きちんと目を通してます、通知が来るたび「わーい!やったー!」とどったんばったん大騒ぎしております(
――――旅の中で見慣れてしまった
今更死体を見ても吐くことは無くなった。
それでも、まかり間違ってもいい気分にはなれない。
過ぎるたびに舞う炭を目の当たりにして、未来は苦い顔を隠しきれなかった。
現在未来は、クリスと分かれて単独行動中である。
生存者の救出は、以前と違って自衛隊が動けていることもあり。
結果、ノイズの討伐に専念することが出来ていた。
「やぁッ!」
もう何度目か分からない掛け声と攻撃。
体の火照りが、炎の所為か動いた所為か分からないくらいになった頃には、戦い方も大分様になってきていた。
伝う汗を拭いながら、一息。
油断などするつもりはないが、自身の向上を実感できる今は、少し気分が高揚してもしょうがないと自己完結する。
『響ちゃん達が現場に入ったと連絡があったわ、そろそろ撤退の準備を』
「はい!」
とはいえ、今の自分はひよっこになれているかどうかも怪しい新米。
下手な自己判断で、足を引っ張ることだけはしたくない。
耳元で聞こえた声に了解を告げ、来た道を引き返そうとして。
『ッ未来ちゃんの近辺に、高速で接近する反応!』
『これは・・・・ッ離脱急いで!未来ちゃんッ!!』
焦るオペレーター達に、どういうことか聞き返そうとして。
瞬間、背後に何かが転がってきた。
「――――――!―――――ッ!!」
何事かと振り向けば、瓦礫に埋もれてもがく人間。
土と血に汚れている上、上げている悲鳴が甲高い所為で男女の区別がつかない。
だが、生存者であるのなら、見捨てる道理は無かった。
「ッ今行き――――!!」
瓦礫を避けるために浮遊し、駆けつけようとした目の前で。
飛来した凶器が、その命を刈り取った。
体は瓦礫に沈んで見えなくなったが、飛び散った血が末路を物語っていて。
「――――ッ!!」
珍しく頭に血が上った未来は、凶器が飛んで来た方向を睨みつけた。
「――――ありゃ、いたのか」
悠然と歩いてきたのは、二課の資料映像でも見た青年。
確か、一番最初に接触した『
こちらを気に掛けつつ余裕の態度を見せ付ける彼は、突き刺さった得物を回収した。
抜き取ったときにまた血が飛び散り、それが未来の警戒心をさらに引き上げる。
簡単に逃げられるとは思えないが、勝てるとも思えない。
鉄扇を握り締めて、身構えた。
「ヤル気・・・・ってわけでもネェか。ま、普通逃げられるとは思わんわな」
気だるげに大剣を肩に担いで、ため息。
思わずこちらの戦意がそがれそうになるが、未来は何とか崩れかけた構えを立て直した。
「一応、名乗っとくかイ?俺ァ、『アヴェンジャー』。『
そう、青年改めアヴェンジャーは、にやっと笑いかけてきた。
それでもなお警戒を解かない未来に、今度は参ったなと言いたげにため息。
乱暴に頭をかいて、向き直った。
「まあいいや、ちょうどお前さんとは話してみたいって思ってたんだ。この際ちょうどいい」
「話?」
「おうよ」
言うなり、アヴェンジャーは手ごろな瓦礫に座る。
その様子を見た未来も、今すぐ戦闘にはならないと判断して武器を下ろした。
「聞きたいのは他でも無ェ、迫害した連中についてだ」
「・・・・ッ」
いきなり核心に触れるような話題に、顔をしかめてしまう未来。
それを知ってか知らずか、アヴェンジャーはかまわず続ける。
「正直なところ、どう思ってんだよ?」
「・・・・どう、って?」
未来は、一応警戒を続けたまま聞き返す。
「おめーさんも、被害にあった張本人である立花も、連中に対して何か動いたわけでもない。それどころか、こうやって俺達と敵対して、守ろうとすらしている」
そこまで言われて、未来は納得がいった。
要するに、彼らにとって怨敵と言うべき『加害者達』を、何故野放しにするかと言うことだろう。
先日リブラを討ち取ったことから、こちらが彼らを敵と見なしているのは明白。
だからこそ、聞きたいのだ。
仲間であるはずの我々が、何故敵対しているのかと。
「・・・・わたしは」
未来はまず口火を切って、それっきり考え込んでしまう。
アヴェンジャーも特に急かすことなく、ただ黙して言葉を待つ。
束の間、風と熱気が吹き抜けて。
「・・・・わたしは、響がもう傷つかないのなら、何でもいい」
いつの間にか俯いていた顔を上げて、未来はアヴェンジャーを見据える。
「そもそも、響が責められることになった原因は、わたしにあるから、わたしがあの日、響を置いてけぼりにしたから、だから」
胸のうちを吐き出す、言葉を紡ぐ。
一歩間違えば、支離滅裂になりそうだ。
「・・・・わたしに、こんな仕返しをする資格なんて、ない」
首を振りながら、半ば無理やりに締めくくった。
アヴェンジャーは束の間黙して、未来を凝視する。
が、やがて口を開いた。
「じゃあ、立花は?あいつはどうなんだ?」
「・・・・ッ」
まるで、メンタルに決定打を加えられたような感覚。
