チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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コーヒー()ブレイク

心肺停止、してたってさー(白目)

我ながらよく生きてたと思う、うん。

でも、長い間寝てた割りに体はピンシャンしてるんよね。

前に比べたら鈍ってるけど、了子さん曰く『聖遺物の影響がなくなったからだろう』とのことで。

寝込んでたのは余り関係ないとの事だった。

で、これからのことなんだけど。

当然ながら、後は当初の目的である『月の軌道修正』を達成するのみとなってる。

要である神獣鏡のギアは、あの日の未来の自爆染みた行動の所為で、大分ボロボロになってしまったけれど。

フロンティアを起こすくらいには、上手いこと保っているみたい。

さすがにもう使い捨てみたいな状態らしいから、失敗は許されないみたいな感じだけど。

なんというか、神獣鏡ならいけるっしょ(適当)

ちなみに、『了子さんが存命だからギア作り放題じゃね?』とか一見思っちゃうけど。

公式発表において、シンフォギアの開発者はあくまで『フィーネ』さん。

で、そのフィーネさんと了子さんは別人ってことになってるから。

下手に修理できないとか、なんとか。

『やるとしても、時間を置かなきゃ難しいでしょうね』と、本人が語っていた。

なので、フロンティアを無事起動させたら、未来は一旦休みということになるらしい。

まあ、とにかく。

わたしという不安要素がなくなった二課は、現在フロンティア起動に向けた作戦を実行するため。

大海原を潜行しているところだった。

ギアを失って戦えなくなったわたしも一緒に乗船して、作戦を見届けることになっている。

 

「・・・・少し、いい?」

「なーに?」

 

で、その手持ち無沙汰な移動中。

調ちゃんと切歌ちゃんが、おずおずと話しかけてきた。

代表して口を開いた調ちゃんは、どこか真剣な顔だ。

 

「・・・・あなたは、何のために戦うの?」

「ギア失くしたわたしに言う?」

「いいから、答えて」

 

いつもの調子で流そうとすると、強い口調で言い返された。

ふむ、今日のはきちんと受け止めないといけないってことか。

・・・・・『何のために』、ねぇ。

 

「・・・・一言じゃ言えないかな、色んな理由で、たくさん傷つけてきたから」

「・・・・例えば?」

 

首をかしげる二人へ、背筋を正して指を折っていく。

 

「始めはただ死にたくなかった、次に奪われたくないから、その次は腹が立ったから」

 

思い返すと、本当に自分勝手な理由だなー。

 

「守りたいだの義憤だのは、結果的によくなった場合にだけくっ付いてきたおまけみたいなもんだよ。結局のところ突き詰めれば、そんな理由なんだから」

「・・・・・マリアと、戦ったときは?」

 

マリアさんと、か。

今いる部屋には、装者のみんながいる。

当然マリアさんも一緒の空間にいるわけで。

資料に没頭しているように見えて、意識がこっちに向いたのがわかった。

 

「・・・・・壊されたくない、かな」

「壊されたくない?」

 

切歌ちゃんへ、こっくり頷く。

 

「そのときお世話になってたマフィアは、割といい人達でね。すごく久しぶりだったんだ・・・・味方を殺さなくていいっていうのは」

 

いや、大分ブラックなことはやってたんだけどね?

それでも、今までの連中とは違った。

『ファフニール』だなんて渾名されるようになった一番の理由の、未来への手出しもしなかったことが大きい。

日本に戻るって目的にも理解を示してくれて、半年前に船で送ってくれたのも彼らだった。

 

「・・・・それを、マリアが壊そうとしたんデスか」

「残念なことにね」

 

マリアさんに下された命令は、わたしの確保。

あの仲間達から、平穏から、何より未来から引き離しかねない。

そんな指令だった。

・・・・いやだった。

暖かい場所から離れるのが、とんでもなくいやだった。

何より、あの迫害のように、どこの誰とも知れない他人に、好き勝手されるのが。

どんな道を外れた行為よりも、イラついた。

 

