チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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風鳴る彼方 後編

執務室に着くなり翼達を出迎えたのは、八紘の机に所狭しと積み上げられた書類の山。

 

「――――アルカノイズの攻撃によって生じる赤い粉塵を、アーネンエルベに調査依頼していました。これはその報告書です」

 

思わず目を丸くしている三人へ、緒川が簡単な説明をする。

 

「あーねん、えるべ・・・・?」

「・・・・独国政府の研究機関。シンフォギアの開発に深く関わっており、異端技術への知識も、S.O.N.G.に届きうるとされている」

 

耳慣れない言葉をたどたどしく復唱する未来へ、今度は八紘が解説。

未来は小さく頭を下げて、お礼を伝えた。

黙って行われた態度から、話を邪魔したくないという意図をくみ取った八紘。

そのまま続けるよう緒川に促した。

 

「調査の結果、あの赤い粉塵は『プリマ・マテリア』と呼ばれる物質であることが判明しました」

「いずれも万能の溶媒、物質の根源的要素らしい」

「万能・・・・何にでもなれるってことですか?」

「今はその認識で構いません」

 

申し訳なさそうに再び疑問を口にする未来へ、今度は緒川が頷く。

 

「櫻井女史によれば、錬金術の過程は、『理解』『分解』『再構築』の三つ」

「アルカノイズで世界を分解して・・・・一体何を錬成しようというの、キャロル」

 

翼とマリアは、キャロルの目的について改めて考え始める。

分解の先の再構築で、何を作り出そうというのか。

いくら思考を巡らせようとも、明確なひらめきは見えてこない。

 

「・・・・翼、傷の具合はどうだ?」

「ッはい、痛みなど殺せます。問題ありません」

 

悩んでいる娘を見て何を思ったのか、口火を切る八紘。

思考を中断した翼は、即座に力強い答えを返す。

 

「そうか。ならばこれらを持ち、早々に己が戦場に戻ると良い」

「・・・・はい」

 

気遣ったのかと思いきや、やはりどこか冷たい態度。

返事する翼の様子も、どことなく落ち込んでいる。

その様子を見ていた未来は、視界の隅でマリアの顔がしかめられるのに気づいた。

 

「・・・・確かに合理的な判断かもしれない」

 

あっと思った時にはもう遅く。

マリアはやや苛立った様子で口を開いていた。

 

「けれど、傷を負った実の娘にかける言葉ではないはずよ!」

 

たしなめる前に、再び八紘に食って掛かってしまう。

一方の八紘は、怪訝な目を向けるのみで何も言わない。

 

「マリア、落ち着いてくれ」

 

言葉を続けようとするマリアを、肩を掴んで制する翼。

どこか痛みを感じる表情に感じるものがあったのか、悔しそうに唇を噛んだ。

 

「・・・・疾くと、発ちなさい」

 

八紘は特に責めることなく。

手短に退室を促したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なんだ!あの態度は!!」

 

肩を怒らせながら、憤然と廊下を進むマリア。

 

「怒るのは当然だと思う、だが、あれが私達の在り方なのだ」

 

そう宥める翼は、目的地らしい部屋の引き戸に手をかける。

 

「ひとまず、積もる話はここで・・・・」

「ッこれは・・・・!?」

 

言いながら開いた戸の先。

床に散らばった子供服、無造作に放られたゲーム機。

散らかっているにもほどがある部屋が、飛び込んできた。

そんな光景を目にしたマリアと未来は、思わず構えを取る。

 

「敵襲!?まさかオートスコアラーがもう!?」

「この中に、いや、もしかしたら外から狙って!?」

 

すっかり臨戦態勢の二人に押されてしまった翼。

原因を知っているからこそ、端正な顔がだんだんと気まずく渋いものに変わっていく。

はっきり言ってただの自業自得だが、それを白状することは恥をさらすも同じ。

しかし、上手いはぐらかしを翼が言えるかと言えばそうでもなく。

というか、そもそも二人を誤解させたままなど、出来なかったので。

 

「・・・・すまない、不徳の致すところだ」

 

『これが自分の部屋だ』と、素直に白状したのだった。

 

 

閑話休題。

 

 

「・・・・昔からなの?」

 

未来に手伝ってもらいながら、散らばった服をたたんでいると。

部屋を見まわしていたマリアが呟くように問いかける。

 

「そ、それはっ、私が片づけられない女ってこと!?」

「そういう意味ではないッ!パパさんのことよ!!」

 

