咲-Saki- loop-top  この檻の中で君を想う   作:入道雲

4 / 8
 お久しぶりです。

 7月4日に誤字を修正しました。


戦う者

 あれから何度もループした。

 麻雀部には悪いが咲と文学部に入部した。文学好きな咲は毎日、本の虫のように読みふけっていた。学校の下校時間ぎりぎりまで居るような始末だった。静かで穏やかな日々が過ぎて行ったが咲は急に倒れてきた本棚の下敷きになり、死んでしまう。

 

 次は清澄に居るのが原因だと思い、鶴賀に向かった。鶴賀に願書を出した瞬間、視界が暗くなり最初の日に戻っていた。

 

 他にも何度も咲を助けるために色々な事をした。しかしそれは全て無駄に終わった。

 

 どうやら、このループには規則があるらしい。

一つ、咲は清澄にいないといけない。二つ、咲は麻雀部にいないといけない。そして三つ、咲が死んでしまう日は最初を覗いて同じ日。俺がループするのは咲が死んだ直後か、規則に従わない瞬間に夏休みの直前に戻ってしまう。

 

 京太郎は疲弊していた。何度も何度も訪れる、親友の死。

 その現実が彼の精神を衰弱させていった。今回は自分が咲を死に追いやっているのかと思い一人で鶴賀に入学した。

 地元とかなり離れていたので両親には反対され、清澄でいいのではと言われたがなんとか説得し納得してもらった。親友は少し悲しそうな顔をして送りだ出した。

 

 入学式を終え、一月が経とうとしていた。

休み時間に京太郎は机に伏せ、寝ていた。京太郎には学校生活などどうでもよくクラスメイトとの関係も最低限の交流しかせず、ただ咲の安全を祈るだけだった。

 

 そんな京太郎に近づく影が一つ。机を蹴飛ばされ、京太郎は顔を上げる。そこにはいかにもガラの良くない人物が居た。

京太郎の胸倉を掴み難癖をつける。突然の事でクラスがしんと静まり返る。周囲が固唾を呑んで見守る中、不良少年が口を開いた。

 

 「おい、何見てんだよ。優等生、勉強が出来るからっていい気に為るなよ」

 

 「言いたい事を言い終えたなら、自分のクラスに帰ってくれないか……」

 

 その言葉にキレ、京太郎の顔を殴る。

 頬が赤く腫れ、唇が切れたのか、血が流れる。

 

 ――こんな奴がのうのうと生きてるのに。なんで……アイツは……

 

 胸の中に暗い感情が芽生えるのを京太郎は感じた。

 不良少年がもう一度拳を振り上げた瞬間、不良少年が殴り飛ばされた。

 しりもちを着いたとことに京太郎が顔面に向けて蹴りを入れる。突然の事に蹲るがそれでも京太郎は蹴り続け、ついには馬乗りになり殴りかかる。

 

 『おい、誰か先生を呼んで来い!!』

 

 クラスの誰かが声を上げる。

 

 京太郎は初めて憎悪で人を殴った。殴った拳は痛く相手の血が付着していた。友人と喧嘩した事も合ったが、それは心からの憎悪ではなかったが今回は違う。やがて不良少年は直ぐに気絶したが、それでも京太郎は殴り続ける。痛みで起こされ痛みで気絶することを数回繰り返させた。

 

 京太郎はやって来た教師に取り押さえられた。

幸い、一連のやり取りを見ていたクラスメイトが多く、退学にはならず数日間の謹慎を言い渡された。

 

 

 東横桃子は自分のクラスメイトが取り押さえられるところを目撃していた。

 

 初めて見たときは入学式が終わり、クラス分けされ、自己紹介のとき。

 須賀京太郎は最小限の挨拶と自己紹介を済ませていたのを覚えている。

京太郎の瞳はどこか老人のように達観しているようにも見え、諦めているようにも桃子には見えていた。

 ただ、京太郎が暴力を振るうのを見て野蛮な人間だと思った。

 

 「まあ、関係ないっすね」

 

 授業の予鈴が鳴り、桃子は準備に移る。

 バッグから教科書とノートを取り出し、開くと同時に教室に教師が入ってきた。

 

 影が薄い少女に救いの手が差し伸べられるのは少し後の事だった。

 

