Steins;Gate/輪廻転生のカオティック   作:ながとし

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意思行動のアンチノミー

 8月10日。

 

 岡部倫太郎と共に過ごした夜は忘れられない。

 どれほど自分の犯した罪が辛くても、まだ誰にもバレていないとしても。

 忘れちゃいけないんだと俺は思う。

 

 Dメールを送り世界線移動をした直後岡部倫太郎は階下のブラウン管工房へと半ば確信を持った笑みで向かう。俺も向かうべきなのだろうが今面と向かって阿万音鈴羽と面と向かって話なんかできない。

 

 それなのに俺はラボの窓際に寄って座り込んだ。

 原作通りに世界線は変動したということを、会話から確かめずにはいられなかった。

 

「昨日は楽しかったなあ」

 

 阿万音鈴羽はぽつりとつぶやくように言った。

 

「酷いものが沢山あって、特に牧瀬紅莉栖の殺人的アップルパイ。その次に何だかわからない野菜を炒めたらしいモノ。あんなの醤油で味付けるだけなのにどうやったらああなるのかなあ?」

 

「…………」

 

「でも、漆原るかと瀧原浩二の料理は最高だった。瀧原浩二ってさ、いいやつだよ。小分けにしといた料理を何故か私にだけくれたんだよね、惚れられちゃったのかな?」

 

 楽しそうで、でも少しおどけた口調だ。

 

「君たちの、ええっとサークルだっけ。なんかさ、ああいう場所ってすごくいいよね。なんだか羨ましいよ」

 

 俺は手で顔を覆った。こうして会いもせずに会話を聞いてるだけの俺は、情けない。

 もうそこからは聞いていられなかった。でも岡部倫太郎の大声だけはしっかりと聞こえた。

 

「お前は今日から、ラボメンナンバー008だ!」

 

 世界は間違いなく正しく変動していた。

 

 

 俺は机のそばにずっと座っていた。

 あれから帰って来てずっと寝ていた岡部倫太郎が目を覚ましてから、少し後に橋田至はここからSERNと直通回線が繋がっていることを発見した。

 

 そして、牧瀬紅莉栖も電話レンジについてある一定の解が導き出せた様だ。

 説明によると電話レンジは化け物であり、東京を丸々電子レンジの中の状況にしてしまうほどの威力があるそうだ。

 そして何よりもブラックホールがこの電話レンジ内にて生成されているとは明言はしなかったが、牧瀬紅莉栖の反応からはどうやら発生していると考えられるようだ。

 

「ただ、まだわからない点があって―――、SERNのブラックホール問題で言われた通りミニブラックホールは発生したとしてもすぐに蒸発してしまうはずなの。でもバナナがゲルバナになっていることから、電話レンジはそうじゃないってことは明らか」

 

 少し間を置いた後不可解そうな顔でこう続けた。

 

「LHCと同じようにミニブラックホールをカー・ブラックホールにまで変化させている」

 

「たしか、SERNの極秘資料によるとブラックホールにカー・ブラックホールの効果を出させるには電子注入が必要だったはずだな」

 

「その、注入される電子がどこから来るのかが分からないのよ。LHCはリフターによって重力場をコントロールしている。それに代わる何かがこの電話レンジの中のどこかにあるのよ」

 

「その、どこかって?」

 

「分から―――」

 

「ブラウン管だ」

 

 思わずつぶやいた。

 

「―――えっ?」

 

「この未来ガジェット研究所の階下にあるブラウン管工房。そのど真ん中に鎮座している42型ブラウン管テレビがリフターの代わりだ」

 

「もしそうだとして、だ。深夜に電話レンジがDメールを送れなかった原因は何だ」

 

「ブラウン管工房はそんなに遅くまで開いているのか? 違うだろう」

 

「……なるほど、ブラウン管に使われている電子銃から放出された電子が、たまたまブラックホールをカーブラックホールするだけの丁度いい出力だったっていうわけか」

 

「それなんてご都合主義?」

 

