Steins;Gate/輪廻転生のカオティック 作:ながとし
8月13日、19時53分。
「跳ん……だ?」
俺の胸から血は出ておらず、あの信じられないくらいの痛みも引いていた。
しかし、息が乱れて冷汗も止まらない。世界線移動の不快感も合わさり非常に気分が悪い。
落ち着くために、取り敢えず近くの建物の壁に沿い座り込む。
まず、ここは何処の世界線だ? 順当に世界線移動ができたのだろうか。
岡部倫太郎がタイムリープしたのが原因なのは確かだ。どんな事をしたか、岡部倫太郎に聞くのが一番早いだろう。
携帯を取り出した時、岡部倫太郎から電話がかかって来た。
「……瀧原、今どこにいるんだ?」
もしもしの言葉も無くいきなり居場所を聞かれ少し驚く。
声が少し暗いのも気になるが、取り敢えずここがどこか目印を探す。
人の流れを追うように目をやると秋葉原駅が近くにあることに気が付いた。
「秋葉原駅です。丁度、僕も連絡をしようとしていたところなんですよ」
「なら、ラジ館前で落ち合おう。……逃げるなよ」
岡部倫太郎がそう言った後、電話が切れた。
逃げるなよって、この世界線の俺は何かやらかしていたのだろうか?
そんな不安を抱えながら俺はとりあえずラジ館の方へ向かった。
少し暗くなっているラジ館前を見て俺は少し違和感を感じた。この時間ならまだ、あれから日が経ったとはいえある一定数の人間が下から人工衛星を見物していたというのに、人がいないのだ。
ふと、ラジ館を見上げるとタイムマシンが消えていた。
何故だ?
さっきの世界線移動は阿万音鈴羽のタイムトラベルで起きたというのか?
いや、そんなはずはない。
まだ阿万音鈴羽がタイムトラベラーだということすら言っていないんだぞ俺は。
それに壊れていたタイムマシンで過去に跳んでも阿万音鈴羽の使命は失敗し、世界線は変動しないはず。
岡部倫太郎にはしっかりと話してもらわなければいけないことが出来たなと思いながら、走って来る岡部倫太郎を見つめるのだった。
岡部倫太郎と俺はラボの方に向かってゆっくりと歩きながら話していた。
俺が丁寧に問いただしたところ、岡部倫太郎はこの世界線の過去の俺の発案によって世界線が変えられたのだと言う。
鈴羽もあの絶望の35年間を過ごすこともなく、みんなで父親捜しをした記憶を持ったまま過去へ旅立ったと言ったのだ。
その話を聞いたときに俺ならやりそうなことだなとか、消えてしまった俺は不安だっただろうなとか思うのと同時に、激しい達成感に身を打たれた。
俺が知らないところで起きたこととはいえ、俺が干渉した事で起きた事象の中で初めて、ハッキリと良い結果だったと言える事が起きたのだ。
鈴羽の話を岡部倫太郎から聞いて、しばらくの間、一つ枷が外れたような、そんな高揚感が心の中にあった。
「……憶えていないんだな」
「はい。今の僕とこの世界線にいた僕は違う存在ですから」
様子がおかしい。が、すぐに切り替えたように俺を真っすぐに見つめた。
まだ悲しみの色が顔から抜けていない。
「俺からすると、過去の瀧原が言っていたことなんだが、何故今日まゆりは死なないと言えるのか教えてくれ」
岡部倫太郎の質問がその浮かれた気持ちを冷めさせてくれた。
そうだ、まだ俺にはやらなきゃいけないことがある。この世界線はまだ安全ではないのだから。
何よりも岡部倫太郎にとって大切な椎名まゆりの生存が確定したわけではないのだ。
「鈴羽は多分岡部さんに、ダイバージェンス1%の向こう側、アトラクタフィールドβでは椎名まゆりが救えると言っているはずです」
「ああ、確かにそんなことを言っていた」
「その世界線に近づけば近づくほど椎名まゆりの死が遠ざかるんです」
「と言うことはまだ、まゆりが死ぬ未来が確定しているのか!?」
「残念ながら。でも世界線変動によって椎名まゆりのデッドラインは一日ぐらいの猶予ができました。アトラクタフィールドβへはあと数回、Dメールによって歪められた世界を元に戻してもらう必要があります」
「Dメールが原因でまゆりが死んだのか?」
「そうとも言えます。でもDメールのおかげで牧瀬紅莉栖が生き延びたとも言えるんです」
「何?」
