クーデレの彼女が可愛すぎて辛い   作:狼々

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連日での投稿はこの作品では初めてでした。
書いてたらできあがったので、もう投稿します。


第25話 不可視の過ち

 突然の来訪者、それも遅い時間なので受付の彼女が多少驚いてこちらを確認した。

 先輩、俺の順に視線を配った後、先輩に落ち着いたようだ。

 

「生徒会長が、なぜこの時間にここを?」

「こんばんは。突然ごめんなさい。ここに用事はないのですが、彼と話す場を頂きたく」

「ご自由にどうぞ。私かそこの人が学校に残るまでなら」

 

 やけに「そこの人」と強調された気がするが、問いを投げる前に腕を引かれた。

 引かれるがままに席に座らされ、彼女は俺の向かいの席についた。

 

「さて、お時間はいつまで大丈夫でしょうか?」

「え、いや……綾瀬はいつ帰るんだ」

「今すぐにでも帰っていいのだけれど」

 

 声のトーンこそ普段通りだが、口調がいつもに増して強い。

 的確に心情を汲み取ることはできないが、不機嫌に傾いている可能性は高いだろう。

 邪魔だと感じられる前に、早めに切り上げた方が良さそうだ。

 それに文化祭が終わるまで浅宮先輩とは定期的に会うこととなるため、今日のところは早めに切り上げたいところだ。

 

「ええと、十分くらいでどうですか? それで僕は帰ります」

「そうですか。では、私もご一緒してもよろしいでしょうか? 私の家は駅方面なのですが」

「残念、反対側です」

「あら、それは残念ですね」

 

 残念だが、この場限りでは幸いな面があるとも言わざるを得ない。

 見た限り、彼女達の仲は少なくとも良好ではない。

 俺と浅宮先輩が会話して、馴染めない綾瀬が浮く未来が容易に想像できた。

 

「こほん、では改めて。どうして実行委員に?」

「特に理由なんてないですよ。気の迷いってやつです」

「立候補したのですか?」

「一応そうなりますね。抽選で弾かれた後に会長立候補とかいう意味わからんことはしてないです」

「なにか理由が?」

「特に話すほどのことでも」

 

 簡潔に言えば妹にいいところを見せたい。

 事実だが少しずれている上に、与える印象が良いものとは思えない。

 立派な動機があるわけでもないならば、それは言うに値しないことは確かだ。

 

「そうですか。ともあれ、実行委員はともかくとして実行委員長は大変ですよ」

「経験が?」

「ええ。かなり大変なので、覚悟しておいた方がいいかもしれません」

「できれば聞きたくなかったですね」

 

 後悔こそないが、先行きが不安になる。

 今日見た限りでは、仕事に積極的な方であるとは思えない。

 しわ寄せが来る未来が容易に想像できてしまうことが残念で仕方ない。

 

「部活の部長もやってましたから、その分もありましたね。最後までやり遂げられたのも、周りの人からの助けがあった御蔭です」

「そりゃ大変でしたね。ちなみに、何の部活に?」

「陸上部に。とはいえ、ほんの一週間ほど前に引退したばかりなんですがね」

 

 今が七月の上旬なので、六月終わりから七月始めか。

 夏休みが目前とはいえ、夏休みに入るよりも早く引退する運動部もあるとは意外だった。

 それよりも意外だったことは確かにある。

 

「意外ですね、先輩が陸上って」

「ふふ、よく言われます。静かなのは飽きてしまいまして。習い事で大抵はこなしましたから」

 

 大抵の習い事をこなす、というのも随分とスケールが大きい。

 茶道、算盤(そろばん)、書道と静かな習い事はいくらでも挙げられる。

 このほとんどを体験したと考えると単純な尊敬の念が先に湧く。

 

 彼女はその経験を嫌がっている様子はなかったので、習い事には積極的な姿勢だったのだろう。

 当然興味があるものもないものもあっただろうが、それを抜きにして継続できるのは思いの外難しいことだ。

 混血が前面に出た見た目だが、書道や茶道に取り組む姿が似合いそうなので不思議なものだ。

 

