咲-Saki- loop-top  この檻の中で君を想う   作:入道雲

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 私事にてしばらく更新できそうにありません。誤字なども少しの間修正できないと思います。
 亀更新ですがよろしくお願いします。


反撃の狼煙

 ――ちゃ

 

 ――――うちゃん

 

 ――――――京ちゃん

 

 ゆさゆさと身体を揺すられる感覚に京太郎の意識は覚醒した。目を覚ますと咲が木陰で本を片手に京太郎をを覗きこむ。

 

 ああ、どうやら眠っていたらしい。

 

 「もう、京ちゃん。いくらんでものんびりし過ぎだよ。もう」

 

 頬を膨らませながら怒るが、とても怒っている様には見えず京太郎は苦笑する。

 

 「ごめんごめん」

 

 今だ寝ぼけ眼で辺りを見渡しながら身体を起こす。関節から子気味のいい音が鳴った。夏は終わりに近づいて木に着く葉は赤く紅葉している。外気は寒さを感じさぜず、紅葉だけが秋に移っていると知らせていた。

 

 「あれ、何してたんだっけ?」

 

 「もう、京ちゃんったら……祝勝会が終わって久々に二人で遊ぼうって言ったの京ちゃんじゃない」

 

 ああ、そうか。そう言えばそうだった。たしか本屋に行って本を購入した後、喫茶店でお茶しながらお互い買った本を読み、少ししてここに来たんだっけ。

 

 一回立ち上がり身体をひねる、するともう一度、身体から子気味のいい音と少しの鈍い痛みが走った。空を見上げるとまだ完全に日が落ちていなく、燃え盛るような色の太陽が西に傾いている。

 

 「咲、もう一度寝るわ。少ししたら起こしてくれ」

 

 「えー、また寝るの?」

 

 「少しだけだから」

 

 横であきれる咲を尻目に、京太郎は木にもたれ掛かる様にして腰を落とす。気持ちの良い風と紅葉や木々の香りの中目を瞑った。

 

 

 

 

 

 文化祭。

 

 俺たち麻雀部はバーと喫茶店の様な出し物をしていた。前日までに設営は全て済ませ、子洒落た小さな内装が施しドリンクなどの用意を終え。部長と俺はバーテンダーユニフォームを、和や咲や染谷先輩は、優希はメイド服に身を包んでいた。部室は広く結構な人数でも大丈夫だろう。そして今日は文化祭当日。各自準備を終え衣装に着替える。文化祭の開始宣言まで十分を切った。念のためにグラスや食器を磨き、食材の確認をする。どれも問題なさそうだった。

 

 『あーあー、テステス』

 

 部室にある校内放送用のスピーカーから部長の声が聞こえる。毎年、清澄際では学生議会長が開幕の挨拶をするらしい。

 

 『問題なさそうね。それじゃあ、これかから清澄際を始めたいと思います。準備は良い?』

 

 離れた部室塔まで聞こえる各クラスや部活動の歓声。俺たちも負けじと気合を入れる。

 

 『それじゃあ、清澄際の開会をここに宣言します』

 

 それと同時に本校舎の方から開幕を教える花火の音が聞こえた。

 

 「さーて、始めるぞみんな!!」

 

 皆から快い返事が返ってきた。

 

 一番最初にやって来たのは龍門渕さんだった。他に四人のメンバーを引き連れていた。物珍しそうに店内を見渡しながらカウンターに座る。

 

 「ここは何をする所ですの?」

 

 「ええと、ジュースバーです」

 

 「ジュースか!? 衣も飲みたいぞ透華」

 

 ぴょこぴょこと頭のリボンを揺らしながら龍門渕さんに打診すると、龍門渕さんは二つ返事で答えた。

 

 「こちらがメニューになります。どうぞ」

 

 来ていただいた五人に予め作っておいたメニュー表を渡す。

 

 「こりゃあスゲーな。飲み物だけでも40種類はあるんじゃねえのか?」

 

