チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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わたくし、いたって平凡な人間であると思っておりましたが。
感想欄の阿鼻叫喚に喜んでしまうあたり、どうやら愉悦部員らしいぞと思い始めた今日この頃ですwww(
いえ、好きなのはハッピーエンドですよ?本当ですよ?(


砂の上のインターバル

誰もがまさかと愕然とし、同時についに来たかとも思った。

先日行われたネフィリムの起動実験。

結果だけ見れば成功に思えた。

・・・・響の一時離脱と言う、最悪すぎる犠牲を払うことで。

ネフィリムに体の六割半を貪られた響は、また当然のように体を再生させた。

そして、新たな障害を発症させたのだ。

完全な失明と、失声症。

響はもう、一切の景色を見ることも、誰かと言葉を交わして笑いあうことも叶わない。

これがまだ喉だけだったのなら、筆談などでコミュニケーションを取れたのだが。

今となっては後の祭りだった。

 

「・・・・ひび、き」

 

診断を聞き終えてからずっと、どこか難しい顔をして俯いた響へ。

未来は震える手を伸ばす。

気付いてこちらに目を向けた響は、束の間きょとんとしていたが。

未来のおぼつかない指先が触れたことで、何となく察したらしい。

安心させるように柔和な笑みを浮かべながら、そっと握り返した。

 

「――――ぁ」

 

相変わらず体温の無い冷たい手。

代わりに握ってくれている力加減から、その優しさが伝わってきて。

 

「ぁ・・・・ああ・・・・!」

 

だからこそ未来は、大粒の涙を流す。

嘆きと共に、がっくり項垂れる。

自身が情けなくてたまらない。

ただ響の力になりたくて、だからギアを纏ったのに。

それがどうだ。

大して役に立てないどころか、こうやって足を引っ張って。

 

「ご、めんなさぃ・・・・!」

 

いや、障害程度で済んでいる今ならまだいい。

実験のときなんか、自分がもたついてしまったばっかりに、響に大怪我を負わせて。

そのツケが、響を苦しめていて。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・!!」

 

未来は、悔しかった。

悔しくて悔しくて、後悔で身が張り裂けそうで。

同時に、罪悪感にも押しつぶされそうになって。

 

「はぁ、はぁ、は・・・・っは、ひゅ・・・・・」

 

その心が、体を侵し始める。

喉が引きつる、呼吸がままならなくなる。

半開きの口元からは、笛のような情けない音が連続して鳴る。

 

「ひゅぅ・・・・ご、ほ・・・・ぇふ・・・・ひゅぅ、ひゅ・・・・!」

 

目の前が濁って、喉がからからになる。

なのに、空気を求めずにいられない。

 

「――――?――――!」

 

響が、声はなくとも、息遣いで案じてくれるのが分かる。

答えようと口を動かせば、なお空気が大量に入り込んでくる。

頭が働かない、響が悲しそうな顔をしているのに。

今の未来には、何も出来ない。

それがまた悔しさを助長させて、さらに多くの酸素を取り込もうとして。

 

「――――小日向」

 

その呼吸を止めたのは、見舞いに来てくれていた翼だった。

 

「小日向、落ち着け、大丈夫、大丈夫だから・・・・立花」

 

さっと手を割り込ませ、未来の口を一旦遮断した彼女は。

未来の頭を優しく撫でながら、響へ一声。

意図を読み取った響は、未来を柔く抱き寄せる。

 

「小日向、返事はなくともいい。立花の鼓動は聞こえるな?」

「はぁ、は、は・・・・ひゅ・・・・ふっ・・・・」

 

響の胸に顔を押し当てられた未来は、目を閉じる。

額に意識を集中させれば、確かに感じる脈動。

 

「そのまま、呼吸をゆっくり、鼓動のテンポに合わせるんだ。深くは吸わなくていい、浅いままでいいから」

 

なお未来の頭を撫で続けながら語りかける、翼の声に従って。

響の鼓動を必死に聞き取りながら、テンポを下げようとする。

 

「ひゅ、げほ・・・・!」

 

と、唾液が喉に入り込んで咽た。

乾いていたことも相俟って、かなり痛い。

だが、今は咳き込んでいる余裕なんて、

 

「焦るな、焦らなくていい、時間を掛けていい」

 

そんな不安を、翼は見透かしてくれていた。

響と一緒に背中をさすりながら、粘り強く話しかける。

 

「ゆっくり、ゆっくりでいい・・・・そう、小日向のペースでいい、私も立花も待っててやるから」

「――――ッ」

 

翼の言葉を、響は力強く頷いて肯定する。

二人の優しさに少しの安堵を覚えた未来は、見開いていた目を一度閉じて、呼吸に集中する。

一分、二分と時間が過ぎる。

秒針が周回を重ねるたび、未来の呼吸は落ち着いてきた。

 

「――――」

 

ふと、響がさらに強く抱きすくめてくる。

密着したことで、先ほどよりもはっきり鼓動が聞こえる。

たまらず未来も抱き返しながら、息を吸って、吐く。

 

「・・・・・はああぁ」

 

そうして、長針が次の数字にたどり着いた頃。

未来は大きく息を吐いて、ようやく落ち着いたのだった。

一息ついた未来の頭を、響は優しい手つきで撫で続けていた。

 

「――――慣れているのね」

「マリア。ああ、そうだな・・・・」

 

いつの間に来ていたマリアに、少し驚いた翼は。

過去を想起するように、足元へ目をやって。

 

「私も、覚えがあるからな」

「・・・・そう」

 

どこか感慨深げに呟いた翼に、マリアはそれ以上追及しなかった。

ふと目を向ければ、未だ響に縋りつく未来が。

 

