クーデレの彼女が可愛すぎて辛い   作:狼々

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どうも、狼々です!

もうなんか、二ヶ月毎がさも当然のようになってますね()

私、修学旅行に行ってきました!
沖縄に行ったのですが、日差しが強い強い。
修学旅行中に、梅雨明け宣言も入りましたし。
あの常夏の紫外線、俺の日焼け止めを貫通しやがった、だと……!?

では、本編どうぞ!


第20話 紆余曲折を経まして

「せ、先輩ぃ!?」

「あらら、失礼ですね。これでも、身長に関しては気にしているのですよ?」

「も、申し訳ない」

 

 眼前に立っているあどけなさの残る少女が、年上だとは到底思えなかった。

 一歳の差とはいえ、これだけイメージと違う現実があるものなのか。

 驚きで、謝罪も堅苦しくなってしまう。

 

「い、今までの言動は?」

「演技です」

「け、敬語を正させなかったのは……?」

「勿論、わざとですよ?」

 

 おしとやかに笑う彼女は、先程の後輩に怯える少女とは別人だった。

 

「いやホント、何から何まですみませんでしたというか、なんというか」

「気にしないでください。面白かったですし、何より頼りになりましたし」

「い、いや、大した事は……」

 

 ただ、力仕事を手伝っただけだ。

 命を救ったわけでも、植え付けられた根の深いトラウマを解消したわけでもない。

 

「大した事じゃなくても、さり気なく優しくされると、女は喜ぶものですよ?」

「そ、そっすか」

 

 どうやらそういうものらしい。

 今度気になる人ができたら使ってみようかね。

 

「では、私は仕事があるのでこれで。ありがとうございました」

「生徒会長が後輩に敬語、というのも威厳がないのでは?」

「何事も優雅に、落ち着いて、という母の教えがありますので」

 

 口元を隠す笑いは、彼女の育ちの良さを顕著に表すようだった。

 彼女が金髪ならば、その母か父、そのまた両方が金髪なのだろう。

 そう考えると、優雅に落ち着いて、という言葉は実に華を持っているものだ。

 

「さすがっすね、会長」

「ソフィーでよろしくてよ? 後輩さん」

「あ~、了解です、浅宮先輩」

「……思いの外、意地悪なのですね」

 

 頬を膨らませ、不機嫌そうにする幼気のある彼女は、それはまた魅力的で。

 大人びた雰囲気を漂わせた見た目幼女とは、これいかに。

 

 見ている側としても感覚が麻痺してくるが、この二つは相反するものながら共存するらしい。

 それどころか、ギャップでさらに魅力が増すのだから、不思議なものだ。

 

「あれっすね。先輩、可愛いっすね」

「あらあら、貴方もかっこいいですよ。ふふ」

「ありがとうございます。ははは」

 

 ふと気づく。何をやっているんだろう、と。

 初対面の生徒会長と、容姿を褒め合う。

 ……いや、何これ。

 

「では、私は生徒会の仕事がありますので、これで。また会えるといいですね」

「ええ、ありがとうございました」

「こちらこそ。失礼します」

 

 優雅を体現させた彼女は、静かに仕事へと向かう。

 テスト期間なのに大変だな、と感じながら、昇降口へ。

 

 ローファーを履いて、外に吹く風に肌を撫でられたときだった。

 

「あ~、来たね」

「いつまで待たせるのよ」

「え? いや、遅れるから先に帰っててくれ、って送っただろ」

「うっそ……あ、ホントだ。気付かなかった」

 

 三人揃って、昇降口の入り口で俺を待っていた。

 携帯を見た遥斗が、失敗した、と言わんばかりの表情をしている。

 学校の中で、通知を切っていたとしてもおかしくはない。

 

「じゃあ、この際だから、全員の連絡先を交換しておかない? こういうことがあったとき、困るでしょ?」

「ま、それもそうか」

 

 俺達は高波の提案を承諾した。

 今のところ、俺が連絡先を知っているのは三人の中で、遥斗一人のみ。

 勿論、その逆も然り。

 

 そもそも遅れる旨を三人に向けて発信していれば、誰か一人くらいは気付いたかもしれない。

 遥斗だけに送ると、遥斗が見逃したらそれで最後だ。

 今後のことを考えると、交換だけでもしておくべきだろう。

 

 電話番号、メールアドレス、某アプリのID等々。

 連絡先を三人にばら撒くように交換した。

 とはいえ、この三つの連絡先をいつ、どのような要件で使うのかは未だに不明な限りだ。

 

 まずもって、俺の携帯はほぼゲーム専用機のそれに近い。

 連絡を取ることは稀であり、電話本来の役割を果たしていないと言っても過言ではない。

 そんな訳のわからない金属板が、とうとう需要を持ったらしい。

 

 少しばかり浮かれながら家に帰った。

 

「ん。やっほ~、おにい」

 

 ……いつから待っていただろうか。

 会うのも久しい、実妹の名を口にする。

 

「葵じゃないか。どのくらい待ってたんだ?」

「そうだね……大体、五時間くらいかな」

 

