チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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奪った場所で陽を浴びる

「ガルアァッ!!」

 

爪を意識して振り上げ、叩きつける。

衝撃波でアルカノイズがまとめて吹き飛ぶ。

地面を巻き込みながら続けざまに振りぬけば、背後の群れも薙ぎ払われた。

今度は一体ずつで攻めてきたので、リズミカルに殴打・蹴打で撃破。

 

(未来たちは逃げられたかな・・・・・?)

 

最後にもう一つ蹴りを入れて、一度辺りを見渡す。

視線を滑らせても、取り囲むのはアルカノイズのみ。

時々、一緒に応戦しているクリスがちらっと見えるくらいだった。

マリアや未来とともに逃がしたエルフナインも、無事に離脱出来たようだ。

 

(気になるっちゃ気になるけど、二人がいるならきっと大丈夫)

 

しかし、マリアも未来もLiNKER頼り故、やはり気になってしまうので。

早々に片づけてしまうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

 

 

 

 

未来はエルフナインの手を引き、何度も後ろを振り返りながら走る。

二人の数歩分後ろにマリアが控え、追っ手を警戒していた。

と、前方。

懸念の通り出現するアルカノイズ。

入れ替わるようにマリアが前へ躍り出ると、ガリィがバレェのようなポーズで現れた。

 

「ハァーイ?ポンコツ装者ァ?」

 

に、と歯を見せて笑う姿に、一同の緊張が高まる。

 

「未来!エルフナインをお願いッ!」

「っはい!!」

「マリアさん!」

「大丈夫だから!」

 

未来はエルフナインの手をもう一度引っ張って方向転換。

来た道を引き返そうとする。

だが、振り向いた先には追い付いてきたアルカノイズ達が。

 

「最初はアタシって決めてるんだから、楽しませなさいよォ?」

「ッseilien coffin airget-lamh tron...」

 

下卑た笑みに、マリアが聖詠で応えることにより、戦闘が始まった。

未来の方にも、アルカノイズ達が待ちわびたとばかりに飛び掛かってくる。

エルフナインを抱えたまま、突進してきた数体を、身を捩って避けた未来。

さっと横によけ、背後を取られないようにしてから。

 

「Rai shen shou jing rei zizzl...」

 

同じく聖詠を唱えて、神獣鏡のシンフォギアを纏ったのだった。

装着完了と同時に、再び突進してくるアルカノイズ。

未来は努めて冷静に鉄扇を振るい、最初の一体を弾き飛ばす。

続けざまに鉄扇を手繰り戻して、次の一体に叩きつけ。

手首を捻って切り返し、横合いから迫ってきた個体を打ち払った。

 

(よし・・・・!)

 

ギアを失った後も、地道に続けた訓練。

日々の努力が実を結んでいることに手ごたえを感じながら、未来はエルフナインを抱えて跳躍。

その際マリアの方を見てみれば、善戦している様が見て取れた。

セレナの形見にして、新たな力である『アガートラーム』を纏い。

殴打や剣戟でガリィを攻め立てる。

一方のガリィは、すでに直撃をくらったらしい。

頬を黒く汚したまま、マリアの猛攻を捌き続けていた。

エルフナインの言う通り、戦闘向きでない個体らしく。

いささか苦戦しているようにも見える。

 

(ううん、油断しちゃだめ)

 

よぎった油断を、未来は頭を振って追い出した。

響が奴の策に嵌められたところを、目撃しているが故の行動だった。

狙い撃ってくるアルカノイズを逆に撃ち返しつつ、着地。

再びエルフナインを庇いながら、襲い来るノイズ達を捌き始めた。

 

「はああああッ!!」

 

マリアもまた、手を緩めない。

左腕の装甲から、無数の短剣を取り出して発射。

あるいは束ねて大ぶりの剣にして、振り回す。

水のデコイや氷の刃など、数多の手札を扱うガリィに対し。

類稀なる戦闘センスで、臨機応変に対応しきって見せている。

その原点が、優しくも厳しいナスターシャの教育にあることは。

火を見るよりも明らかな事実だった。

 

「ちいぃッ!」

 

しかし、その均衡にも終わりが訪れる。

マリアの一閃をすれすれで避けるガリィ。

体が大きく傾き、姿勢が崩れる。

 

(ここだッ!!)

