チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

65 / 201
できること

全世界が、新手の登場にぽかんとしていた。

何が何やら分からない彼らを置いてけぼりにして、マリアは構える。

 

「来ると思っていたけど、本当に来るとはね」

 

烈槍の切っ先を突きつけられても、案の定涼しい顔をしているジャッジマン。

その戦意に応える様に、彼もまた両手に紫電を滾らせる。

 

「単刀直入に言おう、マリア・カデンツァヴナ・イヴ」

 

緊張も高まる中、徐に口を開いた彼は。

 

「――――世界は、救わせない」

 

マリアどころか、全世界への宣戦布告とも言うべき言葉を、口にした。

 

「・・・・・随分過激な発言ね、どういうことか聞いても?」

「どうもこうも、そのままだ」

 

ジャッジマンも、たったそれだけで理解してもらえると思わなかったようで。

紫電を滾らせたまま、語り始めた。

 

「二年前、地獄のような日々を経験して悟った」

 

閉じた目を見開いて、マリアを強く睨みながら。

重々しく口を開く。

 

「人間は、余りにも浅すぎる。考えも、思いやりも、何もかも・・・・!!」

 

彼の感情に呼応して、稲妻が激しさを増した。

 

「日本だけに留まらない、世界を見ろ」

 

その怒りの矛先は、日本以外にも向いている。

 

「肌の色、生まれ故郷、信じる神、抱いた信念・・・・大衆と少しでも違えば、即座に切り捨て、排除しにかかるのが人間だ」

「・・・・故に滅ぼすと?」

「そうだ!」

 

紫電だけに留まらない。

今度は空気が渦巻き、風が吹き始めた。

 

「どれほど手を取り合おうと、歩み寄ろうと、結局は見せ掛けでしかない。こんなに救いようの無い生き物が、他のどこにいる!?」

 

応、と。

風が勢いを増していく。

 

「何より不憫なのは、それに気付かぬ愚鈍さだ!!忌々しい『一般論』を盲目に狂信し、やれ『正義』だなんだと言い抜かしては罪無き弱者を甚振り、挙句の果てに快感を得ると来た!!」

 

吹き荒れる暴風。

マリアは乾く眼球を庇いながら、敵から目を逸らさない。

 

「こんな生き物がのさばる世界に、何の価値がある?何の意味がある!?延命させればさせるだけ、崩れていくぞ!壊れていくぞ!!」

 

風が、止んだ。

正確には、空いた片手に纏わりついて、大人しくなった。

一呼吸、二呼吸。

ジャッジマンは、息を整える。

 

「お前達がどれほど罵ろうと、俺は省みないし、反論もしない。何故なら、俺が正しいからだ」

 

マリアを、いや、彼女の背後に見えるであろう、全世界を睨みつけて。

 

「そうだとも」

 

低く、低く、声を絞り出す。

 

「『生きているのが間違い』などと抜かす連中よりは、はるかにマシだ・・・・!!」

 

込められた怨念は、どれほどのものか。

決して軽いものではないというのは、ひりつく闘気で十二分に察することが出来た。

 

「・・・・そう」

 

秘めた怒り、譲らぬ決意。

しかし確固たる信念は、マリアも同じこと。

 

「けど、こちらも譲るわけには行かないわ。明日を生きて欲しい人がいる、明日を迎えて欲しい人がいる。だから」

 

言葉は無い。

代わりに両者は、互いの闘志を激突させた。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「――――ッ」

 

戦いは、一箇所だけではない。

フロンティア、『放送室』の外。

苦い顔をしたクリスが、受身を取って着地する。

それに続くように、翼や調、切歌が。

ふらついたり、苦い顔をしながら、それぞれ砂利を巻き上げた。

見上げる先には、二体の敵。

かつて立ちはだかった『龍』と『虎』が、歌姫達を阻むように、再び目の前にいた。

 

「あの世からとんぼ返りしたってデスか!?」

「なんであろうと変わらない。亡霊であるなら、遠慮も要らぬというものだ!」

「全くだ、違ぇねぇ!!」

 

ごしゃん、とガトリングを展開し、鉛玉を雨あられと放つクリス。

調も頭の格納庫から、小さな丸鋸を百に届く量でばら撒いていく。

そんな鉄の豪雨を背負い、翼と切歌が肉薄。

切歌が『龍』へ、翼が『虎』へ。

それぞれ疾風(はやて)より駆け抜ける。

放たれた一閃は、十分な殺傷力を秘めていたが。

奴等を仕留めるには届かない。

 

「ッ翼さんもマリアも、こんなに硬い奴を倒したデスか!?」

「いや、少なくとも一太刀で裂けたはずだッ!!」

 