「『何事も優雅に、落ち着いて』でしたっけ。素晴らしいですよ。尊敬します」

「あら、覚えていただけていたとは。ですが、それほどのことでもありませんよ。貴方は部活に入っているのですか?」

「僕は部活に入ってないですよ」

「……そいつ、今年の五月に転入してきたばかりなんですよ」

 

 本から顔を上げたらしく、俺の言葉に補足を入れた綾瀬。

 素っ気ない彼女が割り込んだことを嬉しく思ったのか、浅宮先輩は笑って話を続ける。

 

「そうだったんですね。前の高校も無所属で?」

「……前の高校っすか」

「ええ」

「サッカーやってましたよ、一応」

 

 この質問が引き出されることが予想できていたが、少しつまづいてしまった。

 なにか恨めしいことでもないので、嘘で答えることもなく。

 

「何それ、初耳なんだけど」

「聞かれてなかったからな。つい昨日、高波に聞かれて答えたのが最初だ」

「なるほど。体格がいいとは思ってましたが、やはり運動部所属でしたか」

「そんな大したもんじゃないっすよ」

 

 確かに小中、前の高校の十年はサッカーをやっていた。

 外見のためではないが筋トレもしてきたため、そこらの男子生徒よりも体つきはいいだろう。

 というよりも、女子から体格を褒められるのが恥ずかしく、存外嬉しく感じることがさらに恥ずかしい。

 

「一応スタメンでしたけど、ただの十一人のうちの一人って感じでしたよ」

「そんなことはありませんよ。誇るべきことだと思いますよ。冬に校内でスポーツ大会があります。複数選ばれた種目の中にサッカーが含まれた年もありましたから、そのときは参加してみるといいかもしれませんね」

「ご提案どうも。でも、俺はもうサッカーしないって決めたんです。ごめんなさい」

「参加を強制しているわけではありませんし、謝らないでください。それに、私が個人的に見たいと思っただけなので」

「何かの間違いでそうなったら見てくれると嬉しいです。……じゃあ、もう時間なので帰りますね」

 

 時計で程よく時間が過ぎたことを確認して、会話を切り上げる。

 二人で荷物を手早くまとめ、図書館を閉める。

 俺と綾瀬は揃って会釈をしてから、浅宮先輩と別れた。

 

 二人になってからというもの、今日を思い出したかのように空気が冷めていた。

 午後六時。空は薄茜に染まっているものの、ほんのりと暗さが広がっている。

 そんな明るいとも暗いとも言えない雰囲気に飲まれたのか、はたまた単に気まずいだけか。

 

 俺の方から口を開くことはなかった。

 

「ねえ。あんた、さっきサッカー部でスタメンって言ってたわね」

「言ったな。数多い部員のうちの一人に過ぎないとも言った」

「嘘でしょう。前の高校でスタメンだったとして、あんたはいつからスタメンなのよ。少なくとも、一年で既にスタメン入りしてたでしょう」

 

 確かに綾瀬の訂正は正しかった。

 通常どの部活も夏に先輩が引退し、残された者で新スタメンが形成される。

 様々な試行錯誤の末とはいえ、次の年の春までにはスタメンが定着するはずだ。

 この流れのままだと、俺のスタメン入りも二年を迎える前となるわけだ。

 

 しまった、と後悔したがもう遅い。

 言う必要のないことは言うべきでない。口は災いの元とはよく言ったものだ。

 

「小中とやってたから、少し上手かっただけだよ」

「そう。なら尚更、うちの高校でサッカーを続けないのかも理解できないけどね」

「混じりにくい雰囲気あるだろ」

「それも嘘ね。サッカーしないって決意したんでしょう? それとも、それが決意の原因なのかしらね」

 

 なるほど嘘を重ねると失敗する理由がよくわかる。

 

「だといいな」

「そうね、私にとってはどうでもいいもの」

「それもそうだな」

 

 会話に転じたものの、その実態は探り合いだった。

 互いに機を伺ってはいるが、軽いジャブで牽制しあっている感じだ。

 

「なあ。今日の朝、何を言いかけたんだよ」

 

 本格的に先に仕掛けたのは俺だった。

 自分の中だけで心理戦を繰り広げるのが馬鹿らしくなったのが一つ。

 ここまで引きずっている自分が一番気になっているということが一つ。

 聞き出すに値する理由があった。

 