 「衣はこれにする。あとケーキも!!」

 

 「そうですわね、じゃあ私はこれをお願いしますわ」

 

 龍門渕さんに続いて沢村さんと国広さん、井上さんもドリンクをオーダーする。咲と和が復唱して、注文を取りドリンクの作成に取り掛かる。

 

 かしゃかしゃとシェイカーの中で氷と氷がぶつかり合う音が室内に流れるクラシックのリズムに溶け込む。落ち着いた静寂の中でゆっくりと時が流れる。

 

 「そういえば咲はもう少しで二年生になるのだろ。進路はどうするんだ?」

 

 「うーん、インターハイも終わったしこれからゆっくり考えるつもりだよ。衣ちゃんは?」

 

 「ちゃんではない!! 衣はプロになるぞ」

 

 扉が開く。

 

 「失礼する、麻雀部の出し物はここかな」

 

 「お邪魔するっす」

 

 加治木さんをはじめ東横さん、津山さん、妹尾さん、蒲原さんが室内に入り、カウンターに座る。和と染谷先輩がメニューを手渡し注文を伺う。注文された品を作っていると部長がやって来た。

 

 「あら、結構繁盛しているわね」

 

 「ああ久、お邪魔しているよ」

 

 加治木さんと挨拶を交わし部長はスタッフルームに入っていった。案の定部長はバーテンダーユニフォームを着てすぐに戻ってきた。一緒のカウンターに入り先輩は注文表を確認してまだ作っていないドリンクを作り始める。

 

 ドリンクは思いのほか皆さんに好評だった。

 

 「ふむ、美味しいな」

 

 「そうっすね。飲み安いっす」

 

 とても美味しそうに作ったドリンクやケーキを食べてくれる鶴賀の人達。龍門渕の方々も楽しんでくれているみたいで部長や皆も嬉しそうだ。バンと扉が開かれる。

 

 「和ー、遊びに来たよー」

 

 出てきた人物に、和は珍しく大きな声を出して驚いた。

 

 「し、穏乃!?」

 

 ジャージ姿で和に抱きつく少女はインターハイで活躍した高鴨穏乃だった。少しして後から追いついてきた新子憧、鷺森灼、松実玄、松実宥の四人は息を切らせながら部室に入って来た。とりあえず京太郎は人数分の水を差し出して注文を聞いた。

 

 少しして、阿知賀の監督赤土晴絵も息を切らせやって来た。

 

 「――はッ、はぁっ。ちょっと皆早く行きすぎ」

 

 息を整えた赤土さんが和に気付く。

 

 「おお、和久しぶりだね。ここは何やってんの?」

 

 「ええと、バーをやってます」

 

 「へえ、結構凝ってるわね。じゃあとりあえず、生中お願いしよっかな」

 

 「ここは、高校の文化祭です!!」

 

 鶴賀、風越、龍門渕、阿知賀の皆さんでワイワイ騒ぎながら席に着く。これじゃあ静かなバーと言う雰囲気ではないな。一度裏方に戻り、クラシックの音楽のCDを止め、念のために持ってきたもう一枚のCDを入れる。アップテンポなジャズが部室を駆け巡る。

 

 「うおお、なんかテンションが上がってきたー」

 

 「ちょっと穏!! 静かにしなさい、他の高校の人達に迷惑が掛かるでしょ!!」

 

 新子さんが高鴨さんを叱る。その様子がなにか面白くて笑ってしまう。

 

 「折角麻雀部員がここまで揃ったんだ。少しは打ってみないか」

 

 加治木さんが一つしかない麻雀卓を指差しながら言った。部長も乗り気でいいわねと言い、続ける。

 

 「うーん、ただやるだけじゃ面白みにかけるから、そうね、負けた人はその学校のメンバーにお店を手伝ってもらいましょうか」

 

 「おい、久!?」

 

 「いいじゃない、メイド服も少しは余っているし、なんならバーテンダーの服もあるわよ。龍門渕さんもどう?」

 

