暗殺教室 ALTERNATIVE   作:アンチメシア

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最初から1万文字を超えるとは自分でも思いませんでしたが、書きたいことを詰め込んでいったらこうなってしまいました。

この小説は暗殺教室を自分なりに再構成したものです。
故に原作ではボカされたり、無かった描写などを幾つものオリキャラや独自設定等で埋めていく予定ですが、あくまでこの作品の主人公は殺せんせーと渚のつもりです。

更新は不定期となりますが、読んでくれる方はよろしくお願いします。


0時限目「超生物の時間」

昭和初期頃に立てられたのであろう前近代的とも言える程に古ぼけた校舎、その中のたった一つの教室に「3-E」と書かれている表札が掛けられている。

その教室の中では、それぞれの席に着くクラスの生徒達の全員が緊張を隠せない面持ちで一つの教壇に目を向けて何かを待ち構えている。

やがて、教室と廊下を隔てる戸が開け放たれるとヌルヌルと歩く…否、幾本の足を器用に這わせながら教室に入ってきたそれは教壇に立つ。

明らかに2mを超えているその巨体は何もせずとも中学生の子供達が気圧されるのに十分な威圧感を放っていると言っていいだろう。

が、その巨体以上に目が行くのはその奇妙な姿形であろう。

アカデミックドレスに三日月のネクタイをあしらっているその服装は学問に携わる者を表していると言える、問題なのはそれを纏っているのは全身が黄色くツヤツヤした皮膚、服から伸びる無数の触手、そして何よりも注目が向けられる丸い頭部には点のような眼と整然と並ぶ白い歯が三日月状に並び、妙な愛嬌を漂わせている。

まるでタコをモデルに戯れに描かれた低年齢層向けの漫画のキャラクターといっても過言ではない存在が教壇に立っているその光景は正に場違い極まりない…それどころか物語のジャンルが違うのではないか?と言うしかないだろう。

もちろん、そんな存在に相対する子供たちも普通ではなかった。

 

「起立!」

 

ここまでなら普通の学校でも見られる日直の号令なのだが、問題はその子達が手に持っている物だった。

それは、拳銃(ハンドガン)散弾銃(ショットガン)突撃銃(アサルトライフル)狙撃銃(スナイパーライフル)機関銃(マシンガン)――(ガン)(ガン)(ガン)ガンがんGUNgun

 

銃規制の厳しい日本国内で銃刀法違反なんのそのと言わんばかりに、銃火器を両手に構えて教壇に立つ存在に銃口を向ける子供達。

構え方は拙く素人丸出しだが、これだけの銃を向けられ、その引き金が引かれればどんな達人だろうと避けることは不可能だろう。

しかし、目の前に立つ存在は怯むこと無くニヤニヤと舐めるような笑みを見せつけている。

 

「気をつけ……」

 

そんな対象を睨みつけながら、子供達は引き金に掛かった指に力を込める。

 

「礼!!」

 

その瞬間、彼らは遂に目の前の存在に向けて一斉に引き金を引いた。

 

ドパパパパパと轟音を立てて一斉射撃が始まるが、銃撃音にしては音撃の一つ一つは妙に小さい……それもそのはず、銃口から放たれてるのは弾丸は全てBB弾だ。

 

―――――――――――――――僕らは、殺し屋―――――――――――――――

 

まだ慣れない銃を、それでも真剣な表情を崩すこと無くM16モデルの電動空気銃(エレクトロエアソフトガン)の引き金をフルオートで引き続ける一人、潮田渚はこの異常な空間に今の自分を当て嵌めつつ、心の中で呟いていた。

男女どちらともとれるその名前とセミロングの水色の髪をピッグテールにした髪型が特徴的な中性的で可愛らしい顔立ち、加えて小柄で肉付きの少ない華奢な容貌からよく女子と間違えられるが、れっきとした男子生徒である。

 

―――――――――――――――標的(ターゲット)は、先生―――――――――――――――

 

その奇怪な生物――彼らに“先生”と呼称されているものは、無数に放たれ続けるBB弾を目にも留まらぬ速さで回避していく。

しかも、その表情には余裕の笑みを讃えたまま器用に出席簿を人の手に相当しているのだろうアカデミックドレスの袖から出ている触手に取って開く。

 

「おはようございます。発砲したままで構わないので、出席を取ります」

 

