「赫子だ。白石上等頼むよ」
「了解です」
娘を守るために赫子を出したリョーコを見て真戸が白石へと声をかける。その声を聞いた白石は右手を上げて返事をした。
「おか……さん?」
いつもの優しい様子とはかけ離れたリョーコにヒナミは戸惑いの声をあげる。しかしリョーコはヒナミに説明をする暇などなく、ヒナミの声に返事をすることはせず、後ろの中島達を赫子で攻撃した。
「ぐあッ」
「中島さん!」
リョーコの赫子が中島の腕を切り裂く。パートナーが傷を負ったことで草場が中島のもとへと向かう。
「行きなさいッ!!」
いつまでも逃げようとしないヒナミにリョーコは口調を強くして言う。そんなリョーコの言葉に驚いた様子でヒナミはリョーコの顔を見る。
「……ッ!」
そして母親からの気持ちを理解したのか涙を流しながら中島達の横を走り抜けていった。
「……」
そんなヒナミの姿を白石はただ眺めている。追おうと思えば目の前で立ち塞がるリョーコを無視して直ぐに捕まえることが出来たのだが、そうはしなかった。
ヒナミから視線を外して目の前のリョーコを見る。絶対に通しはしないという表情をしている。
「白石上等、どうしたのかね?」
立ったまま動こうとしない白石に真戸が声をかける。早く白石のクインケを見たいためか少し急かすような声だった。
「問題ありません。行きます」
真戸へと返事を返した白石は右手に持ったアタッシュケースから[ガーンデーヴァ]を展開する。そして[ガーンデーヴァ]の刃先をリョーコへと向ける。
それを攻撃の準備段階と思ったリョーコは白石へと赫子を当てにいく。リョーコの赫子が白石へと近付いた。しかしその瞬間にリョーコの視界から白石の姿が消えた。
「なッ!?」
リョーコが驚きの声をあげる。彼女の伸ばした方の赫子が真ん中から綺麗に両断されていたからだ。そしてそこには刀身から炎が出ている[ガーンデーヴァ]を振り切った姿の白石がいた。
白石は[ガーンデーヴァ]を遠距離モードへとモードチェンジした。そしてそれをリョーコへと向け、赫子を撃ちだした。炎と化した赫子がリョーコへと迫る。
炎を飛ばしてきたことにリョーコの目が見開かれるが直ぐに危険を感じて赫子を自分の前に持ってくることで[ガーンデーヴァ]の攻撃を凌いだ。
「へぇ」
白石が感心の声をあげる。白石としてはこれで半殺しにするつもりだったのだが予想よりもリョーコの赫子が優れていたようだった。
「すばらしい」
真戸も顎に手をあてて笑みを浮かべる。戦い慣れていないリョーコの赫子がSSレートのクインケの攻撃を防いだのを見て真戸は是非ともあの赫子をクインケにしたいと思った。
しかしリョーコからすれば今の一撃でかなりダメージを受けていた。赫子の爆発はリョーコの赫子の防御を通り抜けてリョーコにダメージを与えていた。
「ならばこれはどうかな?」
白石が[ガーンデーヴァ]を近接モードに切り替えて頭上に構える。何が来るのかと身構えたリョーコだったがそれを見て唖然とする。[ガーンデーヴァ]を中心に炎の渦が生じていたのだ。
リョーコが見ている間にも[ガーンデーヴァ]の渦の回転数が上昇する。白石も流石に熱さに堪えるのか顔にはかなりの汗をかいている。
そんな白石のクインケを見て真戸は狂ったように賛辞を送り、亜門はただ唖然としていた。
「草場三等、中島三等そこから退避してください。巻き込まれますよ」
その言葉を聞いた草場は負傷した中島に手を貸してリョーコの後ろから退避した。
その姿を確認した白石が[ガーンデーヴァ]をリョーコに向ける。リョーコはそれを見て自分の死を悟った。
(……ヒナミ、頑張って生きてね)
そのリョーコが思うのと同時に[ガーンデーヴァ]から炎の渦が放たれた。それはリョーコの赫子をあっという間に燃やし尽くした。辺り一面を炎が包み込んだ。
「やったか!?」
亜門が周辺の熱に顔をしかめながら叫ぶ。そんな亜門の声に返事を返す人はいなかった。真戸は笑みを浮かべており、白石は無表情でその場に立っている。
「白石上等、素晴らしかったよ。後は私がやろう」