 「そんなくだらない事はしませんわ」

 

 「あら、龍門渕さんは負けるのが嫌なのね」

 

 「なんですって!?」

 

 ああ、部長が龍門渕さんを煽ってる。これは拙いぞ。龍門渕さんの性格から挑発に乗ってしまうだろう。

 

 「いいですわ、ハギヨシ!!」

 

 何処からとも無くハギヨシさんが現れる。相変わらず何でもできる人だ。

 

 「全員分の衣装を用意なさい」

 

 「既にこちらに」

 

 その手に持った衣装を壁に立てかけてまた一瞬で姿を消す。

 

 「さあ、行きますわよ」

 

 一つの麻雀卓に各校の人が一人ずつ座る。各校が順番で回す事という条件で勝負が始まった。卓に着くのは池田さん、加治木さん、天江さん、そして咲。

 

 「奇しくもあの県大会の再現だな」

 

 「そうですね」

 

 「今回は負けないし」

 

 「残念だな池田、今回は衣が勝つ」

 

 結局皆、各校の人達がメイド服うやバーテンダーの服を着て手伝ってくれた。加治木さん、東横さん、津山さん、蒲原さん、井上さん、高鴨さんはバーテンダーの服装、他の人達はメイド服を着て接客をしてもらう。高鴨さんがシェイカーを振るう度にポニーテールがピョコピョコと揺れる。その隣で加治木さんもまたシェイカーを振っていた。加治木さんは正直この服装がとてつもなく似合っている。正直このメンバーの中で一番じゃないだろうか。東横さんは「加治木先輩かっこいいっす」と言っていたが全くその通りだと想う。井上さんはその長身を生かして着こなしていた。一番意外だったのは東横さんだった。思いのほか東横さんの落ち着いた雰囲気にこの服装がぴったりだった。

 

 一般のお客さんも沢山来た。最初は少なかったものの、国広さんがマジックをやったり、部長が色々な含蓄をお客さんに披露したりとただジュースを飲む場所ではなく、楽しませてくれる場所と言うキャッチフレーズが瞬く間に広がり、繁盛し文化祭は盛り上がった。

 

 

 

 

 

 

 暗転

 

 

 

 

 

 

 ――くん

 

 ――――がくん

 

 ――――――-須賀君

 

 「へ!?」

 

 自分の名前を呼ばれて思わず情け無い声が出てしまった。どうやらぼーっとしてしまっていたみたいだ。

 

 「あれ、部長」

 

 部長と呼ばれた女性――竹井久は可笑しそうに笑った。

 

 「もう、部長じゃないのよ。それに今日は咲の結婚式なんだからしっかりしなさい。いつまでもぼけっとして居ちゃだめよ」

 

 ああ、そうだった。今日は咲の晴れ舞台だ。俺はあのループから抜け出すことに成功した。何度もすごした一年間は俺の中では既に前のこと。あれから部長は清澄を卒業。次の年は染谷先輩その一年後には俺たち。俺たちは各々違う大学に進学し、そして卒業した。違う大学に行ってもやはり何度も和や優希と遊び、他の高校に居た、麻雀部員たちとも交流を続けた。

 

 周りを見渡す、部長も他の人達も沢山居る。和に染谷先輩に優希も。他にも色々な高校、龍門渕さんに天江さん、国広さんや井上さんに沢村さんも。鶴賀の加治木さんや、東横さんに妹尾さん、津山さんや蒲原さんもいる。風越からは長野で競ったメンバーも居る。皆が皆ドレスを着ている。

 

 「まったく、須賀君。君は少し危なっかしいな」

 

 「先輩の言う通りっす」

 

 加治木さんの発言に東横さんも笑いながら同意する。二人とドレスを着用していてお二人の美しい雰囲気がより一層引き出されている。

 

 ひどいなぁ、まったく。

 