朝の挨拶をすると、もう片方の触手()にボールペンを取り、弾幕を残像が出る程のスピードで目の前の子供達――生徒らの名前を読み上げていく。

 

「磯貝悠馬くん」

「……!!」

 

出席番号“2番”、学級委員長を務めるクラスのリーダー的存在たる磯貝悠馬が返事をするが銃声にかき消されてしまい、教室内の誰の耳にもよく聞き取れない。

 

「すみませんが、今は銃声の中なのでもっと大きな声で」

「は、はいっ!」

 

誰のせいだよ!と愚痴を零したい気分になりつつも、磯貝は言われた通りにいつもより声を張り上げて返事をする。

返事を受け取ったその生物は笑顔で頷いてボールペンを用いて出席簿に記すと再び生徒達の名前を読み上げる。

 

「岡島大河くん」

「はいっ!」

「岡野ひなたさん」

「はい!」

 

こうして、その生物は今まさに自分を蜂の巣にせんとする弾幕にさられている中、朝の点呼をありふれた日常のように何食わぬ顔で悠々と終えていくその光景はこの世の物とは到底思えないものだ。

“先生”というのは比喩でも何でもない。目の前の弾丸を避け続ける謎の生物は、このクラス……椚ヶ丘学園中等部こと椚ヶ丘中学校、特別強化学級『3年E組』正真正銘の担任教師である。

 

「潮田渚くん」

「はい!」

 

自分の名前が呼ばれるのと同時に銃声に消されぬよう強く声を発して返事を返す渚だが、声の大きさとは裏腹に当に諦観の淵に意思を沈めていた。

 

――何やってるんだろう僕達……

 

どうせ、今日も命中することなんてないのに……渚がそう思ってしまう程、この光景は既に何日も繰り返されてきたものに過ぎなかった。

ならばどうして、受験生たる彼らがこのような特殊部隊じみたことをしなければならなくなったのか。

 

ことの発端は約1週間前に遡らなければならない――

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

東京都西部にあるベッドタウン、椚ヶ丘市。

その西部に今や市の象徴の一つとも言っても過言ではない程の広大な土地を構える学校法人、椚ヶ丘学園。

今年で創立10周年を迎える中高一貫のその巨大な学園は『教育界の風雲児』と名高い理事長、浅野學峯が唱えた「高度成長教育」の理念を元に全国でも屈指の進学校として名を馳せており、現在も度々ニュースで取り上げられ、文科省の有力者や海外からも視察が絶えないくらいの注目を受けている。

理念通りの教育レベルの高さもさることながら、学園の誇る数々の施設も新時代の名門校に相応しい最新の設備が整えられており、アメリカのアイビー・リーグを始めとした有名大学らと遜色ないとされ、入学を希望する生徒も都内はもちろんのこと北海道から沖縄までといった都外からも訪れるなど、生徒数は年々増加している傾向から、近々高等部、中等部に続いて初等部の設立も計画されているという学園の成長は留まることを知らない。

そんな学園の一角である、体育館で椚ヶ丘学園の始業式が行われていた。

壇上で校長、松村茂雄による長い挨拶も春休み明けの生徒達が欠伸を噛み殺している最中、ようやく終えようとしている所だった。

 

「……ということで、今日から新学期を迎えることになりますが、この1年をどう勉強に取り組むのか?特に3年生の皆さんは今後の人生が決まるといっても過言ではありません。

くれぐれも彼ら……えー、何でしたっけ? ああ、そうでした思い出しました…3年E組の方々のようにはなってはいけませんよ」

 

明らかな悪意が込められたその言葉が発せられた先にいるのはE組の生徒達だった。他のクラスの生徒達から浴びせられる嘲笑、冷笑に怒ることなく只々と俯いて心の暴力に耐え忍んでいる。

そのうちの一人である潮田渚は、何か気になったのか自分たちを嘲笑う同級生たちに密かに目を向ける。

E組とは何から何まで正反対の位置にいる最優秀の特進クラスであるA組の列にマッシュボブの髪型に大きな瞳と細い顎の可愛らしい美少女――渚にとって小学校からの幼馴染である斎藤綾香と目があった。

彼女は一瞬、悲痛な表情を浮かべながらもすぐに渚から目をそらしてしまった。

 

――綾香……

 

