咲-Saki- loop-top この檻の中で君を想う 作:入道雲
もしかしたら修正します。
京太郎はずっと引き篭もっていた。部屋から出るのは精々平日の昼だったがそれすらもなくなっていた。
日に日に日付の感覚が無くなっていった。
引き篭もって半年以上、もう一年近くになる。咲は中学を卒業し、清澄に入学していた。咲は引き篭もった京太郎に何とかして引き篭もりをやめて欲しいと思ったが、それは適わなかった。
ろくに話もしない親友に咲はそれでも出てきて欲しかった。
ある日、京太郎のケータイに一件のメールが届いた。メールの相手は咲だった。およそ機械全体が苦手な彼女らしく変換できないその文章は簡潔で用件を表していた。
『てれび みて』
何の事かと思いリビングでテレビを付けた。そこには画面の中に映っている親友の姿。それを見た瞬間テレビを消し、急いで部屋に戻る。途中テーブルに足をぶつけたが気にも留めなかった。
部屋に戻った後は、医師から眠れない場合だけ飲むように言われた睡眠薬を通常より多く飲んだ。毛布に包まり、目を瞑り、睡眠薬が速く効いてくるように祈りながらつぶやいた。
「早く、早く、早く、はやくはやくはやく」
壊れたカセットテープの様に呟く。目を強く瞑って薬の効果を待つ。それでも睡眠薬は効いてこず、気がつけば日が暮れていた。太陽は既に沈み、月がその存在を空に知らしめていた。
虚ろな目で自分の部屋の床を見る。その瞳に力は無く光も無い。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
瞳は涙に濡れ、力なく繰り返す。
ここに居ない……誰かに向けた謝罪。
ある日の休日、京太郎の家のインターホンが鳴った。家には京太郎だけしか居なく、京太郎の母親は事前に今日は宅配便が一つあるから受け取っていてと頼まれていたので、京太郎は玄関を開ける。
そこには宮永咲が居た。そして、他にも清澄のメンバー全員が。
慌てて京太郎は扉を閉めようとするが止められてしまう。
「すみませんが一緒に同行していただきます」
ハギヨシが扉の間に靴を挟みこみ、京太郎を掴み車に乗せる。清澄のメンバーも京太郎と同じ車に乗り込み車が発進した。
一週間ほど前に時間はさかのぼる。
清澄メンバーは龍門渕に招待されて一緒に麻雀を打っていた。
咲と衣が麻雀を打っていると衣が咲の浮かない顔を疑問に思い、話を聞いた。
咲の話は親友が引き篭もってしまっているとの内容を聞き、友人のために人肌脱いだのがきっかけだった。
衣は清澄以外にも、鶴賀、風越を招待するようにハギヨシに言い渡したのがきっかけだった。
京太郎は連れてこられた龍門渕に入る。一応風呂には毎日入っていたが気分を変えるためと言われ、龍門渕にあるバスルームに連れて行かれた。
半ば諦めて京太郎はシャワーだけ浴びて帰るつもりだった。
シャワーを浴びてお暇するつもりだったが車を出してもらえず、明日の夕方まで居てくれと京太郎は咲に頼まれた。
仕方なく一日だけ京太郎は泊まる事にした。
京太郎が屋敷の中の一室に案内されるとそこには各校の麻雀部員が居た。
「ようこそいらっしゃいまし。私がこの屋敷の主、龍門渕透華ですわ!!」
仁王立ちした透華が京太郎に歓迎の言葉を送る。それにあわせて龍門渕のメンバーが自己紹介を始めた。
「ええと、俺は井上純。まあ、そこに居る奴らのツレだ」
「僕は国広一。この家で住み込みのメイドをやっているんだよろしくね」
「私は沢村智紀。よろしく」
「衣は、天江衣だぞ。こう見えて須賀よりお姉さんなんだ。衣お姉さんで良いぞ」
そして鶴賀も一歩前に出て挨拶する。
影の薄い少女が物珍しげに京太郎を見る。
京太郎はその視線が怖かった。
各校が各々自己紹介をして、一旦その場は解散になった。
京太郎は自分に割り当てられた部屋でベッドに腰掛けながら何処を見るでもなく視線を床に落とす。こうして十数分が経ち、京太郎の部屋の扉がノックされた。京太郎は視線を今度は扉に移し、どうぞと静かに言った。
扉を開けてやって来たのは井上純。彼女……いや龍門渕家に居る高校の生徒達は咲に頭を下げられ、京太郎を励ますために呼ばれた。最初は龍門渕だけに頼むつもりだったが天江衣の助力により色々な人達が手助けしてくれる事になりこうして集まった。
