チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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みなさん「あいつ」のことも思い出してあげてください(

1/13:こっそり追記。


おかわり!替え玉!へいお待ち!

湧き上がった土煙から、ソロモンの杖が飛び出してくる。

勢いよく回転しながら風を切るそれを、ちょうど落下点にいたクリスがキャッチした。

砂埃が晴れる。

響の目の前には、何もなく、誰もいなかった。

 

「――――ッ」

 

息を整えながら、やりすぎたかと苦い顔をした。

その時。

 

「お、っと!」

 

揺れる地面。

倒れそうになる体で何とか耐えながら、何事かと見上げれば。

足元を割って出てくる、巨大な手。

指の間をすり抜けて飛び上がれば、裂け目から現れる新たな巨体。

 

「あー、そーいやいたね。君・・・・」

 

苦い顔をした響が呟けば、ネフィリムはまるで言い返すように咆えた。

 

『聞こえますかッ!?』

 

耳元、ウェルの声。

ネフィリムから目を逸らさないまま、傾ける。

 

『今のネフィリムは、フロンティアをたらふく食べた状態。いえ、このままでは平らげてしまうでしょう!!』

「でしょーね!今でもむしゃむしゃしてますもん!」

 

眼下では、今まさにフロンティアの残骸を貪っているネフィリムの姿。

五分と待たずに、完食してしまいそうだった。

 

『内包されたエネルギーが暴走を始めてしまえば、地表は炎に包まれてしまいます!何せ、臨界を越えたネフィリムの温度は、一兆度ですからね!』

「宇宙恐竜とタメはれますネ!」

「言ってる場合か!?」

 

集結する仲間達。

軽口をクリスに突っ込まれながら、改めて下を見下ろせば。

ネフィリムがこちらを見上げている。

瞳は確実に響達を捉えており、同時にエサとして見ているのも察することが出来た。

 

『こちらの離脱は完了している!!気にせずぶっ飛ばすといい!!』

「了解しました、斬り伏せますッ!!」

 

弦十郎からのゴーサインが出たこともあり、装者達は再び戦闘態勢を取る。

相手の戦意を読み取ってか、咆えるネフィリム。

その大きな手が、捕まえようと伸びてくる。

当然のことながら避ける装者達。

だが、指先から金色の触手が伸びてきて。

諦め悪く追い掛け回し始めた。

 

「ッ・・・・!」

 

幾何百と画かれる不可思議な軌道。

聖遺物(ソロモンの杖)を持っている故か、クリスが執拗に追い掛け回される。

気付いたほかの面々が援護に回ろうとするが、いかんせん自分達も追い回されている。

余裕が出来るまで、時間がかかりそうだった。

 

「こう、なったらッ!!」

 

一度強力な攻撃を仕掛け、触手を怯ませるクリス。

次に構えたのは、ソロモンの杖。

 

「バビロニアッ、フルオープン!!!!」

 

伸びる、翡翠の閃光。

ネフィリムを通り過ぎて空間を穿ったそれは、背後に巨大な『穴』を開ける。

向こうに見えるは、何度か見てきたサイケなカラーリングの空間。

 

「人を殺すだけじゃないってとこ、見せてくれよ!!ソロモオオオオオオオオオオンッ!!!!」

 

エクスドライブの出力を利用して、最大サイズにまで押し広げようとする。

 

『なるほど、宝物庫に放り込めば爆発しようが関係ない。けれど、大人しく入ってくれるかしら!?』

「だったら、叩き込めばいいんですよ!」

 

了子に答えるように、響達が躍り出る。

調と切歌が、一番槍を努めたが、

 

「あああああああッ!!」

「うあああああッ!!」

 

攻撃を叩き込んだ瞬間、痛みに苦しんだ。

 

「まさか、シンフォギアのエネルギーを?」

「だからとて、退くわけにはいくまい!」

 

怯んだ二人を回収しながら、なお戦意を失わない装者達。

抵抗を試みるネフィリムへ、斬撃と打撃を雨あられと浴びせ続け。

その巨体を、後ろへ。

だが、腐っても完全聖遺物。

 

「ぐっ、あ・・・・!」

 

伸ばした触手を、弾幕の間をすり抜けさせ、クリスへ直撃。

衝撃で、思わず杖を手放してしまう彼女。

間髪入れず放られた杖をキャッチしたのは、マリアだった。

 

「明日をおおおおおおおッ!!」

 

再び放たれる翡翠。

閉じかけた『穴』を、こじ開け始める。

当然、されるがままになるネフィリムではない。

今度はお前だといわんばかりに、マリアへ攻撃を仕掛ける。

 

「ああッ!」

 

絡め取られ、身動きが取れなくなるマリア。

臨界が近いからか、縛り上げる触手が熱い。

炙られる痛みに悶えるマリアを道連れに、ネフィリムはバビロニアの宝物庫へ沈み始める。

 

(このままでは・・・・!)