中高一貫の椚ヶ丘学園では、高等部への進学は基本エスカレーター式となっている。

ただ、一クラスを除いてだが……

それがE組である。

一流の名門である高等部に進学すればもはや将来は約束されたも同然となるが、中等部に入った時点でその切符を容易く渡してしまったり、そして高等部に進学した生徒も既に人生は成功したものと勘違いして油断と慢心に囚われ、堕落しかねない。

それを懸念した理事長が編み出した仕組みがあえて一握りの落ちこぼれを生み出すことで差別対象とすることで、他の生徒らが“ああはなりたくない”という緊張感と、“自分たちはこいつらと違う特別な人間だ”という優越感を抱かせることで競争心を刺激させ、より勉学に励むようになるという特別強化学級システム――通称、終わり(END)のE組だ。

実際、まだ10年しか歴史を持たない新設の学園がここまで巨大化する程の成果が得られたのも、このシステムに(もたら)された恩恵がとても大きい。

しかし、そのための生贄に差し出される側としてはたまったものではなく、差別待遇に打ちのめされたもの生徒達は身も心も疲弊して暗く沈んでしまう。

彼女とは去年まで同じクラスだったが、授業についていけなかった自分とは違い苦難を乗り越えて成績を上げ、今年遂にA組に編入した綾香とは離れ離れになってしまった。

綾香は他の生徒とは違い渚との絆は捨てていないことは先程の表情から見て取れたが、成績至上主義のこの学園では成績上位者と成績下位者が明確に分けられてしまうせいで、学内では表立って顔を会わることもできない。

渚は小さくため息を付いて、再び顔を床に向けて俯くのだった。

 

こうして始業式が終わり、渚たちは陰鬱な空気の中で汗水垂らしながら長く険しい山道を登る。

まるで処刑台に向かうような気分のまま山の中腹に辿り着く、そこで先輩である高等部のE組と途中で別れることになる。

高等部のE組校舎はこの中腹のさらに裏側にあるからだ。

 

「んじゃ、また放課後」

「ええ、先輩たちも一年間よろしくお願いします」

「厳密には1年と二週間だけどな」

 

高等部と中等部の3年E組のそれぞれの学級委員長として山縣侑斗と磯貝悠馬が挨拶を交えると各々が通うべき校舎へ向かって歩を進める。

そして、中等部の3年E組が目にしたのは恐らく昭和の頃に建てられたと思われるほど年代を感じさせる程の古い木造の旧校舎であり、建物のあちこちが素人目でも分かるほど傷んでいるのが見え、ろくに手入れも行き届いていないのは一目瞭然であった。

これは予想よりも酷い一年を過ごすことになりそうだ、と皆がやるせない気持ちも抱いて旧校舎へと入っていった。

 

教室に入って一息ついたものの、そんなことでこの陰鬱な気分が晴れるわけではない。

感受性の強い思春期真っ只中の時期にある中学生がこんな仕打ちを受けて希望など持てるわけが無かった。

その時、戸が開け放たれ中に乗り込んできたのは黒いスーツを着こなした精悍な面持ちの男性だった。

丹精な顔立ちにありながら野性味溢れるような雰囲気を身に纏い、スーツ越しでも体格がガッシリしているのが分かるその姿は、一言で表すなら古き良きの日本男児を体現していると言ってよかった。

そんな明らかに只者ではない男が無駄のない足取りで教壇に立って、生徒たちを見据える中、クラス内に困惑が広がるのは当然だった。

 

「誰?」

「何事?」

「あの人、かっこいい」

「新しい先生か?」

「それなら雪村先生はどうなんの?」

 

普通じゃない状況に生徒達があれやこれやと私語が飛び交う中、男は意に介さず廊下に向かって手短に告げた。

 

「入れ」

 

促されたソレは今にも壊れてしまいそうな古めかしい戸を潜るように教室に入ってきたのと同時に、思わず生徒達は沈黙してしまった。

それはそうだろう、彼らの眼前に現れたのは時代錯誤と言っていいアカデミックドレスを纏い、つるりとした丸い顔、服からウネウネと伸びる無数の触手といった異形の生物だったのだから。

男がその場から退き、生物が代わって教壇に立ってゆっくり生徒達を見渡したかと思ったら、口を開いた。

生物の口から発せられたのは信じがたい程に流暢な日本語であった。

 

「初めまして。私が月を破壊した犯人です。来年には地球も破壊する予定です。そういうわけで今日からこの椚ヶ丘中学校3年E組……皆さんの担任になったので1年間どうぞよろしくお願い致します」

 

言うまでもなく生徒達は思わず目が点になるほど呆気にとられて頭の中が真っ白になっていた。

 

(月を壊した?)

