チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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その手が繋いだ、歌声たち

ソロモンの杖を腹に突き刺した武永(ジャッジマン)

宝物庫の扉が開いて、飛び出してきたノイズを吸収して。

武永(ジャッジマン)の体が肥大化していく。

腕が盛り上がる、足が太くなる。

伸びる牙、爛々と光る目、額には鋭い角が生えて。

わたし達の目の前に、『鬼』が現れた。

・・・・・・ルナアタックん時のおっちゃんが、似たようなことしてた気が。

うん。

 

「腹を突き刺すのが最近のトレンドなのかな?」

「んなわきゃねぇだろッッ!!」

『嫌なトレンドね・・・・』

 

クリスちゃんと了子さんのツッコミを受けながら、殴打を回避。

衝撃に乗って飛び上がってみれば、その巨大さがよく分かる。

『鬼』がこっちを見上げてきた。

理性があるかどうか怪しい、憎悪に燃えた目。

・・・・そうまでして、復讐したいのか。

 

「よっと」

 

薙ぎ払いを捻って避けて、腕の上で前転。

体勢を立て直して、駆け抜ける。

落ちてくる雷も避けながら、顔面へ肉薄。

横っ面を、思いっきり殴ろうとしたけど。

 

「わ、たっ・・・・!」

 

まるで羽虫でも払うように、もう片手で押しのけられてしまった。

何とか指の間から抜け出して、肩や腰を伝って地面へ。

 

「やあああああああああッ!!」

「はあああああああああッ!!」

 

その間に、調ちゃんと切歌ちゃんが切りかかる。

ご自慢の丸鋸と鎌が唸りを上げるけど、肌を掠めるくらいに終わった。

反撃を受けて吹っ飛ばされた二人を、マリアさんが受け止める。

その間に翼さんが『鬼』の背後に。

大きな影に刀を深く突き刺して、影を縫いとめた。

 

「気付けだもってけえええええええええッ!!」

 

それを確認したクリスちゃんが、ミサイルを四つ。

大盤振る舞いといわんばかりに背負って、発射。

甲高い音を立てて進撃したミサイルは、全部顔面に命中。

さすがによろけたみたいだけど、それだけだった。

煩わしそうに顔の煙を払う『鬼』。

大したダメージは受けていないらしい。

 

「くっそ、火力不足か。ノイズの癖して頑丈なこった・・・・!」

「今の私達では、決定打を与えることは困難・・・・!」

 

いやぁ、ノイズにソロモンの杖が加わるだけで、こんなに苦戦するとはねぇ。

シンフォギアがあるとはいえ、『人間特攻』は伊達じゃないってことか。

 

「限定解除を・・・・エクスドライブを使えたなら・・・・!」

「けど、出来るんデスか!?」

「六人一辺だ何て、そんな奇跡・・・・」

「このアガートラームもいつまで持つか分からない、賭けをするには危険が過ぎる・・・・!」

 

調ちゃんと切歌ちゃんは、限定解除したことない所為か。

限定解除についてやや不安げなようだった。

まあ、通常の難易度を知ってるなら、無理も無いか。

マリアさんもマリアさんで、懸念事項が拭えないらしい。

 

「っ来るぞ!!」

 

話している間にも、行動を再開する『鬼』。

ぐ、と溜め込んだ奴が、空に向かって雄叫びを上げると。

咆哮に呼応して、たちまち空が曇る。

続けて、ゴロゴロという音が聞こえ始めて。

『鬼』が、掲げていた手を振り下ろせば。

避けきれないほど巨大な雷が、何百と降り注いできた。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

轟く轟音、まばゆい閃光、揺れる地面。

前後左右から襲い来る衝撃に、あらゆる感覚がブラックアウトする。

ぶちん、と、古いテレビが切り替わるように視界が回復して。

見えたのは、更地になった周囲と、倒れ伏した仲間たち。

全身を蝕む痺れと痛みに苛まれながら、響はなんとか身を起こす。

見上げれば、案の定健在な『鬼』が。

響達を見下しながら、これみよがしに手を掲げて。

再び雷を充填、さほど間を置かずに発射した。

回避は余裕、だが後ろには動けない仲間達。

決断は、早かった。

退かずに向き合い、極光に呑まれる響。

 

