チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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そのケが無くてもロリショタはかわいい

未来が、無事に適合したらしい。

昨日電話で聞いた、嬉しそうな声が耳にこびりついている。

・・・・未来、は。

未来だけには、戦って欲しくなかった。

わたしと同じ、汚れてしまう場所に来て欲しくなかった。

なのにあの子は、嬉々としてこちら側へ踏み込んだ。

この汚れた手を握り続けようと、刻まれた傷を癒そうと。

わたしの、為に。

わたしの、所為で。

 

「・・・・・ッ」

 

思わず奥歯を噛み締める。

ぎり、と嫌な音がする。

・・・・わたしの所為だ。

わたしが弱い所為だ。

わたしがしっかりしていないから、未来を不安にさせたんだ。

いつもいつも心配かけてるけど、迷惑かけてるけど。

変わらない笑顔でいてくれるから、大丈夫だと思っていた。

思い込んでしまっていたんだ。

その結果がこれだ、その代償(ツケ)がこれだ。

守りたい人を、大切な人を。

何よりも遠ざけるべき死地へと、赴かせてしまった。

・・・・・寒い。

寒い、寒い、寒い。

胸にぽっかり穴が開いたような、血管と言う血管を心臓ごと縛り上げられたような。

そんな感覚に苛まれる。

・・・・ああ、なんでこんなに空回る。

ただ、わたしは。

失くしたくない人を、主張しているだけなのに。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

(――――重症ね)

 

装者達に与えられたテントの中。

目に見えて暗く重たい気配を醸し出す響を目の当たりにし、マリアはひっそりため息。

これが漫画(カートゥーン)ならきのこの一つや二つ生えていそうなほど、すっかり意気消沈していた。

 

(『戦った時』もそうだったのだけど、よっぽど入れ込んでいるらしい)

 

想起するは、そろそろ一年に届くかという昔のこと。

何度貫いても斬りつけても立ち上がる響は、しきりに『ミク』の名前を口にしていた。

あの子を残して死ねないと、ここで倒れるわけにはいかないと。

だからお前をここで倒すと。

あの気迫は、今でも鮮明に思い出すことが出来る。

 

(少し、依存が過ぎるとは思うけれど)

 

疲弊し、傷つき果てたその心の支えであることも理解している。

今更外野が口出ししたところで、簡単に変えられるとは到底思えなかった。

難儀なものを抱えていることだと、マリアはまたため息をつく。

と、

 

「マリア、マリア」

「お客さんデス」

「お客さん?」

 

調と切歌が、ひょっこり顔を出した。

二人が口にした『お客さん』という言葉に、マリアは首をかしげる。

はて、自分達を訪ねてくるような人などいただろうか。

自衛隊員や、二課のスタッフならそういうだろうし。

心当たりの無さに首を傾げ続けながら、テントの外を見たマリアは。

一瞬目を見開くものの、すぐに微笑みをたたえて。

 

「響、ちょっと」

「ぇ、はい・・・・?」

 

未だ落ち込む響に声をかける。

外に連れ出された響の目の前に現れたのは、

 

「あっ」

「きた!」

「やっぱりあのおねーちゃんだ!」

「わぁー!」

 

四人の小さな子ども。

身奇麗になっていたり、包帯を巻かれていたりして一瞬分からなかったが。

この救助活動の中で助けた子ども達であることを思い出した。

 

「ふふ、何のご用?」

 

キラキラした目を向ける子ども達へ、マリアはしゃがんで視線を合わせながら問いかける。

すると、彼らは持っていた折り紙や花を差し出して、

 

「「「「ありがとーございますッ!」」」」

 

賑やかに笑ったのだった。

 

「どういたしまして、可愛いオリガミね」

 

マリアは手馴れた様子で、小さな手から折り紙を受け取っていた。

子ども達に笑いかけながら話す様からは、何故だか『達人』のオーラが溢れている。

 

「おぉ!力作デース!」

「この花も・・・・見つけるの、大変だったんじゃない?」

「がんばったよー」

「まだだいじょーぶなとこから取ったのー」

 

切歌と調も、それぞれ贈り物を貰っている。

折り紙や花を受け取り、感嘆の声を上げている。

 

「おねーちゃんも」

「えっ」

 

その様子を一歩離れて見ていた響の下へも、子どもがやってきた。

やや困惑した顔で見下ろした彼女へ、一輪の花が差し出される。

 

「あ、う、うん。ありがと」

 

すぐに笑顔を取り繕った響は、受け取ろうとして。

その指先が、子どもの手に触れた。

 

「わ!つめたい!」

「・・・・ッ」

 

何気ない、純粋な感想。

だが、響の心を痛ませるには、十分な一撃(ことば)

響は辛うじて花を取り落とさないようにしながら、身を退いた。

 

(ど、どうしよう・・・・)

 

この無垢な存在を、汚してしまったのではないか。

そんな杞憂とも言うべき心配が、響の胸を埋め尽くす。

 

「だいじょーぶなの?おねーちゃん、かぜひいてるの?」

「う、ううん。違う違う・・・・ちょっと冷え性でね」

 

荒れた胸中に気付かないまま、子どもは心配そうに見上げてきた。

笑顔を曇らせてしまったことに、また罪悪感を覚えながら。

響は咄嗟に言い逃れた。

 

「そっかぁ」

「そーなの」

 

子どもの方も納得しているようだし、何とか乗り切れたと一息つく。

すると、ほっとした視界に、小さな両手が差し出されて。

 

「じゃあ、あっためてあげる!」

「えっ」

「さむいのいやでしょ?」

「いや、まあ、そうだけど・・・・」

 

まさか寒暖を感じられないとは口が裂けても言えず。

ばつ悪くそっぽを向くしかできない響。

 

「おねーちゃん、たっくさんたすけてくれたから、ごほーび!」

 

そんな彼女の手を包み込んで、また無邪気な笑顔を向けて。

 

「・・・・・ッ」

 

その尊い光景に、響の頭は真っ白になった。

飛びそうになった意識を繋ぎとめて、前を見る。

 

「えへへー、あったかいー?」

 

子どもは相変わらずニコニコ笑いながら、時折さすったり、息を吹きかけたりして。

響の手を、決して温まらないその手を。

握り続けてくれた。

 

「・・・・ん、あったかいよ」

 

溢れそうな涙を、必死に堪えながら。

響は、弱々しく握り返す。




「んじゃあ、ま」

「ぶちかましますかねぇ・・・・!」



そして、『痛み』も動き出す。

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