(地球を破壊?)

(俺たちの担任?)

(何より……)

 

―――――――――――――――五、六ヶ所ツッコませろ!!―――――――――――――――

 

何が何だかさっぱりわからない!

理解が追いつかない!

一体、何がどうなっている?

自分たちは何されようとしている?

何に巻き込まれた?

 

クラス全員が頭を混乱させている様子に、男は頭を抱えて「やはりこうなるか……」と言葉を零した。

 

「あれ……もしかして上手く伝わりませんでしたか?」

「とりあえず、そこをどけ」

 

目や口にはほとんど変化は無いが、どうやら声色から察するに心配しているようだ。

しかし、このままでは話が進みそうにないので異形の生物を押し退けて彼?に代わって再び教壇に立つ。

 

「混乱させてしまってすまない。コイツにいきなりこんなことを言われた所で頭が追いつかないだろうから、私の方から説明しよう。私は防衛省の特務部に所属する烏間という者だ。ここから先は国家機密に抵触することだと理解して頂きたい。

まず単刀直入に言う……この怪物を君達に殺して欲しい」

 

「はあ!?いきなりんなこと言われたって意味わかんないだけど……」

 

ボソリと聞こえた声はロングヘアーの髪を金色で染めた整った容姿を持つギャル風の帰国子女の生徒、中村莉桜だ。

 

「あー、確かに特殊メイクでも着ぐるみでも無い本物なのは見て分かるんスけど、地球を侵略しに来た宇宙人の類スか?」

 

橙色(オレンジ)に染まったマッシュルームヘアーが印象的だが、それ以外は何の特徴もない平凡な容姿の男子生徒である三村航輝が言う。

長年テレビ業界に身を置いてきた両親を持つ生粋のテレビっ子だからこそ、幼い頃からその手のものに触れてきた見識から、その生物が作り物ではないことやこの状況がドッキリ番組のようなやらせでもないことが彼にはよく分かっていた。

「失礼な!生まれも育ちも地球ですよ!」と生物が側で抗議しているが、それはさておきと烏間は話を続ける。

 

「今はまだ詳しいことは話せないのは申し訳ないが、こいつが言ったことは真実だ。

先日月が破壊されたことについてはニュースで知っているな?」

 

そう、この数日前に地球上の誰もが見慣れた月の7割が突如消滅し、三日月となってしまった人類史上類を見ない大事件で今や大混乱の最中にある天文学者を始め、世界はこのニュースで持ち切りだった。

巨大隕石の衝突か?それとも、異星人の攻撃か?もう二度と満月は見れないのか?等々といった月の崩壊が招いた影響で自然環境の変動や人間社会への混乱で、今や世界が揺らがされているのは周知の事実。

その犯人が目の前に居るこの珍妙な姿形をした謎の生物の仕業だというのか?

 

「そして来年の3月にはこの地球をも破壊するつもりでいる。他にこのことを知っているのは各国の首脳クラスを始めとした一握りの権力者達、そしてこの任務(ミッション)を遂行するのに全面協力の依頼を必要としたこの学園の理事長くらいだ。ただでさえ、今は月の崩壊で世界中でパニックが起きている最中にこれ以上追い打ちをかけるような情報を世間に晒す訳にはいかない。

故にコイツは秘密裏に始末しなければいけない……つまり暗殺だ!」

言い終えない内に懐からナイフを取り出すと同時に超生物めがけて斬りかかった。

そういう戦いとは無縁で育った生徒達には目で追うこともままならない程の速さだったが、刃を振るった先には既に超生物はおらず気がつけば彼の背後に立っていた。

 

――しゅっ…瞬間移動!?

 

その光景に生徒達が驚くが、さらに続けて驚かされる形で次の出来事が目に飛び込んできた。

 

「……っ!」

 

舌打ちして攻撃を止めた烏間の髪と眉毛が、いつの間にか綺麗に整えられており、その出来栄えは名うての美容師も顔負けな程だ。

質実剛健を絵に描いたような男の見違えた面持ちにどう反応したらいいものかと生徒達の思考は固まってしまっていた。

烏間はこめかみを引く付かせてはいたが、すぐにため息を吐いて気を取り直すとナイフを懐にしまって説明を再開する。

 