動揺のあまり、普段とは違った言葉遣いになった翼。

そんな先輩に未来が目を丸くして驚いている横で、仕切り直して話が続けられる。

なお、マリアの胸中で、『部屋が気にならなくもないけども』と付け足したのは蛇足だ。

 

「・・・・まあ、仕方のないことかもしれないな」

 

そう、しみじみと。

かつての自室を見渡しながら語りだす様は、とても自嘲的。

そして、とつとつと、己の事情を語り始めた。

 

「私の御爺様、現当主の風鳴訃堂は、老齢の域に差し掛かると跡継ぎを考えるようになった。候補者は、嫡男である父『八紘』と、その弟である弦十郎叔父様」

「どっちが跡継ぎかは、もう決まっているんですか?」

 

順当に考えるなら八紘か、あるいは何か事情により弦十郎か。

そのどちらかだと思うものだが。

 

「いや・・・・御爺様が指名したのは、父でも叔父様でもなく、当時生まれたばかりの私だった」

「えっ?」

「それは、どういう・・・・!?」

 

予想外のことに、思わず身を乗り出してしまう未来。

膝に置いていた、畳んだ子供服が崩れてしまう。

話を聞いていたマリアもまた、驚愕を禁じ得ないようだった。

 

「生きていれば、否が応でも分かることがある・・・・」

 

その時の翼の声は、少し震えているようにも聞こえた。

 

「私に、お父様の血は流れていないらしい」

「――――えっ」

 

いや、まさか。

衝撃的な告白に、マリアと未来は最悪な予想をして。

 

「風鳴の血を少しでも濃く残すため、御爺様が母に産ませたのが私だ」

「そんな・・・・!」

「風鳴訃堂は、人の道を外れたか・・・・!」

 

愕然とする未来、怒りを吐き出すマリア。

二人を申し訳なさそうに見上げながら、翼は続けた。

 

「そんな私だったからか、幼い時分はお父様に『どこまでも穢れた風鳴の道具』とよく言われたよ。実際、お父様からすれば憎くて憎くて仕方がなかったのだろう」

 

己の血を継がぬ、不義の子とも言うべき娘に向ける愛情など。

簡単に持てる聖人がいるのだろうか。

いや、片手で足りぬどころかもてあそぶほどにいないだろう。

 

「本来ならそんな私が防人のお役目などという名誉、賜れるはずがないというのに・・・・どういうわけだか、天ノ羽々斬に適合してしまった」

 

その時の、八紘の心境とは。

 

「だが、役目を全うすることができたのなら、お父様に、娘として見てもらえるのではと、一抹の望みを抱いてもいた」

 

次の瞬間。

翼の笑みに、ここ一番の自嘲が刻まれて。

 

「しかし、こんな敗北を続けるような体たらくでは、ますます『鬼子』と言われても仕方があるまい・・・・」

「翼さん・・・・」

 

打ち明けられた、ずっと世話になっていた人物が背負っていた思い。

どう声をかけたものかと、未来が痛ましげに眉をひそめている横で。

マリアは何かを考えながら、改めて部屋を見渡していた。

ほのかに香る藺草の匂い、どこかもの悲し気なマイクスタンド。

 

(それにしては・・・・)

 

感じていた違和感を表す言葉を思い当たり、マリアは目を細めた。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

場所は変わって、日本近海深く『深淵の竜宮』。

聖遺物を始めとした危険物を保管している、日本政府の重要機密施設だ。

その性質上、人が滅多に立ち入らない静かなはずの屋内は。

今、発砲と爆発の祭り会場と化していた。

 

「クッソォッ!!」

「・・・・ッ」

「ぐぅッ・・・・!」

 

半分自棄を起こして鉛球をばら撒くクリス、苦い顔をして着地する調と切歌。

三人の視線の先には、片腕を復活させたレイアと。

 

「ッチ、存外にしぶとい・・・・」

 

死亡したはずの、キャロル。

右手には経典のような物品が握られている。

エルフナインを始めとしたブレイン陣が、『狙うだろう』とあたりをつけていた聖遺物『ヤントラサルヴァスパ』。

あらゆる機械のコントロールを可能にするため、チフォージュ・シャトーの操縦に使うだろうと予測されていた。

 

「いや、オレが本調子ではないだけか・・・・」

「ッハ!閻魔様も甘くなかった様だな!」

 

苦い顔をするキャロルへ、クリスは挑発的にあざ笑った。

 

「マリア達の方にも、襲撃があったって・・・・」

「万が一もないはずだが、こっちも速攻で片づけんぞ!!」

「合点デース!」

 

