チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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ピンチの救援はやっぱり最高

「――――っふ」

 

ファラの暴風が、風力発電所を。

 

「――――目標、派手に破壊完了」

 

レイアのコインが、地熱発電所を。

 

「――――まるで積み木のお城、レイアちゃんの妹を借りるまでもありませんねぇ」

 

ガリィの水流が、水力発電所を。

蹂躙し、攻撃し。

破壊していく。

 

「――――うししっ」

 

そして、ミカもまた。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「状況はどうなっているッ!?」

 

S.O.N.G.本部。

けたたましいアラートが騒ぎまくっている中、弦十郎が怒鳴るように問いかける。

 

「都内各所の発電所が、自動人形(オートスコアラー)達に襲撃されていますッ!」

「すぐ近くの火力発電所も、っああ!!」

 

オペレーター達が答えているところへ、一層の揺れ。

了子を含めた何人かが、思わず声を上げて頭を庇う。

モニターに映し出されたのは、先日響を負傷させたミカ。

響にもぎ取られた腕も、復活させているようだった。

従来のノイズに比べて位相差障壁が弱いこともあり、本部近辺は自衛隊が奮戦しているものの。

状況は芳しくなかった。

 

「ッ新型ギアはまだなのかよ!?」

「エルフナインちゃんと一緒に頑張っているけど、あと一歩、後少しが足りない!」

「ッチキショウ!!」

 

当然ながら、『頑張っている』のは技術班も一緒だ。

しかし、シンフォギアは科学とオカルトが複雑に入り組んだ代物。

それが短期間で複数破壊されたとあっては、いくら優秀なスタッフがそろっていようと限界があった。

その事実は、クリスが悪態をつこうと変わらない。

 

 

――――誰もが辛酸を舐め、苦虫を噛みつぶし。

それでもなお打開策を探して翻弄する中。

()()が抜けだしたことに気づく者は、いなかった。

 

 

 

「潜入美人捜査官メガネなんて持ち出して、何をやるかと思えば・・・・」

 

S.O.N.G.医務室。

未だ昏睡状態の響の横をすり抜ける、二つの人影。

調と切歌だった。

変装のつもりなのか、それぞれピンクと緑のふちをしたメガネをかけている。

 

「・・・・訓練や出動の後」

 

疑問が抜けきらない切歌の横で、調は徐に戸棚を漁りだす。

 

「リカバリーをやるのはいつも医務室(ここ)、つまり・・・・」

 

低い位置の棚を開ける。

そこにずらりと並んでいるのは、しっかり栓がされた試験官。

その全てが、蛍光グリーンで満たされていた。

 

「なるほど、一発ぶちかますってわけデスね」

 

調の意図を察した切歌は、大きく頷いて納得。

取り出そうとすると、調が踵を返したことに気付く。

 

「調・・・・?」

 

凝視する視線を追うと、眠っている響が。

執行者事変の際と同じく、酸素マスクと様々なチューブにつながれて。

静かに呼吸を繰り返している。

 

「・・・・あなたへの憎しみは、まだ消えきっていない」

 

片手を握り締めながら、口火を切る調。

・・・・確かに殺すのは諦めた。

だが、マリアへの仕打ちを許しきれたかと言うのはまた別の話だ。

逆恨みなのは分かっている、先に仕掛けたのはマリアなのも理解している。

それでも、それでも。

世間一般で言うところの『家族』がいなかった二人にとって、マリアはまさしくかけがえのない『家族』で。

だからこそ、失いかけた恐怖と、傷つけられた怒りはひとしおで。

 

「でも、あなたが守りたかったものを理解できないほど、お子様じゃないつもり」

 

他者を傷つけてでも守りたかった響。

家族を思うが故に殺しかけた調と切歌。

どちらの思いも正しく、また、どちらの行いも間違っている。

蟠りを乗り越え、絆を結んだ今だからこそ。

理解できるものがあった。

 

「・・・・未来さんも、皆も、今は私達で守ってあげる」

「だから響さんは、早いとこ元気になるデスよ」

 

きっと、誰よりも、もしかしたら本人以上に大切に想ってくれている人が。

笑ってくれるだろうから。

改めて容器と投薬機に手をかけ取り出せば、けたたましいアラート。

赤く点滅するランプを見上げた二人は、次の瞬間。

いたずらっぽい笑みを交わした。

 

 

 

 

 

――――それから数刻後。

 

 

 

 

 

『やああああああッ!』

『デェーッス!!」

 

司令室のモニターには、桃色と翡翠の刃が翻っていた。

 

「あいつら、LiNKERを持ち出しやがったな!?」

 

ほんの数分前に鳴った警報などの情報を統合して、弦十郎は勢いよく立ち上がる。

他の面々も、呆気に取られていたり、不安げだったり。

共通しているのは、明らかな『無茶』をしている二人への心配だった。

 

