この場を借りて、改めてお礼を申し上げさせていただきます。
寛大な皆さまのお陰で書きあがった最新話、どうぞ・・・・!
「はぁッ!!」
久方ぶりにガングニールを纏ったマリアは、手始めにまだ接近してくるアルカ・ノイズへ立ち向かう。
分解器官である発光部位を避けつつ、次々切り捨てて屠っていくマリア。
「――――あの子達がまだ逃げ切れていないの、行ってあげて」
ある程度開けたところで、徐に口を開いた。
「あなたがいた方が、ずっと安全のはずだから」
「・・・・はい」
注意を逸らさないよう、首だけで振り向いた彼女。
頼まれごとを頷きで了承した響は、抜けた腰を取り戻して走り去る。
「何かと思えば、お薬頼りのハズレ装者じゃなぁい?」
「ハズレかどうか・・・・身を以って知りなさいッ!!」
改めて戦闘体勢を取ったマリア。
――――駆けつけた直後から、不敵な態度を取り続けているものの。
実際は、LiNKER無しで纏った反動をじわじわ受けていた。
全身を蝕む痛みに、あまり長くは持たないと判断したマリア。
短期決着を結論付けると、強く踏み込んで残っているノイズへ肉薄。
再び蹂躙を始める。
伸ばされたり飛ばされたりしてくる発光部位は、全て見切ってかわし。
どうしても避けられない場合は瓦礫をぶつけて相殺。
危なげないながらもノイズを片付けきったマリアは、とうとうガリィの下へたどり着く。
突きを繰り出せば氷で防がれたものの、慌てず槍のギミックを発動。
刀身を開いて解き放てば、つられて広がるガリィの両腕。
(獲ったッ!!)
見逃さないと言わんばかりに、重々しく突き込んだが。
「――――ッ」
「――――ハハッ」
これも、胸元に展開された氷に防がれてしまった。
ガリィは一旦受け入れるように閉じていた目を見開き、狂暴な笑みを浮かべる。
飛ばされた氷柱を避けながら後退するマリア。
「決めたッ!!」
ガリィはスケートのように、しかして非現実的なリズミカルさで接近する。
「アタシの獲物は、アンタだッ!!」
手に氷柱を纏わせ、バレェさながらの優雅さと鋭さで肉薄するガリィ。
『戦闘向きではない個体』とエルフナインから聞いていたものの、一撃一撃は人外らしく重たい。
加えて、さきほど響に使った水の幻影から、狡猾さも持ち合わせているらしい。
油断なら無い強敵だと、軋む体を気合で宥めながら、マリアは口元を結んだ。
一合、二合、切り結ぶ。
剣戟の度、ギアの節々が悲鳴を上げる。
異音と火花は、より激しくなる。
地面を踏みしめるマリア、地面を滑走するガリィ。
対照的な両者の攻防の均衡は、呆気なく崩れ去る。
「――――がッ」
右脚。
金属が砕けるような音と、小さな爆発。
短い悲鳴とともに、マリアの体が大きく傾く。
「ハハハッ!!もうひとぉーつ!!」
逃がさないと言わんばかりに、ガリィはマリアの胸元を狙って。
――――刹那。
鋭い切っ先が、触れるか触れないかのタイミングで。
一層激しい火花とともに、ガングニールが解除された。
「・・・・ッ」
「ああッ・・・・!」
どこか苦い顔とともにガリィが手を引っ込めば、がっくり膝をついて倒れこむマリア。
「・・・・何よこれ、揺さぶったらダメになるヤツと、歌ってもたいしたことないヤツしかいないじゃない」
目と口から血を流し、鈍く短く呼吸するマリアを、心底面白くなさそうに見下ろすと。
「――――クッソつまんない」
吐き捨てるように、テレポートジェムを叩きつけて。
ガリィは撤退していった。
「はぁ、っぐ・・・・!」
敵がいなくなったのを確認したマリアは、今度こそ倒れ伏す。
歌姫らしからぬ満身創痍で、苦し紛れに息を続けた彼女は。
やがて、泥から這い出るように身を起こした。
「マリアさん!」
「ぉがわさん・・・・」
そこへ緒川が駆けつけ、立ち上がろうとする彼女に肩を貸す。
「大丈夫ですか!?」
「喋れるし、意識もある・・・・大丈夫」
「・・・・また、調さんと切歌さんが心配しますよ」
「ふふ、そうね」
軽口を交わしつつ、二課スタッフが待機している場所に行けば。
「ッ・・・・マリア、さん」
響が小走りで駆け寄ってきた。
顔には心配の他に、不安や罪悪感、そして他にも僅かな暗い感情が見て取れる。
少し目をずらせば、後ろの方で案じる視線を送る未来達がいた。
「はい」
視線を戻したマリアは、握っていたものを。
