チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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もともと投稿していたものに、加筆・修正を加えました。


閑話:小ネタ3

『残ったもの』

 

そっと、手を取る。

温度の無い、冷たい手。

 

「未来?」

 

呼ばれて顔を上げれば、きょとんとした目に見られていた。

 

「どうしたの?」

 

微笑みながら、握り返される。

秋を感じ始めたこの季節には、いささか冷たい両手。

響自身も自覚しているのか、代わりに優しい指使いが伝わった。

 

「――――ッ」

 

心が、軋む。

知らなかった、気付かなかった。

この人が、こんなに蝕まれていたなんて。

ずっとずっと、一緒にいたのに。

抱えた『呪い』を、分かってあげられなかったなんて・・・・!!

目元に熱が灯る。

雫が溢れそうになるのが分かる。

自責と、後悔で、押しつぶされそうになって。

 

「大丈夫」

 

そっと、抱き寄せられた。

 

「色々なくなったものはあるけれど、残った物だってちゃんとあるよ」

 

耳が胸元に当たる。

低く、力強い、心臓の音。

目を閉じれば、よりはっきり感じた。

 

「大丈夫、簡単に死なないから」

 

柔らかく、優しく。

甘やかすように撫でてくれる手つき。

だけど、『絶対』と断言してくれない言葉に、恐れを抱いてしまって。

冷え切った胸は、ちっとも温まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ナイトメア』

 

「――――ぐ」

 

剣戟を弾く。

何度も受けた重たい一撃。

疲労困憊となった身では、顔を歪めるしか出来ない。

ふらついた足元で何とか踏ん張り、追撃を弾き飛ばす。

しかし無理に動いた所為で、体勢が崩れた。

 

「――――」

「ッ大丈夫だ、案ずるな」

 

駆け寄ってきた彼女へ笑みを向けて、立ち上がった。

前を見据える。

頭から炭をかぶったように真っ黒なそいつは、色合いに不釣合いな黄金を携えて。

獣のように低く唸りながら、こちらを睨みつけていた。

 

「ッガアアアアアア!!!」

 

剣術なんてへったくれもない一閃。

飛ばされた斬撃を迎え撃ち、弾き返す。

爆発、黒煙に視界を遮られる。

煙を振り払おうと剣を振りかぶったが、惜しくも一歩間に合わない。

 

「グオオオオオッ!」

「な、グァッ!!」

 

刀身を叩きつけられ、吹き飛ぶ。

壁に激突し、痛みが体を縛り上げる。

悶えている暇はないのに、四肢が言うことを聞かない。

四苦八苦している間にも、奴は彼女の元へ迫り。

その刃を、振り上げて、

 

「小日向アアアアアアアアアアッ!!」

 

最後に見たのは、少女が両断される様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――却下だ」

「でしょうね」

「最近徹夜してると思ったら・・・・」

 

シミュレーター。

腕を組んで険しい顔をする弦十郎と、その正面で正座する了子。

了子の顔には、濃い隈がはっきり浮かんでいた。

新難易度『装者死すべし(Diva Must Die)』の実装に伴い。

了子が寝不足の勢いで作り上げてしまったもう一つの難易度『ナイトメア』。

内容は、デュランダルによって暴走した響から未来を守りつつ、制限時間内に響を無力化するというものだったが。

この響が、『装者死すべし(Diva Must Die)』の強敵に届かんばかりの実力であったため、試験プレイを行った翼はあえなく敗北。

さらに何を思ったのか、設けられた『ペナルティ』で二人の死に様を見せ付けられるという『心折(しんせつ)設計』。

たまらずメンタルをやられた翼は、現在本物の未来になりふり構わず抱きついているのだった。

急に呼び出されたと思ったらがっつりハグされて困惑していた未来も、理由を聞いて納得。

響も中々未来を放さない翼を責めることはせず、ただ黙って頭を撫で続けていた。

クリスも、呆れたように了子を見ている。

 

「なんだってこんなモードを作ったんだ・・・・」

「寝不足のテンションと言うか、興が乗ったというか・・・・正直反省してるわ」

「是非そうしてくれ・・・・あと、今日はもういいから、休め。まずはその隈を取るんだ」

「ええ、そうさせてもらいましょう」

 

了子は会話が一段落すると、辛そうに眉間を押さえた。

どうやら話しているだけでも精一杯だったらしい。

―――――ちなみに。

翼の前に、響がこのモードをやったのだが。

 

「今死ねッ!すぐ死ねッ!骨まで砕けロォッ!!」

「暴走なぞッ!やらかしてんじゅああああああああああッ、ぬぇええええええええええッ!!」

「ぶるあああああああああああああああッッッ!!!」

 