純の左手には二つのグローブ、そして野球ボールがあった。
「なあ、キャッチボールでもやろうぜ、身体を動かすってのは結構いいもんだぜ」
京太郎の腕を引っ張り、外に連れ出す。外は晴れていて野外で遊ぶにはもってこいの気候だった。
純とのキャッチボールは機械的な作業だった。もちろん純の投げるボールは京太郎に取り易い様に投げられていたが、投げ返す京太郎に問題があった。
しばらくしてキャッチボール終え、京太郎と純は屋敷に戻った。
次にやって来たのは沢村智紀だった。京太郎に割り当てられた部屋には既にPCがあり、智紀は自分のPCを持ってやって来た。得意のPCゲームを二人でやる、しかし京太郎には勝つぞと言う意欲さえ感じられずに時間が過ぎていった。
智紀の次にやって来たのは一だった。京太郎を励ます為にこの部屋に訪れ、彼女の得意なマジックをする。
簡単なモノから複雑で難しいものまで多種多様。京太郎はそんな一に対してパラパラと力ない拍手を送る。
一は京太郎にも簡単な部類に入るマジックを教える。簡単なものでも達成する事の楽しさを一は教えたかった。ふと一つのマジックが完成する。拙い手で完成されたマジックは一に比べれば幼子の手遊びと変わらなかったが、それでも一つのマジック。一はふと京太郎が笑った気がした。
「そうそう、上手だよ!!」
出来たマジックを賞賛する。
「……国広さん、マジック、面白いですね」
相変わらずの乾いた笑みで言った。
時刻は遅くなり、全員で夕食をとる事になった。夕食を済ませ京太郎は部屋に居ると扉がノックされ、開かれる。扉が開かれるとこには天江衣がいた。
その小さな体躯を使い、部屋に入ってきてベッドにボスンと音を立て飛び込んできた。
「お前が咲の親友の須賀だな。衣は天江衣だ」
「……ええ、知っていますよ……」
「今日勝手に連れてきたのは衣が透華にお願いしたからなのだ」
「……あぁ、なるほど」
「お前は何でそんな疲れたような、諦めたような目をしているのだ?」
「……そんな、事は無いですよ」
「嘘を弄すな、衣には解る。その目はかつての衣と同じ目だ。そんなお前を見て、咲は衣に頭を下げて、お前を救って欲しいと言ったんだ。話して解決できる悩み事なのであれば相談してみろ、衣でも良い、咲でも良い。みんな力になってくれるぞ。それに衣はお姉さんなんだ、友の親友が困っているのならば全力で手出す明けするのが友人と言うものだ」
――いつの間にか……俺は咲の保護者になった気で居た。でも、俺がアイツを護らなきゃなんて言う変な使命感に駆られていた。でも――もう必要ない。
――咲、ごめん。そしてありがとう。
――ああ、決心がついた。
虚ろだった瞳に僅かな光が宿る。その光は決意の光。心の奥から沸いてくる。
気だるげだった四肢に力が入った気がした。
「天江さんありがとうございます」
「衣で良い、京太郎」
「はい、衣さん。おかげで悩みは晴れました」
衣と部屋を出て、二人で手を繋ぎながら透華のところに向かう。衣の小さく、幼さの残る手が京太郎には頼もしく思えた。
部屋に入ると、全員がいた。その中には京太郎の親友、咲も。咲は入ってきた人物に気づくと近づいて来た。
「京ちゃん……」
「ああ、久しぶりだな、咲。ありがとう」
久々に話す親友の声に咲は涙を流す。その様子に周りも何処か感慨深いものを感じていた。
京太郎は一歩出て、透華のところに向かい感謝を述べる。
「ありがとうございます。龍門渕さん」
「それなら良かったですわ」
「さて、皆もそろったところで京太郎は麻雀できるのか?」
「少しなら出来ますよ衣さん」
「それなら話が速い、実はな京太郎ここにいるメンバーは全員色々な高校の麻雀部員なんだよ」
知っていた、ここに居るのは数々のループの中、全国を夢見た仲間達。誰も知らないが京太郎だけは覚えている。何を目指し、どのような願いを込めて全国へ望んだかを覚えている。
こうして、龍門渕さんたちにお世話になった。
皆が帰り、京太郎だけが龍門渕に残された。皆が各自帰っていき最後に残ったのが京太郎だった。帰宅の準備をしていると自分の部屋がノックされた。
やって来たのは龍門渕の皆さんだった。
「どうしたんですか?」
「いえ、少々お時間よろしいですか須賀君」