 そうこうしていると時間になる。会場全体が薄っすらと暗くなった。念のため自分の服装をチェックする。軽く数度スーツを叩き、ネクタイを締めなおしつつ俺も慌急いで、所定の位置に着く。マイクのスイッチを入れ、ここ数日練習した台詞を読み上げる。

 

 「ただいま新郎新婦が入場されますので、皆様盛大な拍手をもって二人をお迎えくださいませ」

 

 沢山の人の拍手の中、白い純白のウエディングドレスを纏った咲と新婦は現れた。沢山の人達の拍手の中、咲は恥ずかしそうに、でも幸せそうに新郎にエスコートされてその道を歩き、席に着く。

 

 「ただ今から両家のご結婚式並びにご披露宴を始めさせていただきます。申し送れましたが、本日のこの良き日に視界を勤めさせていただきます私、新婦の友人、須賀京太郎でございます。なにぶん不慣れなため万事不届きの事があると思いますがどうかよろしくお願い申し上げます」

 

 頭をぺこりと下げ一礼する。

 

 ああ、やばい緊張する。マイク越しの声は変に聞こえていなかっただろうかと想っていたら拍手が俺にも送られた。

 

 咲の方に視線を送ると手を振ってくれた。どうやら大丈夫だったようだ。

 

 ――咲、おめでとう。

 

 緊張しながら行ったも結婚式は終わり、二次会の話が出てきた。新郎新婦を囲み皆で話し合う。咲は未だにドレスを着たままもみくちゃにされていた。こちらにこちらの視線に気付いたのか沢山の人に囲まれながら咲が手を振ってきた。

 

 「おーい、京ちゃーん。これから二次会が有るだけど行こうよ」

 

 「ああ、行くぜ。それにしてもお前も結婚かー、昔はちんちくりんだと思ってたんだけどなー」

 

 「なにおー、ひどいなー。もう」

 

 髪の毛をくしゃりと触れる。やはり咲は昔みたいに怒ってきた。周りの皆の見ている中、咲は頬を精一杯膨らませて怒っていた。それを周りの皆で笑いながら

 

 わーわー。

 

 あはは。

 

 ぎゃーぎゃー。

 

 騒がしいメンバーのけたたましい笑い声がいつまでも続いた。

 

 

 ………………………………

 

 …………………………

 

 ……………………

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 「夢……か」

 

 数メートル先は商店街に面し活気が溢れているが、路地裏はそんな商店街とは反対に光が入らず、かび臭く、湿っている場所でで京太郎は壁に寄りかかり意識を取り戻した。力なく、開けられた口からはだらしなく流れた唾液が白く乾燥した痕あった。開かれた瞳は何処を見るでもなく虚空を彷徨わせる。

 

 ――結局、神代にすがっても意味は無かった。

 

 京太郎は神代小蒔に助けて欲しいと縋ったが、咲には何も見つからず、放心状態で彷徨った。何も考えないまま足を運び、そしてこの地にやって来た。自棄になり酒を浴びるように飲んでいると、一人の男がやって来て京太郎に薬物を勧めた。男は素晴らしい夢が見れると言った。その言葉は京太郎に取って何よりも甘い蜜に感じ、その薬物を口にした。最初は少量で済んだが、日に日に薬物の量が増えていった。

 

 そして、現状に至る。

 

 ――俺はもう……どこか毀れたのだろう。この出られない、永遠の檻。地獄のような場所から逃れられないのだろう。

 

 現実から逃げ出し薬物や酒に頼り、堕ちてゆく。薬が夢を見せてくれる。それが偽りの幸せでも良かった。過去に自殺を図ったが目を覚ますとまた最初から始まる。

 

 ――あは。と、どこか毀れた笑い声。

 

 何を嗤うのか京太郎自身でも解らない笑み。

 

 静かに、ただ静かに涙を流す。そこには嗚咽もない。

 

 薄れ往く、意識。現実なのだが、現実味を感じられず意識は朦朧として来て京太郎は瞳を細めた。

 

 「――」

 

 誰かが京太郎に声を掛けながら揺った。その声は京太郎に届かず、意識はゆっくりと遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 「お姉ちゃん、どう?」