 

相手の傾き加減から、防御も回避も無理だと判断したマリア。

がら空きの胴体へ、膝蹴りを繰り出す。

普通の人間なら、脊椎をへし折られるその一撃を。

 

「――――きははッ!」

 

下卑た笑みを浮かべたガリィは、胴体を腰から捻ることで避けて見せる。

 

「なッ・・・・!?」

 

まさに『ぐりん』ともいうべき勢いで、しかもあり得ない角度で曲がったガリィの体。

これにはさすがのマリアも呆けてしまって。

だからこそ。

 

「そーれ隙アリッ!!」

「はっ?ぁがッ!!」

 

横合いから殴りかかってきた、極太の氷柱に直撃した。

わき腹をもろに殴打されたマリアは、地面を数回バウンドして転がっていく。

 

「イケると思ったァー?あはははッ!甘い甘い甘いイィッ!!」

 

腹を抑えてえずくマリアを見下ろすガリィ。

甲高い笑い声が、耳に刺さった。

 

(強い・・・・!)

 

咳を何とか抑え込みながら、立ち上がるマリア。

ガリィの力を目の当たりにし、胸元に意識を向ける。

 

(使うか?イグナイト・・・・!)

 

目の前のあいつは、まごうことなく強敵。

しかし失敗した場合のリスクが、マリアを足止めにかかる。

その時、

 

「未来さんッ!」

 

エルフナインの悲鳴じみた声が、マリアの濁った意識を晴らす。

はじかれたように目をやれば、未来が膝をついていた。

 

「大丈夫!それより、エルフナインちゃんは!?」

「ボ、ボクはなんともないですから・・・・!」

 

その光景を目にした、マリアの決断は早かった。

何をためらっていると己を叱咤して、胸元に手を伸ばす。

 

「イグナイトモジュールッ!!抜剣ッ!!」

 

起動させた、その刹那。

傷が、闇が、泥が、悲鳴が。

真っ黒な手を伸ばして、次々掴みかかってきて。

 

「あ」

 

マリアの意識が一気に引きずり込まれて、暗転する。

 

「――――ッガ■■■■ア■■■アアア■■アア!」

「何!?」

 

未来の耳に届いたのは、獣の咆哮。

ノイズを始末しながら見れば、全身を黒く染め、暴走しているマリアの姿が。

対峙しているガリィは、いつかと同じように面白くなさそうな顔をしていた。

 

「ハァー、ったく・・・・またまたポンコツお披露目ってワケ?」

「・・・・?」

 

キャロルも見せたその表情に、未来は一瞬疑問符を浮かべるものの。

マリアの惨状にすぐ引き戻された。

低く唸る彼女は、未来をターゲットに捉えている。

意識をそらしたままにしておくのは、大変危険だった。

 

「――――次来るときはまともになってなさいよ」

 

緊迫を他所に、赤い結晶を取り出すガリィ。

 

「――――あたしが、一番なんだから」

 

吐き捨てて転移していく頃には、未来が耳を傾ける余裕はなくなっていた。

 

「■ア■■ア■アアッ!!」

 

辛抱たまらんと飛び掛かってくるマリア。

爛々と光る眼は、理性が失われていることを雄弁に語っている。

体当たりを、シールドバッシュで跳ね返そうとした未来だったが。

 

「・・・・ッ!?」

 

しっかりタイミングを見切った。

だが予想以上に軽い手ごたえ。

はっとなって前を見れば、踏み込み直して突っ込んでくるマリアが。

 

(フェイント・・・・!)

