チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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出来るうちにほのぼの補給・・・・。


閑話:おい鍋食わねぇか

――――それは。

マリア一派が参入してきた、三日後のこと。

 

「鍋パーティですか?」

 

休憩時間、いつもの談笑タイム。

カフェラテを飲んでいた響は、きょとんと首をかしげる。

 

「そ、弦十郎くんの発案でね。マリア達という味方が増えたのはいいけれど、見逃せない不安要素も多々あるから」

「一回一緒にご飯食べるなりして、ある程度のわだかまりを無くそうって魂胆ですか」

「なるほど・・・・」

「ごめんなさい、うちの調と切歌が・・・・」

 

一緒に話を聞いていたナスターシャとマリアは、納得すると同時に申し訳なさそうに縮こまる。

響個人としては、原作ファンというミーハーな部分を抜きにしても仲良くしたいと思っていたところなので。

『ちょうどいいです』とフォローを入れた。

 

「それにしても『ナベ』ですか・・・・様々な具材を煮込んだ一つの器を、(みな)で分け合うという料理。確かに、親睦を深めるに相応しいでしょうね」

「お、おう・・・・いえ、みんなでわいわい出来るっていうのと、単純にあったかいからじゃないですかね」

「確かにここのところ肌寒いわよねぇ、そろそろこたつ出さなきゃ」

 

真剣に考察するナスターシャだが、日本人としては普段から何気なく食べているものなので。

そう大真面目に考えられると、どこかむずがゆい気分を覚える。

突っ込みを入れた響に、友里はココアを飲みながらのんびりぼやいたのだった。

 

「オーソドックスに寄せ鍋と・・・・トマト鍋?」

「豆乳鍋にキムチ鍋もあるわね。最近は鍋用のつゆも売られているから、家で出来るレパートリーも随分増えたわ」

「パーティーっていうなら、いっそすき焼きなんてどうでしょ。溶き卵につけて食べるとおいしいんですよねぇ」

「〆は麺派ですか?雑炊派ですか?」

「場合によるかしら、私すき焼きはうどんで〆たい派~」

 

日本勢が鍋について熱く語りあっている中。

ふと響が視線をずらすと、何やら目をキラキラさせて乗り出しているマリアが。

 

「あ、えっと・・・・そう、ね。おいしいものを食べれば、さすがの二人も大人しくなるかも」

 

見られていることに気付くと、顔を赤らめながらやや早口でまくし立てながらそっぽを向いた。

ナスターシャはそんな彼女を微笑ましそうに見守っている。

会話していた当事者や、傍から見ていた職員達は同じ感想を抱いた。

『何だこの可愛い生き物』、と。

 

「場所は弦十郎くんの(うち)を使うらしいから、広いわよー?未来ちゃんやお友達も是非誘って頂戴」

「はーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて会話がされた、さらに二日後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(白菜、春菊、長ネギ、きのこもある・・・・)

 

旧リディアン近くの商店街。

大きな買い物袋を抱えた未来は、買い忘れが無いかを確認していた。

 

「しらたきもあるし、豆腐も普通のと揚げたのとあるよー」

「鱈とアサリもオッケー」

「すき焼き用のお肉も、ナイスなお値段でゲットです」

 

同じくマイバッグを抱えた弓美、創世、詩織の三人も、それぞれが担当した食材の確保を告げる。

二課に新しいメンバーが参入したことにより、開催が決まった鍋パーティ。

せっかくだからと響に誘われた未来は、訳知りの友人である彼女達も誘ったのである。

 

「ありがとう、急な話なのにごめんね」

「いーってことよ!こっちとしちゃ、歌姫二人とご相伴できるっていう役得な部分もあるしね」

「お誘いいただきありがとうございます」

 

もう秋も半ば。

冬ほどではないにしても、油断すると体を冷やしかねない。

なので、未来達は移動を開始した。

会場である弦十郎邸についた四人は、未来が預かっていた合鍵で中へ。

 