 

 謹慎が解けた初日、クラスメイトと久しぶりなどの社交辞令を交わし授業を受ける。

 何回も高校生をやっていたので、一応卒業レベルまでは内容を把握していたので小テストなどは問題なく出来た。

 

 最後の授業が終わりクラスメイト達は帰宅の準備をしている者も居れば部活の道具を持って教室を出る者も居る。

 放課後ふと教室にあったPCに目が行った。なんとなしにパソコンの電源を入れ立ち上げる。十数秒のセットアップも終わり画面が開かれる、麻雀のゲームがインストールされているみたいだった。そういえば鶴賀だし麻雀部もあったな。牌のアイコンをクリックしてゲームを開く。どうやら相手はNPCではなく対人戦みたいだった。

 

 久々にやる麻雀は楽しかった。何度かゲームを進めると対戦相手のかじゅさんと、かまぼこさんが麻雀部に誘ってくれたが、断った。しかし、熱心に誘ってくれたのでマネージャーならと言いそれで了承してくれた。今から麻雀部の部室に来れるかと聴かれたので行きます。と言い部室に向かう。

 

 扉を開けると四人の部員が居た。いや、よく見たら五人だった。うっすらだが東横さんがそこには居た。何回かのループの中で何度か面識がある。他にも蒲原さんに加治木さん、妹尾さんも居た。お邪魔しますと一言言い、部室に入る。

 

 部員の皆さんと軽い自己紹介する。

 

 「ええと、どうも。五人だけですか?」

 

 鶴賀の皆さんが驚きの目をこちらに向ける。

 

 「モモが見えるのか……驚いたなー。わはは」

 

 「ええ、なんか薄っすらとですが」

 

 「ああ、来てもらってすまないな、加治木ゆみだ。これからよろしく」

 

 「ええ、始めまして。これからよろしくお願いします」

 

 ぐっと握手を交わす。

 

 「ワハハーよろしくー、蒲原智美だ。これでも一応部長なんだぞー、ワハハ」

 

 なんか、のほほんとした人だな。

 

 「あのぉ、えと、その、妹尾かおりです。よろしくお願いします」

 

 ああ、おどおどとした視線でこちらに挨拶をする先輩。

 

 「よ、よろしく。津山睦月です」

 

 優しそうで丁寧な先輩だ。

 

 「……よろしっくっす。東横桃子っす」

 

 あれ、なんか睨まれた?

 

 「ああ、よろしく」

 

 

 やっていて何度かわかった事は妹尾さんは麻雀が初心者らしくいまいち理解できてないらしく、打ち筋いまいちよく解らなかったが何故か役満で上がられた。

 少しは理解しているので教えようと近づいたら加治木さんに止められた。どうやら妹尾さんに下手に知識を付けさせたくないらしい。すこし酷いと思ったがインターハイまでの期間を考えると妥当だと思った。

 

 鶴賀学園の麻雀部に入って数日が経過した。

何故か東横さんには嫌われているみたいだった。前の時も軽く挨拶を交わす程度だったが、露骨に反応されると少し傷つく。

 マネージャーといっても加治木先輩が何でもほぼ一人でこなす人だったのでやる事といえば力仕事だった。

 

 ある日の放課後、牌譜の整理をしていたら部室に東横さんがやって来た。周りをきょろきょろと見渡して誰も来ていないことを確認して俺に話しかけてきた。正直、東横さんは俺の事を嫌っているみたいであまり仲良く話すような関係ではなかった。

 

 「あんた、何が目的っすか?」

 

 「いきなり酷いこと言うなぁ、目的なんて何も無いぜ」

 

 「校内であんな暴力事件を起こしておいてよく言うっすね」

 

 なるほど、あの事で俺を警戒しているのか……正直、喧嘩したのは事実だから何も言い返せないんだけどな。

 頬をかきながらどうするべきか考える。悩んでいるところに今度は加治木先輩がやって来た。加治木先輩はどうしたのかと聞いてきたが、なんて返そうかと考えている時に東横さんが口を開いた。

 

 「先輩、私はこの人を部活に入れるのは反対っす」

 

 加治木先輩は少し困ったようにこちらを見てきた。

 

 「まあ、落ち着けモモ。何故そんな事を言うんだ?」

 