 

このままでは爆発寸前のネフィリムと共に、あの中へ入ってしまう。

いや、ネフィリムが傍にいなくとも、人間がノイズの巣窟に入ってしまえば。

シンフォギアを纏っていようと、どうなるのかは確実で。

 

(だけど・・・・!)

 

熱気の中から、見上げる。

こちらへ手を伸ばす調と切歌。

大方、巻き込まれると諌められているのだろう。

翼とクリスに引き止められていた。

――――ナスターシャは、命を賭けて世界を託してくれた。

ならば、血が繋がっていなくとも、『娘』である自らも。

あの子達の明日の為に、出来ることをやるべきだ。

幸い杖は握ったまま。

指示を出し、『穴』を閉じ始める。

見える現世が、徐々に狭まる。

涙を流しながら、必死に呼びかける調と切歌。

何を言っているかなんて、手に取るように分かって。

――――暗い道へ進ませかけてしまった二人。

切欠は他ならぬ、マリア自身。

せめて、あの子達が明日を迎えられますよう。

 

(ああ、神様。どうか、あの二人を・・・・)

 

目を、伏せた。

 

「――――そんなつれないこと、させませんよ」

 

刹那、体が拘束から解放される。

目を開ける、所々火傷を負った体を見下ろす。

それから、顔を上げてみれば、

 

「あなた・・・・!」

「どーも」

 

気の抜けた笑みを浮かべる、響が。

 

「どうして・・・・!?」

「いや、ほっとけないし、手が空いてたしで、まあ、遠慮なく」

「遠慮なくって・・・・」

 

そんな軽い決断で、こんな死地に来てくれたというのか。

ある種被害者と言うべき彼女の『利敵行為』に、マリアは戸惑いを隠しきれない。

 

「・・・・・・生きるべきって言うなら、マリアさんだってその一人ですよ」

 

動揺を知ってか知らずか。

咆えるネフィリムを見据えながら、響は口を開く。

 

「調ちゃんと切歌ちゃんの大事な家族で、世界中のファンが応援する歌姫で、月の落下を食い止めようとしたヒーローなんですから」

 

振り向く。

屈託の無い笑顔。

 

「泣いてくれる人がたくさんいるうちは、死ぬなんて考えちゃダメですよ」

「――――」

 

頭が冴える。

天啓というには程遠く、名言というには少し足りない言葉。

だが、切り替えるには、十分すぎる。

落ち着いた頭で考えて、ふと、思ったことを口にした。

 

「・・・・・それ、あなたが言われるべきじゃないの?」

「うぇ!?あっ、ああ!あー、ははははー・・・・何もいえないや」

 

会話が一段落した所で、振動。

ネフィリムが咆哮を上げ、向かってきた。

散開して避け、頭上を取る。

そんな二人を狙い撃ちにしようと迫ってくるノイズの群れ。

マリアは咄嗟に杖を向け、制御による足止めを試みたが。

数体が動きを鈍らせるのみに留まった。

すぐに不可能を悟り、杖を下げてノイズを迎撃。

背後に気配を感じて避ければ、ネフィリムの豪腕がノイズを巻き込んでいった。

 

「これほどの数、制御が追いつかない!」

「だったら、逃げること考えましょ!」

 

マリアの背後に迫っていた個体を蹴り飛ばしながら、響が提案する。

 

「それ、ある意味鍵なんですから、中からだって開けられるはずです!」

 

続けざまにもう一体片付けつつ語り掛ければ、マリアも納得したようだ。

短剣で、一つ、二つ、三つと切り捨て、ネフィリムへ牽制を放って怯ませる。

背中を響に任せたまま、杖を掲げる。

ふと思ったのは、纏うギア。

はっと、気がつく。

響が来た今こそ、こうして抵抗しているが。

マリアは初め、自ら犠牲になるつもりでいた。

だが、彼女は最初から一人ではなかった。

笑みを零したマリアは、寄り添ってくれたその名を叫ぶ。

 

「セレナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」

 

放たれる翡翠。

響の思惑は当たったらしく、向こう側に現世の景色が見える。

 

「立花響ッ!!」

「はいよー!」

 

ネフィリムの臨界も近い、長居は無用。

響は一度、群れを大きく吹き飛ばし。

マリアと共に、出口へまっしぐらに向かう。

しかし、ネフィリムは簡単に逃してくれない。

進路を塞ぐように立ちはだかり、こちらへ牙を向けるネフィリム。

 

「迂回路はなしか・・・・!」

「熱烈なことで」

 

それぞれ苦言を漏らしながら、それでもなお諦めない。

何かを確認するようにあたりを見回した響は、不敵な笑みを浮かべながらマリアに手を伸ばす。

 