「だから全力で抵抗したんだ・・・・殺そうとすら思っていた」

「・・・・ッ」

 

正直に白状すれば、二人の顔が怖くなった。

まあ、ですよねー。

 

「・・・・だからわたしは、二人の恨みを否定しない・・・・今まで散々殺してきたんだから、逆にそうされたってしょうがない」

「・・・・あんたは」

 

と、ここで。

切歌ちゃんが口を開く。

かつてマリアさんへ抱いた殺意を暴露したからか、声は震えていた。

 

「あんたは、どうなんデスか?」

「どう、って?」

「あんただって、理不尽にされたデス。そもそも、迫害とやらが無かったら、日本を飛び出すこともなかったデス、それに、マリアだって・・・・・!」

 

・・・・わたしが、迫害を受けていなかったら。

日本を飛び出すことが無かったら。

そもそもマリアさんに指令が下ることなく、あんな大怪我もしなかった。

 

「あんたはどうなんデスか、恨んでないんですか・・・・!?」

 

・・・・恨み。

恨み、ねぇ。

ああ、自分でも分かる。

わたし今、とんでもなく枯れた顔してる。

 

「・・・・最初は感じてたかもしれないけど、今はもう何とも思わないや」

「何とも?」

「うん、なんとも」

 

あのときが蘇る。

感情が枯れていく。

凪いで、凪いで、凪いで。

波紋一つ、起きないで。

あ、ちょっとやばいかも。

 

「そんなことに時間裂くくらいなら、もっと別のこと考えた方が有意義だなって・・・・・いつまでも敵のこと考えたって、しょうがないなって」

 

多分、無関心になってるんだと思う。

考えても無駄なことだし、今更赦しを請われたって、なんていえばいいのか分からないし。

というか、もうそういうこと考えるのもめんどくさいし。

 

「もうお好きに、勝手にしてくださいって感じ。そっちが関わらないなら、こっちも何もしないからって」

「・・・・・そう、デスか」

「そーなの」

 

調ちゃんも、切歌ちゃんも。

なんだか上手く飲み込めてないような、そんな顔。

うーん、きちんと伝えられる語彙力っていうか、伝達力が欲すぃ・・・・。

あと、空気が重たくなってるやー。

重大な作戦を前に、これはちょっとアカンよね。

と、いうことで。

 

「ところで、わたしも一ついいかな?」

「何?」

 

幸い話題には事欠かないというか、ちょうどいいのがあるので。

手を合わせて、またいつもどおりおどけてみる。

 

「そろそろこの状態にツッコミが欲しいんだけど」

 

だけど、なんだかそのテンションを維持できなくて。

ちょっと肩を落としながら、後ろからがっつりホールドしてる未来を指差した。

・・・・うん、そうなんだよ。

この待機部屋に来てから、二人と話している間もずっと。

未来に抱きつかれたままなんだよ。

さっきの話を上手く纏められなかったのは、こっちに気を散らされてたっていうのもある。

っていうか、さっきから腕の力が強くなってて、お腹に若干の圧迫感を感じるんだけど・・・・。

あ、また強くなった。

このペースだと朝ごはん戻しそうだなぁ(白目)

 

「みんなあえてスルーしてる、察して」

「いいから黙って抱っこちゃんされてろデス」

「にべもなくッ・・・・!」

 

なのに調ちゃんと切歌ちゃんったら、つれない反応するんだもん。

この話題を切り出した途端、チベットスナギツネみたいな目になった二人から。

ぴしゃりと言い放たれてしまった。

いたたまれない気持ちをどうにも出来ないので、今度は翼さん達の方に向いてみる。

 

「すまない立花、馬には蹴られたくない」

「そういうこった、諦めな」

 

翼さんだけでなく、クリスちゃんにまで。

そんな塩対応を返されてしまった。

うう、みんなが冷たい・・・・。

 

「何よ、いやなの?」

 

ここで怪訝な顔をしたマリアさんが聞いてくる。

んー、いやかどうかって言われると、

 

「別にイヤじゃないですけど、なんというか、こう、照れくさいというか・・・・」

「解散」

「ああん!いけずッ!!」

 

質問に答えただけなのに中断させられた・・・・!