 

獣のようになるとばかり思っていただけに、簡単なひっかけに釣られてしまった。

失態を恥じる間にも、マリアは突撃してくる。

身を強張らせて、構え。

被弾を、覚悟して。

 

「グオオオオオオオオオオッ!!」

「ガ■■アアッ!?」

 

もう一つの咆哮。

割り込んだ響がマリアの顔面をひっつかみ、叩き伏せる。

なお暴れようとするマリアをさらに組み伏せて、乱暴に押さえつけていた。

 

「ガルァッ!!」

 

何度も跳ね上がりながら、未来に向けて咆える響。

言葉はなくとも、体勢で意味をくみ取った未来。

こっくり頷いて鉄扇をしまい、脚部のアーマーを展開した。

――――今回未来に与えられた役割は、ずばり『イグナイトへの抑止力』。

もともと魔除けの鏡である神獣鏡は、魔剣ダインスレイフとの相性が最悪。

了子曰く、『水と油、源氏と平氏、きのことたけのこ』。

その通り、組み込もうとすればするほど、イヤイヤ期もかくやという拒絶反応を見せた。

しかし技術班はたゆまぬ研鑽と工夫でこれをクリア。

国連がかねてより懸念していたステルス機能を始めとした、様々なリソースを犠牲にすることで。

イグナイトモジュールを組み込むことに成功したのである。

こうして、アルカノイズへの戦力となるのはもちろんのこと。

マリアのような有事にも対応できるようにもなり。

装者達と再び肩を並べられるようになったのだ。

 

「響、ごめんッ」

 

未だマリアを抑え続ける響へ、巻き込む謝罪や手助けの感謝など、様々な意味がこもった言葉を投げて。

未来は、ため込んだ極光を解き放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・?」

「あ、マリア!」

「マリア、大丈夫デスか?」

 

夕方の穏やかな風を感じて、マリアは目を開ける。

ぼんやりした視界でも、家族の顔だけは認識することができて。

 

「・・・・調、切歌」

 

何とか微笑みながら名前を呼べば、調と切歌は安堵で肩を落とした。

伸ばした手を握ってくれる二人に和みつつ、記憶を探って。

交戦中で途切れたことを思い出す。

気怠さを押し殺しながら体を起こせば、ほんのり予想していたとおり夕方になっているのが分かった。

宿泊しているコテージの、あてがわれた部屋に寝かされていたらしい。

 

「・・・・敵は、どうなったの?」

「とっくに帰ったらしいデス」

「マリアが、その、イグナイト失敗したのが、気に入らないみたいだったって、未来さんが」

「そう・・・・」

 

――――敗北。

その結果が、マリアの胸に重く圧し掛かってくる。

 

(情けない・・・・!)

 

次いで出て来たのは、自責だった。

一度戦う力を失って、セレナのアガートラームを改修することで再び手に入れて。

先日の、調と切歌のこともある。

今度こそ護るのだと、マムに恥じない戦いをするのだと。

そう意気込んでいた。

だが、決意した矢先のこれだ。

情けなくて、情けなくて、たまらなくなってきて。

顔を、抱えようとして。

 

「お"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"・・・・」

 

隣、地の底から響くような唸り声。

はっと振り向けば、うつ伏せでぐったりしている響の姿が。

面白がっているクリスが、腰をつついていたずらしているのが見えた。

 

「おめーのイグナイトは不完全だから、あんま使うなって了子達に言われてただろーが」

「ぐ、ぐりすぢゃ、いだい、いだいって・・・・」

「うっせ、止めたのに連続で使った罰だ」

「そんな無体に"ゃあ"あ"あ"ぁ"・・・・」

 

追い打ちと言わんばかりに腰をぐりぐりされ、さらに悲鳴を上げる響。

・・・・落ち込みかけていたところに飛び込んできた光景に、マリアは目を見開いて固まるしかできなかった。

 