「マリアさん、運転は得意ですか?」

「え?ええ、種類もそれなりに。日本では『何でもござれ』と表現するのでしょう?」

「そっか、それじゃあ――――」

 

途端に、響の装甲が分解される。

変形し、増殖し、その小さな体を包み込んで、

 

『――――わたしとランデブーはいかがですか?』

 

一頭の、機械的な竜へ。

マリアは一瞬ぽかんと呆けたが、次の瞬間には笑みを浮かべ。

颯爽とその背に飛び乗った。

 

「馬みたいに、お尻を叩きましょうか?」

『馬じゃないからカンベンしてくだサーイ!』

 

軽口を叩きあいながら、飛び立つ。

二人の歌と、ネフィリムによって満ち満ちたフォニックゲインを束ねる。

マリアの装甲も分解・変形し、竜に装備されていく。

黄金の体と、白銀の鎧を纏った竜は。

その速度を、更に増して。

 

「「最速で!最短で!まっすぐにッ!!」」

 

駆け抜ける、一条の光となる。

音の壁を超える、空気の壁を超える。

ネフィリムなどという通過点のことは、あえて考えない。

目指す場所へ、ひた走るのみ・・・・!!

 

「「一ッ直線ッにいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!!!!」」

 

思いが実を結んだのか、ネフィリムに肉薄した一撃は。

重々しく、その胴体を貫いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「――――ぁ」

 

ブラックアウトしていた意識が、鎌首をもたげるように浮上した。

摺りガラスのように狭まった視界で周囲を見たナスターシャは、自身の重大な使命を思い出す。

 

「ぐ・・・・」

 

何とかひじを立てて体を持ち上げ、手元のコントロールパネルに目を向ける。

そこから軋む首を動かして、モニターを読んで。

やっと進捗を把握した。

 

「フォニックゲインの照射を継続、月遺跡『バラルの呪詛』の再起動を確認・・・・ぐ、は・・・・」

 

耐えきれず、吐血。

口元や手が汚れるが、かまっていられない。

その必要は、もうない。

 

「月軌道、修正・・・・開始・・・・!」

 

呼吸はとっくにままならず、一瞬でも気を抜けば事切れてしまいそうだ。

視界だって何度も暗転し、いつ途切れてるか。

 

「・・・・っ」

 

そんな中、ナスターシャは何となく顔を上げた。

目に映ったのは外を映したモニターだ。

海の青と大陸の緑を纏い、真っ暗な宇宙にぼんやり輝く地球。

それを、装者達が絶唱を放った名残なのか、フォニックゲインらしき光の粒がキラキラ瞬いて彩っている。

泣きたくなるほど、美しい光景だった。

 

(――――星が、音楽となった)

 

今度こそ途切れる視界。

それでもあの光景だけは、焼き付いている。

 

(どうか、あの子達が)

 

笑みを浮かべて、体を傾けながら。

美しい景色を生み出した『我が子(むすめ)』達の、幸せを願って。

今度こそ、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

『ずべしゃあッ!』何て効果音が出る勢いで、地面に叩きつけられた。

って言うか、鼻・・・・鼻が痛い・・・・!!

思ったよりも固い地面に悶えそうになるけど、今はそれどころじゃない。

顔を上げる。

ちょうど目の前にソロモンの杖。

見上げれば、未だ空いたままの宝物庫が見えた。

 

「――――ッ」

 

立ち上がる。

全身の痛みを無視して、杖を引っつかむ。

 

「――――閉じろッ!バビロニアッ!!!」

 

そのまま大きく振りかぶって、

 

「二度と、開くなああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」

 

最後の力を振り絞って、ブン投げるッ!!!

鋭く一直線に飛んでいくソロモンの杖。

高く高く飛んでいった後、バビロニアの宝物庫に飛び込んで。

その扉を、閉めるのが見えた。

 

「ぅわわ・・・・!!」

 

直後、地面が揺れる。

ネフィリム爆発の振動が、ここまで来たんだろう。

思わず尻餅ついた・・・・・痛いよぉ~。

っていうか、ここどこ?

原作だと砂浜に落ちたけど、どうやらそうじゃないっぽいし・・・・。

そうそう、それよりもマリアさんだ!どこにいる?一緒に落ちてきてるよね!?

不安になったので、あちこち見回そうとして。

――――気付いた。

砂埃が晴れた先、見える建物は。

ある種、始まりの場所とも言えるもので。

その時、

 

「――――はは」

 

背後に、気配。

誰だか分かったから、思わず笑ってしまった。

 

「本当に懲りないね、

 

 

 

 

 

武永」

 

 

 

 

 

 

何とか立ち上がりながら、振り向く。




いや、あれで終わりとか言ってませんし・・・・(

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