チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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ご感想お返事できずすみません。
きちんと目を通してます、通知が来るたび「わーい!やったー!」とどったんばったん大騒ぎしております(


ジャイアントキリングなんて、そう都合よく起こらない

――――旅の中で見慣れてしまった所為(おかげ)か。

今更死体を見ても吐くことは無くなった。

それでも、まかり間違ってもいい気分にはなれない。

過ぎるたびに舞う炭を目の当たりにして、未来は苦い顔を隠しきれなかった。

現在未来は、クリスと分かれて単独行動中である。

生存者の救出は、以前と違って自衛隊が動けていることもあり。

結果、ノイズの討伐に専念することが出来ていた。

 

「やぁッ!」

 

もう何度目か分からない掛け声と攻撃。

体の火照りが、炎の所為か動いた所為か分からないくらいになった頃には、戦い方も大分様になってきていた。

伝う汗を拭いながら、一息。

油断などするつもりはないが、自身の向上を実感できる今は、少し気分が高揚してもしょうがないと自己完結する。

 

『響ちゃん達が現場に入ったと連絡があったわ、そろそろ撤退の準備を』

「はい!」

 

とはいえ、今の自分はひよっこになれているかどうかも怪しい新米。

下手な自己判断で、足を引っ張ることだけはしたくない。

耳元で聞こえた声に了解を告げ、来た道を引き返そうとして。

 

『ッ未来ちゃんの近辺に、高速で接近する反応!』

『これは・・・・ッ離脱急いで!未来ちゃんッ!!』

 

焦るオペレーター達に、どういうことか聞き返そうとして。

瞬間、背後に何かが転がってきた。

 

「――――――!―――――ッ!!」

 

何事かと振り向けば、瓦礫に埋もれてもがく人間。

土と血に汚れている上、上げている悲鳴が甲高い所為で男女の区別がつかない。

だが、生存者であるのなら、見捨てる道理は無かった。

 

「ッ今行き――――!!」

 

瓦礫を避けるために浮遊し、駆けつけようとした目の前で。

飛来した凶器が、その命を刈り取った。

体は瓦礫に沈んで見えなくなったが、飛び散った血が末路を物語っていて。

 

「――――ッ!!」

 

珍しく頭に血が上った未来は、凶器が飛んで来た方向を睨みつけた。

 

「――――ありゃ、いたのか」

 

悠然と歩いてきたのは、二課の資料映像でも見た青年。

確か、一番最初に接触した『執行者団(パニッシャーズ)』だったはずだ。

こちらを気に掛けつつ余裕の態度を見せ付ける彼は、突き刺さった得物を回収した。

抜き取ったときにまた血が飛び散り、それが未来の警戒心をさらに引き上げる。

簡単に逃げられるとは思えないが、勝てるとも思えない。

鉄扇を握り締めて、身構えた。

 

「ヤル気・・・・ってわけでもネェか。ま、普通逃げられるとは思わんわな」

 

気だるげに大剣を肩に担いで、ため息。

思わずこちらの戦意がそがれそうになるが、未来は何とか崩れかけた構えを立て直した。

 

「一応、名乗っとくかイ?俺ァ、『アヴェンジャー』。『執行者団(パニッシャーズ)』の一人だ」

 

そう、青年改めアヴェンジャーは、にやっと笑いかけてきた。

それでもなお警戒を解かない未来に、今度は参ったなと言いたげにため息。

乱暴に頭をかいて、向き直った。

 

「まあいいや、ちょうどお前さんとは話してみたいって思ってたんだ。この際ちょうどいい」

「話?」

「おうよ」

 

言うなり、アヴェンジャーは手ごろな瓦礫に座る。

その様子を見た未来も、今すぐ戦闘にはならないと判断して武器を下ろした。

 

「聞きたいのは他でも無ェ、迫害した連中についてだ」

「・・・・ッ」

 

いきなり核心に触れるような話題に、顔をしかめてしまう未来。

それを知ってか知らずか、アヴェンジャーはかまわず続ける。

 

「正直なところ、どう思ってんだよ?」

「・・・・どう、って?」

 

未来は、一応警戒を続けたまま聞き返す。

 

「おめーさんも、被害にあった張本人である立花も、連中に対して何か動いたわけでもない。それどころか、こうやって俺達と敵対して、守ろうとすらしている」

 

そこまで言われて、未来は納得がいった。

要するに、彼らにとって怨敵と言うべき『加害者達』を、何故野放しにするかと言うことだろう。

先日リブラを討ち取ったことから、こちらが彼らを敵と見なしているのは明白。

だからこそ、聞きたいのだ。

仲間であるはずの我々が、何故敵対しているのかと。

 

「・・・・わたしは」

 

未来はまず口火を切って、それっきり考え込んでしまう。

アヴェンジャーも特に急かすことなく、ただ黙して言葉を待つ。

束の間、風と熱気が吹き抜けて。

 

「・・・・わたしは、響がもう傷つかないのなら、何でもいい」

 

いつの間にか俯いていた顔を上げて、未来はアヴェンジャーを見据える。

 

「そもそも、響が責められることになった原因は、わたしにあるから、わたしがあの日、響を置いてけぼりにしたから、だから」

 

胸のうちを吐き出す、言葉を紡ぐ。

一歩間違えば、支離滅裂になりそうだ。

 

「・・・・わたしに、こんな仕返しをする資格なんて、ない」

 

首を振りながら、半ば無理やりに締めくくった。

アヴェンジャーは束の間黙して、未来を凝視する。

が、やがて口を開いた。

 