 

「行きましょう、ここにいると味覚がおかしくなるわ」

「正直、さっきから口がジャリジャリしてて・・・・」

「あたし、今ならコーヒーいける気がするデス」

「奇遇だな、あたしもだよ」

「ならば試してみるか?私も口直しが欲しかったところだ」

 

そのままあれよあれよと部屋を後にしていく仲間達。

動けないわたしや、しがみついている未来は動けるはずもなく。

結果的に、二人きりになった。

・・・・沈黙が痛い、気まずい。

未来は相変わらずぎゅっと抱きついたままで。

あ、あかん。

油断すると良いくゎほりが、こう、ふわっと・・・・!

 

「・・・・ひびきは」

 

だけど、しばらくすると。

ぽつっと、呟く声。

 

「ひびきは、いや?」

 

何だか縋っているようにも聞こえて。

だから、少し考える。

未来を傷つけないよう、言葉を選んでから。

そっと、手に触れた。

 

「・・・・・いやじゃないよ、ちょっと照れくさいだけ」

 

未来がまた擦り寄ってくる。

腕の力は緩んだけど、さっきよりずっと密着してる。

 

「・・・・あの、ね」

「うん」

「・・・・怖いの」

「・・・・うん」

 

くっついているからか、未来が震えているのが分かる。

 

「もう、大丈夫って、分かってるのに・・・・怖いの」

「うん」

「ひびき、いなくなるかもって」

「・・・・うん」

 

手を握り続ける。

握りながら、撫でてあげる。

 

「また、わたしのせいで、辛い目にあうんじゃないかって・・・・今度こそ、死んじゃうんじゃないかって・・・・!」

「・・・・うん」

「怖いの、怖くてたまらないの・・・・この手を離したら、離れちゃったら、もう、二度と・・・・!」

 

背中が温かくて、冷たい。

多分、泣いているんだろう。

実際しゃくりあげる声が聞こえるわけだし、すっとぼけが効くわけが無い。

・・・・相変わらず、だなぁ。

みくは、やさしいなぁ。

 

「それじゃあ、今度は未来の番だ」

「――――ぁ」

 

手を解いて、向き合って、抱き寄せる。

 

「わたしが本当にダメになったら、今度は未来が助けてくれる番」

「・・・・・わたし、が・・・・でも、けど・・・・!」

 

腕の中の未来は、未だ震えている。

不安、なんだろう。

自分のやってきたことが、殆ど失敗しているから。

正しいのかどうか、分からなくなっているんだろう。

 

「あのね、みく」

 

だから、わたしは。

 

「みくが思っている以上に、たくさんの人を元気付けているんだよ」

 

もっと、抱きしめる。

耳元で、囁く。

 

「泣いてたり、辛かったりしたとき、ずっと傍にいて、温めてくれる」

 

それがどれだけ嬉しいことか。

それでどれだけ、救われたか。

 

「今だってそうだよ、わたしのこと、こんなに想ってくれて・・・・こんなに、想ってもらえて・・・・すごく、嬉しい」

 

『死なないで』と縋ってもらえることが、『いなくならないで』と泣いてもらえることが。

わたしを許してくれている。

『生きていていいんだ』と、許してくれている。

 

「だからわたしは、みくを信じる。頑張ってくれるみくを、信じてるから」

 

『ね?』と、笑いかけながら、涙を拭ってあげると。

未来は一度俯いた後、笑い返しながら、手を握ってくれた。

・・・・ああ、きれいだなぁ。




コーヒー(に見せかけた黒蜜)ブレイク

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