「大したことじゃないわ。昨日は慌てて帰ってったから、何があったのか気になっただけよ」

「ああ、あれか。葵がスーパーに夕飯の買い出し行ってたんだよ」

「……は? ちょっと、葵って。状況が、えっと……」

 

 何も考えず葵の名を出したが、そういえば綾瀬は知らないんだったか。

 高波が知っていて綾瀬が知らないことは、意外と多いのかもしれない。

 

「妹だよ。中学三年の。夏休みが始まってからこっちに来てるんだ」

「ああ、そう。妹、ね」

「ちなみに俺と違って料理ができる」

「それ、妹自慢なのか自虐なのかわからないところね」

 

 確かに家庭料理が基準ならば、できることを誇れるレベルかどうかと聞かれると怪しい気もする。

 となると、自虐に入るか。

 

「妹さんがいるってのも初耳なんだけれど?」

「当然だ、言ってないからな。ちなみに高波はもう妹に会ってる」

「なにそれ。麗美奈はいいけど、私に会わせると悪影響あるから会わせないみたいな?」

「そんなこと一言も言ってないし思ってもいなかったが、いざ言われてみると確かにそうかもしれないな」

「後で覚えておくことね」

「そういうとこなんだよなあ」

「冗談よ」

「知ってる」

 

 直感だが、彼女の言うことが冗談なのか否かがわかるようになってきた。

 声色が浮きにくいため、最初の頃は見分けが困難だったときもあったっけか。

 

 そう考えると、彼女との付き合い方がわかってきたのかもしれない。

 人付き合いに目立った問題があるわけではないため、上手くやれば高波ほどとはいかないまでも、友人に困らない程度にはなれそうなものだが。

 

 高波で苦手となると、葵は綾瀬を良く思うことはなさそうだ。

 会わせる分には構わないのだが、俺の女友達が心配されるかもしれない。

 

「あんたと違って、妹さんは優秀そうね」

「……そうだな。俺なんかよりもずっと優秀だ。しっかりしてるし、人の気持ちもわかってやれる」

 

 思えばそうだ。俺よりも葵の方が遥かに人間ができている。

 愚兄賢弟(ぐけいけんてい)とはよく言ったものだ。違うことは、弟ではなく妹というところだけ。

 多分俺は、葵を尊敬しているのだろう。妹を尊敬する兄というのも変な話だが、俺が文化祭実行委員になった理由であると考えると、自分で納得できた。

 

「一度会ってみたいものね」

「そうなのか?」

「ええ。あんたがそんな風に言うってのは珍しいもの」

「そうかい。ま、機会があったらな」

 

 そう言ったはいいものの、恐らく自然に会う機会はない。

 もし会うチャンスがあったとして、葵と綾瀬が自然に会話する風景が想像できない。

 葵が綾瀬という人物を会話ができる程度に理解するよりも先に、夏休みが終わるだろう。

 

 後の会話はスムーズに紡がれた。

 変な意地を張ることもなく、透明で湾曲した障壁は消え去っていた。

 

 綾瀬の家に着いて、別れる。

 葵にどう話そうかと考え事をしていると、いつの間にか家に着いていた。

 

「おかえり、おにい」

 

 鍵を開けて、迎えがあることは実に良いことだ。

 葵は既に夕食の支度をしており、それももう終わる頃だった。

 

「なあ、葵。俺、今度の文化祭で実行委員長になった」

「おにいが?」

「ああ」

「……そっか、頑張ってね」

 

 不器用で直球な報告だった。

 それにもかかわらず、葵は薄く笑って返してくれた。

 

「もうご飯できたから、冷めないうちに食べよっか。手を洗ってからね」

 

 同じく笑って話題を打ち切られた。

 

 そして、俺はなんとなくだが理解した。

 

 ──俺の選択は、きっとどこかに間違いがあったのだろうと。




ありがとうございました。

テストこわい。
頑張って7日に向けて書きたいです。

追記
旧暦の七夕についてですが、今年は25日らしいので、25日に投稿を延期させていただきます。
7日は昨年らしいです。勝手に延期してしまい、申し訳ありません。
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