 「こいつは危険な人物っす。入学して一月経たない内に暴力事件を起こした人物っすよ」

 

 加治木先輩が目を見開く。本当なのかと言う目でこちらを見てくるので事実だと答えた。

 加治木先輩が残念そうに瞳を落とす。

 

 「君から喧嘩を吹っかけたわけじゃないのだろう?」

 

 「先輩っ!?」

 

 うなずく。

 

 「なら、君はウチの部員だ。モモの事も許してやってくれ。悪気が合ったわけでは無いんだ」

 

 「ええ、俺も喧嘩をしたのは事実ですし、これに関しては言い訳もありません」

 

 こうして、俺と東横さん妙な関係が始まった。

 何か荷物を運ぼうとしていると東横さんがやってきて荷物をひったくっていった。

 ああ、結構重いから途中で落としちゃってる……。

 

 牌譜を部内のpcで整理しているとやってきて東横さんがやる始末。

 正直仕事が無くなるんだけどな……

 

 ――少しずつだが、東横桃子は須賀京太郎の事を認めていった。

 

 そして、大会の受付に行った帰り道に事件は起きた。

東横さんが駅のホームに落ちてしまった。足首を挫いたらしく動けない所に電車がやって来た。急いで非常停止ボタンを押し、けたたましいほどの音量がホーム内に流れ電車のブレーキ音が近づくが間に合いそうに無い。ホームから飛び降りて東横さんを捕まえ、首根っこを引っ張り線路の外に持っていく。

 

 

 

 「なんとか……間に合ったか」

 

 ビビッて手が震える。正直だめだと思った。

 

 「須賀君、ありがとうっす」

 

 「気にすんな」

 

 周りから拍手が流れる。先ほどの行為を見て周りの人たちがよくやったと声を掛けてくれた。よく見ると加治木先輩もよくやったと親指を立ててこちらを見ている。

 こそばゆい気分になりながら頬をかいていると駅員さんが着てくれた。

 本当ならここは格好良く東横さんを抱っこしながら戻るべきなんだろうが、情け無く東横さんを駅員に預ける。東横さんは救急車を呼ぼうかと聴かれたがそこまで重くないのでと断っていた。

 

 帰り道、俺は本屋で買い物をすると言ったら東横さんが付いて来てくれた。少し辛そうに歩いていたので適当に喫茶店に入ろうと誘ったら快挙してくれたので喫茶店に入り、コーヒーを注文する。東横さんは紅茶を注文する。少しの沈黙が流れ、急に東横さんは俺に謝ってきた。

今まで誤解してたと、真摯に誤ってくれた。正直、認められたと思って少し泣きそうになったのは内緒だ。

 許すと言えるほど偉くなっていないので、気にしてないと言う。それでも東横さんは頭を下げてきた。丁度そのときに注文した飲み物がやって来た。

 

 「じゃあ、缶コーヒーでもおごってくれれば問題ないから」

 

 「そんなので良いんすか」

 

 「ああ。それでチャラだ」

 

 「すまないっす。京ちゃん」

 

 ――心臓が飛び跳ねた。全身から汗が噴出しそうになる。震える指を必死に隠しながら、気を落ち着けるためにコーヒーを口に含む。苦味のおかげで少しは冷静になった。

 

 ――そうだ、俺はココに遊びに来た訳ではない。何をやっているんだ。

 

 「そ、その京ちゃんってのは?」

 

 声が震えてはいないだろうか、動揺も、顔も強張ってはいないだろうか。

 未だに俺の心臓はひたすら大きな躍動を続けている。

 

 「須賀君のあだ名っす」

 

 「さ、流石に勘弁して欲しいかなぁ……今まで通り、須賀で良いよ」

 

 「そうっすか」

 

 少し、残念そうに眉をひそめる。

 

 喫茶店を出て、軽い伸びをする。腰と肩から鈍い音と一瞬の痛みが走る。

空は薄っすらと暗くなっていた。町の中に居るのは帰宅してるサラリーマンや、夕食を買い込んでいる主婦達。

 

 「さて、買いたいものも買えたし帰るか」

 

 「そうっすね」

 

 「一人で帰れるか、何なら肩貸すけど……」

 

 「これぐらい大丈夫っすよ。いまなら二重とびも出来るっす」

 

