咲-Saki- loop-top この檻の中で君を想う 作:入道雲
もしかしたら加筆修正するかもしれません。
7月6日誤字を修正しました。
清澄との合宿が二日目になった。
各々が自分を鍛えるために様々な人達と卓を一緒にする。
風越の福路さんと戦ったときは自分の牌を全て見透かされている気がしたし、龍門渕の龍門渕さんは途端に今までのデジタル打ちとは変わり咲のようなオカルト的存在となっていて一度も上がれなかった。東横さんは相変わらず本気になって消えると視認できなくなった。
合宿で得る事は多かった。自分の未熟さを痛感したし、全国のレベルを思い知った。
それでも皆が何かを得たように満足そうにしていた。
清澄も何かを得たように全国に行った。
蒲原先輩の車で県内にある大型のプールに来ていた。
加治木先輩は泳ぐのが苦手らしく浅いところで東横さんと泳ぎの練習をしている。
蒲原先輩と睦月先輩、妹尾先輩は三人で遊んでいた。
プールの水はひんやりと気持ちよく、夏のこの時期にはとてもありがたかった。
「須賀くーん手伝ってほしいっす」
少し離れたプールから東横さんと加治木先輩がこちらに向かって声を掛けてきた。
のんびりと水に浮かんでいた俺は加治木先輩達の方へと向かう。
加治木先輩がビート板を使って泳ぎの練習をしていた。
話に聞くと少し前から練習をしていたみたいで特に悪い点は見当たらないと思えた。
「どうしたんですか、先輩?」
「君があまりに泳ぐのが上手だったのでコツを教えて貰おうと思ってな」
泳いでいるわけでなく水に浮かんでいただけなのだけど。
「加治木先輩はビート板を使えば泳げるんですよね?」
加治木先輩がコクリとうなずく。
「それでは、一回伸びをしてもらっていいですかね」
加治木先輩が水に顔を着けて伸びの形をする。
やはり何処かぎこちなく不自然に感じた。
「たぶんですけど、身体に力を入れすぎなんだと思います。一回東横さんに手を引いてもらってやりましょう。ビート板無しで」
加治木先輩は反論してきた。
「少し考えてくれ、浮かぶ物が無いと沈んでしまうだろう。人間は陸で生きる動物だ。万が一の場合はどうするつもりなんだ。危険だろう」
「あーはいはい、そうっすねー。ここは足が着く場所なんで問題ないっすよー先輩」
東横さんは手馴れたように加治木先輩を言いくるめた。
何と言うか慣れている。
東横さんの懸命な練習のおかげで加治木先輩は一端に泳げるようになっていた。
泳げるようになると加治木先輩は今までの事が嘘の様に上達して行って、水を怖がらなくなっていて、蒲原先輩達とも遊べるようになっていた。
プールサイドに上がり、一休み。
東横さんと自分の二人きりだった。
「何か飲み物買って来るけどなにがいい?」
「じゃあスポドリお願するっす」
「りょーかい」
少し離れたところにある自販機に紙幣を投入して人数分のドリンクを購入する。
ガラゴンと飲料が落ちるのを確認して取り出し、皆のところへ戻り、東横さんに一本渡す。荷物のところに他の人達の分を置いておく。
座りやすそうな所をに腰掛、ドリンクのキャップを一捻りして開け、中の飲み物を口に含む。
冷たく、甘い味が口に広がって、疲れた身体に気持ちよかった。
「それにしても疲れたっすねー。加治木先輩も何かあるたびに屁理屈言い出すんっすよー」
「正直言って驚いたな。普段はそんな人には見えないけど」
「まったくっすね」
二人の間に沈黙が流れる。
沈黙を破ったのは東横桃子だった。
「――来年こそは、来年こそは全国へ行くっす。むっちゃん新部長と麻雀を完璧に覚えた妹尾先輩と新しく入部する人達とで!!そして須賀君も個人戦で全国に行くっす」
「その通りだなモモ」
加治木先輩がプールから上り、肌の水気をタオルで拭いながら言った。
「わははー大学に行っても顔を出すからなー、楽しみにしていてくれよーわはは」