「響さん、マリアを止めるためにイグナイト使ったんだって、連続で」

「その反動で、全身筋肉痛だそうデース」

「・・・・そう」

 

ぷしゅう、と、今度こそ力尽きた響に釘付けになりながら。

マリアは生返事を返すと。

当の本人が、これ以上痛めないよう慎重に振り向いた。

 

「やー、マリアさん。おはよーございます」

「・・・・ふふ、ええ、おはよう。あなたにも大分迷惑をかけたわね」

「お気になさらず―」

 

響は気の抜けた笑みを浮かべながら、ひらひらと手を振ったが。

それすらもきつかったようで、痛がりながら腕を下した。

 

「体調はもうだいじょーぶです?」

「もちろん。少しだるいけど、あなたよりは、ね?」

「そりゃそうだぁ・・・・」

「だったらもう休め、あの子も心配するぞ」

「うぇーい・・・・あだだッ!」

 

クリスの小言に、やや不真面目な返事を返せば。

再び腰をぐりぐりされることで、また小言を受けてしまう響。

 

「ったく・・・・っと、警戒は先輩達がやってる。あんたも本調子じゃないだろうし、気分転換に散歩でもどうだ?」

 

今度こそ動かなくなった響を見て、ため息をこぼしたクリス。

親指で外をさしつつ、そう提案してくる。

 

「おっさんや了子も戻ってきてる、そうそう面倒なことにゃならねーよ」

「・・・・そうね、そうさせてもらいましょう」

 

何より、今の自身が足手まといになりかねないことを自覚していた。

だからこそ、マリアはクリスの提案に頷いた。

 

 

――――さて。

 

 

お供をかってくれた調と切歌に、やんわり断りを入れてから。

独りでコテージの外に出る。

視線を左右に巡らせ、まずはどちらに行こうかしらなんて考えていると。

 

「・・・・あれは?」

 

少し離れた場所で、ボールが何度も浮かんでいるのが見えた。

目を凝らせば、エルフナインがサーブの練習をしているのが見える。

他に行先も思い当たらないので、そちらに向かうことにした。

 

「ん?あ、マリアさん!体はもう大丈夫なんですか!?」

 

足音で気づいたのか、話しかける前に振り向いたエルフナイン。

マリアだとわかるなり、ぱたぱた駆け寄って周りをちょろちょろする。

 

「ふふ、ありがとう。もう大丈夫だから」

 

まるで子犬のような仕草に、思わず笑みをこぼしたマリア。

エルフナインの頭を撫でつつ、気遣いへの感謝を告げた。

 

「さっきはごめんなさい、あなたには怖い思いをさせた」

「そんな!未来さんや響さんが駆けつけてくれましたし、それに、マリアさんが悪いわけじゃないです!」

「ありがとう、そう言ってもらえると助かるわ」

 

話が一区切りしたところで、マリアは転がっていたボールを拾い上げる。

 

「練習していたの?」

「はい、昼間はうまく出来なかったので・・・・」

 

そういえば、昼のビーチバレーでは響達のチームにいた。

初めてのスポーツに悪戦苦闘していたものの、響やクリスを中心に上手くカバーしたこともあり。

一応勝利出来た。

が、やはりエルフナインとしては、気になるところが多々あったらしい。

 

「どうすれば上手くいくか、知識はあるんです。でも、体がなかなか追い付いてくれなくて・・・・」

 

改めてしょんもりするエルフナインを、もう一度撫でたマリア。

 

「無理に背伸びをしなくてもいいのよ」

 

言いながら、ボールを軽く投げて親指の付け根辺りで打つ。

 

「あなたのやり易い方法で、あなたらしくやっていいの」

 

マリアは、狙い通りそこそこの勢いで飛んで行ったボールを拾い上げ、エルフナインと向き合う。

 

「まずは軽くキャッチボールでもしながら、あなたに合った打ち方を探しましょう?」

 

