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ロンドン。
テムズ川の上に創設された会場の控え室で、上着を羽織った翼とマリアは待機していた。
二人の周囲を囲むのは、黒いスーツに身を包んだ屈強な護衛達。
部屋の中だけではなく、部屋の外にも何人か控えていた。
一様にサングラスをかけているので、威圧感もひとしおだ。
「・・・・中々に息苦しいな」
「そうね、まるで監視でもされているみたい」
物憂げにため息をついた翼に、乾いた笑みで同意するマリア。
緒川という信頼の置ける人物が傍にいるとはいえ、やはり十全に耐えるのは難しいようだ。
「・・・・監視ではなく、警護です」
「そのとおり、世界を救った英雄を狙う輩も、少なくないのですから」
そんな二人のやり取りにむっときたのか、護衛の一人が口を開いた。
別の護衛もまた、同意して短く頷く。
――――実際。
巨悪を打ち滅ぼしたと賞賛を浴びる一方で、彼女達が持ちえるシンフォギアに興味を持ち。
合法・非合法含めた手段で手に入れようとする輩は、確かに存在するのだ。
「分かっている、冗談よ」
そんな背景事情を把握していたからこそ、マリアもいたずらっぽくウィンク。
翼も緊張がほぐれた顔で、足を組みなおす。
護衛達は微妙な顔で歌姫二人を見て、緒川は苦笑いを零していた。
と、
「失礼します!マリアさん、翼さん、そろそろスタンバイお願いします!」
「はい!」
「今行きます!」
ガタイのいい護衛に驚きながら、ライブスタッフが駆け込んでくる。
歌姫二人はそれぞれ返事を返して、立ち上がった。
「護衛に囲まれようと、我々のやることは変わらない」
「ええ、最高のステージの幕をあけましょう」
纏った上着を翻して、歩き出す。
◆ ◆ ◆
「うっひゃあああああ!マリアー!!」
「翼さーん!!!」
さーてさて、深夜の日本ですよっと。
わたしの家に友達みんなで集まっての、ロンドン生中継の鑑賞会。
ご近所さんごめんなさいって思いながら、わたしもサイリウム振って楽しむ。
二人が歌っている『星天ギャラクシィクロス』、コンセプトは『明るく歌う鎮魂歌』だっけか。
それを踏まえて聞いてみると、これまでに亡くなった人達へ向けて。
『何度だって立ち上がるよ』と歌っているようにも聞こえる、『だから心配しないで』とも。
そう考えると、意外としんみりした歌かもしれない。
・・・・あっ、今『ほえろ!』のとこで跳ねるマリアさんが見えた。
かわいい(確信)
やがて曲が終わって、最後に盛大な花火と、ARだがVRだかの技術で映し出された銀河が二つ。
いやぁ、金かかってんなぁ・・・・。
「っひゃー!すっごーい!!こんな人達と友達が世界を救ったなんて、まるでアニメだねー!!」
「アア、ウン、ソダネー・・・・」
すっごい興奮気味の弓美ちゃんが、サイリウムを振りまくりながら嬉しそうに言う。
・・・・正直、世界を救おうだなんてのは二の次だったんだよなぁ。
だから褒められても素直に喜べないというか、なんかもにゃるというか。
「マリア、すっごく楽しそうだったデス」
「うん、でも無理してないかな・・・・お仕事だとずっと笑っているけど・・・・」
調ちゃんと切歌ちゃんは存分に楽しんだ一方で、マリアさんのことが気にかかっているようだった。
離れてからまだ数ヶ月だけど、芸能界って結構激務って聞くし。
まあ、心配になるよね。
「みんなを守ったのは認めてもらえたけれど、それでも求められたのは、大人達の体裁を守る偶像・・・・アイドルでい続けること」
ついでに翼さんも。
シンフォギア装者はその半数以上が未成年。
わたしを除けば、みんな学生だ。
