感想欄の阿鼻叫喚に喜んでしまうあたり、どうやら愉悦部員らしいぞと思い始めた今日この頃ですwww(
いえ、好きなのはハッピーエンドですよ?本当ですよ?(
誰もがまさかと愕然とし、同時についに来たかとも思った。
先日行われたネフィリムの起動実験。
結果だけ見れば成功に思えた。
・・・・響の一時離脱と言う、最悪すぎる犠牲を払うことで。
ネフィリムに体の六割半を貪られた響は、また当然のように体を再生させた。
そして、新たな障害を発症させたのだ。
完全な失明と、失声症。
響はもう、一切の景色を見ることも、誰かと言葉を交わして笑いあうことも叶わない。
これがまだ喉だけだったのなら、筆談などでコミュニケーションを取れたのだが。
今となっては後の祭りだった。
「・・・・ひび、き」
診断を聞き終えてからずっと、どこか難しい顔をして俯いた響へ。
未来は震える手を伸ばす。
気付いてこちらに目を向けた響は、束の間きょとんとしていたが。
未来のおぼつかない指先が触れたことで、何となく察したらしい。
安心させるように柔和な笑みを浮かべながら、そっと握り返した。
「――――ぁ」
相変わらず体温の無い冷たい手。
代わりに握ってくれている力加減から、その優しさが伝わってきて。
「ぁ・・・・ああ・・・・!」
だからこそ未来は、大粒の涙を流す。
嘆きと共に、がっくり項垂れる。
自身が情けなくてたまらない。
ただ響の力になりたくて、だからギアを纏ったのに。
それがどうだ。
大して役に立てないどころか、こうやって足を引っ張って。
「ご、めんなさぃ・・・・!」
いや、障害程度で済んでいる今ならまだいい。
実験のときなんか、自分がもたついてしまったばっかりに、響に大怪我を負わせて。
そのツケが、響を苦しめていて。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・!!」
未来は、悔しかった。
悔しくて悔しくて、後悔で身が張り裂けそうで。
同時に、罪悪感にも押しつぶされそうになって。
「はぁ、はぁ、は・・・・っは、ひゅ・・・・・」
その心が、体を侵し始める。
喉が引きつる、呼吸がままならなくなる。
半開きの口元からは、笛のような情けない音が連続して鳴る。
「ひゅぅ・・・・ご、ほ・・・・ぇふ・・・・ひゅぅ、ひゅ・・・・!」
目の前が濁って、喉がからからになる。
なのに、空気を求めずにいられない。
「――――?――――!」
響が、声はなくとも、息遣いで案じてくれるのが分かる。
答えようと口を動かせば、なお空気が大量に入り込んでくる。
頭が働かない、響が悲しそうな顔をしているのに。
今の未来には、何も出来ない。
それがまた悔しさを助長させて、さらに多くの酸素を取り込もうとして。
「――――小日向」
その呼吸を止めたのは、見舞いに来てくれていた翼だった。
「小日向、落ち着け、大丈夫、大丈夫だから・・・・立花」
さっと手を割り込ませ、未来の口を一旦遮断した彼女は。
未来の頭を優しく撫でながら、響へ一声。
意図を読み取った響は、未来を柔く抱き寄せる。
「小日向、返事はなくともいい。立花の鼓動は聞こえるな?」
「はぁ、は、は・・・・ひゅ・・・・ふっ・・・・」
響の胸に顔を押し当てられた未来は、目を閉じる。
額に意識を集中させれば、確かに感じる脈動。
「そのまま、呼吸をゆっくり、鼓動のテンポに合わせるんだ。深くは吸わなくていい、浅いままでいいから」
なお未来の頭を撫で続けながら語りかける、翼の声に従って。
響の鼓動を必死に聞き取りながら、テンポを下げようとする。
「ひゅ、げほ・・・・!」
と、唾液が喉に入り込んで咽た。
乾いていたことも相俟って、かなり痛い。
だが、今は咳き込んでいる余裕なんて、
「焦るな、焦らなくていい、時間を掛けていい」
そんな不安を、翼は見透かしてくれていた。
響と一緒に背中をさすりながら、粘り強く話しかける。
「ゆっくり、ゆっくりでいい・・・・そう、小日向のペースでいい、私も立花も待っててやるから」
「――――ッ」
翼の言葉を、響は力強く頷いて肯定する。
二人の優しさに少しの安堵を覚えた未来は、見開いていた目を一度閉じて、呼吸に集中する。
一分、二分と時間が過ぎる。
秒針が周回を重ねるたび、未来の呼吸は落ち着いてきた。
「――――」
ふと、響がさらに強く抱きすくめてくる。
密着したことで、先ほどよりもはっきり鼓動が聞こえる。
たまらず未来も抱き返しながら、息を吸って、吐く。
「・・・・・はああぁ」
そうして、長針が次の数字にたどり着いた頃。
未来は大きく息を吐いて、ようやく落ち着いたのだった。
一息ついた未来の頭を、響は優しい手つきで撫で続けていた。
「――――慣れているのね」
「マリア。ああ、そうだな・・・・」
いつの間に来ていたマリアに、少し驚いた翼は。
過去を想起するように、足元へ目をやって。
「私も、覚えがあるからな」
「・・・・そう」
どこか感慨深げに呟いた翼に、マリアはそれ以上追及しなかった。
ふと目を向ければ、未だ響に縋りつく未来が。
「・・・・見舞いとは言え、これは邪魔するものではないわね」
「だな、馬に蹴られてはたまらん・・・・立花、私達はこれで失礼する」
立ち上がりつつ、翼がそう言うと。