『練習に付き合う』という意味の言葉に、エルフナインの顔が目に見えて明るくなった。

―――――そんな、ちょうどいいような、間の悪いようなタイミングに。

 

「ハァイ?ちゃんと立ち直ってるー?」

「ッお前は・・・・!!」

 

ガリィはやってきた。

マリアが戦支度をする間もなく、ばら撒かれるアルカノイズ。

出現したやつらは、発光部位を飛ばしてエルフナインを狙う。

 

「エルフナイン!」

 

あわや塵と消える前に、何とかマリアが間に合った。

スライディングでノイズの間をすり抜けたマリアは、エルフナインを確保と同時に離脱。

ガリィの立ち位置から、仲間との合流は難しいと判断して、せめて敵から離そうと駆け出す。

狙い通り、ガリィはマリア達を追いかけ始めた。

 

「seilien coffin airget-lamh tron !!」

 

唱えられるだけの距離が開いてから、ギアを纏うマリア。

いったん跳躍してさらに離れると、エルフナインを物陰に隠す。

 

「マリアさん・・・・!」

「ここにいなさい、危ないから」

 

気持ち押しやってから、再び戦場へ。

片っ端からノイズを切り捨てつつ、ガリィの下へ猛進する。

 

「しっかりしなさいよォ!?あたしが最初なんだからァッ!!」

「ぐぅッ・・・・!?」

 

水で翻弄し、氷で攻めながら。

先刻以上にマリアを追い詰めていくガリィ。

マリアも、敵の雰囲気が違うことはとっくに理解していて。

だからこそ、苦い顔を隠しきれない。

 

「はははァッ!!」

「づうぅ・・・・!」

「マリアさんッ!!」

 

マリアが大きく弾き飛ばされる。

浜をどたどた転がっていくマリアに、エルフナインへ答える余裕はない。

 

「舐めくさってんじゃないわよッ!そんなすっぴんの状態で勝てないことくらい、分かってんだろうがッ!!」

 

砂まみれで這いつくばるマリアへ、苛立ちを隠そうともせず叫ぶガリィ。

その怒号が意味するところはすなわち、イグナイトモジュールの催促だった。

 

「・・・・ッ」

 

胸元へ手を伸ばしかけたマリアだったが、苦い顔で止めてしまう。

思い出すのは、昼間のこと。

初めにイグナイトを使った時の感覚。

深い、深い、光を許さぬ闇の中へ。

有無を言わさず引きずり込まれる感覚。

 

(負けられない、引けない戦いで・・・・私が弱かったばっかりに・・・・!)

 

ぶり返すのは情けなさ。

闇をはねのけるほどの強さを持てなかった、自分への責め苦。

 

(マム、ごめんなさい・・・・私は、肝心な時に・・・・!)

 

『最初の一歩』を盛大に踏み外してしまったダメージは、本人も予想だにしないほど大きいものだった。

手を下ろそうとする。

また暴走しないとも限らない、エルフナインだって近くにいる。

何より、仲間たちにこれ以上迷惑を掛けられない。

そう自分に言い聞かせて、誰にするでもない言い訳を並べ立てて。

諦めてしまおうとした。

 

「――――マリアさんッ!」

 

その時だった。

 

「皆さんが言っていました!マリアさんの強さは、優しさにあるんだって!」

 

振り向けば、隠れたはずのエルフナインが身を乗り出している。

 

「調さん達のような家族や、響さん達みたいな仲間達のために!憎しみを耐えて、昇華出来る人だって!」

 

アルカノイズに狙い打たれる可能性だってある。

それでもエルフナインは、臆さず言葉を続けた。

 

「――――らしく、あってください」

 

一度息を整えて、思いっきり叫ぶ。

 

「マリアさんらしさで、呪いに打ち勝ってくださいッ!!」

 

――――『らしくあれ』。

先ほどマリアが送った言葉だった。

 

(・・・・そうだ)

 