「早いとこ作らないと、ビッキー達帰ってきちゃうよ」

「うん」

 

台所は好きに使っていいといわれている。

普段は緒川あたりが手入れしているのか、思ったより綺麗だった。

 

(申し訳ないけど、翼さんや弦十郎さんがキッチンに立ってるのは想像できない・・・・)

 

内心でこっそり謝りながら、いそいそ準備に取り掛かる。

色々悩んだ結果、寄せ鍋とすき焼きを大きめの鍋で出すことになった。

出されていた鍋は大分大きいサイズだったが、人数もいるためコレくらいがちょうどいいだろう。

 

「水切りした鱈、拭き終わりましたよ」

「白菜、春菊、長ねぎも切れた」

「ありがと」

「ヒナ、お肉の焦げ目ってこれくらい?」

「うん、火止めていいよ」

 

それなりの量だが、人手があるとかなり楽だ。

寄せ鍋用の出汁に醤油やみりんを加えて味を調える。

後はそれぞれの鍋に、火の通りにくいものから順に具材を入れていく。

最後に春菊やアサリといった火の通りやすいものを入れて、蓋をした。

 

「寄せ鍋のアサリが開いたら、いいくらいかなぁ」

「「「わー!」」」

 

メイン料理はこれでいいが、仕事はこれで終わりではない。

協力してテーブルと座布団を並べて、カセットコンロを設置。

箸や取り皿までスタンバイしてから、鍋二つを移動させる。

 

「お邪魔しまーす」

 

と、ここで。

玄関のほうが騒がしくなった。

ざわざわと複数人の声に混じって、知っている声も聞こえる。

未来達の方へ歩いてくる音。

宴の会場へ、一番乗りを決めたのは、

 

「小日向、ご苦労だった」

「おかえりなさい、翼さん」

「おお、うまそー」

 

この家の住人である翼と、ただよういい匂いに鼻をひくつかせるクリス。

 

「みんなは?」

「立花や司令達は最後の方に来る、他は順次・・・・っと」

 

翼が言い終える前に、また次の人物が。

 

「おぉ・・・・!」

「いい匂い・・・・」

 

未来は初めて見る、二人の少女。

一方は金髪のショートヘアで、活発な印象を。

もう一方は、黒い髪を二つ結びにした、大人しい印象を受けた。

正反対だが、ぴったり。

未来はそんな感想を抱く。

 

「自己紹介は後で纏めてやってしまおう」

「そうだな、ほら、好きなとこ座れよ」

「は、はい・・・・」

「デス」

 

翼とクリスに促され、部屋の中に入っていった。

 

「やあ、こんばんはお嬢さん」

「え、ああ、こんばんは」

 

彼女らを見送っていた傍から声をかけてきたのは、白衣を纏った好青年。

メガネの向こうから穏やかな瞳に微笑まれ、未来は慌てて返事をする。

 

「ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスと言います、長いのでお気軽にウェルとお呼びいただければ。今日はお世話になります」

「こちらこそ、よろしくお願いします。ウェルさん」

 

弓美達が先ほどの少女達にあれこれ話しかけている部屋の中へ促せば、青年は小さく会釈した。

そして、

 

「未来ー!人ん家だけど、ただいまー!」

「響!・・・・ん?」

 

やはり待っていた、響の声。

目に見えて嬉しそうに反応した未来だったが、振り向いた先の光景に思わず首をかしげた。

その違和感の正体は、滅多に見かけない車椅子を見たからだとすぐに分かったが。

 

「ごめんごめん、ちょっと手伝ってたんだ」

「こんばんは、お世話になりますね」

「はい、じゃ、なくて、えっと・・・・」

 

車椅子の女性に微笑みかけられた未来は、直後に戸惑いの表情を見せた。

学校の授業やなんかで、車椅子の補助の仕方は習ったものの。

和室での対応が分からなかったからだ。

 