「岡部さんが最初に送ったDメールを思い出してください」
「牧瀬紅莉栖が刺された……。まさか、アトラクタフィールドβでは紅莉栖が死んでしまうとでも言いたいのか!?」
「…………」
血だまりの中に倒れる牧瀬紅莉栖の姿が頭に浮かんでいるのだろう。
それと同時に、何回も死んでゆく椎名まゆりの姿も思い出しているのだろう。
「俺はどうしたらいいんだ」
「はい?」
「俺はどうしたらまゆりと紅莉栖を助けられるんだと聞いているんだ。あるんだろう? その策が」
岡部倫太郎の頭はとても冴えているようだ。俺が何のために未来の事を言ったのかよく分かっているらしい。
しかしこのまま俺が次の説明するよりも実際に体験してもらいながらの方がいいだろう。
「あります。でも、明日にしましょう。岡部さんもまだ精神的に疲れているはずですから一晩、ゆっくり休んでください」
岡部倫太郎が早く言えと俺に言うが、俺だって休みたいのだ。今は傷がないとはいえ穴だらけにされたんだ。安全と分かっている今、休まない方がおかしい。
俺はそのまま家に向かったが、ようやくあきらめた岡部倫太郎はラボにいったん戻るそうだ。
翌日、俺はラボに来たが、回れ右して帰りたくなった。
椎名まゆりと牧瀬紅莉栖の修羅場オーラとでも言うのだろうか? とにかくそんな雰囲気を出しながらニコニコしているのだ。怖い。
そんな空気になった原因は牧瀬紅莉栖が言ったこの言葉だったようだ。
「岡部って尽くすタイプだったのね」
昨日、岡部倫太郎は椎名まゆりを家まで送って行き、今日の朝もわざわざ秋葉に来るタイミングを聞いて迎えに行ったのだそうな。
ご飯も毒見をして、ここに来るまで手をつないできたのだと牧瀬紅莉栖が言う。
にこにことしている椎名まゆりのオカリンに愛されちゃってるねーとの発言から岡部倫太郎は椎名まゆり自身が話したのだと分かったようだ。
「まゆりよ、なぜわざわざクリスティーナに話したのだ」
「あれ、オカリン言っちゃいけない事だったかなー? 別に紅莉栖ちゃんに教えたって何も問題ないよねー。それなのにオカリンはそんなこと言うんだー。おかしいねー」
表情はいつもと変わらないが椎名まゆりの目が笑っていない。いたずらにしてはひどいと思う。
「それで、岡部とまゆりは、付き合ってるわけ?」
「そう見えるのか?」
「え、ええと、それじゃ付き合ってないわけなのよね? そ、そうよねこんな痛い人と付き合う人なんていないわよね」
「まゆしぃとオカリンはちっちゃいときから友達だったんだよー」
全く関係のない俺から見たら、椎名まゆりが牧瀬紅莉栖を牽制しているようにしか見えない。
友達だったんだよーの言葉の後に、だから紅莉栖ちゃんは諦めてね。と、ついてもおかしくない無言の圧力だ。
そう言えば椎名まゆりは芯の強い子だった。ここはそっとしておいた方が無難だろう。
助けを求める視線を俺は知らんぷりを決め込んで開発室へ逃げる。戦略的撤退だ。
未来のことは分かっても女の心は誰にも分らないのだ。
タイムリープマシンに設定を打ち込んで、しばらくした後、岡部倫太郎が疲れた顔で入って来た。
「裏切り者め」
「羨ましいくらいですよ」
「……まあいい、これを見てくれ」
岡部倫太郎が紙袋から取り出したのはダイバージェンスメーターだった。今日の朝、天王寺さんに橋田鈴について聞いたらしく、そのまま家に行かせてもらって譲り受けたのだという。
しかし、そのメーターは表記がおかしかった。数字が、二つのニキシ―管だけ数字が重なったようになっている。
何故だ? 考えても答えは出そうにない。
「俺がミスターブラウンから譲りうける前もこうだったらしい」
「そうですか」
今はとにかくタイムリープをするべきだろう。
そこから岡部倫太郎にフェイリスルートへ入ってもらったら余計な事を考えなくて済むはずだからだ。
俺はヘッドギアを被った。岡部倫太郎にもヘッドギアを渡した。
隣から牧瀬紅莉栖が顔を出して実験はしないんじゃ無かったの? と、問いかけてくるが、俺たちはそのままタイムリープを決行した。
8月14日 17時38分
↓
8月13日 10時38分
-追記-
誤字報告ありがとうございます。