「このようにコイツはとにかく速い。殺すどころか全部避けられた上に身なりまで丁寧に手入れされる始末だ……なんせ、コイツの最高速度はマッハ20。

しかも満月を三日月に変える程の破壊力を持っている……つまり、コイツに本気で逃げ続けられれば我々人類は地球破滅の時まで手も足も出ないということだ」

「ま、それでは面白くないので、私の方から国に一つ提案させてもらったんです」

 

超生物がしたり顔で割って入ってきた。

 

「椚ヶ丘中学校3年E組の担任ならやってもいいとね……」

「……そういうわけでこうなってしまったわけだが……分かってくれたか?」

 

と、一度締めくくってから烏間は生徒達を見渡したが、案の定ポカーンとしている彼らの様子に「無理もないか…」と今日でもう何度出たかわからないため息を付いた。

いつまでも呆けさせているわけにもいかないので、パンパンと手を叩いて「話を続けるぞ」と彼らの意識に覚醒を促して改めて自分に向けさせると、廊下に目を向けて「入れ」と声をかけると烏間の部下たちと思われる黒服を纏った男女が入ってきて、その内の一人である女性がアタッシュケースを教卓に置いて中を見せる。

 

「コイツの暗殺には、防衛省が開発した、この特殊生物用BB弾と特殊ナイフを使用する。いくら君達に暗殺を義務付けるとはいえ、普通の中学生が本物のナイフや銃を持っていたのでは危険極まりないし、それ以前にコイツにはほとんどの通常兵器がまず効果がないがな。だからこそ、この武器が必要なんだ。これならこのように一般の人間には害はない」

 

そう言って烏間は彼らの目の前で再び取り出したナイフの先端を押すと、それは呆気なくグニャリと歪み、それを見せた後はナイフをしまい、アタッシュケースから取り出した一丁の銃も一発を床に向けて撃ってみせるとパン!と軽く弾かれた音がしたが、床には弾痕も何もなく傷一つ付いていなかった。

こんなもので本当に月を破壊するような超生物を殺せるとは思えないと誰もが思ったが、烏間もその心中を察しているようで話を続けた。

 

「それでも、コイツにとっては死に至らしめる効果のある数少ない武器だ」

 

そのまま銃を超生物に手渡すと、躊躇なく片方の触手に向けてパン!と撃ち抜いてみせた。

黄色い血飛沫を撒き散らして千切れた触手がビクビクと教室の床をのた打ち回る。

 

「うわぁ!?」

「きゃあああ!?」

 

目の前でいきなり繰り広げられたグロテスクな光景に女子を中心にそういうものに耐性のない生徒達が悲鳴を上げ、ある者は席を倒してしまう程に飛び退き、ある者は目を背けた。

剛胆な気質を持つそういうのに耐性のあるタイプである生徒らも思わず顔をしかめており、異形とは言え先程まで生物の一部だった飛沫を撒き散らしながら跳ね回る触手は見ていて気分がいいものではない。

そんな生徒たちをよそに超生物は無事の触手で跳ね回る触手を切れた傷口に合わせると、瞬く間にくっついて再生し、元通りとなったのだ。

その高い再生力に驚愕している生徒たちに向き直ると再び流暢な日本語で喋りだす。

 

「別にくっつけなくとも数秒で新しい触手が生えてくるんですが、この方が消耗が少ないですし、それに来たばかりの教室をあまり汚したくないので…それとも生えてくる所が見たかったですか?ご希望とあらば……」

「結構だ」

 

超生物を黙らせて気を取り直すと、烏間は話を続けた。

 

「こいつが何を考えているのかはわからんが、日本始め各国政府は、絶対に君らに危害を加えないことを条件に、この不可解な承諾することにした。

こんな異例極まりない決断を下したのには二つの理由がある。

一つは教師として毎日コイツが学校に来るのなら監視が非情に容易になること。

もう一つは君達26人の生徒が、常に至近距離からコイツを暗殺するチャンスを得られる、ということだ」

 

烏間は生徒達の目を真っ直ぐに見つめつつ、真摯な態度で話を続けたが、既に頭の中がパンク寸前の彼らに目の前の事態を処理できるはずもなかった。

「仕方ないな」と呟き、生徒達を心をここにあらずの状態から引き戻すため、伏せていた次のカードを切ることにした。

 

「もちろん、タダでとは言わない。コイツを殺した暁には成功報酬として我々日本政府より100億円を差し上げよう。やってくれるかな?」

 