未来と違う、被害者本人である響が。
本当に想っている事。
「――――わからない」
同じ質問をしてみても、響はただ笑って誤魔化すだけ。
露骨に話題をそらされたり、タイミング悪く横槍が入ったり。
・・・・・響の本音が分かるわけじゃない。
落ち込んでいたり、嬉しそうにしているのは分かっても。
根っこの部分でどう思っているか、読み取れるわけじゃない。
――――それでも。
「わからない、けど」
それでも、何故だか断言できた。
「響は、ここまで、望んでない」
見渡す。
あちこちで上がる火の手、壊された家屋。
煤けた風に乗ってかすかに聞こえるのは、人々の悲鳴と呻き声。
こんな、こんな地獄だけは。
絶対に望んでいないと、確信していた。
「―――――本当にか?」
だけど。
その鋭い目に圧されて、思わず後ずさった。
「・・・・本当にって、疑うの?」
「疑うしかネェな」
どこか吐き捨てるような否定に、心が揺さぶられる。
「確かにやりすぎてる自覚はあるけどヨォ?程度は違えど、復讐してぇって思いは同じだろ」
「そ、れは・・・・」
「人の腹のうちってナァ、見えないからこそおっかない。あいつだって、実際は俺達と同じか、もしかしたらそれ以上のモツを抱えてるってこともある」
人の悪意にさらされたが故の言葉。
親しいと、味方だと信じていたから。
邪見にされ、煙たがられ、爪弾きにされたときの絶望と失望は。
きっと誰よりも、濃く、深く。
未来には、心当たりや覚えしかなかった。
だからこそ、アヴェンジャーの言葉はずっしりとのしかかってきた。
「お前、分かってんのか?」
そんな心情を知ってか知らずか。
アヴェンジャーは、とどめとも言うべき言葉を放つ。
「立花の腹ん中、本当に分かってんのかよ?」
「―――――」
――――燻っていた不安を、焚きつけられた。
慌てて消し止めようにも、もう遅かった。
燃え上がった感情は、留まるところを知らない。
アヴェンジャーの言うとおり、本当は分かっていない。
恐れていたとも言うべきか。
いつも気の抜けた笑みを浮かべる響が、本当は何を考えているのかなんて。
そして、それを知るのが怖いとも思っていた。
もし、隠れているものが、今周囲にある光景よりも、もっともっとおぞましいものだとしたら。
きっと、それを生み出す原因になったのは、自分だから。
大切な響を、大好きな響を。
そんなバケモノに変貌させてしまったことに、きっと耐えられなくなる。
「――――ところで、お前さんの前にいるんは敵なんだけど。ぼうっとしてていいんかい?」
そして、それが仇になった。
前が陰る。
見上げると、振り上げられた刃。
咄嗟に構えたときには、既に衝撃が。
左肩、鈍い痛み。
目をずらせば、受けきれなかった刃が食い込んでいた。
裂けた肌のあちこちで、赤い雫がぷつぷつ膨らんで。
次の瞬間、勢い良く噴き出した。
「ああああああ・・・・!」
痛みに思わず悲鳴を上げる。
その間にも刃は、更に食らいつこうと食い込んでくる。
視界が赤く染まる、脳内でアラートが騒ぐ。
――――死ぬ。
これ以上ここにいたら、間違いなく、死ぬ・・・・!
「あああああ、っぐ・・・・くうううううううううう・・・・!」
せめて相手を引き離そうと、割り込ませた鉄扇で押し返そうとする。
しかし、痛みの所為で上手く力が入らない。
刃が動く、引かれている。
このままでは、斬られる・・・・!
「・・・・ッ」
痛みに怯える一方で、腹を決めるしかないかと覚悟を決めて。
「――――はぁッ!!!」
敵との隙間に、割り込む『黒』。
柔く撓ったそれは、アヴェンジャーを大きく弾き飛ばした。
力が抜けて傾いた体を、いつもの優しい腕が受け止めてくれる。
「怪我は?」
「・・・・ッ・・・・ぅん」
ああ、やっぱり。
どれほどの不安を抱いていようとも。
響の笑顔を見てしまうと、どうしようもなく安心を覚えたのだった。
前を見てみると、相手を退けるように立ちはだかるマリアが。
なびくマントが、彼女の猛りを表しているようだった。
と、響の手にも力が篭ったのが分かる。
もしかしなくても、未来を傷つけたことを怒っているのだろう。
心配させてしまった罪悪感半分、大切に思われている嬉しさ半分の気持ちで見上げていると。
「・・・・ここは任せてもらえないかしら」
マリアが、不意にそう提案してきた。
「マリアさん?」
「お願い、こいつには諸々物申したいことが出来たの。叶うなら、一対一で」
首を傾けて向けられた目には、何か強いものが宿っていて。
束の間渋っていた響も、それを感じ取ったのだろう。
「・・・・・気を付けて下さいね」
やがて小さく頷くと、未来を抱えなおして大きく跳躍。
一気にその場を離脱した。
「――――随分大きく出たじゃネェか、歌姫さんヨォ?」
獰猛な笑みへ、マリアは烈槍の切っ先を向ける。
消化するようで消化しない、少し消化する試合にするためには・・・・・。
どうしたらいいんでしょ?(