突っ込んでくるレイアへ切歌が応戦し、調がその援護を行う。

クリスもその援護に加わる片手間、どさくさを狙ってキャロルへ弾幕をばら撒いた。

 

「ッ地味に窮地・・・・!」

 

調と切歌、二人の強み(コンビネーション)をまともに受けざるを得ないとあっては、さすがのレイアも後退してしまうようだ。

半歩、また半歩と、じりじり追い込まれていく。

レイアの余裕がなくなったのをいいことに、調がクリスの弾幕へ合わせ始めた。

弾丸に加えて、細かい丸鋸までもがキャロルを狙い始める。

苛烈になる攻め手、キャロルの顔にもレイアの顔にも、焦燥が浮かび始める。

それでもしのぎ続けるのは、彼女達にも負けられぬ理由があるから。

しかしギリギリの均衡は、やはり終わりが訪れて。

 

「ッ・・・・!」

 

突如、キャロルが胸を押さえてうずくまる。

最悪のタイミングで拒絶反応が起こったのだ。

更に運の悪いことに、手元のヤントラサルヴァスパめがけて丸鋸が飛んでくる。

 

「ッマスター!!」

 

レイアが気づくも時すでに遅し。

その隙をついて、クリスはミサイルを叩きこんで――――

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

八紘邸でもまた、異変が起こっていた。

日もとっぷり暮れた頃、突如として響いた轟音。

翼達装者が飛び出せば、邸内の家屋の一つを派手に壊しているファラの姿が。

 

「ッ今度こそ、仕損じるものか!!」

 

勇ましくマイクユニットを握った翼に続き、三人そろってギアを纏う。

対するファラは怪しくほくそ笑むと、アルカノイズを召喚。

翼を分断するようにばら撒いた。

一対一に、こちらとて望むところだと構えた翼。

マリアと未来は加勢しようとしたものの、ノイズに阻まれて叶わなかった。

勇ましく立ち向かいつつも心配げな様子の二人へ、大丈夫だと見せつけるように剣を振るう翼。

機動力で研ぎ澄ませた斬撃を、何度も何度も撃ち込む。

そんな怒涛の連撃を前にして、涼し気な表情のファラ。

不敵な笑みが裏付ける通り、やはり数度打ち合うと翼の剣は砕けてしまった。

 

「哲学兵装、剣殺し・・・・もはや呪いやゲッシュの領域ね、ッ!!」

 

ノイズを片づけながら翼の戦いを観察していたマリアは、苦い顔で一閃。

 

「何か、どうにか突破口はないんでしょうか・・・・!?」

「どうにか出来るならとっくに出来ているけど、あれは、そう、じゃんけんのようなものらしいし。よっぽどの禁じ手を使わない限り、チョキ(scissors)グー(Rock)に勝てないでしょう?」

 

背中合わせになった未来が疑問を零せば、残念そうに声を曇らせるマリア。

一瞬顔を曇らせた未来だったが、直後何かを閃いて。

 

「そっか、なら剣じゃなかったら・・・・!」

 

『自分が相手取れば』と提案。

確かに、天ノ羽々斬やアガートラームと違い、神獣鏡のアームドギアは鉄扇(あるいは鏡)だ。

そもそも『剣殺し』とやらが効かないものだが。

 

「相手もそれを分かっているから、こうして分断されている」

「あ・・・・」

 

落ち込む未来へ、『名案だけども』とフォローを入れて。

マリアは再びノイズへ切りかかる。

 

「どちらにせよ、アルカノイズを放っておく理由なんてないわよ!」

「ッはい!!」

 

気を持ち直して、未来もまた戦闘を再開した。

 

「ッ破アアアアア―――ッ!!」

 

翼の戦いも続いている。

足元にはすでに何十、何百と砕かれた剣の破片が散乱しており。

翼やファラが踏みしめるたびに、じゃり、と音を立てた。

 

「飽きないこと、いつになったら本気を出してくださるの?」

「――――ッ!」

 

明らかな挑発。

しかし焦燥で頭が茹だっていた翼は乗ってしまう。

彼女らしからぬ荒々しい一閃。

タイミングを見切ったファラは、大きく薙ぎ払い。

 

「ぐあッ・・・・!?」

 

砕いた剣ごと、翼を吹っ飛ばした。

放物線を描き、木の葉のように飛んだ翼の体。

地面をバウンドしながら転がると、何か、突っ立っているものにぶつかった。

 

「・・・・・ぉ、とう、さま?」

 

朦朧とした視界に見えた八紘に、翼は呆然と語りかける。

 