「お任せします、真戸上等」
「えっ?」
真戸と白石の声を聞いた亜門が驚きの声をあげる。2人の会話ではまだリョーコが生きているように話している。もう死んだのではないのかと亜門は思う。
「亜門一等やつはまだ生きているよ」
亜門が白石が顎でしゃくった方を見てみると煙の中に人影が見えた。次第に煙が晴れてきたのでその姿が鮮明と見えた。
「なッ!?」
亜門が見たのはボロボロになりながらも生きていたリョーコだった。赫子は熱で溶解し、片腕もちぎれている。しかしリョーコはまだ生きていたのだ。
そんなリョーコに真戸が近付いていく。顔にニヤニヤとした笑みを浮かべて、クインケを片手に持ってリョーコの前で立ち止まった。
「喜ぶといい。どうやら我々はクズを取り逃がしたらしい。だが、お前というクズを殺せるのだから良しとしよう」
真戸の言葉を聞いてリョーコがざまあみろという顔をする。彼女は目標を無事達成することが出来たのだ。
「今から殺されるのにずいぶんと嬉しそうじゃないか」
「……」
「まあいい。だがこれを見てもそうしていられるかな?」
「どういうこと?」
「こういうことだよ」
真戸が手に持っていたクインケを展開する。クインケはまるで人の背骨のような形をしていた。
「あ……ああッ……あ……あなた……何を……ッ」
真戸のクインケを見た瞬間にリョーコが涙を流しながら絶望の表情を浮かべる。さっきまで見せていた余裕の表情などどこにも見られない。
「ああ……嫌よ……そんなの……」
「白石先輩、なんであの喰種は真戸上等のクインケを見て泣いてるんですか?」
「真戸上等のクインケはあの喰種の旦那さんで作ったクインケだから」
「へー、なんだかかわいそうですね」
(まあ、確かに哀れではあるよな)
娘を逃がすために必死で身を張って白石に片腕まで消し飛ばされたのにここにきて自分を殺すために出されたのは彼女の旦那のクインケ。確かに救いはない。
「時間切れだ」
(うん?)
白石が上の空でいた間に真戸がリョーコの首をクインケで切断していた。リョーコの首が宙を舞った。しかし、白石にはそれよりも気になることがあった。
真戸達は気付いていなかったが、奥の曲がり角にヒナミと男が除きこんでいた。男はヒナミにリョーコの死体を見せないように目元に手をあてていた。
(娘の他にも誰かいるな。……まあ別に構わないが)
元々狙いがあってヒナミを見逃した白石に今彼等を殺す気などなかった。ゆえに真戸達に話しかけて注意が彼等にいかないようにする。
「お疲れさまでした。素晴らしいクインケでした」
「ありがとう。君のクインケもとても素晴らしいものだったよ。ところでこいつの所有権は貰っても構わないかね?」
「自分は構いませんよ」
「おお、ありがとう。それでは処理班を呼んでこの場を片付けるとしよう」
真戸は携帯を取り出して処理班へと電話をかけた。その間に白石はチラッとヒナミ達のいた方を見る。もうすでに彼等はその場からいなくなっていた。
(たくさん釣り上げてきてくれよ)
自分の思惑通りにいくことを願って白石は真戸達の所へと歩き出した。
「私達は会議に行かなくてもいいんですか?」
「真戸上等にはちゃんと伝えてきてるから問題ないよ」
白石とハイルは真戸達と別れて帰路についていた。2人共1区に住んでいるのでいつも途中まで一緒に帰っている。
「そういえばどうしてあの喰種逃がしたんですか?殺そうと思えば直ぐに殺せたのに」
ハイルが首をかしげながら白石へと尋ねる。ヒナミが逃げ出した時、ハイルは[t-human]で撃ち抜こうとしたのだが白石がハンドサインで攻撃するなと指示を出したため、ヒナミを逃したのだ。
「大物を連れてきてくれないか期待してるだけさ」
「大物ですか?」
「まあ、別に大物じゃなくてもいいんだけどね」
「?」
白石の言葉にハイルが頭に?を浮かべる。そんなハイルの様子を白石は笑いながら眺めている。餌は投げ入れた、後は釣れるのを待つだけだ。気長に待つとしよう。ハイルと一緒に歩きながら白石はそう思った。