 

 「あかん、起きひんわ」

 

 目の前に倒れている青年を見て愛宕洋榎は考える。

 

 妹と帰るいつもの帰り道の路地裏に倒れていた青年。年は自分より少々下だろうか。浮浪者にしては若すぎるし、服装もそれには見えない。すこし、考えしまう。病気も考えたが胸に耳を当てて聴いてみたが心臓の鼓動は早くも遅くも無く、ただ寝息を立てているだけだった。

 

 彼女の妹の愛宕絹恵がどうするかと尋ねる。

 

 「どうするん、お姉ちゃん?」

 

 「どないしよっか……絹、肩貸してくれへん?」

 

 「いいけど、病院連れて行くん?」

 

 「いや、ウチに連れて行く」

 

 「ええ!? お姉ちゃんそれホンマに?」

 

 「マジや」

 

 絹恵は何か言おうと思ったが、諦める。自分の姉に対しため息が出るのを抑えられなかった。二人で寝ている青年――京太郎の肩に腕を回し、自宅に連れて行く。

 

 

 

 京太郎は心地よいぬくもりの中で目覚めた。身体を起こし、周りをを見渡す。見た事ない室内、知らない場所。自分に起こった事の状況把握をしていると部屋の扉が開いた。扉の先からやって来たのはたれ目の少女。その少女を京太郎は知っている人物で驚きを隠せなかった。

 

 「愛宕……洋榎……」

 

 「お、なんや自分、ウチのこと知っとるんか?」

 

 「……ええ」

 

 「ちょっと待っててなー」

 

 そう言って愛宕洋榎は部屋から出て行った。部屋から出た、彼女のどたどたと慌しい足音が遠ざり、足音が一つ増えて戻ってくる。やって来た少女は愛宕絹恵。独特の方言で京太郎に話しかける。

 

 「おお、ほんとに起きたんや、大丈夫? 具合わるいん?」

 

 「……いえ、大丈夫です、介抱していただいて有難うございます」

 

 京太郎は立ち上がり、お暇しようとするが洋榎にとめられる。

 

 「まあまあ、ゆっくりしてきーよ」

 

 京太郎はどうするべきか考える。

 

 夜になり、愛宕絹恵と洋榎の母親がやって来た。洋榎たちの母は帰宅して京太郎を見るなり一言。

 

 「娘が男を連れ込んだ」

 

 目を大きく開き、持っていたビニール袋を落としてそう言った。

 

 洋榎達の母、雅恵は娘達から事情を聴き、京太郎を泊める事にした。何より自分の娘と同年代の子供を放って置けないのもあったが。

 

 「私かてこれでも教師端くれや。行き倒れていた子供を追い出したりなんてせんよ、安心しい」

 

 と、遠慮する京太郎に言ってのけた。京太郎は愛宕家と夕食を済ませ、自分にに割り当てられた客間の窓から空を眺める。何処までも暗く果てしない空だった。窓の外を見ていると部屋に洋榎がやって来た。彼女らしい明るい声で京太郎に麻雀をやらないかと誘ったが断った。

 

 とにかく、京太郎は麻雀から離れたかった。それなのにここに居ると言う矛盾。眠気があったので京太郎は布団に入り寝る事にした。

 

 朝早く京太郎は目が覚めた。キッチンのほうから物音がするので客間から出て向かうと、そこには雅枝が皆の朝食を作っていた。京太郎は朝食を作るのを手伝う。朝食を並べ雅枝は仕事に行った。京太郎は残された姉妹を起こす。

 

 「おはよーさん」

 

 朝から洋榎は元気一杯に挨拶をする。京太郎は静かに返事を返した。皆で食卓に着き、朝食を食べ終える。学校に行かなくて京太郎が良いのかと聴いたらまだ時間があると二人は答えた。やる事もなく京太郎は部屋の壁をじっと見つめていた。

 

 「なあ、京太郎はいつも何してん?」

 