―――――――――――――――100億円!?―――――――――――――――

 

落ちこぼれとはいえ名門私立に通っている彼らの家庭の経済事情は基本的に一般のそれよりも裕福な方であるが、億単位……それも100億となると国家事業レベルの仕事や世界レベルの億万長者の豪遊でもない限りは無縁の金額だ。

あまりにも目や耳を疑うしかない事柄がやって来すぎて「これは夢か何かだろう」と頬を始め自分の体をつねる生徒は沢山いたが、その際にちゃんと感じた痛みはこれが紛れもなく現実であることを示し、防衛省から派遣されてきたという烏間たちの真剣な表情、そして何よりも目の前で先程まで真っ黄色だったはずの顔を緑色の縞模様に変えて如何にも人を舐め腐っているかのようなニヤついた表情を浮かべている件の超生物の存在……もはや疑うことはできず、無理矢理にでも納得するしかなかった。

それができたのは、これから中学校最後の学園生活を地獄のような環境で1年を過ごさなければならないことやその1年を乗り切れても将来はあまり明るいとは言えないだろう人生の展望に憂鬱な気分になっていた矢先に思春期真っ盛りの彼らの心を(くすぐ)る非日常の到来による刺激や余程使い道を謝るようなことをしない限り一生遊んで暮らせる程の莫大な懸賞金を提示されたことによる欲望を湧き上がらせたことが大きい、様子の変わった子供らの様子に烏間も頷くとこれまでの説明の中で最も伝えなければならないことを告げるため最後の締めくくりに入った。

 

「事情を飲み込んでくれたようで何よりだ。最後にもう一度確認させてもらうが、今回の一件はどんな法律も超越する超法規的措置にして、最高機密事項(トップシークレット)だ。故に君らの家族や友人にも絶対に秘密だ。何かの拍子でバレそうな時、もしくはやむなく明かさざるを得ない状況に陥ってしまった時は我々にちゃんと相談すること。

あまりやりたくはないが……もし、故意に秘密を破った場合は話した相手もろとも記憶消去措置を受けてもらうのと同時にこの校舎からも去ってもらうことになる……話はこれで以上だ」

 

ようやく烏間が話を終えて、教壇から降りるとこのクラスの担任の就任した超生物が再び教壇に舞い戻って、口を開いた。

 

「というわけで、さあ皆さんこれから残された一年を有意義に過ごしましょう!ヌルフフフ……」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そんなわけで、落ちこぼれ達の教室が暗殺者の卵達の教室として生まれ変わり、目の前の超生物を殺すべくこの一斉射撃を始め、色々やってきたわけだが――

 

「吉田大成くん」

「はいよっ!」

 

E組における最後の出席番号である26番を務めるドレッドヘアーが特徴的のガタイのいい男子生徒、吉田大成が返事をすると同時に出欠を終えた先生(超生物)は、「それまで!」と言ってパタンと出席簿を閉じて、一斉射撃に昂じていた生徒達の撃ち方を止めさせた。

 

「今日も遅刻は無し……と。

素晴らしい!先生とても嬉しいです!

暗殺の方は残念ながら今日も命中弾は0でしたが、ちゃんと銃と弾を片付けるように」

「速すぎる!!」

「クラス全員の一斉射撃でも駄目なのかよ……しかも、この狭い教室で」

 

今日こそはと懸命に暗殺に励んでいたにも関わらず失敗に終わり、徒労と落胆から様々愚痴を零しつつも、1限目の授業の準備をするべく箒と塵取り、ダンボールを持つと手に手分けして空気銃と散らかったBB弾の回収作業に入っていく。

 

「いたずらに数に頼るからですよ。物量に依存しすぎては個々の思考を疎かにしてしまいます。

目線、銃口の向き、指の動き……一人一人が単純すぎてまだまだ工夫が足りません。

つまり今の君達は殻すら破れていない卵の状態です。

なので、まずは殻から破ることを始めましょう。

ですが、時間は限られてますからあまりモタモタしてもいけませんよ」

 

超生物はそう言って怪しげに口元に笑みを浮かべて――

 

―――――地球最後の日まであと、355日……殺せるといいですねぇ……卒業までに―――――

 

この超生物教師の手入れによってENDのE組だったこの教室は暗殺教室のE組へと変わった。

標的(ターゲット)暗殺者(アサシン)らの奇妙な学校生活―――始業のベルは今日も鳴り響いていった。

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