Steins;Gate/輪廻転生のカオティック 作:ながとし
あれから4日後の朝。俺は再び未来ガジェット研究所の前に来ていた。
日付で言えば8月2日。
チャプターで言えば蝶翼のダイバージェンスあたりだ。
この、4日間俺は考えた。いや、考え直したと言ってもいいだろう。
これまで俺は彼らに干渉しないように避けようとしてきた。
しかしそれは無意味なことなんじゃないだろうかという疑問が生まれた。
世界線は全て収束する。それはこの世界線でも同じ。
決定的な情報を明かさない限り世界線はそう簡単に変動せず、原作展開への影響などほとんどないというわけだ。
つまり怪しまれるかもしれないが、少しづつ彼らの有益になる情報を流していった方が平穏な暮らしに近づくのではないかという考えに至ったのだ。
ただ、俺の言葉を信じてもらう為には準備が必要だ。今日来たわけはその布石だ。
よくあるマンションに使われているドアを少し強めに叩く。
「誰だ!」
岡部倫太郎の声が少し上ずっている。
その声から夏の朝特有のヒヤリとした爽やかな時間に似合わない暗い空気が感じられた。
「瀧原浩二です」
少し間が開いた後、カチャリとドアが開いた。
岡部倫太郎と橋田至だけではなく初対面である牧瀬紅莉栖もそこにはいた。
3人とも顔には疲れが見える。
「岡部、この方は?」
「ああ、ラボメンだ。つい4日前に入った新人だがな、たしか名前は……」
さっき言った名前を忘れた?
しかし見る限り本気で頭を捻っているようだ。
無理もないのかもしれない、一度だけしか会ったことがないうえに、原作の展開から考えると彼らは徹夜明けで思考が回らないのだろう。
「瀧原浩二です。よろしく」
「よろしく、瀧原さん。牧瀬紅莉栖と言います」
持っていたコーヒーをデスクに置いて差し出される手を取って握手する。
軽く微笑まれ単純かもしれないがドキッとする。
「何処かの誰かさんと違って礼儀正しそうでよかったわ」
「誰かさんとは誰の事を言っているのだ!」
「さあ、誰の事かしらね」
先ほどとは違い得意げに微笑む牧瀬紅莉栖。
岡部倫太郎はうぐぐとしか言えずに撃沈している。
「可愛らしい人ですね」
「何処がだ! お前もこの助手の本性をみれば恐れ慄き第二の被害者となるだろう」
「人聞き悪い事ゆーな」
「……それはともかくとしてだ、瀧原を巻き込むわけにはいかないだろう。今日のところはお引き取り願おう」
「まあそうね、まゆりは……その時にかんがえるとして」
「タイムマシン、SERN、Zプログラム」
「ちょ、予言ってレベルじゃねーお。瀧原氏まさかどこかでずっと聞いてたん?」
「まさか盗聴器じゃないだろうな!?」
そりゃおどろくよな、知らないはずの言葉しか言ってない。
奇妙な物でも見るような視線。
「ええ、まぁ、盗聴器ではないのですが。この通り僕ももう引き返せません。話に参加させてもらえませんか?」
重い空気が流れる。
3人とも俺の動きを伺うようにじっと見ている。下手なことをしたら取り押さえられそうな勢いだ。
大方SERNかなんかの手先かとでも思っているのだろうか?
「僕が怪しいものじゃないってもうすぐ証明しますから取り敢えずお願いします」
思いついたように言葉を付け足す。
「あえて言うなら超能力みたいなものでして」
テレビから流れてくるのんきなインタビューがこの空間を支配している。
張り詰めた空気の中ドアがガチャリと開いた。
「トゥットゥルー♪ あーコウ君だー。ひさしぶりー」
一度俺の顔を見てキョトンとした後まるで人気マスコットであるかのようにペタペタと触れてくる。
「まゆり――」
「オカリン、もうコウ君に迷惑かけちゃだめなんだよー」
コンビニの袋を持った手でわさわさと訴える。
「何だか空気もどよーんとかずずーんしてるよ。空気入れ替えるねー」
開かれた窓からは外の厳しい日差しが伺え、空は見事な真っ青。本日も快晴である。
椎名まゆりの登場によって張り詰めた空気が一気に和んでしまった。
「……まぁ、いいだろう。ラボメンも集まったことだし、これより第164回円卓会議を始める」
「……なによそれは」
「ラボメンによるラボメンのためのミーティングだ」
「えんたくなんてないよー?」
「まゆりよ! 円卓はラボメンの心の中に存在するのだ」
「まゆしぃにもあるのかなー」
「ああ、あるとも」
「そうなんだー よかった。えへへー」
「これはひどい。ミーティングなんて164回どころか10回もしたことない罠」
岡部倫太郎の中二病発言にそれぞれが突っ込みを入れる。
「とにかく! 始めるぞ。まゆりは知らないから説明するとしてとして瀧原。お前は何らかの方法で俺達が昨日手に入れた情報は把握しているんだな?」
うなずきで返す。
「昨夜、俺たちがSERNにハッキングを仕掛けた結果、奴らがタイムマシン実験を行っていることが判明した」
「やっぱり、わるいことはよくないよー」
「……いいから最後まで聞くのだまゆりよ。SERNのタイムマシン実験通称Zプログラムの計画内容に人体実験が含まれていた。そしてもう何度も実験を行っているらしくゼリーマンズレポート……解かりやすく言うと過去に飛ぼうとしてゲルバナ化した人間の資料がまとめてあった」