彼女の声に、マリアは意識を過去に向ける。

行きついたのは、響と戦った時のこと。

あの頃はまだ『実験動物』だったマリアにとって、失敗はまさに『命とり』。

生還したとしても、『処分』される可能性だってあった。

だから怪我から目覚めたときに考えたのは、敗北したという自覚と、それを刻みつけた響への恨みだった。

渦巻く黒い感情を覆したのは、家族の存在。

泣きじゃくりながら無事を喜ぶ姿は、十分すぎるくらいに闇を振り払ってくれた。

 

(私が復讐を考えずに済んだのは、結局のところ二人の、家族のお陰)

 

もちろん二人だけではない。

ナスターシャはもちろんのこと、今は離れてしまっているレセプターチルドレン(きょうだい)達。

受け取って、返して、なお尽きぬ優しさが。

両親を失い、妹を失い。

どこか空虚で自棄になっていたマリアを、日向へ繋ぎとめてくれた。

 

(私はいつの間にか、甘さ(弱さ)だと勘違いしていたんだ。闇を払うには邪魔なんだと、思い込んでしまっていた)

 

だけど、今は違う。

思い出した今なら、違うと断言できる・・・・!

 

「・・・・らしくあることで、乗り越えられるのなら」

 

下ろしていた手を伸ばす。

形を確かめるように、モジュールに触れる。

 

「私は、弱いままで強くなるッ!!」

 

覚悟は、出来た。

 

「イグナイトモジュールッ、抜剣ッ!!」

 

――――また、あの感覚。

過去の痛みと、悲鳴達が。

真っ黒な手を伸ばして、次々掴みかかってくる。

何度でも同じことだと、マリアを引き込もうとする。

強く、濃い闇だ。

あまりの暴力性に、再び引っ張られてしまいそうになる。

しかし、だがしかし。

今のマリアは、もう弱くない。

だって、

 

(――――家族が、みんなが繋いでくれた『優しさ』こそが)

 

(――――私のッ、『誇り』なのだからッ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――seilien coffin(望んだ力と) airget-lamh tron(誇り咲く笑顔)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

纏うためではなく、振り払うために歌えば。

闇が、彼女に従った。

 

「――――は」

 

成功したイグナイト化。

凪ぐような威圧を前にして、ガリィは笑みを浮かべる。

 

「弱くて強いとか、頓智利かせてんじゃないわよッ!!」

 

言うなり放たれる氷柱の弾幕。

迫る来る無数の凶器を、マリアは正面から見据える。

ややゆっくり構えて、一閃。

それだけで、季節外れのダイヤモンドダストが生まれた。

これはガリィも予想外だったらしく、ぎょっとした顔を見せる。

 

「はああああああああああああああああああああああああああッ!!!」

 

当然、マリアはその隙を見逃さない。

剣を左腕に取り付け、ブースターを吹かして突進。

さすがのガリィも危険と判断し、氷の盾を十二重に展開するものの。

あろうことか、マリアはそれらすべてを破壊しながら突き進む。

彼女の迫力に臆してか、それとも別の理由か。

なんにせよ、ガリィは観念したように両手を下した。

その刹那。

 

「っだああああッ!!」

 

到達したマリアは、容赦なく胴体を両断する。

重く、鋭く、強烈な。

斬るというよりは、砕く一閃。

勢いを殺しきれないマリアは、叩き斬ってもなお進み続け。

数メートル離れたところで、やっと止まった。

 

「――――く、ひひひひ」

 

確認のために振り向けば、未だ宙を舞うガリィのパーツ達。

 

「あはははははは、あはははははははは!アッハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

元気に回転する上半身は、同じく元気に笑い声を上げている。

敗北した自棄からか、それとも別の理由からか。

がしゃん、と派手に落ちて、事切れた後では。

確かめようがなかった。

 

「・・・・はぁっ」

 

撃破を確認し、止めていた息を吐き出すマリア。

同時にギアごとイグナイトが解除され、疲労感からへたり込んでしまう。

 