と、いった具合に。

相手が自分であるからこそ、持ち合わせている容赦の無さを遺憾なく発揮。

暴走した自分を徹底的に叩きのめし、目を見張るような好タイムでクリアした。

この『ナイトメア』。

クリアした場合は、正気に戻った響へ未来が抱きつき、中々微笑ましい光景が見られるのだが。

この時ばかりは、心なしかひしと互いにしがみついて、震えていたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ポーカーその2』

 

「あ、そーだ」

 

それは、鍋パーティの後の事だった。

片付けも済み、それぞれが集まって談笑していたときのこと。

何かを思い出した弓美が、ごそごそと鞄をあさって。

トランプケースを取り出した。

 

「じゃーん!せっかくだしあそぼーぜぃ!」

「といっても、何して?」

「何ってそりゃあ・・・・何しよっか」

 

直後創世に指摘され、言葉を濁していたが。

意外にもクリスが身を乗り出し、トランプを手にして未来を指す。

 

「ちょうどいい!いつぞやのリベンジだッッ!!」

「ポーカー?いいよ、やろうか」

 

好戦的な笑みへ、余裕を持って微笑む未来。

事情を知らない面々は、当時を知る弓美や翼にわけを聞き。

それぞれ驚いたり興味深そうに見つめたりした。

そして、未来とクリスに、ポーカーに興味を持った切歌、それからマリアが勝負することに。

翼は、今回ディーラーに回り、初心者である切歌へのアドバイザーも務める。

傍から経緯を見ていた響は、ご愁傷様と言いたげに目を細めていた。

 

 

 

 

 

 

 

(未来無双その2、はっじまーるよー)

 

 

 

 

 

 

 

――――静かに燃え滾る空気。

途中から盛り上がる若者に気付いた大人達も混じって観戦する中。

四者は自らの手札を見つめていた。

 

「翼さん、三枚チェンジデス」

「こっちは二枚頂戴」

「分かった」

 

促された翼は、切歌とマリアに手札を渡す。

クリスと未来は現状維持。

これで勝負を決めるつもりらしい。

 

「では、各自ショウダウンだ」

 

各々の準備が整ったことを確認して、翼が合図する。

 

「スリーカードデス、クリスさんは?」

「ストレートフラッシュだ、あんたはどうだ?」

「負けたわ、ストレートよ」

 

切歌は2が三つのスリーカード、クリスはダイヤの2から6が揃い。

マリアは逆に不ぞろいの8からQが揃っていた。

 

「ごめんクリス、ファイブカード」

「ハァッ!?」

 

そんな彼女達をみた未来はにっこり笑って。

各種スートのAと、ジョーカーが揃った手札を見せたのだった。

 

「今回も勝ちだね」

「どーなってんだよおめーはよ!?」

「どんな運持ってたらそうなるの・・・・」

「デース・・・・」

 

プレイヤー達はがっくり肩を落としたり、遠い目をしたり。

 

「話には聞いていたが、凄まじいな」

「意外な特技と言うわけですか、感服です」

 

ギャラリーも、それぞれ感想を漏らして感心していた。

と、『次だ次!ババ抜きやろーぜ!』とムキなるクリスを微笑ましく見ていた未来は。

自分に向けられる強烈な視線に気付いた。

目を向ければ、穴が開かんばかりにこちらを凝視している調が。

 

「どうしたの?調ちゃん」

「じー・・・・・」

 

声をかけられてもなお、凝視し続けていた調は、ふと。

未来に近寄ると、徐にその袖を摘んで、引っ張る。

 

「あっ」

 

瞬間、ばさっと畳にぶちまけられるカード達。

トランプを回収していたマリアや、ババ抜きに参加しようと輪に加わっていた者達はぎょっとして。

カードと未来とを、何度も見比べて、

 

「お、おまっ!おま、おまえええええええええ!?」

「バレちゃった」

「『バレちゃった☆』じゃねーよ!お前、そん、マジで・・・・!!」

 

勢い良く立ち上がったクリスは、百面相しながら身悶えている。

実に悔しそうな様から、未来のイカサマは『まさか』だったらしい。

 

「よく分かったね」

「・・・・切ちゃんと比べて、何か変だった」

「そっかぁー」

「というか、あなたも分かっていたんじゃないの?」

 

響をねめつけた調の発言に、今度は響へ視線が集中する。

対する響は、からから気の抜けた笑い声を上げて、

 

「気付かないみんなが悪い」

「身 も 蓋 も 無 い ッ !!」

 

『ド畜生ォッ!』と頭を抱えてリアクションするクリスを、響は面白そうに見てから。

 

「だーいたぁい、未来が本気出したらやってるかやってないか分かんないんだからね?」

「聞きたくねーよそんな補足ゥ!!」

 

刺されたとどめに、クリスは今度こそ崩れ落ちた。

なお、当然のことながら。

これ以降未来には、イカサマ禁止令が出されることになる。

 

「未来ったらどこで覚えたのよ・・・・」

「親切な人にちょろっと、大事な食い扶持でした」

「そうだ、この子サバイバル経験者・・・・」


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