今回LiNKERに関する独自解釈・設定が山盛りです。
苦手な方はご注意を。
――――その話を聞いたとき、頭が真っ白になった。
目の前が何も見えなくなって、周りの音が遠くに聞こえて。
なのに自分の呼吸だけは、やけにはっきり感じていた。
『響?どうしたの?大丈夫?』
「ぇ、ぁ・・・・うん、平気。正直ちょっとびっくりしたけど、うん、へーき・・・・へーき」
未来の不思議そうな声で、すぐ意識を取り戻して。
どうにか取り繕うことに成功した。
「・・・・未来は、いいの?」
・・・・どうにか気を取り直した上で、聞いてみる。
電話の向こう、出来ればネガティブな言葉を聴きたいと期待して。
『うん、いいの。わたしに出来ることなら頑張りたいし、響に甘えてばかりじゃいられないもの』
「・・・・・そっか」
その明るい声に、あっさり裏切られた。
すぐに『裏切られた』なんて感じた自分がいやになって、体が重たくなる。
「・・・・LiNKERは、本当に大変らしいから。無茶だけはしないでね」
『うん、気をつける。了子さん達が視てくれるから、大丈夫だとは思うけど』
顔が見えない受話器越しでよかった。
だって今のわたし、全然大丈夫じゃない顔をしている。
『あ、そろそろいかなきゃ。響も頑張って、ちゃんと休憩もしてね?』
「うん、ありがとう」
それじゃあ、と。
通話を切った。
・・・・・この胸のもやもやも、ぶっつり切れればいいのにと思った。
◆ ◆ ◆
数日後。
二課、仮説本部。
その実験室では、新たな装者を生み出す準備が着々と進められていた。
「・・・・ッ」
入院患者のような衣服を着て待機しているのは、未来。
今回了子から話を受け、二つ返事で了承した彼女。
自ら望んだこととは言え、これから行うことへの緊張感までは拭いきれなかったらしい。
どこか堅い面持ちで、目の前に準備された新たなシンフォギア『神獣鏡』を見つめていた。
「未来ちゃん、お待たせ」
「は、はい」
やがて、スタッフ達が位置につき始める。
準備が終わったらしい。
音が大人しくなった中へ、了子とウェルがやってきた。
「今回は本当にありがとう、頼みを聞いてくれて助かるわ」
「そんなこと、ないです。わたしも、何か出来ることは無いかなって思っていたから」
「素敵なお気遣いありがとうございます、僕達も尽力しますので」
「はい、よろしくお願いします」
一礼した未来は、促されてベッドへ。
そんな彼女の視界に、了子はあるものを持ち出す。
まるで拳銃のような形をした、投薬器だった。
「それが・・・・?」
「ええ、今回あなたに使用するLiNKERよ」
度々話に聞いていた、適合係数を上げるための薬。
かつて奏の命を奪う要因の一つにもなったそれを、未来は固唾を呑んで見つめた。
「と言っても、これは私が作ったモノではなくて」
「この僕が調合・製作したものですッ!」
了子の説明を引き継ぐように、ウェルが未来の視界へさっと入り込んできた。
「・・・・そもそもの話、フォニックゲインと聞くと
ため息をつきながら、了子は自らの胸元を指す。
その指を、未来が目で追っているのを確認しながら、ゆっくり上に滑らせて。
「実際は、ここ。脳の中で作り出されるものなのよ」
頭を指でつついて、未来が頷いたのを確認して続ける。
「正確には脳の『ある分野』を刺激して、フォニックゲインを高める。それがLiNKERの仕組みで、効力なの」
だけど、と。
了子は頭にやっていた指を立てて。
「調合に使う薬品はどれも副作用が強いものばかり。少しでも匙加減を間違えれば、投薬しただけで人を殺せる劇物に変わる」
「なので、その『ある分野』に効果範囲を絞ることが極めて難しく、その結果要らぬ部分まで活性化させてしまっていたのです」