 「おいおい、勘弁してくれよ」

 

 高校生二人が駅の中でアホみたいな会話をしていた。

帰り道が違うので駅構内で別れ、電車に乗る。流石に疲れたので電車の中で仮眠をとった、初夏の一日。

 

 

 今日も今日とて部室に立ち寄る。午前中の授業は終わり、今は放課後。

 廊下を歩いて、部室に向かう。横には東横さんも居て二人で会話しながら歩く。

 あれから東横さんと話す機会が少し増えていた。まあ東横さんが完全に気配を立っていなかったらそこそこの確立で見つけられるので助かる。

 

 「今度てすとっすねー」

 

 「そうだな、何かいやな科目でもあるのか?」

 

 「これといって特に無いけど、しいて言えば社会っすかねー」

 

 「ああ、俺も苦手だわ」

 

 「学年トップが何言ってんすか」

 

 「いやいや、俺も社会は苦手だったんだぞ。赤点ぎりぎりとか結構ざらだったんだ」

 

 「へー」

 

 こいつ信じてないな。

 雑談をしているうちに部室に着いた。

 

 東横さんが扉を開け入っていく。俺も入るとそこには加治木先輩と蒲原先輩が勉強道具を広げていた。妹尾さんも勉強道具を広げていた。

どうやら加治木先輩が蒲原先輩に勉強を教えているようだった。蒲原先輩はあまりの事に目が回っているようだった。

 やっている内容を覗き込む。数列の極限か……

 

 「蒲原先輩……ここはですね……」

 

 厚かましくも勉強に口を出す。自分の知っている内容だったので噛み砕いて説明する。

自分は数学が得意だったし、数学を教えていた事もあったのでその延長線上で教える。

 教えていた内容に沿って、優しい例題を考え、ノートに記載する。問いを少し眺めて、蒲原先輩は何かに気づいた様で問題をするすると解いていった。

 

 同じ例題をもう数問作る、これも蒲原先輩は数分で解いていった。

 

 「凄いな……正直驚いたよ。君がここまで出来るなんて。流石学年トップだな」

 

 「いえ、時間があったので勉強しただけですよ。友人にも数学が苦手なヤツが居るんですけど、そいつに数学を教えていたのでそれの延長ですよ」

 

 「わははー、凄いな須賀ちんは。そろそろ部活動でも……」

 

 「あと一問だけだ。我慢しろ」

 

 蒲原先輩が加治木先輩に叩かれた。それを東横さんと妹尾さんが笑っている。そんな日常だった。

 

 麻雀を打ち終わり、皆がおのおの帰宅の準備を始める。部屋の掃除はマネージャーの仕事なのでと言いくるめ、ほかの部員達にはやらせまいとしていたが、加治木先輩がどうしても手伝うといって聞かなかった。仕方なく牌を磨くのを手伝ってもらう。俺は部屋の掃除をするために、窓を開け換気しながら掃き掃除をする。外には西日が輝き、部室を照らしていた。座っている加治木先輩が夕焼けに照らされ、どこか幻想的な雰囲気をかもし出していた。思わず見惚れていると、加治木先輩がどうしたのかと聞いてきた。なんでもないですと答え、視線を箒に移し、掃き掃除を続ける。

 

 掃除を終え、用具入れに掃除道具を仕舞う。加治木先輩も帰宅の準備をしていた。俺はふと思った疑問をぶつける。

 

 「加治木先輩は何故、インターハイに行きたいんですか?」

 

 「おかしな事を聞くな、君は。まあ、何故かと問われると色々な理由が有るだろう。人に認められたい。プロになりたい。勝ちたいと言った様々な理由が、私の場合はそうだな……『麻雀が好きだから』では駄目かな。私は麻雀を始めて二年しか経っていないが麻雀の楽しさを知った。そしてその楽しさを共有できる仲間が居る。こんな最高な事は無いじゃないか。逆に聴かせてくれ、君は何故麻雀を続けているんだ?」

 

 加治木先輩の瞳が俺を捉える。

 

 「俺にとって、最初に麻雀を始めたのはかなり昔の事です。生活の一部になっているんですかね……正直わかりません」

 

