「もこっち、これ出るの?」
ゆうちゃんから見せられたプリント。オシリスレッド寮長、大徳寺先生が主催の課外授業だ。
古代の遺跡、墓場を見るという物らしい。
「普段は近づけないから、めったにないチャンスだけれど」
「興味ない」
「クールだね…」
「お昼はどうする?ドローパン以外で」
「くさやパンとドリアンパンは流石にきつかった。午後の体育で誰も近づいてこなかったし…」
「先輩から聞いたが、一度シュールストレミングパンを出そうとした事があったらしい」
「…どうなったの?」
「悪臭騒ぎで倫理委員会が出動する騒ぎになり、現場の苦情の嵐から販売中止になったとか。想像力が足りないな」
「無難にお握りにしようか?」
「それがいいな。そういえば、アレルギー持ちの生徒って居るのだろうか?」
「居るわよ?後藤君は蕎麦アレルギーで、川田君は魚卵アレルギー、それに…」
何故男子生徒のアレルギーを把握しているのか。肩をすくめるもこっちは後ろから声をかけられる。
「黒木、少しいいか?」
「?構わない。ゆうちゃん、先に行っていて」
「ん、分かった」
万丈目が誘ったのはアカデミアの吹き抜け。眼下にはアカデミアの正門がある場所。
とはいえ、ここに立ち入り出来るにも関わらず柵が無いのはやや不安定であるし、風が強い場所だ。
「ここならいいだろう。」
「…聞かれたくない話か、本題に入る前に一つ聞いてもいいか?」
「ああ」
「何故本校に残ろうと思った?ノース校で頂点に立ったにも関わらず」
「まだ倒していない奴が居るからな。」
そう告げる万丈目の目の奥には強い闘志が宿っている。
「…デュエルの申し込みなら受けるが、そういう訳でも無さそうだな?」
「ああ。黒木。お前はデュエルモンスターズの精霊、と言うのを聞いた事があるか?」
「高寺オカルトブラザーズに参加する事をお勧めする」
やや早口で話してしまい、内心舌打ちするもこっち。動揺を隠しきれなかった自身の未熟さに腹を立てていると
「あんなオカルトマニアに加わるつもりは無い!遊城十代とデュエルして以来、妙な物が見え、妙な気配を感じるようになった。
お前からも感じたのだが」
「デュエルモンスターズの精霊は実在する」
「?!」
もこっちは真っ直ぐ万丈目と視線をぶつける。
「ただ、今の科学ではそれを証明できないだけ。決闘王の言葉だ」
「遊戯さんの…そうか、俺にしか見えて居ない存在では無かったのか…」
考え事を始めた為、もこっちは一声かけてその場を立ち去る。
廊下に立っているゆうちゃんと合流すると
「ねぇ、万丈目君と何を話していたの?」
「最近飛蚊症らしい。それで目の検査を受けるべきか否かを相談された」
「え?カードの精霊じゃあ」
足を止め、もこっちはゆうちゃんを睨む。
「聞いたな?」
「あ、あははは…」
「別にいい。そうだ。今後の事を考えて、護衛ぐらいはつけておく。」
「ご、護衛?」
「明日、一緒に来てもらう。貴重な経験が出来るだろう」
「貴重…?」
翌日、もこっちは縄梯子と懐中電灯をリュックに仕舞い、ゆうちゃんを連れて島の北部へ向かう。
北に進むと火山地帯という、人気の少ない場所だ。
「…ねぇ、もこっち。どこに連れていくの?」
「ゆうちゃん。秘密を知った相手の処理方法と言われて何を思いつく?」
「ええっ?!え、えっと、その…買収して」
「口封じ。それともう一つある」
「もう一つ?」
枯れ井戸の前までやってきたもこっちは振り返ってゆうちゃんと目を合わせる
「引き込む事だ。こちら側に」
「引き込むって…」
「後ろ」
言われて振り返ったゆうちゃんの前に、奇妙な物体が浮かんでいる。
優秀な決闘者であるゆうちゃんは即座にその正体に気が付く。
「?!は、ハネハネ?!」
「さて。課外授業を始めよう。今回の内容はカードの精霊とのデュエル。」
もこっちの言葉に応えるように、ハネハネの前にカードが五枚、ハネハネに見えるように浮かぶ。
「よ、よくわからないけれど、勝てばいいのよね?!」
「無論。」
デュエル!