かすかな擦り傷が刻まれただけの体表を睨みながら、二人は離脱。

クリスと調の下に戻ってくる。

お返しだといわんばかりに、頭髪を撓らせた鞭と、研ぎ澄ませた爪で襲い掛かる二体。

装者達はそれぞれ防御するなり、回避するなりしてやり過ごすも。

その表情は優れなかった。

 

「ッ・・・・!」

「そうまでして、復讐を成し遂げたいか?世界を滅ぼしたいか・・・・!?」

 

搾り出すような問いかけは、咆哮にかき消される。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

横に振りぬけば、衝撃。

相手の構える剣と激突する。

弾いて一度引き、突きを繰り出す。

切っ先は相手の鼻を掠めて外れた。

お返しに斬り払いが飛んできて、迎撃。

振り抜いてがら空きになった胴体に、蹴りが突き刺さった。

 

「っぐ・・・・!」

 

直撃した胸を押さえながらも、マリアはジャッジマンから目を離さない。

ジャッジマンもまた、マリアの戦意が衰えていないことを察したのだろう。

真っ向から見据えて、睨みつけていた。

 

「ッはあああああ!」

 

再び接近。

烈槍とマントの連撃を駆使し、ジャッジマンを攻め立てる。

対するジャッジマンも負けてはいない。

一歩間違えればざっくり斬れる攻撃達を、見切り、かわし、防ぎ、弾く。

一進一退、手に汗握る攻防は、激しさを増していく。

すれ違う連撃、飛び交う斬撃。

耳に残響をこびりつかせる剣戟は、佳境を迎えて。

 

「っふん!」

「ああああッ!!」

 

一瞬の隙を突き、ジャッジマンが拳を叩き込む。

雷光を纏ったソレは、マリアに直撃。

ついでといわんばかりに、体を痺れさせる。

 

「あ、っぐ・・・・!」

 

烈槍を支えに何とか踏ん張るも、すぐ膝を突いてしまうマリア。

チャンスといわんばかりに、ジャッジマンは片手を上げて。

 

「――――ッ」

 

降臨したのは、雷光。

まさに雷/神成/神鳴り(かみなり)と言うべき極光。

余剰エネルギーが彼の周囲で渦巻き、その荘厳さを表している。

マリアもまた、しびれる体を叱咤して、槍を構える。

刀身を開いて、エネルギーを充填。

増していく目の前の極光に、早く、早くと焦りを募らせていく。

先に準備を済ませたのは、ジャッジマン。

タッチの差で、マリアも終わる。

手を振り下ろす、切っ先を突き出す。

雷と歌の光が、『放送室』全体に溢れ帰って―――――

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「うわああああああッ!!」

「ッウェル博士!」

 

爆発の衝撃は、『駆動炉』にも及んだ。

まず炉心にネフィリムの心臓を取り付け、次に左腕にネフィリムの一部を打ち込み、それを以ってフロンティアを制御していたウェル。

しかし、いかんせん裏方一辺倒だったのが災いして、耐え切れずに転げ落ちる。

危うく頭を打つところを、緒川が何とか受け止めた。

 

「た、助かります」

「お気になさらず」

 

礼を言うのも束の間、早く定位置に戻ろうとしたウェル。

だが、顔を上げた目の前に見えたのは、

 

「な、何故、フロンティアを食っている、ネフィリムッ!?」

「そんな、どうして!?」

 

赤黒いネフィリムに侵食されている様だった。

緒川も珍しく焦燥を露にし、少なからず狼狽している。

 

「腹ペコにも限度が・・・・ッ!!」

 

それの倍はうろたえていたウェルだったが。

LiNKERの改良版を生み出すほどの頭脳は、伊達ではなかった。

心当たりを思いついた彼の頭は、一気に冴え渡る。

 

「ウェル博士?」

「・・・・まったく、僕としたことがッ」

 

引きつった自嘲の笑みを浮かべて、ウェルは頭を抱えた。

 

「・・・・先ほど制御端末から振り下ろされたとき、ちらと『離脱』を考えてしまったんです。ネフィリムの腕を持つ僕は、念じただけでフロンティアに指示を出せます」

「っ、まさか・・・・!?」

「ええ、そのまさかですよ」

 

ネフィリムに侵食されているからか、それとも罪悪感からか。

顔に血管を浮かべながら、ウェルは続ける。

 

「ちらとでも考えてしまった『離脱』を、フロンティアは受諾してしまったのですよ。『切り離せ』という、ただ一言の命令として・・・・!!」

 

嘆いている間にも、ネフィリムは駆動炉を呑み続けている。

このままではフロンティア全体を食い尽くされ、せっかく溜めたフォニックゲインを、月へ照射できなくなる。

すぐにでも対処しなければならない。

 

『ネフィリムの侵食スピード、こちらの予想をはるかに超えています!』

『久しぶりの《飯》だもんなぁ、そりゃがっつくさ!チクショウ!!』

 