 なんと答えて良いのか解らず、最初に思いついた答えを出す。

加治木先輩はふむと言い、顎に手を添える。

 

 「そうか……答えを見つけられると良いな」

 

 どこか優しい瞳で言ってくれた。

 

 

 

 

 授業が終わり部室に入ると、部室に居たのは加治木先輩だけだった。

折角だから加治木先輩に麻雀のコツを教わろうと思い、バッグを机に置き、話しかける。

 

 「コツ、か……そうだな、あえて言うとすると自分の弱点に気づき、それをどう補うのかという事かな。それと小細工の使い方かな。人は一度恐怖を味わうと中々にその記憶が抜けないらしく思い出してしまうらしい。つまり、点数を取られる恐怖それを逆手にとって戦うと良いのかもしれないな。まあ、私の持論だから軽く受け流してくれ」

 

 先輩は頬を掻きながら恥ずかしそうに笑った。

 俺と先輩が談笑していると部室の扉が開いた。そこには津山先輩、蒲原先輩、妹尾先輩が部室に入ってきた。先輩達が荷物を机に置き、麻雀をする準備を始める。それにあわせて俺も牌譜をとる準備をする。何度か麻雀を打ち、そして牌譜を取るのが決まりだった。

 

 加治木先輩がみんなの前に出て一言。

 

 「さて、県予選まであと少しだ。気合を入れて行こう!!」

 

 みんなの返事が部室に響いた。

 

 それから県予選までドタバタした日々が続いた。心理戦の考え方を加治木先輩から教わったり、弱点を補強したり。

蒲原先輩の車に乗せられ皆で海に連れて行かれた事も記憶から忘れられそうに無い。試験勉強を皆で部室でやった。

 

 予選は無事に通過して、鶴賀学園麻雀部は決勝に向かって着実に進んでいった。

 予選の牌譜を見て加治木先輩は有力な高校をマークしていた。皆が部室に呼び出され対策を開く。その中には清澄高校もあった。選手を確認する。大将の名前欄には宮永咲と書いてあった。流石、牌に愛された人物だと思う。だが、勝たせてもらうぜ。加治木先輩は咲のオカルトじみた素質を見抜いていた。幾つかの対策を講じる。俺も持っている知識を総動員して東横さんや津山先輩、蒲原先輩に伝える。

 

 そして迎えた決勝戦。相手は風越女子、清澄高校、龍門渕。

 

 「それでは行ってきます」

 

 「頑張ってくださいっす。むっちゃん先輩」

 

 緊張した趣きで津山先輩が控え室を出て行く。その様子を東横さんが応援する。妹尾さんは大きな声を出した東横さんに驚いていた。

 先鋒、次縫、中堅戦と順調にで進んでいった。何処の高校も手ごわく鶴賀は三位だった。次は東横さんの番になり東横さんが立ち上がり、こちらを見てきた。

 

 「団体戦に出れない須賀君を皆で全国に連れて行くっす。期待していてくださいよー」

 

 力こぶを作るかの様に腕をたくし上げる動作する。

 

 「個人戦で優勝して俺は全国に行くからね、そんな負けるの前提で止めてくれない!?」

 

 「まあまあ、男子個人と団体戦。両方鶴賀が取れば良いじゃないか。そのために頑張ってきたんだ」

 

 「そうだぞーモモ」

 

 「相手は原村和だけど頑張ってね東横さん」

 

 「はいっす。むっちゃん先輩と部長、かおりん先輩が頑張ってくれたっす。私が頑張らない訳にはいかないっすよ。相手を飛ばしてきます」

 

 コツンと拳を皆でぶつけ合う。少し恥ずかしいがこんなのもありかなと思えてしまう。

 

 そう言って東横さんは控え室を出て行った。目の前のテレビモニターにはリアルタイムで中継されている対局室が映っている。既に和は席に着いて対戦相手を待っていて、そこに東横さんが入る。他にも龍門渕、風越の部員達が入っていく。開始のブザーが鳴り決勝副将戦が始まった。

 

 対局は順調に進んで行った。東横さんのステルスモードが炸裂して龍門渕が振り込む。そして前もって教えていた和対策が功をなして、大幅にリードしていく。

 

 「わははー、流石モモだぞ」

 

 「そういえば何で東横さんは入部したんですか?」

 