「マリアさん!大丈夫ですか!?」

 

そこへ駆けつけてくれるエルフナイン。

あたふたする様からは、幼いながらに気遣ってくれているのが伝わって。

 

「・・・・エルフナイン」

「はい!なんですか?」

 

マリアは疲労を押して、エルフナインの頭へ手を伸ばし。

 

「ありがとう」

 

出来うる限りの、笑顔を浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、消しゴムなくなってる」

 

「予備は・・・・ない」

 

「お母さんは夜勤、お父さんは飲み会だっけ・・・・おばあちゃんはもう寝てるし・・・・」

 

「・・・・よし」

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方リベンジにきたガリィちゃんは、無事マリアさんが撃破。

疲労が限界にきたみたいで、翼さんに負ぶわれていたけど。

何か吹っ切れたらしいのは、晴れやかな表情ですぐに分かった。

で、時間は進んで夜。

わたしは買い出しのために、未来と並んで夜道を歩いている。

単純な話だ。

夕方の襲撃では、筋肉痛でダウンして役立たずだったので。

せめてものお詫びを込めて引き受けた。

未来も一緒なのは、同行を申し出てくれたから。

一人でも大丈夫だったけど、心配をかけてしまったのは事実なので。

こうしてお言葉に甘えている次第。

 

「おっ、ここかな?」

「みたいだね」

 

翼さんに教えてもらったコンビニを発見したので、さっそく中に入ろうとしたところで。

ふと、自販機が目に入って。

 

「あははっ、未来見てよ!きのこのジュースがある、こっちは牧草(アルファルファ)だ!」

 

っていうか、よくきのこをジュースにしようと考えたよね。

牧草と違って、味がイメージしにくい・・・・。

なんなんだ、あの何とも言えない味そのままなのか・・・・。

 

「もう、病み上がりなの忘れてない?」

「えへへ、はぁーい」

 

未来の言う通り、痛みが完全に引いたわけではないので。

早いとこ買い物を済ませたいというのは賛成だった。

でも自販機のラインナップも気になるので、もう一瞬だけ観察。

・・・・ねぎ塩タコソーダって、もうわけわかんないなこれ。

なんて考えていると、

 

「うわっ!ご、ごめんなさい!」

「ううん、こっちこそ。大丈夫でしたか?」

 

ちょうど出てきたお客とぶつかってしまったのか、そんな会話が聞こえる。

そっちに目をやるけど、相手の顔は逆光でよく見えなかった。

 

「って、えっ!?未来ちゃん!?」

「へっ?・・・・あ、嘘ッ!?キョウちゃん!?」

 

直後に聞こえてくる、二人の素っ頓狂な声。

なんだかただごとじゃない気配・・・・。

さすがに気になったので、自販機から離れて未来のところへ行く。

 

「未来ー?」

 

何かトラブルだった場合、相手を刺激するのはよくないので。

なるべく間延びした話し方を意識。

困った顔の未来に促されて、相手の方を見てみれば。

 

「何が――――」

 

――――『あったの』とは、続けられなかった。

未来とぶつかったらしいのは、まだ小学生くらいの女の子。

同じ色の癖っ毛を揺らしたその子は、同じくおそろいの色の目で、わたしを穴が開くほど見つめていて。

・・・・ああ、とぼけようがない。

知っている。

わたしはこの子を、よく知っている。

 

「――――ッ」

 

半開きの唇が、震えて。

 

「――――おねえちゃん」

 

つたない声が、わたしを呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――きょう、こ?」




拙作神獣鏡補足
・イグナイト可能。
・高機能のステルスを失う(単に姿を隠すだけなら可能)。
・最弱なのは相変わらずだが、退魔の力は健在。
アルカノイズの分解も十分耐えられる。
・また、今回のマリアのような暴走が起こった場合。
聖遺物分解の力で強制終了もできる。










・『混ざりもの』になったので、『呪い』をはねのけるほどの力はこっそり失われた。

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