 五時間も、夏の暑さに晒されていたらしい。

 

「大丈夫か? それに、何か元気なさそうじゃないか」

「そりゃ、これだけ待たされたら、元気もなくなるよ」

 

 大人しくなった、というよりも疲れ切っている。

 久々に見た妹の容姿は、衰えることはない。

 立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花、とはよく言ったものだ。

 

「私、疲れちゃった」

「ごめん。今、鍵開けるから」

 

 手早く鍵を開いて、中へ誘導した。

 つけたエアコンが風を呼吸する中、椅子に座った葵に冷たい飲み物を出す。

 

「ん、ありがと。おにいって、やっぱ優しいね」

「優しいってか、当然のことだろ。大丈夫だったか?」

「ちょっと……休ませて」

 

 麦茶を一気に煽った後、彼女はソファに移動して横になった。

 寝息は聞こえないものの、起き上がるような気力はないようだ。

 お疲れ様、と一声かけて、タオルケットを被せた。

 

 それにしても、葵の中学校は夏休みが少し早いらしい。

 俺の高校は、今週のテスト期間を除けば、夏休みまであと一週間もある。

 期末テストの返却にその一週間を使い、夏休みの補講でテストの解説に入るのだろうか。

 

 思えば、中学の頃の定期テストは、二日や三日に詰め込んでいたような記憶がある。

 六時限分も連続して続く考査。思い出すだけで苦労が蘇ってきた。

 

「……あ? おい、葵。お前、荷物どうした?」

 

 確か、葵は玄関で、()()()で待っていたはずだ。

 キャリーバッグどころか、手提げ一つすらぶら下げていなかった。

 文字通り、身一つ。それ以外にはなし。

 

 では、荷物はどうするのだろうか。

 

「ない」

「はあ?」

「だから、持ってきてないの。いざとなったら、向こうから郵送してもらう」

 

 返事もきついことが、重い声色からわかる。

 これ以上は追求しないが、大丈夫なのだろうか。

 仮にも思春期の女の子なのだから、もう少し気を遣うべきところがあるのでは、と思わずにはいられない。

 

 郵送してもらうのは、まあ一つの手だ。

 日数がかかるのが難点だが、確実に手元に荷物が届く。

 わざわざ取りに行く手間も省け、考えうる中でも現実的な方ではないだろうか。

 

「えっ、じゃあ今日の着替えどうすんだよ」

「おにいの着る」

「いや、下着は――」

「だから、おにいの着るって」

「……はい?」

 

 いや、えっ?

 幾歩譲らずとも、シャツくらいなら部屋着としていくらでも貸す。

 外に着ていく、ともなれば話は別だが。

 

 ただ、下着ばかりはどうにもならないだろうに。

 男物と女物では、差がありすぎる。

 外出しないにしても、下着に関してはは限度を超えている。

 

「今から下着だけでも買いに――行けそうもないな」

「うん、無理そうだね」

 

 さぞキツそうに、葵は寝転がったまま告げる。

 

 俺が一人、ランジェリーショップに行くか?

 一歩間違えれば通報だぞ警察沙汰だぞ。

 考えてもみろ。男が一人で、女物の下着を買いに行くんだ。

 さぞかし、不審者と思われることだろう。

 それか、運が良くて女装趣味のある男と間違われるか。いずれにせよ、悪印象であることに間違いあるまい。

 

 郵送に至っては論外だ。今日中に届くはずもない。

 となると、現実的な案は他になくなる。

 

 買いに行く、郵送してもらう。

 調達の手段である二つが潰えた以上、何もすることができない。

 

「買ってきてよ」

「いやいや、世間的に殺されるから却下で」

「ありがと、そう言ってくれると信じてた」

「ちょっと? 勝手に行くって返事したみたいな言い方やめてね?」

 

 今の返事の仕方だと、まるでオーケーしたみたいだ。

 きちんと、丁重にお断りさせて頂いたはずだが。

 

「あ~、キツいよダルいよ~」

 

 と、葵は言うものの。

 他に方法がないのも事実。

 

「よし、今日だけは下着なしだ」

「うわっ、おにい大胆だね。まあ、暫くぶりの私に欲情する気持ちも――」

「俺が一番わからねえよ。何考えてんだ」

 

 実妹に手を出したら、それこそ終わりだ。

 禁断の愛というのもフィクションの中で存在するが、それはあくまでもフィクションだから盛り上がり、憧れるのだ。

 現実的にありえない事を、架空上で楽しむ。

 それ以上でも、それ以下でもない。その価値観がズレることもあってはならないのだ。

 

 だからこそ、これほど葵の口調は軽いのだろう。

 本気で言っているわけではないのは、全員が見てとれる。

 

「つか、元気出てきただろ。口数増えてきたぞ」

「…………」

「あからさまに会話を控えるな」

 

 いくら体調が良くなってきたとはいえ、外に連れ回すのは無理か。

 

 と、なれば。

 他の協力を仰ぐしかないだろう。

 

 早速、今日手に入れた連絡先を使わせて頂くとしようか。

 まずは、ある程度は信頼できる遥斗にかける。

 