 「あれ、同じ一年生なのに知らないのか? ゆみちんの一年生の教室に乱入したんだー。須賀ちんが入部する数日前だったかな」

 

 「おい、やめろ蒲原」

 

 「ああ、なるほど。通りで知らないわけだ。俺が謹慎食らってた時ですねー多分」

 

 東横さんの対局を眺めながら話す。

 

 「教室に入るなり『私は君が欲しい!!』だってさー」

 

 「うわあああああ」

 

 加治木先輩が珍しく頭を抱え込んでため息とも、叫びともつかない声を上げた。

 

 そして迎えた大将戦。加治木先輩が卓に着く、その姿は凛々しくまさに戦う人の目だった。

頑張ってください。加治木先輩!!

 

 対局は清澄の優勝で終わった。負けたのだが加治木先輩はどこか満足そうで悔いは無いと言いたげな顔だった。

東横さんは横で手で顔を覆い、涙を流している。蒲原先輩も笑って入るけど悔しいのだろう。一年生の俺や東横さんが悔しいのだから三年生の先輩はこの倍以上だろう。

 

 控え室に加治木先輩がやって来た。その顔はいつも通りだったが違う場所が一つだけ、目が充血していた。

 やはり、悔しかったのだろうか。

 

 「すまないな……負けてしまったよ」

 

 「先輩いいいい」

 

 東横さんが泣きながら加治木先輩に泣きつくが、加治木先輩は東横さんを抱きしめ、なだめながら言った。

 

 「確かに悔しかった……でもそれ以上に楽しく、満足できたよ」

 

 こうして俺達鶴賀学園麻雀部の女子団体戦の部は終わった。

個人戦に向けて皆で麻雀の練習をする。個人戦は上位三人だけが全国に行ける。残念ながら俺は準決勝で敗退してしまった。

 

 皆のいる会場に向かう。その道のりの最中声を掛けられた。

 

 「――京ちゃん?」

 

 後ろを振り向く。

 

 そこには俺の親友……宮永咲が居た。

 

 「ひ、久しぶりだな……咲」

 

 「うわあ、本当だね。最近はメールもくれなかったし」

 

 「そうだなー、こっちも忙しくてな」

 

 「京ちゃんもここに居るって事は麻雀の応援?」

 

 「ああ、今日は加治木先輩や皆の応援して迎えに行くところだ」

 

 「加治木先輩……そっか、今京ちゃんは鶴賀学園の人なんだもんね」

 

 咲の清澄の制服と俺の着る鶴賀の制服。

 この二つが俺達の居場所が違うと告げているように感じた。

 

 二人で話していると加治木先輩や皆がやって来た。

 

 「すまん咲、そろそろ行くわ。じゃあな」

 

 後日、鶴賀麻雀部に合宿のお誘いが来た。

 部室で睦月先輩がお誘いの手紙の返事の承諾をなんて変えそうか考えている。

 夏の暑い中、エアコンの聞いた室内で話し合う。

 

 そして迎えた合宿の日。

 宿泊施設には龍門渕、風越、そして清澄の麻雀部員達が集まっていた。

 

 俺は荷物を自分に割り当てられた部屋に持っていく。

 荷物の中身は各県の代表校の牌譜を集めて纏めておいた物だ。

 

 そして皆が一つの部屋に集められた。この機会に各校の人たちに挨拶をしようと思っていたら、加治木先輩が皆の前で俺の事を紹介してくれた。

 

 「ええと始めまして、鶴賀学園の部員の須賀京太郎です。今回は自分もお招きいただきありがとうございます。これからよろしくお願いします」

 

 「彼はこう見えてかなり優秀な人物だ。麻雀の腕もさながら学業にも秀でている。彼の人となりは私が保証する」

 

 加治木先輩の紹介であたりから拍手が送られた。嬉しいような恥ずかしいようなそんな気がする。

次は竹井部長の話が始まった。この合宿の趣旨などに始まり、各校への挨拶など、皆に真面目に話していた。

 

 そして、加治木先輩は今まで調べた全国の資料を竹井部長に手渡した。

 

 初日は自由時間になった。

 

