「――――っふ」
ファラの暴風が、風力発電所を。
「――――目標、派手に破壊完了」
レイアのコインが、地熱発電所を。
「――――まるで積み木のお城、レイアちゃんの妹を借りるまでもありませんねぇ」
ガリィの水流が、水力発電所を。
蹂躙し、攻撃し。
破壊していく。
「――――うししっ」
そして、ミカもまた。
◆ ◆ ◆
「状況はどうなっているッ!?」
S.O.N.G.本部。
けたたましいアラートが騒ぎまくっている中、弦十郎が怒鳴るように問いかける。
「都内各所の発電所が、
「すぐ近くの火力発電所も、っああ!!」
オペレーター達が答えているところへ、一層の揺れ。
了子を含めた何人かが、思わず声を上げて頭を庇う。
モニターに映し出されたのは、先日響を負傷させたミカ。
響にもぎ取られた腕も、復活させているようだった。
従来のノイズに比べて位相差障壁が弱いこともあり、本部近辺は自衛隊が奮戦しているものの。
状況は芳しくなかった。
「ッ新型ギアはまだなのかよ!?」
「エルフナインちゃんと一緒に頑張っているけど、あと一歩、後少しが足りない!」
「ッチキショウ!!」
当然ながら、『頑張っている』のは技術班も一緒だ。
しかし、シンフォギアは科学とオカルトが複雑に入り組んだ代物。
それが短期間で複数破壊されたとあっては、いくら優秀なスタッフがそろっていようと限界があった。
その事実は、クリスが悪態をつこうと変わらない。
――――誰もが辛酸を舐め、苦虫を噛みつぶし。
それでもなお打開策を探して翻弄する中。
「潜入美人捜査官メガネなんて持ち出して、何をやるかと思えば・・・・」
S.O.N.G.医務室。
未だ昏睡状態の響の横をすり抜ける、二つの人影。
調と切歌だった。
変装のつもりなのか、それぞれピンクと緑のふちをしたメガネをかけている。
「・・・・訓練や出動の後」
疑問が抜けきらない切歌の横で、調は徐に戸棚を漁りだす。
「リカバリーをやるのはいつも
低い位置の棚を開ける。
そこにずらりと並んでいるのは、しっかり栓がされた試験官。
その全てが、蛍光グリーンで満たされていた。
「なるほど、一発ぶちかますってわけデスね」
調の意図を察した切歌は、大きく頷いて納得。
取り出そうとすると、調が踵を返したことに気付く。
「調・・・・?」
凝視する視線を追うと、眠っている響が。
執行者事変の際と同じく、酸素マスクと様々なチューブにつながれて。
静かに呼吸を繰り返している。
「・・・・あなたへの憎しみは、まだ消えきっていない」
片手を握り締めながら、口火を切る調。
・・・・確かに殺すのは諦めた。
だが、マリアへの仕打ちを許しきれたかと言うのはまた別の話だ。
逆恨みなのは分かっている、先に仕掛けたのはマリアなのも理解している。
それでも、それでも。
世間一般で言うところの『家族』がいなかった二人にとって、マリアはまさしくかけがえのない『家族』で。
だからこそ、失いかけた恐怖と、傷つけられた怒りはひとしおで。
「でも、あなたが守りたかったものを理解できないほど、お子様じゃないつもり」
他者を傷つけてでも守りたかった響。
家族を思うが故に殺しかけた調と切歌。
どちらの思いも正しく、また、どちらの行いも間違っている。
蟠りを乗り越え、絆を結んだ今だからこそ。
理解できるものがあった。
「・・・・未来さんも、皆も、今は私達で守ってあげる」
「だから響さんは、早いとこ元気になるデスよ」
きっと、誰よりも、もしかしたら本人以上に大切に想ってくれている人が。
笑ってくれるだろうから。
改めて容器と投薬機に手をかけ取り出せば、けたたましいアラート。
赤く点滅するランプを見上げた二人は、次の瞬間。
いたずらっぽい笑みを交わした。
――――それから数刻後。
『やああああああッ!』
『デェーッス!!」
司令室のモニターには、桃色と翡翠の刃が翻っていた。
「あいつら、LiNKERを持ち出しやがったな!?」
ほんの数分前に鳴った警報などの情報を統合して、弦十郎は勢いよく立ち上がる。
他の面々も、呆気に取られていたり、不安げだったり。
共通しているのは、明らかな『無茶』をしている二人への心配だった。
