『ただいま』
「――――マリアさんと響ちゃん、帰投!!」
「医療班急いで!!」
決着直後の二課本部。
慌しく走るスタッフと共に、装者達も駆けつけてみれば。
それぞれ担架に乗せられた、ボロボロの二人が。
「あああああああああああ!マリア!マリア!マリアアアアアアアアアアアア!!」
「ややややややややけっ、やけっ!!やけええええええええええ!」
「ふ、二人とも、ちょっと静かに・・・・結構クる、響く・・・・!」
「月読、暁も落ち着け!」
「追撃ぶち込んでんぞ、やめてやれ!」
調と切歌は完全に取り乱し、特に調は滅多に出さない大声を上げて。
びゃんびゃん泣きながらすがり付こうとして、翼とクリスに制止される。
一方のマリアも、予想以上の大声に想わぬ追撃を喰らっていた。
「ひびき」
「――――――みく?」
その隣で、未来は響に駆け寄る。
心ここにあらずといった様子で、ぼんやり右手を見つめていた響は。
二呼吸ほど間を置いて、未来に気がついた。
目は焦点が合っておらず、前を見ているようで見ていない。
一見抜け殻のように見える姿に、胸が絞まる感覚を覚えた未来。
行動は、速かった。
両手を広げて、抱き寄せる。
半年振りに感じる温もりは、やけに懐かしく思えた。
怪我に配慮しながら、なお抱きしめ続けて。
「・・・・・ひびき」
そっと、耳元に。
響の意識を取り戻す言葉を、告げる。
「ひびき、おかえりなさい」
たったそれだけの、短い言葉。
だが、それだけで十分過ぎるくらいで。
「・・・・・うん、ただいま」
弱々しくも、確かに抱き返された。
『恨みの行方』
「そういえば二人とも、わたしへの復讐はいいのかな?」
二課本部、装者の謹慎室。
何の気なしに響が口にした問いに、全員の視線が集中する。
常日頃から自分をないがしろにしがちな彼女を、イヤでも知っているがための反応だった。
翼とクリスは呆れ半分、心配半分の目を向け、未来は大丈夫だろうかとオロオロしている。
マリアは静観を決め込んでいるようだったが、何かあれば動くであろうことは容易に想像できた。
そんな妙に緊張した中、調と切歌は困ったように互いを見てから。
「・・・・正直もう、殺そうっていうのは、ちょっと」
「あ、そうなの?」
まずは、そんな結論を簡潔に述べる。
「毎日罰受けてるみたいな生き方されてたら、流石に考えるデスよ」
「うん」
次に切歌が根拠を告げれば、張り詰めた空気は霧散していった。
見守っていた各々は、ほっと息をつく。
「いやぁ、照れますなぁ」
「ちっとも褒めてないデス・・・・」
響は相変わらず茶化すような口調だったが、決して二人の決断を蔑ろにしているわけではないようだった。
だから切歌も、それ以上の悪態はつかないことにする。
「あ、でも挑戦はさせてもらう」
「首をよく洗っておくデス!」
「わーい、楽しみにしてるね」
とはいえ、リベンジには燃えているらしい。
自信満々に指を突きつける二人に、響は気の抜けた笑みで答えた。
『これからの話』
「へぇ、それじゃあ来年から、二人ともリディアンなんだ」
「はい」
「よろしくデス」
相も変わらず、装者の謹慎室。
調と切歌の今後を聞いた未来が、感心した声を上げていた。
「なら春からは後輩か、センパイとして厳しく指導してやるからな」
「よろしくね」
クリスは凄みをかけて身を乗り出し、未来は大らかに微笑んで。
それぞれの反応を見せた。
「そういえば、あなた学校は?」
「わたしも来年から通信制の高校に。最終学歴中学中退っていうのは、さすがにまずいんで」
その一方で、妹達を微笑ましく見ていたマリアが、思い立って響に問いかければ。
響は苦笑いまじりで答える。
返ってきた返事に、マリアは納得した様子で頷いていた。
「ちょっと、楽しみ」
「上手く慣れるといいね」
柄にもなくわくわくした様子の調に、未来が話しかけていると。
途端に、響の顔がいたずらを思い出したそれに変わった。
低い姿勢と軽やかな足取りで、装者年少組に近寄って。
「『なれ』と言えばねー?」
「えっ?」
「デス?」
にゅっと、指を立てながら話しかける。
「架空の動物、『ナレ』から来ているんだよ?」
突然のことに、未来もクリスも反応が遅れた。
「そうなんデスか?」
「そうそう、誰にでも人懐っこくてね。『友達だよね』『壁無いよね』ってフレンドリーに接するんだって」
突っ込みが無いのをいいことに、響の弁は続いて。
「そこから、『なれる』とか『なれなれしい』って言葉が生まれたんだよー」
「ちょっと、響?」
明らかに吹かれた法螺を、未来がたしなめようとしたが。
「知らなかった」
「教えてくれてありがとデス!」
あろうことか、調と切歌はすっかり信じ込んでしまったらしい。
いつになく目をキラキラさせて、お礼まで言ってしまった。
あんまり純粋な様に、一同唖然となったが。
そんな中真っ先に動いたのはクリスだった。
「んの、バカッ!!デタラメ吹き込むな!!信じてんじゃねーか!!」
「あだ、あだだだだだ!!クリスちゃん痛いよ、痛いって!!」
「知るかバカッ!!」
直ちに響に飛び掛ると、アームロックを決めて説教を始める。
未来は必要なお仕置きだと判断したのか、特に助けることはせず。
我関せずと、調と切歌の誤解を解きにかかっていた。
「分かっていたわよ、ええ、分かっていましたとも・・・・!」
「かわいいな、マリア」
「くっ・・・・!」
タイムリーなんで入れたかったんです・・・・。
テッテレテッテレテテテテテ