「蒲原、お前は進学できるかどうか危ういだろうが。もう少し勉強を頑張って欲しいのだが」
加治木先輩が呆れたように言った。
「私も新部長として頑張ります」
「わ、私も麻雀の役をちゃんと覚えます!!」
全員がプールから上がっていた。
俺は皆と同じ時間を歩めるのだろうか……
ふとそんな考えが過ぎる。
プールからの帰り道、最寄り駅まで蒲原先輩の車で送ってもらった。降りたのは俺と東横さん。
改札まで二人で歩く。夕方のホームは帰宅する人達であふれていた。
「今日は楽しかったっすね。須賀君」
「ああ」
「来年はインターハイでたい出たいっすね」
京太郎は友人に苗字で呼ばれるのに少し寂しさを感じていた。
中学時代のどれだけ親しくても、苗字で呼ぶ友人がいたがそれとは違う。
やはり名前で呼んで欲しいという思いもあった。
――なんて身勝手なのだろう。苗字で呼ぶように言っておいて名前呼んで欲しいなんて。
それなら最初から名前で呼んでもらえば良かったのに。
自責の念が出てくる。
東横さんの家の方向の電車が数分早く着いた。東横さんは電車に乗り込む寸前にこちらを向いてきた。
「須賀君……モモでいいっすよ。同じ麻雀部の仲間じゃないっすか。友達はみんなそう呼んでるっす」
――せめて勇気を
一言、たった一言だけモモと言えば
「なあ、東横さん」
――出せなかった。
「来年こそは頑張ろう」
寂しそうな顔を忘れられない。電車のドアが閉まり発進する。
俺たち鶴賀麻雀部は夏休みを使って清澄の応援に向かった。
そんなある日、東横さんと蒲原先輩が阿知賀の麻雀部員を連れて帰ってきた。
話を聞くと一日だけの特訓らしい。
阿知賀の麻雀部員の人達は特殊だった。
阿知賀の松実姉妹。その特殊の筆頭である松実玄さん。彼女の手牌にはドラが集まると言うオカルトじみたものがあった。
しかし、彼女の体質を逆手に取り、考えられる対策も多い。
そして、松実宥さん。彼女の手牌は赤い色をした牌ばかりが来る。その能力はデメリットと言うものがなく、かなり強いものだった。
蒲原先輩が風越の人達を呼んできて、特訓は始まった。
高鴨穏乃さんはとても元気が有る人だった。彼女は極稀によく解らない上がり方をする人だった。もう少し手を伸ばせば高い点数を取れるのだがそれを取らずに安い手で上がる事が数回あった。
新子憧さんはとても上手な打ち筋だった。
状況に合わせた打ち方、俺の目指す理想の姿だと思った。
夜まで特訓は続いたが明日は清澄の試合なのでと言い、特訓は解散となった。
蒲原先輩が彼女達を送りに出す。蒲原先輩が帰ってきて、俺たちも時間が時間なので寝る事になった。
皆で清澄の試合をTVに釘付けになりながら観戦する。
相手は強豪姫松と永水、そして初出場の宮守。
何度もこの結果を知っているが、やはり麻雀をやっている身としてはこの対戦は手に汗握る。
そして決着がついた。1位は清澄だった。二位に姫松、部屋は安堵の雰囲気が流れる。
「相変わらず凄いな、清澄は」
「そうっすね。まさか姫松を抑えて一位っすもんね」
「わははー、みんな凄いなもう」
テーブルに置いてあるコーヒーを一口すする。
――ああ、凄いな咲たちは。
そして、清澄は順調に勝ち進んで行った。
決勝には、やはり何度も見たメンバーだった。
清澄がインターハイを優勝して加治木先輩が祝勝会をしようと、清澄に提案していた。清澄は快くその提案を飲み、朝一で蒲原先輩の車で清澄に向かいながら咲のケータイに電話を掛ける。
万が一の場合は、蒲原先輩の車に乗せて清澄まで送ってもらえば大丈夫だろう。もし、倒れても車で病院に運べば大丈夫だ。
「おい、咲今何処だ?」
『あ、京ちゃん。いま駅の近くの商店街に――』
この近くだった。急いで蒲原先輩に降ろしてもらい、静止の声を振り切って走り、周りを見渡す。
――居た!!