「ん、もしもし。どしたの?」

「聞いてくれ遥斗。一緒にランジェリーショップに行ってくれないか」

「……そっちに目覚めたのか」

「そこで俺が肯定すると思うか?」

「ま、自分の好みで選ぶのが一番だと思うよ? じゃ」

「おい――」

 

 適当なアドバイスを受けて、遥斗はさっさと電話を切ってしまった。

 おい、このままじゃいらぬ誤解が広がったままなのでは。

 そう思い、もう一度電話をかけるが、いくら待っても繋がらない。

 

「その人、おにいに似て大分変態さんなの?」

「俺に似てないし俺自身も変態じゃない」

「さあ、どうだかね」

 

 肩を竦める葵に苛立ちながらも、次なる候補を検討する。

 とはいえ、あと綾瀬と高波の二人になるのだが。

 

 高波にこんなことを言い出して、恥をかくのはできるだけ避けたい。

 消去法では綾瀬になるのだが、あいつは何よりかける言葉が厳しい。

 恥と心の負傷を天秤にかけた、その結果。

 

「もしもし。できれば出たくなかったのだけれど」

「そんなことを言うな。喜べ、お前は名誉ある親善大使に任命された」

「切るわ」

「待て待て。単刀直入に言うと、俺と一緒にランジェリーショップに行ってほしい」

「……変態と一緒に歩くのさえ(おぞ)ましいわ」

 

 無意味に心をえぐられて、一方的に電話を切られた。

 もう一度コールをしようかと思ったが、これ以上綾瀬の罵倒に耐えられる自信がなく、かけられない。

 

「今の、女の子?」

「ああ、一応。笑えば結構可愛いが、何しろ中身が扱いにくいったらありゃしない」

「でもさ、今のはセクハラスレスレでしょ」

「あいつはセクハラを盾にする必要がない程、口でボコれるから要らぬ心配だな」

 

 それより心配すべきは、それによる精神の故障のみ。

「のみ」と表すと聞こえはいいが、その一点に全ての難点が詰まっているのでひどいものだ。

 

 後は、高波だけ。

 せめて常識ある対応を、と願いながらコール。

 

「もしもし、麗美奈です。どうしたの?」

「すまない。突然だが、俺とランジェリーショップに行ってほしい。遥斗にも綾瀬にも断られたんだ」

「……えっと、何があったの?」

「実家にいた俺の妹が、手ぶらでここまで来ちまった。最低限、下着だけでも用意したい」

「あ~、なるほど。うん、いいよ」

 

 神。女神。マジで神だろ。宗教入ろうかな。

 高波を心の支えに、一生暮らしていける気がする。

 

「頭が上がりません、ホント。できれば、妹のことはあまり外に言いふらさないでくれるともっとありがたい」

 

 ブラコンの妹がいると知れると、俺の評価がどうなるかわからない。

 妹を突き放せば「可哀想だ」と非難され、受け入れれば「シスコンだ」と揶揄(やゆ)される。

 ならば、最初から妹などなかったことに、という逆転の発想。素晴らしい。

 

「えっ、じゃあ二人には何て話したの?」

「何が?」

「いや、妹のこと、話してないの?」

「ああ、話す前に切られたな」

「……悪いけど、それじゃ切られても仕方ないんじゃない?」

 

 ――なるほど。

 俺が話したのは、下着を買いに行く、という目的まで。

 単純に考えて、俺が買いに行く必要がある理由が相手に伝わらないのなら、勘違いをしない方がおかしい。

 

「それもそうだわ。失敗した」

「で、なにか焦ってたの? それとも急ぎ? じゃなきゃ、そんな伝え方しないでしょ」

「妹が外で待ちすぎてぐったりしてる。俺が馬鹿だったってのもあるが」

「そういうこと。だから妹さんが直接買いに行けない訳ね」

 

 俺の話の立て方が下手なのか、高波の話の進め方が上手いのか。

 多分両方なのだが、ここまでくると感心せざるを得ない。

 確かに、妹のものなら、葵が自分で買いに行けば完結する話だ。

 こうして誰かに頼み事をするまでもないのだから。

 

「じゃあ、三十分後に……どこに集まろっか?」

「現地集合でもいいんじゃないか? ショッピングセンターってことで」

「おっけー、また後でね」

 

 通話が切れて、ふうっと思わず溜息を吐く。

 現状は、なんとかなりそうだ。

 

「今のも女の人?」

「おう。めちゃくちゃ可愛い、性格も聖人ときた」

「お~、よかったじゃん。落とせば?」

「俺程度で落ちるとは思えんがな。ま、少し接触くらいはしてみるか」

 

 早速服を取り出そうとして、気付く。

 

 もしかして、これ、ある意味ではデートなのでは、と。




ありがとうございました!

ここのところ、七海ちゃんのターンが来ませんね。
時期にきますよ、多分。

さすがにメインヒロイン交代まではやらかさないと信じたい(´・ω・`)

てか、もう七月なんですね。早い早い。

ではでは!

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