ゆうちゃん ライフ4000
手5 場
ハネハネ ライフ4000
手5 場
「…先攻、ドロー。モンスターをセット、カードを二枚セット。ターンエンド」
ゆうちゃん ライフ4000
手5 場
ハネハネ ライフ4000
手3 場 セットモンスター 伏せ2
「私のターン、ドロー!私は」
そこでゆうちゃんは言葉を止め、もこっちの方を見る
「…ターンエンド?」
「ねぇ、カードの精霊って事は自分自身がエースなの?」
「さぁな。私が戦った精霊は自分自身を召喚してこなかったぞ」
召喚される前に倒した、という真相を隠してもこっちは告げる。
「…私は自分の直感を信じる!イグザリオンユニバースを召喚!バトル!セットモンスターを攻撃!」
「…永続罠、旅人の試練」
「?!」
スフィンクスが現れ、その前にハネハネの手札がゆうちゃんに見えないように浮遊する。ややあってその一枚が高く飛び上がる。
「攻撃宣言時に発動し、ランダムにカードが選ばれる。その種類を答え、外れれば」
「…モンスターか、魔法か、罠か。宣言を」
「…罠よ!」
「…正解。罠カード、ゴブリンのその場しのぎ」
「ええ…いや、バウンスカードだけれど。まぁいいわ。行け!イグザリオンユニバース!」
イグザリオンユニバースが突進し、槍を突き立てる!現れたのは
「ペンギンソルジャーの効果発動。イグザリオンユニバースを手札に戻す」
「…なるほど、徹底的なバウンス戦術って事ね」
「臆したの?ゆうちゃん」
「まさか。最高の課外授業よ!もこっち、教師になったらどう?」
「考えて置こう」
「そういう返事って絶対に実行しないパターンよね…カードを二枚伏せて、ターンエンド」
ゆうちゃん ライフ4000
手4 場 伏せ2
ハネハネ ライフ4000
手3 場 旅人の試練 伏せ1
「…ドロー。」
「相手のカードを手札に戻す効果モンスターは、ペンギンソルジャーやハネハネ、幻影の壁と戦闘は苦手なカードばかり。
妨害を掻い潜れるか否か…」
対戦相手であるハネハネを見ず、手札を見つめるゆうちゃんを険しい双眸で睨むもこっち。
その隙を見逃す程、精霊は愚かでも凡庸でも無い。
「…アビス・ソルジャーを召喚」
「?!【バウンス】、といっても【水属性軸】?!」
予想外の動きに、動きが一瞬遅れる。
「バトル、アビスソルジャーでダイレクトアタック。」
「きゃああああっ?!」ライフ4000から2200
「…ターンエンド」
ゆうちゃん ライフ2200
手4 場 伏せ2
ハネハネ ライフ4000
手3 場 アビスソルジャー 旅人の試練 伏せ1
「私のターン、ドロー!モンスターをセット!ターンエンド!」
手早くターンを終えた所で、すさまじい緑色の光が、北の方から噴出する。
「?!な、何!なんなの?!」
地揺れの最中、もこっちは小型のマイクとイヤホンを装着し…
『精霊界への扉を誰かが開いたようだ。赤い服のHERO使い達が巻き込まれたようだが…』
「…レッド生。なるほど。とんだ課外授業のようだな」
揺れが収まり、静けさが戻る。浮遊していたハネハネは地面の揺れの影響を一切受けて居ない。
ゆうちゃん ライフ2200
手4 場 セットモンスター 伏せ2
ハネハネ ライフ4000
手3 場 アビスソルジャー 旅人の試練 伏せ1
「…ドロー。アビスソルジャーの効果発動。水属性のモンスター、ペンギンソルジャーを手札から捨てて効果発動。
