チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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ライブのち出動

ロンドン。

テムズ川の上に創設された会場の控え室で、上着を羽織った翼とマリアは待機していた。

二人の周囲を囲むのは、黒いスーツに身を包んだ屈強な護衛達。

部屋の中だけではなく、部屋の外にも何人か控えていた。

一様にサングラスをかけているので、威圧感もひとしおだ。

 

「・・・・中々に息苦しいな」

「そうね、まるで監視でもされているみたい」

 

物憂げにため息をついた翼に、乾いた笑みで同意するマリア。

緒川という信頼の置ける人物が傍にいるとはいえ、やはり十全に耐えるのは難しいようだ。

 

「・・・・監視ではなく、警護です」

「そのとおり、世界を救った英雄を狙う輩も、少なくないのですから」

 

そんな二人のやり取りにむっときたのか、護衛の一人が口を開いた。

別の護衛もまた、同意して短く頷く。

――――実際。

『本筋』(げんさく)と違い、マリアと翼はまさしく世界を守った英雄に他ならない。

巨悪を打ち滅ぼしたと賞賛を浴びる一方で、彼女達が持ちえるシンフォギアに興味を持ち。

合法・非合法含めた手段で手に入れようとする輩は、確かに存在するのだ。

 

「分かっている、冗談よ」

 

そんな背景事情を把握していたからこそ、マリアもいたずらっぽくウィンク。

翼も緊張がほぐれた顔で、足を組みなおす。

護衛達は微妙な顔で歌姫二人を見て、緒川は苦笑いを零していた。

と、

 

「失礼します!マリアさん、翼さん、そろそろスタンバイお願いします!」

「はい!」

「今行きます!」

 

ガタイのいい護衛に驚きながら、ライブスタッフが駆け込んでくる。

歌姫二人はそれぞれ返事を返して、立ち上がった。

 

「護衛に囲まれようと、我々のやることは変わらない」

「ええ、最高のステージの幕をあけましょう」

 

纏った上着を翻して、歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっひゃあああああ!マリアー!!」

「翼さーん!!!」

 

さーてさて、深夜の日本ですよっと。

わたしの家に友達みんなで集まっての、ロンドン生中継の鑑賞会。

ご近所さんごめんなさいって思いながら、わたしもサイリウム振って楽しむ。

二人が歌っている『星天ギャラクシィクロス』、コンセプトは『明るく歌う鎮魂歌』だっけか。

それを踏まえて聞いてみると、これまでに亡くなった人達へ向けて。

『何度だって立ち上がるよ』と歌っているようにも聞こえる、『だから心配しないで』とも。

そう考えると、意外としんみりした歌かもしれない。

・・・・あっ、今『ほえろ!』のとこで跳ねるマリアさんが見えた。

かわいい(確信)

やがて曲が終わって、最後に盛大な花火と、ARだがVRだかの技術で映し出された銀河が二つ。

いやぁ、金かかってんなぁ・・・・。

 

「っひゃー!すっごーい!!こんな人達と友達が世界を救ったなんて、まるでアニメだねー!!」

「アア、ウン、ソダネー・・・・」

 

すっごい興奮気味の弓美ちゃんが、サイリウムを振りまくりながら嬉しそうに言う。

・・・・正直、世界を救おうだなんてのは二の次だったんだよなぁ。

だから褒められても素直に喜べないというか、なんかもにゃるというか。

 

「マリア、すっごく楽しそうだったデス」

「うん、でも無理してないかな・・・・お仕事だとずっと笑っているけど・・・・」

 

調ちゃんと切歌ちゃんは存分に楽しんだ一方で、マリアさんのことが気にかかっているようだった。

離れてからまだ数ヶ月だけど、芸能界って結構激務って聞くし。

まあ、心配になるよね。

 

「みんなを守ったのは認めてもらえたけれど、それでも求められたのは、大人達の体裁を守る偶像・・・・アイドルでい続けること」

 