 「……引き篭もってました」

 

 洋榎の周りには引き篭もるような性格を持つ人物居らず、物珍しげに見る。

 

 「なんや、いじめられてたん? だったら自分ガタイ良いんやから……こう、ぼっこぼこにしてやったらええねん」

 

 「ちょ、お姉ちゃん!? 失礼だって」

 

 「別にいじめられてたって訳じゃ無いんですよ。……少し、ほんの少し、疲れて諦めたんです」

 

 「疲れたってなんや?」

 

 「……色々な事にですね」

 

 頬を掻きながら苦笑いを浮かべながら京太郎は言った。相変わらずその目は死んだような生気のない瞳。その瞳を洋榎は覗き込む、そこには何も無い、ただの虚無。

 

 「じゃあ、何で泣いてたんや?」

 

 京太郎の何かを突くような一言。

 

 「なあ、お前さん。諦めたなんて口にするんやないで。京太郎がどうしても叶えたかったんやろ。それなら諦めるんやない」

 

 口調が変わる。いつもの砕けた口調ではなく、その声は怒気を孕んでいた。

 

 「……そうですね」

 

 視線を落とし、苦笑しながら京太郎は答えた。

 

 どこか疲れたような、とても寂しげに京太郎は笑った。その笑い方が愛宕洋榎を怒らせた。彼女は諦める事が嫌いだった。彼女の友人、末原恭子はどんな困難があっても絶望に負けず、日々努力を重ねていたからだ。それに、洋榎の妹の絹恵、彼女もまた努力を重ねていた人物だった。

 

 バチンと、京太郎の頬に炸裂した平手打ち。突然の事で目を白黒させる。一瞬の驚き、そしてその後にやってくる焼けるような痛み。頬は薄っすらと紅くなる。胸倉を掴み、至近距離で怒鳴る。

 

 「ちょ、お姉ちゃん!? やめなって」

 

 「止めるんやないで、絹」

 

 「ウチの知り合いにはどんなにきつい状況でも諦めん奴がおんねん。死ぬ気で頑張ってんぞ。でもな、今まで一言も諦めたなんて言ってない。いいかボケぇ、どんなにキツくても休むんやない、前へ進みぃや。冷めた顔で何でもかんでも諦めるのが正しいですみたいな事言いおって。そんな未練タラタラで言われたら最悪やわ。ええ加減、目ぇさましぃや。」

 

 掴んでた胸倉を離し、京太郎は床に倒れる。

 

 「うちらは学校行かなあかんけどな、帰ってくるまでに答えだしておけよ。それでもよーく考えて諦めるなら何も言わへん」

 

 洋榎はバッグを持って玄関を出て行った。絹恵も申し訳そうに言う。

 

 「ごめんな須賀君、痛かったやろ。でもなお姉ちゃんの事も考えてあげてほしいんよ。お姉ちゃんも苦労して、そしてお姉ちゃんの友達でめちゃくちゃ頑張ってる人が居るから、簡単に諦めたなんていって欲しくないんよ」

 

 そう言って絹恵も玄関を後にした。

 

 静けさの中で京太郎は考える。

 

 自分の頬を触ると叩かれたところがジリジリ熱かった。

 

 「――叩かれたなぁ。ああ、昔似たような事があったな……」

 

 静かにつぶやく。

 

 

 

 最初に出会ったのは自分が幼かった頃だ。物静かな子供。初めに抱いたのはおどおどしている彼女に出会い、あまりこちらに目線を合わせようとしなかった。いつも絵本を片手に隅っこで読んでいる彼女。そんな彼女と知り合った。話してみれば意外に話題も合った。自分の知らない事を知っていた。そんな彼女と接していると自分の世界が広がっていった。

 

 彼女の控えめな笑い。春の日差しのような、人々に温かみを与え元気にするような笑いが脳裏に焼きついている。

 