セットモンスターを手札に戻す」
「でも攻撃力は1800、まだライフは残る!」
「幻影の壁を攻撃表示で召喚。」
奇妙な壁のような悪魔が現れる。
「…意外と脆かったな、ニンゲン」
「この瞬間、罠発動!激流葬!」
「?!」
勝ち誇り、嘲りを浮かべたハネハネだが、直後に放たれた濁流にアビスソルジャーと幻影の壁が流されてしまう。
アビス・ソルジャーが濁流に流される様を見ていたもこっちは、河童の川流れとはこの事か、という目を向けるが
突然こんな濁流が来たら対処出来る訳無いだろう、とアビス・ソルジャーは抗議の目を向け、そのまま破壊された。
「…ターンエンド」
ゆうちゃん ライフ2200
手5 場 伏せ1
ハネハネ ライフ4000
手2 場 旅人の試練 伏せ1
ハネハネの手札は二枚になり、しかも一枚は罠カード、ゴブリンのその場しのぎとばれている。
流れを持っていかれたにも関わらず、ハネハネの戦意は衰えない。
「私のターン、ドロー!私は融合を発動!手札のビッグコアラと、イリュージョンシープを融合!融合召喚!マスターオブOZ!」
コアラの重量級チャンプが現れ、ハネハネを見下ろす。
「イグザリオンユニバースを召喚!バトル!イグザリオンユニバースでダイレクトアタック!」
「…旅人の試練の効果発動」
「突き進む!宣言するのは罠カード!」
だが、表示されたのは
「?!魔法カード、モンスター回収…」
「イグザリオンユニバースを手札に戻す」
スフィンクスの目が怪しく光り、それに惑わされたイグザリオンユニバースは目をまわしてどこかへ去っていく。
「罠と魔法…マスターオブOZで攻撃はしない。ターンエンド」
攻撃が通れば勝ち、ではあるが仕掛けずターンを終えるゆうちゃん。モンスターBOXと旅人の試練は攻撃牽制能力を持つ永続罠だが、
こうしてみるとかなり厄介である。片方はライフコスト、片方は手札に複数の種類のカードを抱えねばならないが。
ゆうちゃん ライフ2200
手3 場 マスターオブOZ 伏せ1
ハネハネ ライフ4000
手2 場 旅人の試練 伏せ1
「…ドロー。ターンエンド」
ゆうちゃん ライフ2200
手3 場 マスターオブOZ 伏せ1
ハネハネ ライフ4000
手3 場 旅人の試練 伏せ1
手早くターンを終えるハネハネ。その手札は未知なるカードが加わり、旅人の試練による妨害はさらに高まる。
「私のターン、ドロー!イグザリオンユニバースを召喚!カードを伏せる。ターンエンド!」
ゆうちゃん ライフ2200
手2 場 イグザリオンユニバース マスターオブOZ 伏せ2
ハネハネ ライフ4000
手3 場 旅人の試練 伏せ1
「…ドロー。」
ハネハネは真っ直ぐにゆうちゃんを見る。今度は自分自身の一挙一動を注目している。
「…魔法カード、ポルターガイストを発動。対象は先ほどセットしたカード」
「チェーンしてリバースカードオープン!砂塵の大竜巻!私が破壊するのは旅人の試練!」
「…モンスターをセット、ターンエンド」
ゆうちゃん ライフ2200
手2 場 イグザリオンユニバース マスターオブOZ 伏せ1
ハネハネ ライフ4000
手2 場 セットモンスター 伏せ1
「私のターン、ドロー!魔法カード、野性解放を発動!イグザリオンユニバースの攻撃力はその守備力1900分上昇し、攻撃力は3700!