「じゃあ、立花は?あいつはどうなんだ?」

「・・・・ッ」

 

まるで、メンタルに決定打を加えられたような感覚。

未来と違う、被害者本人である響が。

本当に想っている事。

 

「――――わからない」

 

同じ質問をしてみても、響はただ笑って誤魔化すだけ。

露骨に話題をそらされたり、タイミング悪く横槍が入ったり。

・・・・・響の本音が分かるわけじゃない。

落ち込んでいたり、嬉しそうにしているのは分かっても。

根っこの部分でどう思っているか、読み取れるわけじゃない。

――――それでも。

 

「わからない、けど」

 

それでも、何故だか断言できた。

 

「響は、ここまで、望んでない」

 

見渡す。

あちこちで上がる火の手、壊された家屋。

煤けた風に乗ってかすかに聞こえるのは、人々の悲鳴と呻き声。

こんな、こんな地獄だけは。

絶対に望んでいないと、確信していた。

 

「―――――本当にか?」

 

だけど。

その鋭い目に圧されて、思わず後ずさった。

 

「・・・・本当にって、疑うの?」

「疑うしかネェな」

 

どこか吐き捨てるような否定に、心が揺さぶられる。

 

「確かにやりすぎてる自覚はあるけどヨォ?程度は違えど、復讐してぇって思いは同じだろ」

「そ、れは・・・・」

「人の腹のうちってナァ、見えないからこそおっかない。あいつだって、実際は俺達と同じか、もしかしたらそれ以上のモツを抱えてるってこともある」

 

人の悪意にさらされたが故の言葉。

親しいと、味方だと信じていたから。

邪見にされ、煙たがられ、爪弾きにされたときの絶望と失望は。

きっと誰よりも、濃く、深く。

未来には、心当たりや覚えしかなかった。

だからこそ、アヴェンジャーの言葉はずっしりとのしかかってきた。

 

「お前、分かってんのか?」

 

そんな心情を知ってか知らずか。

アヴェンジャーは、とどめとも言うべき言葉を放つ。

 

「立花の腹ん中、本当に分かってんのかよ?」

「―――――」

 

――――燻っていた不安を、焚きつけられた。

慌てて消し止めようにも、もう遅かった。

燃え上がった感情は、留まるところを知らない。

アヴェンジャーの言うとおり、本当は分かっていない。

恐れていたとも言うべきか。

いつも気の抜けた笑みを浮かべる響が、本当は何を考えているのかなんて。

そして、それを知るのが怖いとも思っていた。

もし、隠れているものが、今周囲にある光景よりも、もっともっとおぞましいものだとしたら。

きっと、それを生み出す原因になったのは、自分だから。

大切な響を、大好きな響を。

そんなバケモノに変貌させてしまったことに、きっと耐えられなくなる。

 

「――――ところで、お前さんの前にいるんは敵なんだけど。ぼうっとしてていいんかい?」

 

そして、それが仇になった。

前が陰る。

見上げると、振り上げられた刃。

咄嗟に構えたときには、既に衝撃が。

左肩、鈍い痛み。

目をずらせば、受けきれなかった刃が食い込んでいた。

裂けた肌のあちこちで、赤い雫がぷつぷつ膨らんで。

次の瞬間、勢い良く噴き出した。

 

「ああああああ・・・・!」

 

痛みに思わず悲鳴を上げる。

その間にも刃は、更に食らいつこうと食い込んでくる。

視界が赤く染まる、脳内でアラートが騒ぐ。

――――死ぬ。

これ以上ここにいたら、間違いなく、死ぬ・・・・!

 

「あああああ、っぐ・・・・くうううううううううう・・・・!」

 

せめて相手を引き離そうと、割り込ませた鉄扇で押し返そうとする。

しかし、痛みの所為で上手く力が入らない。

刃が動く、引かれている。

このままでは、斬られる・・・・!

 

「・・・・ッ」

 

痛みに怯える一方で、腹を決めるしかないかと覚悟を決めて。

 

「――――はぁッ!!!」

 

敵との隙間に、割り込む『黒』。

柔く撓ったそれは、アヴェンジャーを大きく弾き飛ばした。

力が抜けて傾いた体を、いつもの優しい腕が受け止めてくれる。

 

「怪我は?」

「・・・・ッ・・・・ぅん」

 

ああ、やっぱり。

どれほどの不安を抱いていようとも。

響の笑顔を見てしまうと、どうしようもなく安心を覚えたのだった。

前を見てみると、相手を退けるように立ちはだかるマリアが。

なびくマントが、彼女の猛りを表しているようだった。

と、響の手にも力が篭ったのが分かる。

もしかしなくても、未来を傷つけたことを怒っているのだろう。

心配させてしまった罪悪感半分、大切に思われている嬉しさ半分の気持ちで見上げていると。

 

「・・・・ここは任せてもらえないかしら」

 

マリアが、不意にそう提案してきた。

 

「マリアさん?」

「お願い、こいつには諸々物申したいことが出来たの。叶うなら、一対一で」

 

首を傾けて向けられた目には、何か強いものが宿っていて。

束の間渋っていた響も、それを感じ取ったのだろう。

 

「・・・・・気を付けて下さいね」

 

やがて小さく頷くと、未来を抱えなおして大きく跳躍。

一気にその場を離脱した。

 

「――――随分大きく出たじゃネェか、歌姫さんヨォ?」

 

獰猛な笑みへ、マリアは烈槍の切っ先を向ける。




消化するようで消化しない、少し消化する試合にするためには・・・・・。
どうしたらいいんでしょ?(

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