チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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先日ツイッターにて、多くの支援イラストと温かい声援をいただきました。
この場を借りて、改めてお礼を申し上げさせていただきます。

寛大な皆さまのお陰で書きあがった最新話、どうぞ・・・・!


膝突く歌

「はぁッ!!」

 

久方ぶりにガングニールを纏ったマリアは、手始めにまだ接近してくるアルカ・ノイズへ立ち向かう。

分解器官である発光部位を避けつつ、次々切り捨てて屠っていくマリア。

 

「――――あの子達がまだ逃げ切れていないの、行ってあげて」

 

ある程度開けたところで、徐に口を開いた。

 

「あなたがいた方が、ずっと安全のはずだから」

「・・・・はい」

 

注意を逸らさないよう、首だけで振り向いた彼女。

頼まれごとを頷きで了承した響は、抜けた腰を取り戻して走り去る。

 

「何かと思えば、お薬頼りのハズレ装者じゃなぁい?」

「ハズレかどうか・・・・身を以って知りなさいッ!!」

 

改めて戦闘体勢を取ったマリア。

――――駆けつけた直後から、不敵な態度を取り続けているものの。

実際は、LiNKER無しで纏った反動をじわじわ受けていた。

全身を蝕む痛みに、あまり長くは持たないと判断したマリア。

短期決着を結論付けると、強く踏み込んで残っているノイズへ肉薄。

再び蹂躙を始める。

伸ばされたり飛ばされたりしてくる発光部位は、全て見切ってかわし。

どうしても避けられない場合は瓦礫をぶつけて相殺。

危なげないながらもノイズを片付けきったマリアは、とうとうガリィの下へたどり着く。

突きを繰り出せば氷で防がれたものの、慌てず槍のギミックを発動。

刀身を開いて解き放てば、つられて広がるガリィの両腕。

 

(獲ったッ!!)

 

見逃さないと言わんばかりに、重々しく突き込んだが。

 

「――――ッ」

「――――ハハッ」

 

これも、胸元に展開された氷に防がれてしまった。

ガリィは一旦受け入れるように閉じていた目を見開き、狂暴な笑みを浮かべる。

飛ばされた氷柱を避けながら後退するマリア。

 

「決めたッ!!」

 

ガリィはスケートのように、しかして非現実的なリズミカルさで接近する。

 

「アタシの獲物は、アンタだッ!!」

 

手に氷柱を纏わせ、バレェさながらの優雅さと鋭さで肉薄するガリィ。

『戦闘向きではない個体』とエルフナインから聞いていたものの、一撃一撃は人外らしく重たい。

加えて、さきほど響に使った水の幻影から、狡猾さも持ち合わせているらしい。

油断なら無い強敵だと、軋む体を気合で宥めながら、マリアは口元を結んだ。

一合、二合、切り結ぶ。

剣戟の度、ギアの節々が悲鳴を上げる。

異音と火花は、より激しくなる。

地面を踏みしめるマリア、地面を滑走するガリィ。

対照的な両者の攻防の均衡は、呆気なく崩れ去る。

 

「――――がッ」

 

右脚。

金属が砕けるような音と、小さな爆発。

短い悲鳴とともに、マリアの体が大きく傾く。

 

「ハハハッ!!もうひとぉーつ!!」

 

逃がさないと言わんばかりに、ガリィはマリアの胸元を狙って。

――――刹那。

鋭い切っ先が、触れるか触れないかのタイミングで。

一層激しい火花とともに、ガングニールが解除された。

 

「・・・・ッ」

「ああッ・・・・!」

 

どこか苦い顔とともにガリィが手を引っ込めば、がっくり膝をついて倒れこむマリア。

 

「・・・・何よこれ、揺さぶったらダメになるヤツと、歌ってもたいしたことないヤツしかいないじゃない」

 

目と口から血を流し、鈍く短く呼吸するマリアを、心底面白くなさそうに見下ろすと。

 

「――――クッソつまんない」

 

吐き捨てるように、テレポートジェムを叩きつけて。

ガリィは撤退していった。

 

「はぁ、っぐ・・・・!」

 

敵がいなくなったのを確認したマリアは、今度こそ倒れ伏す。

歌姫らしからぬ満身創痍で、苦し紛れに息を続けた彼女は。

やがて、泥から這い出るように身を起こした。

 

「マリアさん!」

「ぉがわさん・・・・」

 

そこへ緒川が駆けつけ、立ち上がろうとする彼女に肩を貸す。

 

「大丈夫ですか!?」

「喋れるし、意識もある・・・・大丈夫」

「・・・・また、調さんと切歌さんが心配しますよ」

「ふふ、そうね」

 

軽口を交わしつつ、二課スタッフが待機している場所に行けば。

 

「ッ・・・・マリア、さん」

 

響が小走りで駆け寄ってきた。

顔には心配の他に、不安や罪悪感、そして他にも僅かな暗い感情が見て取れる。

少し目をずらせば、後ろの方で案じる視線を送る未来達がいた。

 

