誠にありがとうございます。
ここのところ、長く間が開いてしまって申し訳ありません。
負傷した響は直ちに保護された。
破壊されたガングニールも技術班へ送られ、順次修復と改修が行われている。
「隣、いい?」
そんな中、一人廊下に蹲っていた未来。
『手術中』のランプが付いた医務室から、一向に離れようとしない彼女を見かねて、マリアが話しかける。
未来が僅かに頷いたのを見たマリアは、遠慮なく隣に腰を下ろした。
一度顔を上げた未来は、再び顔を膝に埋めてしまう。
対するマリアも特に何か話すでもなく、ただ気遣うように沈黙を保っていた。
が、やがて口火を切る。
「・・・・立花響がやられる直前に出てきた、あの子」
マリアがちらりと目をやれば、こちらを伺う未来と目が合う。
「単に、幼い頃の彼女というわけではなさそうね?」
恐らく、今日の戦いを見守っていた誰もが抱いた疑問。
いや、
マリアの問いに、未来は沈黙を保ったまま。
しかし、わずかに顔を上げた彼女は、ゆっくり唇を動かす。
「――――あの子は」
――――『Project IGNITE』。
翼、クリス、響は戦闘不能。
調と切歌はまだ回復に至っておらず。
マリアにいたってはギアのコンバーターが破損し、そもそも纏えない状態。
そんな絶望的状況を打開するべく、エルフナインが立案した計画だ。
彼女が持ち込んだ聖遺物『魔剣・ダインスレイフ』の欠片をシンフォギアに組み込むことで、アルカノイズ、およびキャロルへの対抗戦力を手に入れる。
単純な強化作業に留まらないため、承認の為には様々な壁を突破しなければならなかったのだが。
そこは開発者である了子の許可と、翼の父親である『風鳴八紘』の後押しによりクリア。
以降、技術班とエルフナインによる改造・及び修復作業が行われることとなった。
それから一週間。
S.O.N.G.本部、技術班。
「――――ッ」
転寝から我に返ったエルフナインは、慌てて手元を見る。
握られていたはずの半田ごては無く、さらに慌てそうになると。
「十分くらい寝落ちてたわよ。半田ごては危ないから、置いといたわ」
「あ、ありがとうございます」
了子がコーヒーを差し入れながら、机の上を指差して教えてくれた。
エルフナインは頭を下げて、膝にかけてあったブランケットを畳む。
その後、どこかぼんやりと動きを止めてしまった。
「・・・・夢でも見てた?」
「な、なんで分かるんですか?」
「顔に出てた」
「あう・・・・」
内面を見せてしまったのが恥ずかしかったらしい。
赤くなったエルフナインを微笑ましげに見て、了子は自分のコーヒーを一口。
「話したくないなら、それでもいいけど」
「・・・・いえ、お話させてください」
束の間沈黙を保ったエルフナインは、ややためらいがちながらも。
記憶を、思い出を。
綴るように、語りだす。
「パパと・・・・あ、キャロルのなんですけど・・・・山に、薬草を取りに行ったときの、記憶を見たんです」
「キャロルの父親も、錬金術師だったのよね」
「はい、住んでいた村が流行り病で困っていたので、薬を作るため、アルニムという薬草を取りに」
聞き覚えのある名前に、了子は反応する。
「ヨーロッパの山間部に自生している、薬効の高い薬草だったわね。確か今は、その希少さから天然記念物になってるんじゃなかったかしら?」
「そうです、天然記念物は初めて聞きましたけど・・・・」
そこで一旦途切れる言葉。
了子は特に続きを促すこともなく、静かにコーヒーを味わう。
「・・・・ボクの中には、キャロルの、パパとの想い出があります、でも」
香ばしい中のフルーティな味わいに、我ながら上手く淹れられたと満足する脇で。
エルフナインはまた口を開いた。
「どうしてキャロルは、失敗作のボクに、記憶を託したんでしょう?」
「・・・・さて、さすがの私も、そこまでは知らないわ」
了子は、何気なく呟かれた疑問への解答を持ち合わせていなかった。
正確には、
脳裏に過ぎるは、キャロルが使いこなす錬金術の数々と、そんな少女に付き従う
(エネルギー源は、やはり・・・・)
すっかり思考の海に沈んだエルフナインを見守りながら、了子は目を細める。
確信めいた答えを、コーヒーの味と一緒に確かめながら。
◆ ◆ ◆
「――――腕の調子はどうだ」
どことも知れぬ場所に建つ、キャロル一味の本陣『チフォージュ・シャトー』。
その広間、腕をぐりぐり動かすミカへ、キャロルが頬杖を突きつつ話しかける。
「これより上が無いくらいバッチシだゾ、これでまた解体に精を出せるゾ」
「なら良い」
ピョンピョンとびはね、感情豊かに喜びを表現するミカ。
全快を十分に感じ取ったキャロルは、淡白な反応を返した。
「しかし、破壊前の状態でミカを損傷させるなんて・・・・」
「マスターが地味に警戒するだけある」
往復するミカを目で追いながら、冷静に分析するはレイアとファラ。
レイアはクリスを、ファラは翼を戦闘不能にした個体だ。
戦闘能力は特化型のミカに比べて低いものの、それぞれが強力な技を持ち合わせている。
仮にギアを破壊されなかったとしても、装者達の苦戦は必至だったろう。
「確かに脅威ではある・・・・が、計画は順調だ」
「それにあのドラゴンモドキ、ちょぉーっと揺さぶっただけですーぐナヨナヨポキンですもんねぇ。案外楽な相手かも~?」
懸念は懸念として気に留めているようだったが、さして重要視している様子ではないキャロル。
同調するように、ガリィは思い出し笑いを下品に零した。
性根の腐った配下のリアクションを横目に、キャロルはここではないどこかを見つめ始める。
・・・・再び握られたそれから、火花が散り始める中。
見える景色を出来る限り、かつ迅速に観察して。
判断を下せるだけの情報を集めて。
「――――頃合か」
キャロルがローブを翻し立ち上がれば。
「次の一手を打つ、遠慮はいらん」
号令を出すように、右手を掲げて、
「――――盛大に暴れて来い」
響「( ˘ω˘ ) スヤァ…」