チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

79 / 199
はいよる厄介ごと

――――仰け反って傾ければ、鼻先を掠める翡翠の一閃。

流れるように体を捻って側転で離脱すると、それを追いかけるように桃色の丸鋸が追いかけていく。

直撃しそうだったものを弾き飛ばし、前を見据える。

拳を構え、今度はこちらの番と突っ込む。

再び迫る丸鋸と鎌を、次々捌きながら接近。

軽く飛び上がって、回し蹴りを繰り出す。

防御に回ってきた腕とぶつかり、重い衝突音。

衝撃波が爆ぜる。

片方が引き離しにかかってきたので、蹴り飛ばして一閃を避けた。

地面に突き刺さった鎌を足場に、跳躍。

ビルの壁を蹴って、二人を眼下に。

刺突刃を振るい斬撃を飛ばして牽制ののち、本命の『手』を叩き付けた。

土煙で遮られる視界、故に神経を尖らせる。

案の定襲い掛かる桃色と翡翠。

飛びのいて回避し、『手』を伸ばす。

比較的手前にいた翡翠を引っつかみ、引き寄せる。

体勢が崩れた絶好の隙に、腰をホールド。

そのまま仰け反ってジャーマンスープレックス。

勢いに乗せて一回転し、もう一度叩きつけ。

最後の一押しと、抱えたまま飛び上がろうとしたところで。

体に巻きつく糸に気付いた。

直後、ぐいっと引かれる感覚。

吹き飛ぶ風景の中目を動かせば、桃色が最近使い始めたヨーヨーを握り締めていた。

即座の脱出は困難。

身を固めて衝撃に備えれば、ビルの中に叩き込まれた。

 

「―――――は」

「ふぅっ、は・・・・は・・・・!」

 

思い出したように呼吸を再開する二人。

がらがらと零れる瓦礫を見つめ、敵の沈黙を確かめようとした。

その、刹那。

瓦礫が爆ぜたと思ったら、飛び出してくる何か。

足元に突き刺さったそれは、瞬く間に発光して。

 

「ああッ!!」

「ぐうっ!」

 

今度は二人が爆発に呑まれる。

砂埃の向こうには、指の間に刃を挟んだ姿。

視線に気付いた途端不敵に笑い、両手の刃を投げ飛ばす。

宙を舞った後、激しく発光して次々爆発する刃の群れ。

 

「っだあ!!」

「やああああッ!!」

 

襲い来る熱と衝撃に、埒が明かないと判断。

翡翠が思いっきり振り払って刃を引き離し、桃色が鋸を展開して飛び出す。

肉薄、唸る鋸が手甲と激突して火花を散らす。

しかし、対する不敵な笑みは消えないまま。

 

「ッ・・・・!」

 

やはり接近戦は、あちらに軍配が上がる。

ボディブローで吹き飛ばされ、体勢を崩す。

地面に落ちる前に受け止めてもらえたが、全身に響く痛みですぐには動けない。

と、攻防も佳境に差し掛かってきた中。

唐突に聞こえる、手拍子二回。

弾けるように見上げれば、周囲の建物に突き刺さる無数の刃が。

もう見慣れてきた輝きを放っていて。

 

「――――」

 

視線を戻す。

唇に添えた指で、キスが投げられて。

瞬間。

轟音と瓦礫が、雪崩れ込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

二課がS.O.N.G.へと再編成され、ナスターシャ教授の葬儀も滞りなく終わり。

ついでにK2が世界三位になって、早三ヶ月。

ノイズの観測もすっかりされなくなったこの頃の主な任務は、世界各地での災害救助活動だ。

そんな中、調ちゃんと切歌ちゃんが快挙を成し遂げる。

あの『DMD』を、見事クリアしたのだ。

その現場見てたけど、いやぁ、ホントにすごかったよ。

本人達もびっくりしすぎて、ものすごい叫んでたし。

あんな高速なアルプス一万尺、初めて見た・・・・。

で、今日。

約束どおり、二人の挑戦を受けたんだけど。

 

「負ぁーけぇーたぁーデぇースぅー・・・・!」

 

自販機横の休憩スペース。

テーブルの上に突っ伏した切歌ちゃんが、ぐでーっと唸っている。

 

「あはは、でも二人とも強くなってたよ?もうちょっと隠しとく予定だった新兵器使わされたし」

「あの爆発する刃・・・・?」

「そーそー」

 

前から、『飛び道具欲しいなー』なんて薄々考えていたら、執行者事変のときの限定解除をきっかけに出てくるようになってきた。

分かる人には、『Devil May Cry4のルシフェル』とか『fateシリーズの黒鍵』のようなものと言えば、伝わるんじゃなかろうか。

手甲から飛び出してくる、エネルギーの篭った刃で。

普通の武器として使用するも良し、投げつけて任意のタイミングで爆発させるも良し。

拳しかなくてちょっと心もとないなと思っていた今のわたしにとって、頼りになる力の一つだ。

 

「でも、対応できなかったわたし達の負けは変わらない・・・・」

「ぐぬぬぬぬ、次こそは勝つデス!」

「はいはい、いつでもおいでませー」

「んにゃああああああッ!勝者の余裕ううううううッ!」

 

もだもだする切歌ちゃんが面白かったので、思わず笑ってしまった。

と、ここで思い出したので、切り出す。

 

「話は変わるけど、この後は二人ともうちに来るんだよね?」

「あ、はい」

「ううぅ・・・・マリアと翼さんのコラボ、見逃すわけにはいかないのデス」

 

復帰した切歌ちゃんや、調ちゃんが頷く。

そう、今日は『LIVE GenesiX』こと、チャリティロックフェスの日。

日本でも深夜に生中継される予定なのだ。

目玉はやっぱり、救世の英雄である翼さんとマリアさんのコラボユニットだろう。

先駆けて発売された『星天ギャラクシィクロス』も話題沸騰中だし。

今夜は日本全国が夜更かしするでぇ・・・・。

ちなみに原作とは違って、集まるのはわたしの家だ。

 

「板場さん達も来るんですよね?」

「そーだよ、鍋パ以来だね」

 

お菓子とか用意しなきゃなんて考える一方で、思い出すことがあった。

――――数日前のことだ。

横浜近辺で、謎のエネルギー反応を検知したとの報告が、当直だった友里さん達から上がってきた。

・・・・もしかしなくても、『彼ら』だろう。

 

(・・・・いよいよ、かぁ)

 

原作に比べて、わたしは誰かを攻撃することに躊躇いが無い。

だって、迷った末に未来を失う方が、もっとイヤだから。

だけど、だから大丈夫とも言っていられない。

『執行者団』(パニッシャーズ)みたいな例もあるし、何にしたって油断は禁物だろう。

『勝って兜の緒を締める』とも言う。

せめて最悪の結末だけは回避しないと・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

――――いかなきゃ、たどり着かなきゃ

 

か細い足を必死に動かして、夜を駆け抜ける。

 

――――全てが手遅れになる前に、早く

 

知らずに犯してしまった罪過から、逃げるように。

償いの場所を目指して、疲労を必死に押し殺して。

 

――――ドヴェルグダインの遺産を、あの人達の下へ

 

例えそれが、誰かの思惑通りと知らぬままでも。

どこまでもどこまでも、逃げ続けた。




『錬金術師』と聞いて、『きーみのってっでー♪』が流れた人はわたしと握手。
『このおもいをけしてしまうには♪』も流れた人はそのまま踊りましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。