 本など全く読まない俺にも読書の楽しみを教えてくれた彼女。普段の物静かな姿からは想像出来ないほどに饒舌になり語ってきた。いつしか、彼女と居る時間が長くなっていた。

 

 「……ああ、クソぉ」

 

 袖で涙を拭う。既に毀れたと思っていた心は未だに痛み、瞳は涙を流す。

 

 「――チク、ショウ」

 

 嗚咽に交じった、どうしようもない悔やみ。

 

 諦めたくは無かった。

 

 認めたくは無かった。

 

 彼女が死ぬ運命など否定したかった。

 

 愛宕さんに言われた事を思い出す。よく考えて、それでも諦めるなら何も言わない。

 

 「――諦められる、訳がッ、無いだろ!!」

 

 拳を床に叩きつけながら叫ぶ。

 

 ――だったら

 

 涙を拭え、前を向け、足を止めるな、震える足に力を込めろ。

 

 願ったのならばそれに向かって走り出せ。

 

 決めたのならば貫き通せ。

 

 「アイツは、俺の親友なんだ」

 

 

 

 

 愛宕洋榎と絹恵は驚きを隠せなかった。自宅に入ると良い香りが充満していて最初は自分達の母が早めに帰宅し、夕食を作っていると思った。キッチンからは料理を作り終えた京太郎がやって来た。恥ずかしそうに二人に挨拶をする。

 

 「ああ、えと、すみません勝手に夕食を作っちゃったんですけど」

 

 「お、おう。美味そうやないか」

 

 出来上がった料理を見ての感想。洋榎と絹恵は自分の部屋に戻り着替えてる。京太郎が料理を並べている最中に雅枝が帰宅した。皆で食卓に着き夕食を食べる。

 

 「良い匂いやな。美味しいわ。どや、京太郎君、洋榎の旦那にならへんか? 絹恵は料理も出来るんやけど洋榎は料理がへたっぴでなぁ……」

 

 「あはは……」

 

 「ちょ、オカン。ウチかて料理できるわ」

 

 「お姉ちゃんたこ焼きしか作れんやろ」

 

 のどかに夕食の時間が過ぎていった。夕食が終わりリビングで皆がくつろいでいると、洋榎がアイスを食べたいと言い出し外に買出しに行く事になった。京太郎も付いて行き、コンビニに行く道のり。街灯に照らされながら人通りが多い道を二人で歩く。

 

 「愛宕さん」

 

 「なんや?」

 

 「俺、もう少し頑張って見ようかと思います」

 

 「そうかそうか、頑張りぃよ」

 

 背中をバシバシと叩きながら洋榎は言った。

 

 「ちょっと、痛いですって」

 

 「男やろ、我慢しぃや。で、いつ出るんや?」

 

 「明日には出ようと思います」

 

 「寂しくなるな……二日間だけだけど楽しかったで」

 

 またもや京太郎の背を叩く。

 

 「痛いですってっ!!」

 

 「なんや、男の癖にひょろっこい事いうなー」

 

 「愛宕さんは俺の尊敬する人に似ています」

 

 「へぇ、どんな奴なんや?」

 

 面白そうに問いかける。洋榎の瞳が京太郎を見つめ、京太郎は照れ隠しに頬を掻き、はかない笑いをこぼしながら答えた。

 

 「めちゃくちゃな人ですよ……何でも面白そうにしている人です。昔、一度だけ叩かれましてね……」

 

 「ほうほう、今回みたいに須賀が根暗になってたんか?」

 

 物怖じしない洋榎の言い方に京太郎はまた笑いをこぼす。

 

 「遠慮が無いですね……まあ、実際その通りなんですけどね」

 

 「なんや、また暗くなってんなぁ、元気だしぃや」

 

 「痛いですって」

 

 こうして夜は過ぎていった。

 

 次の日の朝、京太郎は帰宅の用意をする。元々荷物は少なかったので準備はすぐに終わった。朝食をご馳走になり、あまり時間を空けずに靴を履き玄関に立つ。愛宕家の三人に見送られる。洋榎と洋榎が駅まで送ると言い、三人で駅に向かう。