響は呑気に手を振って見送ってくれた。
閑話休題。
「それで、マリアは何用で立花の下へ?」
「あら、見舞いに理由がなきゃダメ?」
二課の息がかかった病院。
マリアと連れ立って歩く翼は、ふと隣へ目をやる。
対するマリアは、どこかからかうように笑みを浮かべたが。
それを受けた翼は、即座に目を細めて。
「誤魔化せたと思ったか?立花達は気付いていないようだったが・・・・入ってきたときのお前、とても見舞いに来たような顔ではなかったぞ」
「・・・・・気付いていたのね」
指摘に驚き、立ち止まるマリア。
数歩先へ行った翼を凝視してから、参りましたといわんばかりに両手を上げた。
「お前と立花の間、浅からぬ因縁があることは重々承知している。だが、これ以上あの子に・・・・」
「そうじゃないわよ」
どこか威圧的になってきた翼を宥めるように、呆れた声で制止するマリア。
「そうじゃないけど・・・・そうね」
いくばくか落ち着きを取り戻す翼の前で、マリアはしばし考え込む。
やがて結論が出たのか一つ頷いて、完全に平静になった翼へ向き直った。
「少し、付き合ってくれない?」
真剣な顔つきになったマリアに、十中八九何かあると読んだ翼は。
ただ一つ頷いた。
一言礼を述べたマリアは、早速移動を開始。
「――――実は」
人気の無い一角のベンチに一緒になって腰を下ろすと、マリアは早速語り出した。
内容はつい数日前、自分が入院していたときに、響が見舞いに来てくれたときの会話。
そこで取り交わされた、ある『約束』。
話を聞いていた翼の顔は、目が見る見る見開かれていく。
歌手としての彼女だけ知る者からすれば珍しい、驚愕を全面に押し出した顔になった翼は。
ただただその信じられなさに、首を横に振るしか出来なくて、
「いや、待て」
自分を落ち着かせるために、顔を手で覆って項垂れる。
「仮にそうする必要が出てきたとして、果たして達成出来るのか?アレを見る限り、どうも不可能なような気がするんだが」
「私もそう言ったのよ。そしたらあの子ったら、ニコニコ笑って・・・・『続けたら、出来るかもしれませんよ』って」
「あの大馬鹿者・・・・!」
その時していたであろう、満面の笑みが容易に想像できて。
翼はとうとう項垂れてしまった。
「・・・・ただ、気持ちは分からないでもないけれど」
そんな翼へ少し面白そうに微笑んだマリアは、そう零す。
「だって、あなた達に出会うまで、味方なんてあの子くらいしかいなかったのでしょう?だからこそ、あの時私を全力で叩きのめしたのだし・・・・」
疑問を持って見上げてきた翼に、とつとつ語りかける。
「『あの子を守る』・・・・その行動理念が、今でも濯ぎきれていないのよ」
「・・・・小日向を害するものは、尽くを蹂躙する、か」
「例えそれが、自分自身であったとしても、ね」
マリアが付け加えた一文に、翼はまた頭を抱えた。
「私も、F.I.S.で、マムや切歌達と出会うまではそうだったから・・・・誰もが何時死ぬか分からない中、足手まといの子どもなんて、守る余裕ないもの」
そしてその中を、当時存命だった妹と一緒に生き延びた。
誰も守ってくれない、誰も助けてくれない。
似たような状況に身を置いていたからこそ、響の必死さも分からないわけではないのだ。
「というか、この話は司令達には?」
「まだよ・・・・この約束が、どうも生命線のようになっている節があるから」
ふと疑問に思った翼が、一度顔を上げて問いかけるものの。
マリアの返事に、また頭を押さえた。
「確かに、司令達なら全力で止めにかかるな」
「だけどあの子にとって耐え難いのは、他ならぬ自分が手にかけること。ならばいっそ、ということでしょう」
当然、翼達だってそんな結果にならないよう全力を尽くす。
だがここの所を鑑みるに、万が一が無いなんてとても言い切れなかった。
◆ ◆ ◆
とうとう一人になった彼。
目を閉じ、頬杖を突いてなにやら考え込んでいると。
ふいに、その目が開いた。
「――――おや、貴女でしたか」
「ハァイ、お久しぶり」
その背後。
椅子の背もたれに腰掛けてくる、エキゾチックな女性。
「随分大暴れしてるみたいね」
「申し訳ありません、もう少し抑えた方がよかったですかな?」
「あはは、逆よ逆!世界中の目が日本に向いてるから、動きやすくって。あーし達助かっているわ」
「それはよかった」
テンション高く褒め言葉を告げた女性だったが、ふと周囲を見渡す。
「それにしても、ここも大分静かになったわね。あんたはまだ暴れないの?」
「そうしたいのは山々ではありますが、私の場合『アレ』が起きないことにはどうにも・・・・」
「あらら、じゃあそれまで大人しくしているの?」
「ええ、そのつもりではありますが・・・・しかし・・・・」
どこか歯切れ悪く答えた彼。
女性は急かしはしないが、どこか興味深そうに覗き込んでいる。
「そうですね・・・・『事』を起こす前に、確かめたいことはあります」
「へぇ?」
他の二人とは違い、どこか大人しい性格の彼。
そんな彼が積極的に確かめたい事柄に、女性の目は興味に細められた。
梶浦由紀さんの魔力にはめられた所為か、自作で悪役をしゃべらせると、『ship of fools』が自動的に流れるようになりました。
・・・・ツバサのアニメ、原作沿いで見たいっすわぁ(