町が、燃えている。お気に入りのレコード店も、好きだけど嫌いだったスクールも住み慣れた家も全部。それに道の向こうには両親と弟たちが倒れている。助けに行きたいのに足が動かない。そんなオレの体を兄の手が引いた。兄に引かれて無理やり走り出す。いくらか走った頃、轟音が響いて横を通ろうとした信号機が倒れてきた。咄嗟に兄を突き飛ばす。何かが直撃したようなそんな感覚を覚えた。
必死にオレを呼ぶ兄の声、ああそうかオレはここで死ぬんだな。
そう確信した時にオレの意識は浮上した。
気が付けばオレは床に転がされていた。頭がずいぶん痛い、後頭部を殴られたみたいだ。それに体が冷え切っている。どれだけ長いこと転がされていたんだ。そう思って体を起こそうとしてぎょっとした。体の周りに生ぬるい液体が広がっている。それに鼻を突く鉄の匂い、これはもしかして……。
そこまで考えたオレの体がまた沈む。目線だけを動かせばフードを被って顔が見えない男がオレの体を足で押さえつけていた。
どこの言語かもわからない言葉がオレに降ってくる。
頭がくらっとした。住み慣れた町が燃え、家族が一人一人と居なくなっていく。あの夢がまた頭をよぎった。
―― 君は守りたい?
鈴のような声が響いた。そんなもの決まっている。
無理やり体を起こした。体が痛い、それでも無理やり声を吐き出した。
「……っ、オレは、守りたい! この町をっ、
ひっくり返った男が何事かと目を見開く。でもそんなのには構っていられない。小さくクスッと笑う声がどこからかした。
―― 合格、待ってて。マスター。
刹那、床にあった魔法陣が光った。男が歓喜の声を上げる。思わず目をつむってしまった。そろそろと目を開けるとそこには少年が居た。制服姿で、オレよりもかなり年下に見える。仰向けに倒れた男を一蹴りした彼が振り向いた。ようやく見えた顔に驚いた。彼は女だった。彼女はオレの姿を認めると口の端を釣り上げて笑い、歩いてきた。
「うん、合格! そっちのロクでもない男だったら
先ほど聞こえた鈴のような声だ。呆然としているオレに彼女は近づいてきた。右手がじくじくと熱くなっていく。
「はじめましてマスター。ボクはサーヴァント
彼女は光のない目でオレに笑った。
かくして、オレと彼女は正式な契約関係になったのだった。まあ、この直後に開いてなかった魔術回路がすべて開いた激痛でオレは気絶するのだが。
―――― これは、聖杯もない虚構の聖杯戦争の一幕である。