さらに激昂のミノタウロスを召喚!バトル!私はイグザリオンユニバースでセットモンスターを攻撃!」
「罠発動、強制脱出装置。イグザリオンユニバースを手札に戻す」
「チェーンして罠発動!キャトルミューティレーション!イグザリオンユニバースを手札に戻し、手札から戻したモンスターと同じレベルの獣族を特殊召喚!
イグザリオンユニバースを特殊召喚!バトル続行!セットモンスターを攻撃!」
攻撃されて表になったモンスターは…
「セットモンスターはハネハネ。効果発動、マスターオブOZを融合デッキに戻す…!!」ライフ4000から2700
突然、ミノタウロスが咆哮を上げ、その衝撃を受けたハネハネは後ろに飛ばされ、木にたたきつけられる!
「激昂のミノタウロスの効果!場の獣族・獣戦士族・鳥獣族に貫通効果を与えるわ!」
「……」
「さらに激昂のミノタウロスでダイレクトアタック!」
「…」ライフ2700から1000
ミノタウロスが咆哮を上げつつ突進し、ハネハネの顔面を掴んで近くの岩に何度も押し付ける。
数回押し付けられたところで、ミノタウロスにハネハネが鎌を振り下ろすも、ハネハネを離して後ろに飛ぶミノタウロス。
「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」
ゆうちゃん ライフ2200
手0 場 イグザリオンユニバース 激昂のミノタウロス 伏せ1
ハネハネ ライフ1000
手2 場
「…ドロー。天使の施しを発動。三枚ドローし、二枚を捨てる。捨てるのはモンスター回収とゴブリンのその場しのぎ」
「手札を入れ替えた?!」
「アビスソルジャーを召喚。バトル、激昂のミノタウロスを攻撃」
ミノタウロスに襲い掛かるアビスソルジャー。だがその眼前に光の膜が浮かび上がる!
「…?!それは!」
「そうよ!聖なるバリアミラーフォース!これでアビスソルジャーを破壊する!」
打ち砕かれるアビスソルジャー。
「…メインフェイズ2、手札のカオスポッドを捨てて魔法カード、振り出しを発動。イグザリオンユニバースをデッキの一番上に戻す」
「でも、これでモンスターも尽き、魔法・罠尽き、手札も尽きた」
「…」
「次のドローはイグザリオンユニバース。召喚して攻撃すれば私の勝ち。なのに」
「ターンエンド。」
ゆうちゃん ライフ2200
手0 場
ハネハネ ライフ1000
手0 場
「……私のターン、ドロー!イグザリオンユニバースを召喚!バトル!ハネハネにダイレクトアタック!」
突撃してくるイグザリオンユニバースの攻撃を受け、ハネハネは派手に吹っ飛ぶ
「……」ライフ0
デュエルディスクを収納し、肩で息をするゆうちゃん。
「…おめでとう、ゆうちゃんの勝利だよ」
「最後の最後まで諦めない、か」
「負けると分かっていても、サレンダーはしないのが精霊のデュエル。さて、ゆうちゃん。何か見えない?」
「何が?」
ゆうちゃんの傍に先ほどのハネハネが浮遊しているが、どうやら見えないらしく、きょろきょろ辺りを見渡している。
「…見えるようにはならなかったか。一応傍にいるのだけれど」
「ええっ?!」
「ハネハネは悪霊の類を追い払う効果がある…足元を見て」
足元に何時の間にかカードが落ちており、それを拾うゆうちゃん。
「これは、ハネハネのカード?でも、バウンス戦術、か…」
新たな戦術とカードを手に入れ、思考を巡らし始めたゆうちゃんをもこっちは見つめていたが、ややあって寮へ戻るように促す。
立ち去る二人の女子生徒の後ろを、一陣の風が吹き、森がざわめく。
まるで、これから大きな戦いが起きるかのように。
ところでモンスターBOXと旅人の試練、使うならどっちですか?