投薬をするたび、重ねるたびに。
脳全体がオーバーヒートのような状態になってしまう。
それが副作用の正体であり、LiNKERの弱点であると。
了子とウェルは説明した。
・・・・彼らの専売特許であるからか、その『ある分野』については終始ぼかされてしまったが。
「しかぁーし!それも今日までのことッ!!」
二人掛かりの解説により、概要を飲み込んだ未来。
理解した旨を伝えるためにまたこっくり頷くと、突然ウェルが両手を広げた。
「天才たるボクが、研究に研究を重ねた結果ッ!!従来のLiNKERよりもはるかに軽い負担となる比率を見つけたのですッ!!!」
「・・・・・大丈夫よ、効力は保障するから」
豹変したウェルにぎょっとなった未来は、これから投薬されることもあってか。
何ともいえない不安を覚えた。
助けを求めるように了子を見やれば、盛大なため息があったものの、お墨付きを下してくれる。
「それから、これは理論を抜きにしたアドバイスなのだけれど」
最後に、気を取り直した了子が付け加える。
「未来ちゃんが守りたい人の顔を思い浮かべると、上手くいくかもよ?」
「守りたい、人・・・・」
未来は促されてベッドに横たわる。
暴れて怪我しないようにベルトで固定された彼女の脳裏は、先ほどのアドバイスに関する思考が巡っていた。
守りたい人、大切な人。
(そんなの、一人しかいない)
話を持ち出された時、未来が真っ先に思い浮かんだのは。
気の抜ける笑顔の裏に、悲痛な慟哭を隠した『あの子』。
傷つき続けるあの子を、泣き続けるあの子を。
守れやしないかと、力になれないのかと。
悩み続けていたこれまでが、走馬灯のように駆け抜ける。
「――――それでは、実験を開始します」
「――――お願いします」
首筋に、小さな痛み。
注射針が離れた後も、束の間は何も起こらなかったが。
「・・・・ッ」
やがて胸と頭、両方に熱が灯る。
風邪を引いた時のような体を蝕む熱さは、じっくりゆっくり未来を侵し始めた。
「ぁ、ぐ・・・・!」
耐えられたのは最初だけ。
熱はあっというまに全身へ行き渡り、あちこちで暴れ始める。
「あああぁ・・・・!」
痛い、怖い、熱い。
喉は枯れ、眼球が沸騰しそうなほどに熱い。
食いしばった口からは、濁りくぐもった声しか出ず。
ただただ苦しみに悶えるしかない。
苦しい、苦しい、苦しい。
今すぐにでもやめてしまいたい。
(だけ、ど・・・・!)
だけど。
響のほうが、もっと痛い。
もっと怖い、もっと辛い。
もっともっと、苦しい。
だから、だから。
(響の、力に・・・・!)
泣いているあの子へ、手を差し出せる強さを。
どうか・・・・・!!
「――――
一瞬ブラックアウトする意識。
眠りに落ちる寸前のような感覚から、意識が一気に急上昇する。
急速な変化に眩暈を覚えながら、額を押さえようとした未来は。
ふと、その手に変化が起こっていることに気付いた。
手全体を包むスーツ、着物のようなアームカバー。
さらに視線を下げれば、足全体を物々しい紫の装甲が覆っていて。
顔を上げる、大きな窓ガラス。
了子達が記録を取っているであろう場所は照明が落とされ、ちょうどマジックミラーのようになっている。
その『鏡面』に映し出されたのは、紫を基調としたシンフォギアを纏った少女。
他でもない、未来自身。
(―――――ああ)
自然と、笑顔が浮かぶ。
安堵と希望に満ち溢れ、どこか疲れきっている笑顔。
少し情けない姿だけれど。
あの子と、立花響と。
支えあえることを、ただただ喜んで。
サーセン。
393聖詠のタイトルは、完全に提造っす。
拙作の393ならこんな感じかなっと。