「響ッ!!!」

 

二課本部、司令室。

戦いを見守っていた未来は、思わず名前を叫ぶ。

モニターのメーターはほとんどが振り切れ、まともに機能しない状態。

画面は真っ白、分からない響の安否に、未来の不安が強くなる。

その中で、

 

「――――――nal!!」

 

その歌は、聞こえてきた。

 

「Emustolonzen fine el zizzlッッッッッ!!!!!」

 

迸る、『歌』。

真っ白な濁流の中、両手を前に突き出して耐える響の姿が見える。

食いしばった口元から、血が零れているのが見えた。

 

「ぐうううううううううううううぅぅぅぅおおおおおぁぁぁぁぁぁあああああああああああッッッ!!!!!!!」

 

痛々しいまでの姿と声で、それでもなお退かない響。

全身の筋が悲鳴を上げ、所々でぶちぶちと嫌な音がする。

間接が軋み、少しでも緩めば砕けてしまいそうだ。

死ぬ、一歩間違えれば、確実に死ぬ。

せっかく拾った命が、また掻き消える。

それでも、響は退かなかった。

 

(ダメだダメだダメだダメだ出力が全然足りない火力が全然足りない後一歩後一つ後ちょっと何か何か何か何か考えろ考えろ考えろ考えろッ――――――!!!!)

 

痛みで吹き飛びそうな思考を、痛みで繋ぎとめながら。

血涙が零れる両目を、ぐっと瞑った。

真っ暗になった視界で、内面に潜り込んで。

 

「――――ッ」

 

閃いたといわんばかりに見開き、顔を上げる。

一歩踏み出す、またどこかの筋が千切れる。

構わずまた一歩踏み出して、踏ん張って。

意識を内面へ。

起こしてはいけない撃鉄を起こし、引いてはいけない引き金を引く。

 

「ッがああ■■■■■あああ■■■■■■■■ああああ■■■ああアアアアア■■■■あアアあァァぁぁァァァ―――――――!!!」

 

体が、瞳が。

黒に、赤に。

塗り潰されていく。

雄叫びが浸食され、獣の咆哮に変貌する。

 

「ガングニール、暴走!?」

「けど、出力も上昇!押し返していますッ!!」

「・・・・ッまさかあの子!!」

 

ひっきりなしにアラートが騒ぐ中。

オペレーターの報告を聞いた了子が、跳ねるように立ち上がる。

 

「わざと暴走させることで、火力を叩き上げているのッ!!?何て命知らずなことを!!寿命が縮むわよ!?」

「何だとォッ!?」

「そんな、響ィ!!」

 

了子の嘆き、弦十郎の怒声、未来の悲鳴。

それら全てを気にする余裕の無い響は、未だ咆哮を上げて極光と押し合う。

 

「■■■■■■ァァああ■■■ああアアああァ■■ァァァ■■あアアあァァアアアァァァ――――ッッッッ!!!」

 

心を削る、理性を削る、命を削る。

退かない、逃げない、やめない。

だって、後ろにいるのは、背負っているのは。

これからを生きて欲しい人達なのだから・・・・!!

だから、その為に。

この場で命、尽きたとしてもッッ!!