「二人とも、何をやっているのか分かっているのか!?今すぐ戻れ!!」
例に漏れない弦十郎もまた、アルカノイズを次々屠る二人へ撤退を促すものの。
『誰かが引き受けないと、ここも危ない!!』
『そんなわけでお断りデスッ!!』
一蹴した二人は、なお戦闘を続行する。
丸鋸を飛ばし、鎌を振るい。
アルカノイズが片っ端から両断されていく。
『子どもなのも、頼りなく見られているのも!分かっている!』
『それでも!あたしらだって役に立ちたいんデス!仲間として、認めて欲しいんデスッ!!』
激しい感情に呼応するように、赤い塵が風に舞った。
「ッ回収班!早く二人を連れ戻すんだ!!」
――――決して侮っているわけではない。
ノイズに立ち向かえない弦十郎としては、むしろ頼もしさすら感じている。
しかし、彼女達が背負っているLiNKERのハンデを思うと、いても立ってもいられなかった。
現場にて、自衛隊の撤退を補助していたS.O.N.G.実働部隊へ指示を飛ばす弦十郎。
その少し後方で同じように戦いを見守っていたマリアは、一度目を閉じる。
・・・・調と切歌の燻っている感情には、マリアも気が付いていた。
以前と比べて友好的にはなっているものの、時折何か思いつめるような顔をする二人。
家族を想うが故に、人を殺しかけた調と切歌。
そのことへの罪悪感と、なお割り切れていない響への怒り。
きっと他にも、マリアが読み取った以上の感情を秘めていることだろう。
それでも、二人は戦っている。
動けない響の代わりに、彼女が大切にしている者達を守るために。
意識を現実に戻して、目を滑らせる。
たまたま響の見舞いで居合わせた未来が、翼達と共に。
戦いを見守ってくれていた。
「――――やらせてあげてください」
「マリア君!?」
一度、決意するように目を伏せたマリアは。
弦十郎の前で、立ちはだかるように手を広げる。
「あの子達にとって、これは単なる防衛ではありません。かつて、誰かを虐げることしか出来なかった臆病者達の、踏み出せない『一歩』を踏み出すための戦いなんです」
ただ事ではないと察してくれたのか、弦十郎は耳を傾けてくれている。
「だからお願いします、やらせてあげてください。あの子達の足掻きを、止めないで下さい・・・・!」
いつの間にか下がっていた腕は、無意識に手を握り締めていた。
真っ白な指の間から、血がぽたぽた零れ始めるほどに。
強く、強く。
「・・・・マリア君」
もとより人道的な思考を持つ弦十郎は、その姿に思う所が出来たらしい。
名前を呼び、言葉を紡ごうとして。
『――――うああッ!!』
『――――あああああッ!!』
マリアの行動を嘲笑うように、モニターから悲鳴が聞こえた。
弾かれるように振り向けば、ミカの前に倒れ伏す調と切歌。
切歌は既にギアを引き剥がされ、その素肌を余すことなく晒しており。
調もまた、たった今マイクユニットを破損させられたところだった。
「そんな、調!!切歌!!」
「回収班、今度こそ急げ!!仲間が危ないッ!!!」
あえなくギアを破壊され、うめき声を上げる二人。
弦十郎が即座に指示を出すものの、到底間に合いそうになかった。
『子どもの悪あがきも、ここまでだゾ』
意地悪く笑ったミカが、アルカノイズ達に号令をかけようとしている。
「――――やめろ」
震える声、マリアだ。
「――――やめろ」
喉から伝染するように、震えは肩まで達する。
「やめろおッッ!!!」
自身が促した結果がもたらす最悪の結末へ、悲痛な制止を上げるものの。
ミカの鋭い爪は、意外と綺麗な軌跡を無情に画いて。
刹那、風が吹く。
はっと我に返れば、周囲に漂う赤い塵。
「・・・・風?」
やや困惑した様子であたりを見回す調が、呆然と呟けば。
「ああ、振り抜けば鳴る風だ・・・・!」
翼が不敵な笑みを浮かべた。
刀身が払われ、心地の良い音が鳴る。
「おいおい、なんだその顔」
少し高い所に陣取っていたクリスもまた、笑いかけていた。
「まさか、『誰か』に助け求めるだなんて、つれないこと考えてたんじゃないだろうな」
手馴れた手つきでボウガンを取り回し、肩に担いだ。
――――反撃、開始。
響( ˘ω˘ )oO0(わたし何回ベッドのお世話になるんだろう・・・・?)