「はい」

 

視線を戻したマリアは、握っていたものを。

ガングニールのペンダントを、響へ差し出す。

現在の適合者、および所有者は彼女だ。

今回こそ纏いはしたものの、それは緊急事態だったからという意思があったマリア。

故に、受け取るように促したのだが。

 

「・・・・ッ」

 

どういうわけか、響は顔を強張らせて俯いてしまった。

そのまま、うんともすんとも言わなくなってしまう響。

 

「・・・・!」

 

その静かな拒絶に痺れを切らしたマリアは、その手をひったくって無理やり握らせて。

 

「――――目を背けるなッ!!」

「・・・・ッ!」

 

一喝すれば、肩を跳ね上げた響と目が合う。

先ほどとは打って変わって、不安と恐怖が強く出たしおらしい表情。

まるで、親に叱られる子どものようだと思った。

 

「これは、お前の力だろうがッ!!」

 

あえて追い討ちをかければ、また俯いてしまう。

手を離したマリアは、そのまま背を向けた。

・・・・今の響が、精神的に弱っていることくらい、分かっている。

しかし、だからとて怖気づいたままではどうなるか、響も理解しているはずだ。

証拠に、ガングニールのペンダントは握られたまま。

呆然としているのは気にかかるが、マリア自身のダメージが大きいのも事実。

幸い未来がいるので、申し訳なくもそちらに任せることにして。

マリアは半ば眠るように、気力で保った意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――その日以降。

響のガングニールは、反応を示さなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――逃げるな

 

――――逃げるな

 

――――逃げるな

 

 

 

 

 

暗闇の中、怨嗟に混じった声がする。

 

 

 

 

 

――――認めろ

 

――――認めろ

 

――――認めろ

 

 

 

 

 

わたしを責め立てる声がする。

 

 

 

 

 

――――お前だ

 

――――お前だ

 

――――お前だ

 

 

 

 

 

そうだ、わたしだ。

わたしが、あなた達を。

 

 

 

 

 

――――私達を

 

――――俺達を

 

――――僕達を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「――――あぁ、ぅ」

 

聞こえたうめき声で、未来は目が覚めた。

寝ぼけ眼をこすりながら隣を見れば、案の定唸っている響が。

またか、と、心配のため息をついて。

未来は響の様子を見てみる。

 

「あ、ぁぅ・・・・ぅぐ、ぁ・・・・!」

 

蒸し暑さからつけた冷房が意味無いくらいに、じっとりと汗をかいた彼女は。

苦悶に顔を歪め、搾り出すような声を上げていた。

ここの所、寝ている間の響はずっとこうだ。

毎夜毎夜、取り出すことの出来ない苦しみに苛まれて。

そして朝になると、目に見えて憔悴している。

 

「あ"あ"、あ・・・・あ・・・・!」

 

響の声で、我に返った未来。

 

「・・・・ッ、ひびき、ひびき?」

 

悪夢で苦しんでいるならと、その体を揺り動かす。

 

「ぁ、あ、う・・・・ぅ、う・・・・あ・・・・?」

 

時折跳ね上がる体にぶつかりながら揺らすこと、少し。

荒いながらも規則正しく呼吸を始めた響は、うっすら開いた虚ろな目を未来に向けた。

 

「・・・・みく?」

「うん、わたしだよ。みくだよ」

「・・・・また?」

 

もう何度も経験しているからだろう。

涙を滲ませて見上げる目蓋へ、未来はそっとキスを送った。

 

「大丈夫、大丈夫・・・・怖かったね」

「ご、ごめん・・・・また・・・・また・・・・!」

「へいき、わたしはなんとも無いから」

 

堪えきれず、はらはら涙を流す響を抱きしめて。

そのふわふわな髪を撫でながら、『だいじょうぶ』を辛抱強く繰り返す。

嗚咽と啜りで小刻みに震えていた響だったが、しばらくすると控えめになり。

やがて、気を失うように眠りについた。

暗闇でも分かるくらいに目元を腫らし、泥のように寝息を立てる響。

一見穏やかに見える姿でも、未来にとっては痛々しいものでしかない。

抱き寄せて密着すれば、まだかすかに震えているのが分かった。

 

「・・・・ッ」

 

ちりりと痛む、胸の奥。

次に浮かぶのはどうしてという疑問。

あんなに苦しい目にあった響が、あんなに辛い目にあった響が。

やっと、やっと、日常に戻ろうとしていた響が。

どうしてまた、こんなに苦しんでいるのだろう。

こんなに悶えているのだろう。

響の苦悶が移ってしまったのか、未来の内面もまた、暗く濁り始める。

呼応するように腕の力が強くなって、響をもっと抱き寄せた。

――――嗚呼、このまま。

 

(このまま、響の罪も、痛みも・・・・全部、全部、わたしにうつってしまえばいいのに)

 

そう願う未来もまた、やってきた睡魔に身をゆだねる。




気持ち原作以上にマリアさんが頑張った回でもあります・・・・。

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