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal!!」

「Emustolonzen fine el zizzl!!」

 

――――そして、響が命を賭して守る彼らは。

そんな彼女を見殺しにするような人間ではない。

 

「あなたは、いっつもそう!何で簡単に命賭けるのッ!?」

「お陰でこっちも思わず突撃デス!!」

 

手を引っつかまれる感覚。

見れば、右手を調に、左手を切歌に握られていた。

 

「惹かれあう音色にッ、理由など要らないッ!!」

「つける薬がねぇのはお互い様だッ!!」

 

そこへ更に、クリスと翼も加わってくる。

色を、心を、徐々に取り戻していく響。

と、肩に感覚。

手を置かれている。

 

「アガートラームの絶唱特性は、ベクトル操作!!制御は私がッ!!あなたは束ねることに集中なさい!!」

 

背中を押すように、マリアが寄り添ってくれた。

未だ苦悶の声を漏らす響。

だがその声には、確かに人間性が戻ってきている。

流れを読む、流れを束ねる。

一つにした流れを、手中へ手繰る。

 

『フォニックゲインの集束!おおむね順調!』

『だけど足りるのか?たった六人の歌で!?』

 

オペレーター達の、そんな会話が聞こえて。

耳を澄ませる、答えはすぐに出た。

 

「――――たっタ、六人、だけジャなイ」

 

無意識。

搾り出すように、口にしていた。

――――聞こえる。

 

 

――――いっけぇ!響ィ!!

 

――――立花さん、頑張って!

 

――――ファイト!ビッキー!

 

 

友人の、

 

 

――――おかーさん!かっこいいおねーちゃんだよ!ほら!

 

――――あのひと!きてくれたあのひとだ!

 

――――あの人よ、あの人があなたを助けてくれたのよ

 

――――この間の!?が、頑張れ!負けるなー!!

 

――――聞こえてるかー!?うちのを助けてくれて、ありがとー!!

 

――――お嬢ちゃんやったれー!!

 

 

出会ってきた人達の、

 

 

――――Exert yourself!!

 

――――加油!!

 

――――열심히 해라!!

 

――――Viel Glück!!

 

――――Bonne chance!!

 

――――Buena suerte!!

 

 

顔も名も、言葉も知らぬ人達の。

何より、

 

『行っちゃえ響!!ハートの全部でえッ!!!!』

 

存在を、心を、命を肯定してくれた。

大好きな人の、声が。

数えきることが叶わないくらいに。

響いて、届いて、伝わって。

だから、

 

「わたしが繋ぐ、この歌は――――」

 

この手が束ねる、この歌は――――!!

 

「七十億のッ!!絶唱おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」

 

光を掌握するように。

強く、強く。

手を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――顕現するは、『奇跡』。

数多の願いを束ね、繋げ、託された。

歌姫達が紡いだ、光。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忌々しい光を目の当たりにした『鬼』が咆える。

右手に炎を、左手に稲妻を迸らせ。

羽虫を打ち払おうとして、刹那。

 

「はぁッ!!」

「デースッ!!」

 

薄紅と翡翠の刃に、切り裂かれた。

呆然と見やれば、まっさらな衣装に変化した調と切歌が、己の獲物を振り切った後だった。

 

「オラオラオラオラァッ!!!」

「はああああああッ!!」

 

その横っ面を叩くのは、爆発音と無数の煌き。

クリスとマリアが織り成す、銃弾と刃の弾幕を。

全身にくまなく浴びる。

 

「せいやあああああああッ!!」

 

雄叫びに振り向けば、迫る巨大な剣。

腕を失った巨体では、防御も回避も間に合わず。

翼が遠慮なく振り下ろした剣は、肩から大きく袈裟切りにした。

倒れる巨体。

衝撃に地面が轟き、砂塵が湧き上がる。

 

「――――ぐ」

 

ざあざあと雨のように砂が注ぐ中。

膝を突いたジャッジマンは、反撃に転じようと上を仰いで。

視界の、下。

空気が渦巻いたのが見えた。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」

 

飛び出してきたのは、響。

両腕を大きく引いている。

右の手甲を左回転、左の手甲を右回転させ。

発生した烈風を、ジャッジマンの胴体へ。

 

「ッはあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

重く、重く、想いを込めて。

叩き込んだ。




各国の『がんばれ』は、エキサイトさんに聞きました()

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