二課のオペレーター達も、何とか打開策を探しているようだったが。

成果は芳しくないようだった。

 

「・・・・こうなったら」

 

ちら、と。

ウェルは自らの左腕を見る。

ほんの一部とは言え、これもまた聖遺物。

これで何とか、ネフィリムの気をそらせれば。

生まれた恐怖を抑えるように、握り締めたとき。

 

『ドクター、まだ希望はあります』

「ナスターシャ教授!?」

 

フロンティアに備わっている、通信システムを使ったのだろう。

部屋全体に、ナスターシャの声が響く。

 

『こちらで平行して調査を進めていたところ、この《船橋》だけでもフォニックゲインを放つことが出来るようです』

「それなら・・・・!」

『ですが、今のままでは、ネフィリムの方が早いでしょう』

 

気落ちするようなことを告げるナスターシャだが、その語気は決して衰えていない。

 

『しかし、私が今いるこの区画を切り離せば、あるいは』

「それは・・・・しかしそれでは、ナスターシャ教授が!!」

 

緒川が反論の声を上げる。

『自分を犠牲にしろ』と申告しているも同然な提案。

彼の反応も、当たり前だ。

 

『・・・・・私はもう、長くありません。延命したところで、精々数ヶ月程度でしょう』

 

そんな緒川を、ひいては二課の面々を諭すように。

ナスターシャの声が、柔らかくなる。

 

『ならばせめて、私よりも《先》があるあの子達の為に、世界を残したいのです』

 

決意は、固いようだった。

 

『・・・・・マリア君達は任せて下さい。彼女達の今後は、我々が見守ります』

『ありがとうございます、それが聞けただけでも、行幸です』

 

弦十郎の宣言に、心底安心した声で答えるナスターシャ。

その会話を聞いていたウェルもまた、腹を決める。

制御端末に駆けつけ、左腕を翳す。

 

「――――ナスターシャ教授」

 

ネフィリムが荒ぶる隣で、指令を出す。

その傍らで、語りかける。

 

「貴女の英雄譚に関われること、僕の誇りです」

『――――ふふっ。私は、そんな大それたものではありませんよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――ぁ、が」

 

今度こそ。

膝を折り、地に伏してしまったマリア。

砲撃を押しのけた雷光をもろに受け、指一本動かせないほど麻痺してしまった。

ギアも解除され、敵の前に無防備な様を晒すこの状況。

もう一度纏おうにも、肝心のマイクユニットがどこかに飛んでいってしまうという始末。

『ピンチ』以外の、何者でもなかった。

そんな彼女を、ジャッジマンは文字通り見下す。

体は動かずとも、心はまだ折れていない。

目は口ほどにものを言うと言われるが、意志が燃え盛る目に見据えられた今では、納得出来た。

もっとも、それで何か変わるというわけではないが。

 

「そういうことだ、マリア・カデンツァヴナ・イヴ」

 

見せしめとするため、わざとゆっくり動く。

掲げた手には、巨大な剣。

肉厚な刃は、まるでギロチンのようだった。

 

「――――お前の、世界(おまえたち)の、敗北だ」

 

自らの勝利を、相手の敗北を宣言し。

その首を、希望を絶とうと、振り下ろして。

 

 

 

 

 

駆け抜けた風に、蹴り飛ばされる。

 

 

 

 

蹴りが突き刺さった手元。

弾かれるように振り向けば、刃が迫っていて。

 

「――――ッ」

 

首を傾けて避け、飛びのく。

着地してから前を見れば、コートが翻ったのが見えた。

 

「・・・・生身で突っ込んでくるとは、そこまで無鉄砲だとは思わなかったよ」

 

幾ばくかの驚愕と、少し多めの呆れを込めて言う。

 

「立花」

 

対する響は答えないまま、徐に手を掲げた。

その手に下がっていたのは、シンフォギアのマイクユニット。

マリアのものであろうことは、容易に想像がついた。

 

「・・・・他人のギアで、何が出来る?」

 

響は問いに対して、不敵な笑みと、吸い込む息。

そして、

 

「Balwisyall Nescell Gungnir tron...」

 

――――歌で、答える。

その、刹那。

轟、と吹き荒れる光。

今度こそ驚愕したジャッジマンが周囲を見渡せば、暖かな光が渦を巻いている。

これが何か、彼には嫌と言うほど分かった。

ノイズに近いこの体を唯一傷つける、忌々しい力。

 

「―――――何が出来るかって?」

 

ジャッジマンの動揺を察してか。

この現象を引き起こしている本人は、不敵な態度を崩さない。

光が彼女に収束する。

彼女の戦意に応え、鎧を与える。

 

「お前を、殴れる」

 

そして響は、再び『歌』を纏った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。