「二人とも、何をやっているのか分かっているのか!?今すぐ戻れ!!」

 

例に漏れない弦十郎もまた、アルカノイズを次々屠る二人へ撤退を促すものの。

 

『誰かが引き受けないと、ここも危ない!!』

『そんなわけでお断りデスッ!!』

 

一蹴した二人は、なお戦闘を続行する。

丸鋸を飛ばし、鎌を振るい。

アルカノイズが片っ端から両断されていく。

 

『子どもなのも、頼りなく見られているのも!分かっている!』

『それでも!あたしらだって役に立ちたいんデス!仲間として、認めて欲しいんデスッ!!』

 

激しい感情に呼応するように、赤い塵が風に舞った。

 

「ッ回収班!早く二人を連れ戻すんだ!!」

 

――――決して侮っているわけではない。

ノイズに立ち向かえない弦十郎としては、むしろ頼もしさすら感じている。

しかし、彼女達が背負っているLiNKERのハンデを思うと、いても立ってもいられなかった。

現場にて、自衛隊の撤退を補助していたS.O.N.G.実働部隊へ指示を飛ばす弦十郎。

その少し後方で同じように戦いを見守っていたマリアは、一度目を閉じる。

・・・・調と切歌の燻っている感情には、マリアも気が付いていた。

以前と比べて友好的にはなっているものの、時折何か思いつめるような顔をする二人。

家族を想うが故に、人を殺しかけた調と切歌。

そのことへの罪悪感と、なお割り切れていない響への怒り。

きっと他にも、マリアが読み取った以上の感情を秘めていることだろう。

それでも、二人は戦っている。

動けない響の代わりに、彼女が大切にしている者達を守るために。

意識を現実に戻して、目を滑らせる。

たまたま響の見舞いで居合わせた未来が、翼達と共に。

戦いを見守ってくれていた。

 

「――――やらせてあげてください」

「マリア君!?」

 

一度、決意するように目を伏せたマリアは。

弦十郎の前で、立ちはだかるように手を広げる。

 

「あの子達にとって、これは単なる防衛ではありません。かつて、誰かを虐げることしか出来なかった臆病者達の、踏み出せない『一歩』を踏み出すための戦いなんです」

 

ただ事ではないと察してくれたのか、弦十郎は耳を傾けてくれている。

 

「だからお願いします、やらせてあげてください。あの子達の足掻きを、止めないで下さい・・・・!」

 

いつの間にか下がっていた腕は、無意識に手を握り締めていた。

真っ白な指の間から、血がぽたぽた零れ始めるほどに。

強く、強く。

 

「・・・・マリア君」

 

もとより人道的な思考を持つ弦十郎は、その姿に思う所が出来たらしい。

名前を呼び、言葉を紡ごうとして。

 

『――――うああッ!!』

『――――あああああッ!!』

 

マリアの行動を嘲笑うように、モニターから悲鳴が聞こえた。

弾かれるように振り向けば、ミカの前に倒れ伏す調と切歌。

切歌は既にギアを引き剥がされ、その素肌を余すことなく晒しており。

調もまた、たった今マイクユニットを破損させられたところだった。

 

「そんな、調!!切歌!!」

「回収班、今度こそ急げ!!仲間が危ないッ!!!」

 

あえなくギアを破壊され、うめき声を上げる二人。

弦十郎が即座に指示を出すものの、到底間に合いそうになかった。

 

『子どもの悪あがきも、ここまでだゾ』

 

意地悪く笑ったミカが、アルカノイズ達に号令をかけようとしている。

 

「――――やめろ」

 

震える声、マリアだ。

 

「――――やめろ」

 

喉から伝染するように、震えは肩まで達する。

 

「やめろおッッ!!!」

 

自身が促した結果がもたらす最悪の結末へ、悲痛な制止を上げるものの。

ミカの鋭い爪は、意外と綺麗な軌跡を無情に画いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、風が吹く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はっと我に返れば、周囲に漂う赤い塵。

 

「・・・・風?」

 

やや困惑した様子であたりを見回す調が、呆然と呟けば。

 

「ああ、振り抜けば鳴る風だ・・・・!」

 

翼が不敵な笑みを浮かべた。

刀身が払われ、心地の良い音が鳴る。

 

「おいおい、なんだその顔」

 

少し高い所に陣取っていたクリスもまた、笑いかけていた。

 

「まさか、『誰か』に助け求めるだなんて、つれないこと考えてたんじゃないだろうな」

 

手馴れた手つきでボウガンを取り回し、肩に担いだ。

――――反撃、開始。




響( ˘ω˘ )oO0(わたし何回ベッドのお世話になるんだろう・・・・?)

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