「セレンディピティと言えダルよ、つまりこの未来ガジェット研究所はタイムマシンが最も完成しやすい場所でありそしてたまたま我らが未来ガジェット8号機『電話レンジ(仮)』がそのタイムマシンたりえる代物だったというべきか、これを運命石の扉の選択と言わずしてなんというのだ。ククク……フフフ……フゥーハハハ!!」

 

 ここら辺の話は略してしまってもよかったはずだ。世界線の変動も関わることもない。これで岡部倫太郎がリフターの代わりを見つけるイベントはなくなってしまったが結果的にタイムリープマシンが完成するのは変わらないだろう。

 

それが遅いか早いかの違いなわけで。

 

もしかしたらタイムリープマシンが完成する時間までも世界線の収束によって定められているのだとしたら俺の行動で起きる原作との差異は誤差程度に済むだろう。

 岡部倫太郎のいつもの奇行に牧瀬紅莉栖と橋田至がやれやれと目線を向けているのに椎名まゆりが俺を見つめている。

 

「コウ君どうかしたのー? いつもと様子がちがうよー。それにねー、なんだかとっても悲しそうな顔をしてるもん」

 

「そう言えば、いつもはもっと丁寧な口調だったような気がするな」

 

「……そうでした。タイムマシンの凄さに思わず口調がおかしくなったみたいです。気を付けます」

 

 牧瀬紅莉栖が怪しむような顔を見せるが岡部倫太郎と橋田至は騙されてくれたようだ。

 すかさず次の話題を振る。

 

「では次に人間をどうやって過去に送るか考えてみませんか?」

 

「だから、瀧原氏。SERNでさえそれをやって人間をゼリーマンにしてるんだお。こんなおんぼろな環境でできるはずないだろ常考」

 

「いやまて、電話レンジで36バイト+α送れたんだ。人間を丸々データにして超圧縮してしまえば過去に行けるんじゃないか?」

 

「……人間をデータに……でも……」

 

「人間をデータ化ってどこのSFだお。仮にできたとしても天文学的な数字になると思われ。それにどうやって圧縮するんだお」

 

「ダル。お前が頼りだ」

 

「いくら僕がスーパーハッカーだとしてもできることとできないことがあるお」

 

 やはりタイムトラベルの壁は厚いのかなどと言って岡部倫太郎はおとなしくなった。

 

「……そうか、それなら!―――」

 

 ”できるかもしれない”そう牧瀬紅莉栖はいってのけた。

 

 彼女の説明によるとこうだ。

 

 牧瀬紅莉栖の論文。そうあの俺がこの世界がSteins;Gateの世界だって気づいたきっかけ、『側頭葉に蓄積された記憶に関する神経パルス信号の解析』という論文にも書かれている通り牧瀬紅莉栖が所属する研究チームは人の記憶に関する神経パルスパターンをすべて解析したのだ。

 

 その研究と彼女が通う大学、ヴィクトル・コンドリア大学の精神生理学研究所が開発したヴィジュアル・リビルディング略してVR技術、神経パルス信号と電気信号をコンバートする技術とで組み合わせることで記憶のデータ化を実現できるそうだ。

 

「データの超圧縮については簡単。データの波形をそのままブラックホールでアナログ的に36バイト+αまで圧縮その後は―――」

 

 岡部倫太郎が牧瀬紅莉栖の発言にかぶせるように言う。

 

「電話レンジ発生したカー・ブラックホールの特異点を通過させ、携帯電話を通して過去の被験者の脳に記憶をぶち込む―――」

 

「記憶だけの時間跳躍」

 

 SERNの物理学を中心とした研究チームでは到底思いつかない離れ業。

 続くように牧瀬紅莉栖がこのタイムリープの危険性について話した。受け取る側からすると未来の自分が作った記憶が自分の脳の中へぶち込まれるわけだ。

 果たしてその記憶データが記憶として認識されるのか、それとも異物としてノイズになるのか。

 万が一そのデータを受け取る人が送った人と違う人物だった場合深刻な人格障害まで引き起こす危険があるのだと言う。

 

 タイムリープによる記憶のみの時間跳躍それが実現すればもうタイムマシンと一緒だと思ったのだろうか、それともここに至るまで大いなる意思に導かれたとでも思ったのだろうか、いつもの高笑いをした後、携帯をサッと岡部倫太郎は取り出す。