人ごみの中で咲がケータイをもって歩いてくる。
「あ、京ちゃーん」
こちらに気づいた様で、手を振りながら呼んでいた。
そんな咲の後ろに一人の男が無言で佇む。男の目はぎょろぎょろと視線に統一性が無かった。
男は品定めする様に咲を見ていた。
いやな予感がした。
やめろ、やめろ、やめろやめろやめろやめろ。
その手には白く光る物。
脚に力を込めて走る。頼む――間に合ってくれ。
全てがゆっくりと動くように感じる。まるで映画の一コマ一コマを見るように全てが低速の世界。
咲に後一歩の所まで近づく。
「どうしたの? 京――ちゃ……ん」
白いものが咲の胸から生えている。いや、既に白くは無く、赤い色に染まった刃物。
清澄の白い制服が朱色に変わり、倒れる咲を寸での所で京太郎が抱きとめた。
京太郎は瞳に涙して咲に話しかける。周りには悲鳴が響くが男はその様な事を気にも留めずに手に持った刃物を振り回しながら周りの人達に向かっていく。
「なあ、咲。すぐに病院に行けるから心配すんなよっ。だ、だれか!! きゅ、救急車をお願いします!!怪我をしているんです」
咲の体温がどんどん冷たくなっていくのを京太郎は感じていた。
既に唇からも血が流れ、色は青紫色なっていた。血の量は素人が見ても助からないだろうと判るほどだった。
咲の手を必死に掴みながら話しかける京太郎に、咲が反応を示した。
「起こしてくれているところ悪いけど……なんか、少し眠……いんだ」
咲は血にまみれ、冷たくなった手で握り返し、焦点の合わぬ瞳で京太郎を見つめながら言った。
「なっ!? 寝るな!! 後でいくらでも寝させてやるからな。あと少しの我慢だぞっ!! 今すぐに救急車が来るからな」
必死で京太郎は咲を寝させまいとするして身体を揺するが、どこかで京太郎は理解していた。
――宮永咲は助からないと。
騒ぎを聞きつけた鶴賀の部員達が駆けつけてきた。
そこにはむせ返るような血の匂いの中で泣く京太郎と物言わなくなった宮永咲。そして警察官に取り押さえられる男だった。
ゆみ達は京太郎の方へと向かおうとするが警察にとめられる。
京太郎はゆみたちのほうへと視線を移す。
京太郎は桃子と目が合った気がした。
「――モ」
彼女の名前を口にしようとした瞬間意識が暗くなっていく。
待ってくれ、俺はまだモモにも、加治木先輩にも一言もお礼を言ってないんだ。
あと数秒だけ、五秒でいい。頼む!!
みーん、みーん、みんみん。みーん、みーん、みんみん。みーん、みーん、みんみん。みーん、みーん、みんみん。
みーん、みーん、みんみん。みーん、みーん、みんみん。みーん、みーん、みんみん。みーん、みーん、みんみん。
じりじりとした日差しが身体に当たる。皮膚を焼かれているような感覚が身体を襲い、目を覚ます。
視線は虚空に向けられる。
結局お礼を言えなかった。東横さんの事も一度も『モモ』と言えずに終わってしまった。
「あはっ、あはっはははははははははははははははははははははははははははははははは」
ケタケタと笑いながらも京太郎は涙を流す。
どうしようも無い感情の波が京太郎を襲った。
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