「・・・・見舞いとは言え、これは邪魔するものではないわね」

「だな、馬に蹴られてはたまらん・・・・立花、私達はこれで失礼する」

 

立ち上がりつつ、翼がそう言うと。

響は呑気に手を振って見送ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、マリアは何用で立花の下へ?」

「あら、見舞いに理由がなきゃダメ?」

 

二課の息がかかった病院。

マリアと連れ立って歩く翼は、ふと隣へ目をやる。

対するマリアは、どこかからかうように笑みを浮かべたが。

それを受けた翼は、即座に目を細めて。

 

「誤魔化せたと思ったか?立花達は気付いていないようだったが・・・・入ってきたときのお前、とても見舞いに来たような顔ではなかったぞ」

「・・・・・気付いていたのね」

 

指摘に驚き、立ち止まるマリア。

数歩先へ行った翼を凝視してから、参りましたといわんばかりに両手を上げた。

 

「お前と立花の間、浅からぬ因縁があることは重々承知している。だが、これ以上あの子に・・・・」

「そうじゃないわよ」

 

どこか威圧的になってきた翼を宥めるように、呆れた声で制止するマリア。

 

「そうじゃないけど・・・・そうね」

 

いくばくか落ち着きを取り戻す翼の前で、マリアはしばし考え込む。

やがて結論が出たのか一つ頷いて、完全に平静になった翼へ向き直った。

 

「少し、付き合ってくれない?」

 

真剣な顔つきになったマリアに、十中八九何かあると読んだ翼は。

ただ一つ頷いた。

一言礼を述べたマリアは、早速移動を開始。

 

「――――実は」

 

人気の無い一角のベンチに一緒になって腰を下ろすと、マリアは早速語り出した。

内容はつい数日前、自分が入院していたときに、響が見舞いに来てくれたときの会話。

そこで取り交わされた、ある『約束』。

話を聞いていた翼の顔は、目が見る見る見開かれていく。

歌手としての彼女だけ知る者からすれば珍しい、驚愕を全面に押し出した顔になった翼は。

ただただその信じられなさに、首を横に振るしか出来なくて、

 

「いや、待て」

 

自分を落ち着かせるために、顔を手で覆って項垂れる。

 

「仮にそうする必要が出てきたとして、果たして達成出来るのか?アレを見る限り、どうも不可能なような気がするんだが」

「私もそう言ったのよ。そしたらあの子ったら、ニコニコ笑って・・・・『続けたら、出来るかもしれませんよ』って」

「あの大馬鹿者・・・・!」

 

その時していたであろう、満面の笑みが容易に想像できて。

翼はとうとう項垂れてしまった。

 

「・・・・ただ、気持ちは分からないでもないけれど」

 

そんな翼へ少し面白そうに微笑んだマリアは、そう零す。

 

「だって、あなた達に出会うまで、味方なんてあの子くらいしかいなかったのでしょう?だからこそ、あの時私を全力で叩きのめしたのだし・・・・」

 

疑問を持って見上げてきた翼に、とつとつ語りかける。

 

「『あの子を守る』・・・・その行動理念が、今でも濯ぎきれていないのよ」

「・・・・小日向を害するものは、尽くを蹂躙する、か」

「例えそれが、自分自身であったとしても、ね」

 

マリアが付け加えた一文に、翼はまた頭を抱えた。

 

「私も、F.I.S.で、マムや切歌達と出会うまではそうだったから・・・・誰もが何時死ぬか分からない中、足手まといの子どもなんて、守る余裕ないもの」

 

そしてその中を、当時存命だった妹と一緒に生き延びた。

誰も守ってくれない、誰も助けてくれない。

似たような状況に身を置いていたからこそ、響の必死さも分からないわけではないのだ。

 

「というか、この話は司令達には?」

「まだよ・・・・この約束が、どうも生命線のようになっている節があるから」

 

ふと疑問に思った翼が、一度顔を上げて問いかけるものの。

マリアの返事に、また頭を押さえた。

 

「確かに、司令達なら全力で止めにかかるな」

「だけどあの子にとって耐え難いのは、他ならぬ自分が手にかけること。ならばいっそ、ということでしょう」

 

当然、翼達だってそんな結果にならないよう全力を尽くす。

だがここの所を鑑みるに、万が一が無いなんてとても言い切れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とうとう一人になった彼。

目を閉じ、頬杖を突いてなにやら考え込んでいると。

ふいに、その目が開いた。

 

「――――おや、貴女でしたか」

「ハァイ、お久しぶり」

 

その背後。

椅子の背もたれに腰掛けてくる、エキゾチックな女性。

 

「随分大暴れしてるみたいね」

「申し訳ありません、もう少し抑えた方がよかったですかな?」

「あはは、逆よ逆!世界中の目が日本に向いてるから、動きやすくって。あーし達助かっているわ」

「それはよかった」

 

テンション高く褒め言葉を告げた女性だったが、ふと周囲を見渡す。

 

「それにしても、ここも大分静かになったわね。あんたはまだ暴れないの?」

「そうしたいのは山々ではありますが、私の場合『アレ』が起きないことにはどうにも・・・・」

「あらら、じゃあそれまで大人しくしているの?」

「ええ、そのつもりではありますが・・・・しかし・・・・」

 

どこか歯切れ悪く答えた彼。

女性は急かしはしないが、どこか興味深そうに覗き込んでいる。

 

「そうですね・・・・『事』を起こす前に、確かめたいことはあります」

「へぇ?」

 

他の二人とは違い、どこか大人しい性格の彼。

そんな彼が積極的に確かめたい事柄に、女性の目は興味に細められた。




梶浦由紀さんの魔力にはめられた所為か、自作で悪役をしゃべらせると、『ship of fools』が自動的に流れるようになりました。
・・・・ツバサのアニメ、原作沿いで見たいっすわぁ(

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