「はい」
「もし、もしよろしければ龍門渕高校に来ませんか? 衣も懐いているみたいですし、よろしければ一人分ぐらいなら融通できますけど」
思っても見なかった申し出だった。いや、龍門渕先輩の性格を考えると、当たり前だ。
先輩はこう見えて困っている人を放っておけない人だ。
一瞬の沈黙、目を瞑ると龍門渕高校に居た頃の事を思い出す。
皆、優しかった。
「嬉しい申し出ですが……遠慮しておきます」
京太郎は首を振った。これから起こる事に彼女達を巻き込みたくは無かった。
「そうですの……気が変わったらここに連絡を下さいまし」
小さな名刺を渡され、財布にしまう。
「はい」
龍門渕家を後にする。ハギヨシさんの運転する車に乗り、扉を閉めるとエンジンが掛かる。
「京太郎!!何がお前を迷わせていたのか解らないが、健闘を祈っているぞっ!!」
発車している車に向かい鼓舞してくる衣先輩。
――ありがとうございます。
そして時はやって来た。
早朝に京太郎は靴を地面にトントンと当てて、靴を履く。服装は動きやすい軽装な物を着て。
扉に手をかけ、咲の家に向かう。時間を確認するためケータイを確認するついでに、メールを確認する。メールは数日前に来た全国を優勝したから祝勝会に来て欲しいと言った内容。二つ返事で了承した。
丁度、咲の家の近くに着いて一時間が経過した頃、咲は家から出てきた。祝勝会の準備をするために買い物をするために家から出たのだろう。後を着け、一定の距離を開けて着いていく。商店街に向かって行く。
そして咲に近づく男性が居た。その手に持った刃物を煌かせ振り上げる。咲は突然の事に慄いて動けずに居た。その凶刃が振り下ろされていく。
咲を引っ張り、自分の位置を入れ替える。視界の端で咲が驚いた顔を見せた。刃物が自分のナカに入る感触が伝わる。内臓を貫くなんとも言えな痛みと、身体の中をぐちゃぐちゃとかき回される痛みが身体を駆け巡り視界がチカチカとする。
――咲、お前はもう、一人じゃない。沢山の仲間たちが居る。もし、お前が悲しみに暮れていても助けてくれる人達が居る。
胸に秘めた覚悟。自分の命と引き換えに護ると決めた。
痛い、身体を何度も刺された身体に力を入れ、目の前の男に向かい、両手首を捕まえる。喉の奥から血が溢れて口いっぱいに血の生臭い香りが充満する。後ろを振り向き、咲に話しかける。
「さ――ぎ、にげ……ろ゛」
咲の方を見ると顔から血の気がうせて、こちらを見ていた。残念だが咲は動けない。こっちも押さえつけている男の腕力が強すぎていずれ解かれるだろう。
――行動に移すなら今だ。
掴んでいた男の腕を放し咲に覆いかぶさるようにする。案の定男はこちらに向かってきた。背中を何度も刺される。筋肉を切断する音、刃物が骨をこする音が身体の中に響く。
そして、すぐに警察は来た。俺を刺している男を数人係で確保された。
「京ちゃん! 京ちゃん!!」
何処からか声がする。
「お願い起きて、京ちゃん!!」
顔に温かいものが降りかかる。眠い瞳を開けると幼馴染の顔があった。
――ああ、今までの思い出が蘇って来る。
鶴賀の皆、風越の皆、龍門渕の皆。そして清澄の皆。皆が皆、いい人達だった。自分を受け入れてくれて優しい言葉を掛けてくれた。何度も繰り返した高校生活を振り返る。楽しかった、鶴賀には鶴賀の友人が出来た。気さくなやつだった。龍門渕では少しキザったらしい友人が出来た、くさい台詞を平然と吐く奴だった。清澄では――
――これが、走馬灯ってやつかぁ……
これが死ってやつか……
へへっ、ざまあみろ、これが俺の覚悟……だ……
せめて最後にしてやったと言う感情が沸き起こる。意識は、暗い暗い闇に飲まれた。
みーん、みーん、みんみん。みーん、みーん、みんみん。みーん、みーん、みんみん。みーん、みーん、みんみん。
みーん、みーん、みんみん。みーん、みーん、みんみん。みーん、みーん、みんみん。みーん、みーん、みんみん。
じりじりとした日差しが身体に当たる。皮膚を焼かれているような感覚が身体を襲い、目を覚ます。
ああ、結局全てが無駄だった。
決意など簡単に折られ、願いなど容易に裏切られた。
「――もう、疲れた」
愛宕姉妹と純君とセーラと穏乃と遊びに行きたい。このメンバーだったらスポーツとかが合いそう。