 

「俺だ。全ての事柄は線のようにつながっていた。ああ、これより計画は最終段階へと入る。……無論『現在を司る女神』作戦(オペレーションヴェルダンディ)の事だ」

「フッ、クリスティーナには散々振り回されたが、彼女がラボに来たことすらも運命石の扉の選択というわけだったのだな。案ずるな。今の俺たちに敵はいない。エル・プサイ・コングルゥ」

 

 満足したように紅いストレート型の携帯電話を白衣へとしまう。

 

「助手よ、今言ったとおりだ。『現在を司る女神』作戦(オペレーションヴェルダンディ)の実行を許可する!」

 

「少しは、どういうことか説明しろよ」

 

「分からないのか? お前の言ったタイムリープ案をすべて採用すると言ったのだ。ここまで力説しておいて今更できませんなんて言わせないからな」

 

 牧瀬紅莉栖は少し戸惑うも、直ぐにタイムリープマシンに必要なパーツを考え始めた。牧瀬紅莉栖もいくら天才とはいえ人間であり科学者だ。タイムマシンを自分の手で作れるかもしれないと思うと好奇心が止まらないのだろう。

 

「人類史上初のタイムリープマシンを完成させるぞ……!」

 

 そのあと一旦ラボメンは解散することになった。

 

 俺は帰るふりをしてドアの前でラボの中の会話に耳を傾けた。中に残っているのは岡部倫太郎と椎名まゆり。ここは聞いておかないとだめな場面だ。俺も背負わなくちゃダメなところだ。

 ゲームの知識だけじゃなくて生の声で。受け止めなくちゃいけない。

 

「どうした……まゆりは帰らないのか?」

 

 少し間を置いた後椎名まゆりは話し始める。

 

「あのね、オカリン。このごろラボのみんなが眩しいんだー」

 

「眩しい?」

 

「うん。紅莉栖ちゃんとコウ君がラボメンになってもう10日経つよね。紅莉栖ちゃんはとっても頭が良くて、コウ君はちょっと変だけどオカリン達のために頑張ってるし」

 

「そしてそんな素晴らしき人材を発掘したこの鳳凰院凶真の功績もまた素晴らしいものだと言わざるを得ない」

 

「だからね、眩しいの。紅莉栖ちゃんもコウ君もラボとオカリンのために頑張ってるでしょ?」

「まゆしぃもせめて紅莉栖ちゃんみたいに頭が良かったらいいなー。そうしたらオカリンの役に立てるのに」

 

 暫く無言の状態が続く。

 

「まゆり、今日は星がきれいだぞ」

 

 窓際に行ったらしい岡部倫太郎がそう言った。すると足音が聞こえた。

 どうやら岡部倫太郎のそばに椎名まゆりも行ったらしい。

 

「ラボができたばっかりの頃、おぼえてる? ダル君もまだいなかった頃にね、2人でこうして静かにすごしてたよねー」

 

「ああ、そうだな」

 

「まゆしぃは、これからもここにいていいのかなー?」

 

「下らないことを言うな。お前はいるだけでいいんだ。」

 

「いるだけ……?」

 

「そうだ、お前がいるからこのラボは楽しくやっていける。ほら、俺と紅莉栖は水と油のようなところがあるからな。意見がぶつかったときお前の能天気なコメントで場が和むのだ」

 

「褒められてるのかなー?」

 

「勿論褒めているさ。何、心配することは無い。お前がここにいることを含めて全てこの俺の計算のうちなのだからな。フゥーハハハ!」

 

「そっかーありがとーオカリン♪」

 

 この俺に、こんな俺に、彼と彼女の純粋な気持ちを背負ってこの先、俺が望んだフェイリスルートに岡部倫太郎を突入させることができるだろうか。

 いや、阿万音鈴羽のあの時点でもう選択するときは過ぎたのだ。覚悟を決めるしかないんだ。

 

 そっと、足音を立てないようにラボから離れた。

 帰り道、電灯が道を明るく照らす中、視界が明瞭になることは無かった。

 

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