「大丈夫よ、私が出来るから。ありがとう」

「あ・・・・はい」

 

そんな未来を見かねてか、マリアが微笑みかける。

礼を言ったのは、未来の気遣いを察したからだった。

 

「これもう出来てんのか?」

「多分、そろそろ煮えてる頃ですよ」

 

『じゃあ、確認のため』とかこつけて、クリスが土鍋の蓋を開ければ。

ふわっとあがった湯気の中から、おいしそうな具材が色鮮やかに並んで、いい匂いを部屋中に運んだ。

 

「おぉー!」

「こっちもいい感じ、食べごろね」

 

了子がちゃっかり開けたすき焼きの方も、いい具合に煮えているようだった。

カセットコンロの火を、熱が維持できるくらいに弱めて。

各々座った面々に、取り皿が配られる。

そして、さあ食べようと行きたいところだったが。

初対面組みの簡単な自己紹介を先に行うことに。

主に弓美達学生メンバーの姦しい名乗りに、マリア達は少し気圧されていたものの。

調と切歌は、彼女達のノリを興味心身に見ていた。

 

「じゃあ、音頭は・・・・響くん、やってくれ」

「おっふ、ちょーっと無茶振りじゃないですかね」

 

気を取り直して、いい加減腹の虫を治めるべく食べることに。

弦十郎に名指しされた響は苦笑い。

だが何かを思いついたのか、ちょっといたずらっぽい笑みを浮かべて。

徐に、両手を合わせる。

 

「おててをあわせてくださいッ!」

「ッあわせました!」

 

口から出てきたのは、聊か幼い表現。

『ネタ』が分かるのか、弓美を始めとした日本勢がノリノリで合わせてくる。

頭にはてなを浮かべていた面々も、響や弓美達にならい両手を合わせて。

それを確認した響は、更に子どもっぽい声を出す。

 

「いたーだきますッ!」

「「「「いたーだきますッ!」」」」

 

直後に上がる笑い声。

ネタが分からなかった面々も、響達の拙い振る舞いが面白かったのか釣られて笑う。

笑顔もそこそこに、早速それぞれ取り皿に具材やつゆを取っていく。

全員が咀嚼に集中したことで、束の間沈黙が降りて、

 

「うんまー!お出汁が効いててさいこー!」

「すき焼きの甘辛さも絶妙ー!」

 

ほっほと熱さを逃がしながら、幸せそうに顔をほころばせた。

ナスターシャは出汁の香りにほっと一息つき、調は初めて食べる鱈を静かに噛み締めている。

切歌は揚げ豆腐が気に入ったようで、溜まった熱に四苦八苦しながら頬張っていた。

マリアはというと、殻つきのアサリを見様見真似で食べながら舌鼓。

と、何となく視線を滑らせた先。

周りと同じように鍋の具を食べている響が見えて、ふと疑問がわいた。

 

「どうしたの?マリア」

「ああ、えっと・・・・」

 

気付いた了子が話しかければ、首をかしげていたマリアは少しばつの悪そうな表情になって。

 

「・・・・あの子って、その、味は?」

「ああ・・・・話したとおりよ、味覚は失われているらしいわ」

 

マリアの疑問を察した了子は、賑やかな周囲に紛れて、かつ聞こえる声で続ける。

 

「けど、未来ちゃんが作ったもの、ないし一緒に食べるものに関しては、ああやって幸せそうにしているの」

「・・・・そうなの」

 

見てみると、未来に感想を聞かれたらしい響は、にこにこしながら頷いている。

味覚がないと分かっていても、告げているのが世辞なんかではないことは容易に想像がついた。

 

「ところで、ぼぅっとしてると無くなっちゃうわよー?」

「え、あっ!」

 