ガングニールのペンダントを、響へ差し出す。
現在の適合者、および所有者は彼女だ。
今回こそ纏いはしたものの、それは緊急事態だったからという意思があったマリア。
故に、受け取るように促したのだが。
「・・・・ッ」
どういうわけか、響は顔を強張らせて俯いてしまった。
そのまま、うんともすんとも言わなくなってしまう響。
「・・・・!」
その静かな拒絶に痺れを切らしたマリアは、その手をひったくって無理やり握らせて。
「――――目を背けるなッ!!」
「・・・・ッ!」
一喝すれば、肩を跳ね上げた響と目が合う。
先ほどとは打って変わって、不安と恐怖が強く出たしおらしい表情。
まるで、親に叱られる子どものようだと思った。
「これは、お前の力だろうがッ!!」
あえて追い討ちをかければ、また俯いてしまう。
手を離したマリアは、そのまま背を向けた。
・・・・今の響が、精神的に弱っていることくらい、分かっている。
しかし、だからとて怖気づいたままではどうなるか、響も理解しているはずだ。
証拠に、ガングニールのペンダントは握られたまま。
呆然としているのは気にかかるが、マリア自身のダメージが大きいのも事実。
幸い未来がいるので、申し訳なくもそちらに任せることにして。
マリアは半ば眠るように、気力で保った意識を手放した。
――――その日以降。
響のガングニールは、反応を示さなくなる。
◆ ◆ ◆
――――逃げるな
――――逃げるな
――――逃げるな
暗闇の中、怨嗟に混じった声がする。
――――認めろ
――――認めろ
――――認めろ
わたしを責め立てる声がする。
――――お前だ
――――お前だ
――――お前だ
そうだ、わたしだ。
わたしが、あなた達を。
――――私達を
――――俺達を
――――僕達を
◆ ◆ ◆
「――――あぁ、ぅ」
聞こえたうめき声で、未来は目が覚めた。
寝ぼけ眼をこすりながら隣を見れば、案の定唸っている響が。
またか、と、心配のため息をついて。
未来は響の様子を見てみる。
「あ、ぁぅ・・・・ぅぐ、ぁ・・・・!」
蒸し暑さからつけた冷房が意味無いくらいに、じっとりと汗をかいた彼女は。
苦悶に顔を歪め、搾り出すような声を上げていた。
ここの所、寝ている間の響はずっとこうだ。
毎夜毎夜、取り出すことの出来ない苦しみに苛まれて。
そして朝になると、目に見えて憔悴している。
「あ"あ"、あ・・・・あ・・・・!」
響の声で、我に返った未来。
「・・・・ッ、ひびき、ひびき?」
悪夢で苦しんでいるならと、その体を揺り動かす。
「ぁ、あ、う・・・・ぅ、う・・・・あ・・・・?」
時折跳ね上がる体にぶつかりながら揺らすこと、少し。
荒いながらも規則正しく呼吸を始めた響は、うっすら開いた虚ろな目を未来に向けた。
「・・・・みく?」
「うん、わたしだよ。みくだよ」
「・・・・また?」
もう何度も経験しているからだろう。
涙を滲ませて見上げる目蓋へ、未来はそっとキスを送った。
「大丈夫、大丈夫・・・・怖かったね」
「ご、ごめん・・・・また・・・・また・・・・!」
「へいき、わたしはなんとも無いから」
堪えきれず、はらはら涙を流す響を抱きしめて。
そのふわふわな髪を撫でながら、『だいじょうぶ』を辛抱強く繰り返す。
嗚咽と啜りで小刻みに震えていた響だったが、しばらくすると控えめになり。
やがて、気を失うように眠りについた。
暗闇でも分かるくらいに目元を腫らし、泥のように寝息を立てる響。
一見穏やかに見える姿でも、未来にとっては痛々しいものでしかない。
抱き寄せて密着すれば、まだかすかに震えているのが分かった。
「・・・・ッ」
ちりりと痛む、胸の奥。
次に浮かぶのはどうしてという疑問。
あんなに苦しい目にあった響が、あんなに辛い目にあった響が。
やっと、やっと、日常に戻ろうとしていた響が。
どうしてまた、こんなに苦しんでいるのだろう。
こんなに悶えているのだろう。
響の苦悶が移ってしまったのか、未来の内面もまた、暗く濁り始める。
呼応するように腕の力が強くなって、響をもっと抱き寄せた。
――――嗚呼、このまま。
(このまま、響の罪も、痛みも・・・・全部、全部、わたしにうつってしまえばいいのに)
そう願う未来もまた、やってきた睡魔に身をゆだねる。
気持ち原作以上にマリアさんが頑張った回でもあります・・・・。