「っぁ、も、ぅしわけ、ありません・・・・いま、すぐ・・・・!」

 

いつの間に来たのか、疑問は残るものの。

口に出した一瞬で我に返ると、痛みをこらえて立ち上がろうとした。

翼の思っている以上に大きなダメージは、体の動きをきつく制限する。

 

「ッ・・・・!」

 

速く、早く、はやく。

これ以上父に無様を晒さないためにも、焦りを募らせた翼。

食いしばった口元から、血がこぼれた。

頭が訴えるぐらつく痛みすら、無視しようとしたところで。

 

「――――もう、いい」

 

そっと、添えられる手。

いたわるように肩に触れた手を追えば、穏やかな顔をした八紘が。

 

「もう、戦わなくともいい」

「・・・・そ、れは」

 

『もう用済みだということか』。

そう言いたげな娘の目に、首を横に振る八紘。

 

「やっぱり、そういうことなのね!?パパさん!!」

「・・・・?」

 

何が何だかわからない翼へ、マリアは声を張り上げる。

 

「翼のあの部屋!十年経っているにしては、あまりにもきれいだった!」

「そういえば、あんまり埃っぽくなかったかも・・・・って、まさか」

 

未来も何か気付いたのか、目を見開く。

 

「伝えられなくても、あなたは確かに愛されてるのよ!!翼!!」

 

思わず、父を見上げる。

視線を受けた八紘は、参ったと言いたげに目を伏せた。

 

「・・・・他人に指摘されるなど、私もまだまだだな」

 

未だ呆然とする翼の前髪に触れて、優しく滑らせる。

 

「・・・・初めはただの『振り』だった、だがいつの間にか演技が本心に変わっていた・・・・だからこそ、父上は後継からはずしたのだろうが」

 

浮かべた自嘲を取り払った八紘が、笑った。

翼ですら見たこともないような、穏やかな顔。

 

「歌いなさい、翼。思うがままに・・・・お前の名は、それ故に付けたものだ」

「――――ッ」

 

息を吞む。

唾液も巻き込んで、のどが鳴った。

――――剣と鍛えてきた。

夢中だったものを捨てて、親友の死を乗り越えて。

だけど、叶えたい夢を見つけて。

――――その『夢』が、敗北の一因だと思っていた。

雑念を孕んでいるから負けるのだと思っていた。

だけど、それでも。

 

「・・・・歌って、いいのですか」

 

震える声で、問いかける。

 

「私は、心のままに、奏でていいのですか・・・・!?」

 

――――疑問への答えは。

本当は優しかった父の、ただ単純な頷きだった。

 

「・・・・~~~ッ!!」

 

今度こそ立ち上がる。

蔓延していた痛みが嘘のようだ。

父を庇うように、律儀に待っていたファラを見据えて。

翼は、深呼吸を一つ。

 

「――――ッ」

 

開いた瞳は、もう迷っていない。

 

「・・・・ならば、とくとご堪能ください」

 

手が、胸元へ、イグナイトモジュールへ伸びる。

 

「私の、風鳴翼のッ!今の歌をッ!!!!」

――――Dainsleif !!

 

八紘が見守る前で、闇を纏った翼。

疾風のごとく突進すれば、迫りくるのは鋭い一閃。

 

「全く、懲りないこと・・・・ッ!?」

 

そう言いながら応戦したファラの笑みが、迫り合った一瞬で崩れた。

刃が、剣が、手折れない。

いや、それどころかこちらをへし折る勢いで・・・・!

 

「っはあああああああ!!!」

 

ダメ押しだと言わんばかりの追撃に、とうとうファラの剣が砕かれた。

 

「な、なぜ・・・・剣であるなら・・・・!」

「――――お前はこれが剣に見えるのかッ!?」

 

動揺するファラが咆哮に目をやれば、翼が掲げた双剣から炎がほとばしっている。

 

「否ッ!!これは、夢へと羽ばたく『翼』ァーッ!!!!!」

 

雄叫びに呼応して、更に増す火力。

下半身に風を渦巻かせ、距離を取ろうとするファラを。

翼もまた飛び上がって追いかける。

足を揃え、体を大きく回転させながら。

炎と斬撃の勢いを、最大限にまで高めて。

 

「・・・・ッ」

 

何故か、笑みを浮かべたファラの胴体を。

真っ二つに叩き斬ったのだった。

 

「――――」

 

見事、愛娘の勝利を見届けた八紘。

言葉にせずとも、『よくやった』と。

浮かべた笑みが、雄弁に語っていた。

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