はっと我に返れば、先ほどよりも減っている中身。

マリアは慌てて、箸を伸ばした。

ウェルはしらたきの感触を何度も噛み締め、弦十郎は卵をつけた肉をうまそうに頬張る。

クリスは食べかすを少々散らしながら、翼は幼少より仕込まれた作法で綺麗に食べていた。

あれだけあった中身も、十数人そろえばあっと言う間になくなる。

 

「さて、お腹にやや余裕を残したところで」

「本日の〆です」

「待ってましたー!」

 

ちょっと物足りなそうにしていた調と切歌を励ますように、詩織と創世がそれぞれうどん麺と米を取り出す。

 

「響、昔よくやってくれた雑炊って、どう作ってたっけ?」

「ああ、ちょっと待って」

 

未来が鍋の灰汁を取りながら問いかけると、響は一度座りなおし、雑炊用の卵を手に取った。

ご飯をくつくつ煮込む横で、割った卵の殻を使いながら器用に黄身と白身を分ける。

 

「まず先に白身をいれるじゃん?で、ちょっと煮る」

 

先にある程度かき混ぜた白身を加え、一回ししてから、蓋をする。

 

「そんで、黄身を加えて、後はオーソドックスに三つ葉を散らせば・・・・完成!」

 

少し待ってからほぐした黄身を入れ、三つ葉と一緒にまた一回しすれば。

黄色と白、そして緑の色合いが実においしそうな雑炊が。

うどんを入れたすき焼きも、また違った見た目で楽しませてくれる。

 

「お鍋の〆って欠かせないよねー、うまー!」

 

ある者はうどんを、ある者は雑炊を。

具材の旨味をたっぷり含んだ〆を、次々かき込んで行った。

 

 

 

 

――――ごちそーさまでした!

 

 

 

「美味かったか?」

 

片付けの時間。

『余計に散らかるから』と強く待機を言い渡された翼は、ナスターシャと話していた調と切歌に話しかけた。

 

「・・・・すっごく、おいしかった」

「デス、食べ物に罪はないのデス」

 

やはり響と同じ席というのが気にかかるようだったが、しっかり頷く二人。

 

「今度はうちらだけでやってみたいデス」

「うん、マリアにもうちょっと食べさせてあげたい」

「そうか」

 

翼はナスターシャと一緒に、同じく微笑ましげに頷いている。

 

「お前達は、マリアが大切なんだな」

「当たり前」

「大好きデスから」

 

零した言葉に、勢い良く食いついて即答。

それを受けた翼は、やや真面目な顔と口調に切り替えた。

 

「だがな、それは小日向も同じなんだ。立花を好いていて、とても大切に思っている」

「・・・・ぁ」

「・・・・っ」

 

自分達よりも『立花響』を知っている人物だからか、それとも今日話すことが出来て、少し距離が縮まったからか。

気がついた顔で、二人は同時に未来を見た。

机の片づけを手伝っていた彼女は、視線を一遍に受けて。

最初こそ戸惑っていたものの、すぐに『どうしたの?』と笑みを浮かべる。

そこへまた別の机を片付け終えた響が戻ってきて、話しかけると。

未来は顔をほころばせながら答えていた。

 

「・・・・立花は、お前達の感情と向き合うつもりのようだし、私達が言ったところで止まる奴でもあるまい」

 

戸惑い互いを見合う切歌達へ、翼は目を伏せて続ける。

 

「だが、あの子にも、あの子を大切に想っている人がいて、守りたいと想っている人がいる」

 

どこか不安げに見上げてくる彼女等の頭を撫でて、笑みを浮かべる。

 

「どうか一度立ち止まって考えて欲しい、『仇敵を討つ』というその意味を」

 

言葉が出ない代わりに、二人はまた頷いた。

・・・・考えもしなかったのだろう。

憎くてたまらない相手にも、自分達の家族のように。

大切だと想い合う人がいるだなんて。

 

「案ずるな、立花は逃げも隠れもしないから」

 

最後にそう締めくくって、翼はまた微笑んだ。




さって、どシリアスの制作に戻らなきゃ(白目

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