ついでに翼さんも。

シンフォギア装者はその半数以上が未成年。

わたしを除けば、みんな学生だ。

原作と違ってアメちゃんは協力関係ではあるものの、その他の国はやっぱり違う。

シンフォギアに対する興味と畏怖。

色んな国の思惑と、弦十郎さん達の交渉の結果が。

『社会人』というある種縛りやすい立ち位置である、翼さんとマリアさんの行動制限だった。

有事の際の自由行動は許されているから、『原作』よりは多少動けるようではあるけれど。

それでも、わたし達を庇ってくれた結果だと思うと、何だかやるせないよね・・・・。

 

「それでも、頑張る理由は変わっていないと思う」

「未来?」

 

重くなりかけた空気をはらうように、未来の声。

振り向くと、どこか穏やかに笑っている。

 

「出動してるみんなと同じように、誰かの、何気ない日常を守るために。二人ともあそこで頑張っているんだよ」

 

『違うのは戦っているか、そうじゃないかだけだ』と。

未来は最後にはにかんで締めくくった。

個人的に付け加えるなら、翼さんマリアさんにとっての『何気ない日常』には。

調ちゃんや切歌ちゃん、クリスちゃんも入っていることだろう。

・・・・いや、わたしも入っているんだろうとは思うんだけど。

なんと言うか、自分で言うには照れくささがと言うか恐れ多さがというか。

その・・・・な!?

 

「そう、デスよね」

「だからこそ、私達で応援しないと」

 

一人でプチもだもだするわたしの横で、明るく調子を取り戻した調ちゃんと切歌ちゃん。

うんうん、マリアさん的にも笑ってくれた方が嬉しいよ、きっと。

なんて、後輩二人に微笑ましくなっているところへ。

 

「っ・・・・!?」

「おっと」

 

けたたましいアラートですよ。

気を利かせてくれた弓美ちゃんが、テレビの音量を下げてくれるのを横目に。

さっと通信機を通信機を取り出す。

 

『第七区域で、大規模な火災が発生。消防活動が困難なため、応援要請だ』

「ああッ!!」

「了解ッ!!」

 

手短な要請内容を聞いて、クリスちゃんと一緒に立ち上がる。

 

「響」

「ちょーっと人助けタイムだ」

 

どこか心配そうな未来に、さっきのお礼も込めて笑い返す。

 

「わたし達も」

「手伝うデス!」

 

調ちゃんと切歌ちゃんも、一緒に立ち上がる。

んー、でもなぁ。

 

「二人は留守番だ!LiNKER無しに出動なんて、させないからな!」

「ま、もしものためのバックアップってことで、今回は先輩に見せ場をちょーだい」

 

クリスちゃんの後、フォローを入れるようにおちゃらけてから。

さっと普段着に着替えて、一緒になって家を飛び出す。

タイミングよくやってきれくれた二課、じゃないや、S.O.N.G.のお迎えに乗る。

 

『――――現場となっているのは住宅マンションだ。既に消火活動は行われているが、防火壁の向こうに多数の生体反応が確認されている』

「まさか、閉じ込められている?」

 

ヘリの中。

弦十郎さんが、改めて任務の内容を説明してくれている。

防火壁の向こうに閉じ込められてるって・・・・・防災設備が裏目にでちゃうパターンですね。

あるある。

 

『更に気になるのは、被害が依然四時の方向へ拡大していることだ』

放火魔(あかねこ)でも暴れてやがんのか?」

 

A.KANEKOさんなら脚本でハッスルしてらっしゃるけどねー。

 

『響くんは救助活動を、クリスくんは被害確認を頼む』

「「了解!!」」

 

なんてこっそりボケてる間に話は進んだ。

役割が決まったと同時に、ヘリの速度が速まったように思う。

窓の外に黒煙が見えた頃。

ハッチを開けて見下ろせば、予想通り火災現場が。

 

「任せたぞ!」

「任された!」

 

クリスちゃんに、ギアをちらつかせつつ答えて。

わたしは夜空へ、身を投げ出す。

 

「――――Balwisyall Nescell Gungnir tron」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

炎の前に立つ。

翻る紅蓮に想起するは、消えてくれない想い出達。

『世界を知れ』という命題を脳裏に、彼女は静かに涙する。


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