原作と違ってアメちゃんは協力関係ではあるものの、その他の国はやっぱり違う。
シンフォギアに対する興味と畏怖。
色んな国の思惑と、弦十郎さん達の交渉の結果が。
『社会人』というある種縛りやすい立ち位置である、翼さんとマリアさんの行動制限だった。
有事の際の自由行動は許されているから、『原作』よりは多少動けるようではあるけれど。
それでも、わたし達を庇ってくれた結果だと思うと、何だかやるせないよね・・・・。
「それでも、頑張る理由は変わっていないと思う」
「未来?」
重くなりかけた空気をはらうように、未来の声。
振り向くと、どこか穏やかに笑っている。
「出動してるみんなと同じように、誰かの、何気ない日常を守るために。二人ともあそこで頑張っているんだよ」
『違うのは戦っているか、そうじゃないかだけだ』と。
未来は最後にはにかんで締めくくった。
個人的に付け加えるなら、翼さんマリアさんにとっての『何気ない日常』には。
調ちゃんや切歌ちゃん、クリスちゃんも入っていることだろう。
・・・・いや、わたしも入っているんだろうとは思うんだけど。
なんと言うか、自分で言うには照れくささがと言うか恐れ多さがというか。
その・・・・な!?
「そう、デスよね」
「だからこそ、私達で応援しないと」
一人でプチもだもだするわたしの横で、明るく調子を取り戻した調ちゃんと切歌ちゃん。
うんうん、マリアさん的にも笑ってくれた方が嬉しいよ、きっと。
なんて、後輩二人に微笑ましくなっているところへ。
「っ・・・・!?」
「おっと」
けたたましいアラートですよ。
気を利かせてくれた弓美ちゃんが、テレビの音量を下げてくれるのを横目に。
さっと通信機を通信機を取り出す。
『第七区域で、大規模な火災が発生。消防活動が困難なため、応援要請だ』
「ああッ!!」
「了解ッ!!」
手短な要請内容を聞いて、クリスちゃんと一緒に立ち上がる。
「響」
「ちょーっと人助けタイムだ」
どこか心配そうな未来に、さっきのお礼も込めて笑い返す。
「わたし達も」
「手伝うデス!」
調ちゃんと切歌ちゃんも、一緒に立ち上がる。
んー、でもなぁ。
「二人は留守番だ!LiNKER無しに出動なんて、させないからな!」
「ま、もしものためのバックアップってことで、今回は先輩に見せ場をちょーだい」
クリスちゃんの後、フォローを入れるようにおちゃらけてから。
さっと普段着に着替えて、一緒になって家を飛び出す。
タイミングよくやってきれくれた二課、じゃないや、S.O.N.G.のお迎えに乗る。
『――――現場となっているのは住宅マンションだ。既に消火活動は行われているが、防火壁の向こうに多数の生体反応が確認されている』
「まさか、閉じ込められている?」
ヘリの中。
弦十郎さんが、改めて任務の内容を説明してくれている。
防火壁の向こうに閉じ込められてるって・・・・・防災設備が裏目にでちゃうパターンですね。
あるある。
『更に気になるのは、被害が依然四時の方向へ拡大していることだ』
「
A.KANEKOさんなら脚本でハッスルしてらっしゃるけどねー。
『響くんは救助活動を、クリスくんは被害確認を頼む』
「「了解!!」」
なんてこっそりボケてる間に話は進んだ。
役割が決まったと同時に、ヘリの速度が速まったように思う。
窓の外に黒煙が見えた頃。
ハッチを開けて見下ろせば、予想通り火災現場が。
「任せたぞ!」
「任された!」
クリスちゃんに、ギアをちらつかせつつ答えて。
わたしは夜空へ、身を投げ出す。
「――――Balwisyall Nescell Gungnir tron」
◆ ◆ ◆
炎の前に立つ。
翻る紅蓮に想起するは、消えてくれない想い出達。
『世界を知れ』という命題を脳裏に、彼女は静かに涙する。