

 

とはいえ、あんまり暗い顔はさせたくないので、さっと話題を掏り替える。

味は感じなくとも、嗅覚はまだ生きてるからねー。

バターのいい香りが、空きっ腹にダイレクトアタックしてきとるよ・・・・!

 

「最近、すごく大変そうだから。ちょっとでも元気になれたらって・・・・・全然、大したことじゃないかもしれないけど」

 

そう言って、未来は控えめにはにかんだ。

ちょっと自虐が混じっていても、想ってくれる優しさは十分に伝わって。

・・・・・あー、もー。

この子は、本当に・・・・!

 

「・・・・ッ」

「ひ、響・・・・!?」

 

衝動のまま、抱き寄せる。

逃げないって分かっていても、やっぱり気になったから。

わたしごと壁に押し当てて、逃げられないようにする。

驚いている未来には申し訳ないけど、簡単に離すつもりは無かった。

・・・・温もりは感じないし、わたし自身も物理的に冷たい。

それでも、そんな実感以上の『温もり』は、確かにこの胸を温めていて。

 

「・・・・響、どうしたの?」

 

こんな突発的な行動にも関わらず、未来は律儀に抱き返してくれる。

問いかける声は変わらず、心配してくれているそれで。

 

「・・・・何でも無い、ちょっとだけこのままで」

「・・・・うん、いいよ」

 

――――わたしは、別にいい。

どんなに惨たらしい最期を迎えたって、文句は一切言わないから。

代わりに、優しいこの子へ。

優しくしてくれる仲間たちへ。

明るい未来(みらい)を、どうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――そろそろ、頃合なんじゃねェの?」

 

どことも知れぬ闇の中。

いつか岩国基地で響とぶつかった青年が、気だるげに話しかける。

 

「インターバルは十分取った。世間の気も緩みきってるだろうよ」

「それに、今はもっと別のことに夢中みたいだしね」

 

スマートフォンをいじっていたリブラが示した画面。

かつてネットやSNSに上げられた、響を始めとした装者達の画像が数多く上げられていた。

政府の規制によりページが削除されても、そこに上げられた画像を保存していた者がいたのだろう。

星に届かずとも、それなりに数のそろった彼らは。

一週間前のライブ中継を切欠に、こぞって溜め込んだ『コレクション』を放出しているのだった。

削除されようとも次々アップロードするその根性には、呆れるやら感心するやら。

 

「ドカンと一発かますには、十分でしょ?」

 

そろって笑いかける先。

頬杖をついていたそいつは一度目を伏せて、しばし沈黙。

やがて、醒めるようにゆっくり目蓋を開けた。

 

「・・・・そうだな」

 

静かに口を開いて、立ち上がる。

 

「そろそろ花火を上げるとしよう、秋空を煌々と照らすんだ」

 

ゆっくり歩き出したその姿に、他の二人も待っていたといわんばかりに笑みを浮かべて立ち上がる。

 

「夜空を彩る、数多の(いのち)・・・・・きっときっと、綺麗だろうよ」

 

握った拳に炎が滾り、その顔をぼんやり照らした。

真っ赤な瞳は、一体何を――――




すみません、鮭好きなのは自分なんす。
塩焼きはジャスティス・・・・!

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