椎名まゆりも不安そうな顔をしながらちゃんと話を聞いている。
「それらは国のトップシークレットになっていて、もしかしたらごつい黒服共が我がラボを襲撃するかもしれん。つまり悪いやつはSERNの方なのだ。わかったか? まゆり」
「私も同意するわ。あいつらがやっていることは人としても許せないし何よりも同じ研究者として許せないもの」
牧瀬紅莉栖の同意もあって椎名まゆりは勢いを無くしてゆく。
「それで、助手よ。俺が命じたSERN調査についてはどうなっている」
「あんたに命じられた覚えはないけど」
牧瀬紅莉栖はそう言いながらも調査結果について話してくれた。SERNが抱えるタイムマシンの問題点。『リフター』という電子を注入する施設の調整不足とゼリーマンズレポートに載っている被験者の数と見つかった被験者の数から考えられるタイムトラベルの場所指定の不安定さについて。そしてLHCが世界一大きな電子レンジという異名があること。
「それじゃあ。電話レンジちゃんはそのえっーとLCLのちっちゃい版ってことー?」
「LCLじゃなくてLHC。……LHCの縮小版って点はあながち間違いじゃないかもね」
「放電現象が起きたときに過去にメールが送れたわけだが、その放電現象って『リフター』ってやつの電子注入が関係してんじゃね?」
「もしそうだとしてだ。その『リフター』の働きをするものがどこにあるのか分からなければ意味がないではないか」
「少なくともSERNと同じように時空転移させた物体がゲル化しているからカーブラックホールのリング状特異点を通過しているのは確かね。というか電話レンジで過去に送れるメールはデジタルデータであって、物体じゃない。そこがSERNのタイムマシンと決定的に違う」
「いいや、やっている事は同じだ。デジタルデータもゲル化した物体と同じで大半がどこかへ吹き飛んでいる。それに人を過去に送るよりもデジタルデータだけの方がよほど簡単に思えるが?」
「たしかに……そうだけれども」
「まゆしぃはもうついて行けないのです」
そう言いながらおかかのおにぎりをほおばっていた。
「提案なのだが”過去に送れるメール”じゃ言いにくい。名前を付けようではないか」
「はいはい。厨二病、厨二病」
と、ここである言葉を書いて折りたたんだメモをそれぞれに渡す。
「これは、何だ?」
「まだ見ないでくださいね。それはある種予言のようなものです。さっき言った盗聴器なんかで聞いてないっていうことの証明になると思います」
「えーまゆしぃもう見ちゃったよー」
好奇心旺盛な子はスルー。
それぞれに”過去に送れるメール”の通称を頭に浮かべてもらってメモを開いてもらう。
種も仕掛けもない酷いマジックだ。
「なっ!」
「えっ!」
「マジっすか!」
戸惑いを隠せないのだろうそれぞれ話し合っている。
「まず最初に岡部さんが」
「ノスタルジアドライブ」
「そして分かりにくいと抗議した牧瀬さんがもっと分かりやすいのをと」
「遡行メール」
「まゆりさんが遡行の意味が理解できなくて、次に橋田さんが出した案が」
「時を駆けるメール」
「岡部さんが固いと言って、却下といった感じでしょうか。ノスタルジアドライブにはロマンがあるからいいんでしたね」
岡部倫太郎は何度もメモと俺を交互に見ている。牧瀬紅莉栖は理解不可能といった感じだ。
「最終的にデロリアンメールという案を略してDメールという名称になった」
牧瀬紅莉栖はまだ納得できないのか―――
「デロリアンメールという案を考えていたのは?」
「橋田さんです」
橋田至に目線が集中する。
「丁度思い浮かんだ所に言われた。超能力とかそんなちゃちなもんじゃねぇもっと恐ろしい何かを感じた」
ネットスラングが少し抜けて本気加減が伺える。
今度こそ牧瀬紅莉栖は諦めたらしい。
が、すぐに天才少女らしい鋭い指摘が飛ぶ
「もしかして、このタイムマシンの問題点。あなたならその解決策だって解かる。いや……知ってるんじゃない?」
「………確かに知っています。でも今話すわけにはいかないんです。これは悪意があって言わないわけじゃ無いんです。」
「根拠はその、”超能力みたいなもの”ってやつなのね?」
俺は黙ってその通りだと言うことを首を振って示した。
牧瀬紅莉栖はソファーに身を投げ出して、上の方を見つめたままうわごとのように呟く。
「取り敢えず、こんな結果を見せられたら信じるしかないって言うか、いつも心の中をのぞかれているようで気味が悪いっていうか……」
「心が読めるわけじゃないから安心してください」
呆然としたままの岡部倫太郎に話を進ませるために催促する。
「ほら、岡部さん。Dメール実験について何か気づいたことがあるんじゃないんですか?」
手首にはめられた腕時計を指さす。
「……ああ、そうだったな」
「取り敢えず、僕がここにいたままじゃ話が進まなそうなのでここで一度帰らせてもらいます。それと牧瀬さん、頭上に気をつけてくださいね」
目的は達成した。
帰りに岡部倫太郎と橋田至が行っていた牛丼屋にでも寄ってみようという余裕ができるくらいには上出来だった。