 特にする事はなく、旅館の周りを散歩する。

 丁度座りやすそうな木陰が有ったので木にもたれ掛かり、そっと目を閉じる。

 すぅっと深呼吸をすると新緑の香りが鼻腔をつき、肺一杯に木々の芳しい香りが広がる。

 眠気がやって来た。

 

 …………

 

 ……

 

 「あれ? 先輩あれ見てくださいっす」

 

 「む、須賀君が寝ているな。大会や合宿の荷物なども運んでくれたんだ。疲れているのだろう」

 

 たまたま夕方外を散歩していた加治木ゆみと東横桃子が通りかかる。

 視線の先には木にもたれ掛かり寝息を立てていた京太郎の姿があった。流石に夏に向かっている季節といえど外で寝ていたら身体に悪いと思ったのか加治木が身体を揺すり起こそうとする。

 

 「須賀君、おきるっす」

 

 ゆさゆさ、ゆさゆさ。

 身体が揺らされる。眠かった意識が覚醒して、僅かな光が入り込む。

 どうやら、いつの間にか寝てしまっていたらしい。眠い瞳をこすりながら顔を上げる。

 部長と東横さんがいた。

 

 「あー、加治木先輩に東横さん。おはようございます」

 

 「こんなところで寝ていたら風邪を引くぞ」

 

 「そうっすよ。折角合宿に着て風邪を引いたらもったいないっす」

 

 立ち上がりいまだぼんやりとした頭のままで宿舎に戻っていく。

 先輩達には悪いがすぐに寝てしまった。

 

 合宿で出来る事を探す。

 時刻は夕方で女生徒は風呂にはいる時間だった。ただ人数が多いので何人かに分かれての入浴。俺は何か出来る事が無いかと思い厨房に向かう。

 厨房には風越の部長、福路さんが居た。何か手伝える事は無いかと聞いたがゆっくりしていて大丈夫ですと言われたが、料理を一通り出来るので仕事を下さいと、さらにお願いしたら手伝わせてくれた。

 

 料理も程よく出来上がってきて盛り付けをする。すると匂いにつられて来たのかタコスがやって来た。

 他にも咲や清澄の部員達がぞろぞろとやって来た。

 

 「よう、咲」

 

 「あ、京ちゃん。ご苦労さま、お風呂あいてるよ。」

 

 「俺は最後で良いや」

 

 福路さんが何故か不思議そうにこちらを見ている。

 

 「どうかしました?」

 

 「いえ、宮永さんと須賀君仲がいいんですね」

 

 「こいつとは幼馴染なんですよ」

 

 「へえ、貴方が咲の言ってた幼馴染なんですって?」

 

 竹井部長までやって来た。

 面白そうな目でこちらを見てくる。

 

 「え、ええ」

 

 「面白そうだわ、後で1局どう?」

 

 「それじゃあ、食事が終わったらお言葉に甘えさせてもらいます」

 

 「なんだ美味しそうな匂いじゃないか」

 

 竹井部長と話をしていると加治木先輩がやって来た。髪の毛が湿っていたので湯浴みから出てきたばかりなのだろうか。

 すぐに合宿に参加している人数分の夕食を配膳し終える。

 

 思いのほか料理は好評だった。池田さんは『キャプテンも手伝って作った料理だから当たり前だし』と言っていたが、正直不安だったけど良かったと思う。

 夕食が終わり食器を片付け終え皆が居る場所に向かう。既に皆は麻雀をやっていた。先ほど誘われていたメンバーの卓に着き、打つ。

 

 竹井部長の打ち筋、それは悪待ちだ。それを警戒しながら進めていく。

 

 あと、少し……。あと、少し……。

 

 手配が完成に近づいていく。焦る心と、細心の注意を払いつつ捨てる牌を選ぶ。

 

 ――来た!!

 

 「ロン」

 

 牌を倒し相手に見せる。

 

 「あら、直撃されちゃったわね。強いわねー、まるでユミとやっているみいだわ。ねえ、須賀君ウチに来ない?」

 

 「馬鹿を言うな久。彼はウチの部員だぞ」

 

 「それもそうね。さて、もう一戦いくわよー」

 

 清澄との麻雀合宿が始まった。




 ステルスモモ可愛いっすね、咲ではトップです。加治木先輩もイケメン!!

 誤字脱字やここおかしいのでは? と言うような所が有りましたらおしえてください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。