 

 「ええと、愛宕さん」

 

 「なんや?」

 

 「ん?」

 

 二人同時に返事をする。あまりのタイミングの良さ二人が噴出す。

 

 「絹恵でええよ須賀君」

 

 「洋榎でええよ、須賀」

 

 「じゃあ自分も京太郎で良いです」

 

 駅の改札で二人にお礼を言う。

 

 「本当にお世話になりました。特に洋榎さん」

 

 「ええんやって、京太郎」

 

 「じゃあね、京太郎君。こんどは行倒れたりしたら駄目やよ」

 

 「京太郎、うち等インハイ行くから見てな」

 

 「はい、楽しみにしています」

 

 洋榎さんと絹恵さんは笑顔で見送ってくれた。ホームに行くと時間ぎりぎりで急いで電車に乗り込んだ。

 

 地元に着き、京太郎は真っ先に咲に会いに行った。最初は泣かれたがそれでも咲は京太郎にお帰りと言い、頭を撫でた。

 

 自宅にて、このループの原因を考える。もし、今までどおり何かあるとしたら。ふと、机にしまっていた手帳を取り出す。思っていたより古くなっていた。最初のページを開く。

 

 『物語は常に君と共にある』

 

 昔、咲に書いてもらった言葉だ。何かカッコイイ言葉を書いてくれと言い、書いてもらった。いや、この手帳こんなに古くなっていたか? 何かを感じ数ページ飛し、スケジュールのページを開く、するとおかしいことに気付いた。

 

 「――これ、最初の世界の内容だ」

 

 考えを整理するために一旦休憩をかねてリビングでコーヒーを入れようとカップを取り出しつつ、テレビを付ける。

 

 「――え」

 

 その内容に変な声が出てしまった。

 

 その表紙に手に持っていたカップを落としてしまいカップの破片が床に飛び散る。ニュースでは洋榎が事故で死亡したと言う内容。

 

 なんでだ、数度前の世界だと確かに大会に参加していた筈だ。何故と言う疑問が浮かぶ。それでも目の前のニュースは冗談などではなく現実。いつの間にか未来が変わった? いつだ? 何故?

 

 ――あ、京ちゃんこれ読んでみて面白い本だからオススメだよ。作者は関西の人が書いんだけど……

 

 ――物語は君と共にある。

 

 ――最初の世界の手帳。

 

 色々な記憶が蘇り、いくつも欠片が合わさり一つの答えになる。

 

 ――俺が、気付かなかっただけだ。

 

 後ろから咲の声がした気がした。後ろを振り向く。

 

 「京ちゃん、助けてあげて」

 

 そこには咲が居た。夕暮れの中で微笑みかけている。

 

 目を凝らす。

 

 周りを見渡しても部屋に居るのは俺一人だった。

 

 咲に助けてあげて、と言われた気がした。

 

 止めた筈の薬物がまだ身体に残っているのかも知れない。

 

 今のは幻なのだろう。

 

 ――でも

 

 目的は決まった、やる事は一つだけ。

 

 ――洋榎さん、今助けに行きます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 騒然たるメンバーが室内に居た。関西の名門校、姫松。部員数は多く、全員が並ぶとなると迫力がある。そして、その最前列に並ぶメンバーの錚錚たる顔ぶれ。

 

 「今日は新入部員を紹介するよー。入っておいでー」

 

 赤阪郁乃がいつもの様にニコニコしながら部員達に話す。集められたメンバーは何がなんやら良くわからずにクエスチョンマークを頭に浮かべる。

 

 「失礼します」

 

 扉を開け、一礼をする。入ってきたのは金色。

 

 「初めまして、須賀京太郎です。この姫松高校女子麻雀部でマネージャとして入る事になりました。よろしくお願いします」

 

 須賀京太郎の反撃が始まった。




 関西弁はおかしいかも知れませんが許してください。あまりにも酷いようでしたら感想からお願いします。


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